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序章 昔々の不思議な出来事

懐かしいあの人は 忘れられてしまうのだろうか


もう心は 思い出してはくれないのだろうか


懐かしいあの人は 忘れられてしまうのだろうか


そして 懐かしい あの頃は


懐かしいあの頃 ああ 懐かしいあの頃よ


優しさの乾杯を 私たちで しようじゃないか


懐かしい あの頃のために




「おばあちゃん!こんにちは!」


午後1時過ぎ。

大きな声が、引き戸の玄関を開ける音と同時に耳に届いた。

その声は元気であると分かるくらい生き生きとしたもので、ついつい頬が緩んでしまう。


「はい、由紀ちゃんこんにちは」


鈍くなった身体をゆっくりと動かしながら玄関に向かい、まだ幼稚園に通っている幼い少女、由紀におばあちゃんと呼ばれた老齢の女性は優しく微笑みながら応えた。

だがふと、由紀は両親と来たと思ったのだが、一緒にいないことに気付いて首を傾げる。


「由紀ちゃん、お父さんとお母さんはどうしたの?」


そう尋ねられた由紀は靴を急いで脱いでいるのか、片方の靴があらぬ方向に脱ぎ捨てられていて、もう片方の靴も足をばたつかせて脱ごうと四苦八苦している。


「パパとママすぐ来るよ!」


やっと脱ぎ終わった由紀が元気よく立ち上がると、指を玄関の方へと向ける。

祖母は由紀が指をさした方へ顔を向けると、開けたままの玄関の方から確かに由紀の両親である二人の大人がこちらへと歩いて来た。


「母さん、ただいま」


玄関に入って最初に母親である女性が、祖母に微笑みながら声を掛けてくる。


「ご無沙汰してます。お義母さん」


次に会釈した男性、由紀の父親が続いて労るように挨拶をしてきた。


「はい、いらっしゃい。どうぞゆっくりしていってちょうだい」


祖母は、そんな二人に楽しそうに微笑みながら早速中へ上がるように促す。

久しく見てなかった家族に早く色々話がしたかったのか、由紀の両親から見ても祖母は分かるくらい足が地についていない様子だ。

一人淋しく過ごしていると、ほとんどの日が退屈な時間となっていたから当然と言えば当然なのかもしれない。


「おばあちゃん!またあのお話が聞きたい!」


と、一足先に中に上がった由紀が、キラキラした瞳を向けながらせがんでくる。

どうもあのお話が気に入られた様子に祖母は少し遠くを見るような目をしたあと、にこりと微笑んで由紀を見詰めた。


「えぇ、それじゃああっちでお話しようね」


孫の脱ぎ散らかした靴をしっかりと揃えてから、急かす由紀の手に引かれて居間に行く。


「本当に由紀は母さんのお話が大好きね」


居間へ手をつなぎながら歩いていく二人を見ながら楽しそうに目を細めて言った母に、隣にいる父も微笑ましく頷いた。

母も昔小さい頃に祖母からよく話の続きをせがんで聞いたものだ。

父は、一番面白かったお話として母が祖母の話を出したことからその物語を知った。

母の話す物語を聞いた父も、自分が小さい頃にこの話を聞いたらきっと子供ながらに興奮していたに違いないと話している。

だから幼い由紀にとっても、祖母の話はとても壮大で夢のような物語なのだ。

それだからこそ、好奇心旺盛な少女は聞きたがっているのだと両親はお互いに見合って小さく笑いながら、先に上がった二人に続いて居間に向かった。

揃って両親が居間に入ると、話を早く聞きたがっているのか、由紀が祖母の膝に乗っていて早く早くとねだっている姿が見える。

余りにも期待しているのか、足を揺らし祖母に話を促すように瞳をじっと向けている。

祖母はその仕草が可愛くて仕方がないのか、少し微笑んでから目を閉じた。

すると、祖母の脳裏に数々の出来事が克明に浮かび上がってくる。

昔のことなのに、つい最近起こったかのような錯覚を覚えるほどはっきりと思い出せた。


「あるところに、二人の女の子がいました……」


そして、万感の思いを馳せながら語り始める。

この世界では決して考えられない。地球という世界ではあり得ない夢物語。

だが、ずっと前に訪れた、祖母にとって忘れられない不思議な不思議な出来事を。

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