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主人公になりたかった男の話。

作者: 成浅 シナ

さりげない行動の裏にはきっとそれなりの想いがあるはずです。そんな“それなりの想い”でさりげなく動けてしまう友情に生きる彼の行動の裏にも注目してあげたいと常々感じます。

俺がどれだけキミの事を思ってるか…。キミが知る事はない。



「好きです」「付き合って下さい」


―――七月下旬―――



その日は人生で一番の局面だった。

だが「俺の」じゃない。


そいつとの出会いは中学。偶然同じクラスで出席番号も前後だった俺達が仲を深めるのにそう長い時間はかからなかった。以来高三の現在まで俺達は親友だ。


そいつは一言で言うと“平凡”な奴だ。

勉強だって、運動神経だって。真面目で、苦手な事だってひたむきに取り組む。だが、これと言って他人より引きでた才能はなかった。見える部分では。


本人は自覚がないんだろうけど自分の事にはやたら臆病で悲観的な癖に人のピンチにはすっ飛んで行くヒーローみたいな奴だった。その事を知っている人のはそう多くないが、俺はずっとうちにそんな資質を備えているあいつをもっと多くの人に理解して欲しいと思っていた。


出会った頃からあいつは“自分の事より人の事”で自分の立場が危うくなる事も臆せず他人を庇うような奴だった。


そう、あれは中二の頃。

クラスでいじめがあった。...いや、いじめとは少し違うのかもしれない。そうとも取れたが。

ふざけ合い、からかい。やっていた方はそう思ってたはずだ。


ある時、それを受けていたクラスメイトがついに爆発した。殴り合いが起き大事になった。

当然後日いじめの問題として問題になりクラス会が開かれた。


だがいじめを行っていたクラスメイトはすぐに名乗り出なかった。

いじめていた奴は多くいたから特別誰かが責められるのは変だった。

止めないのも、見過ごしていたのも全てが罪、つまりクラスメイト全員が加害者だった。


そして誰も名乗り出ないまま永遠にも思える時間が経ちーー


あいつが名乗り出た。加害を加えてもいなければ止める事もしなかった、傍観者に徹していたあいつが。


被害者は休みだったからそれを否定する奴はいなかった。真実を知る周りのクラスメイトも、親友の俺でさえも。想定していなかった超展開に、自分にペナルティが課されるかもしれないという恐怖心故に、何も言う事が出来なかった。


             ※


一度じゃない。そんな事は何度もあった。

そいつは影で、無自覚に誰かを救ってきた。

あの時から、きっとその前だって。


俺はあいつが好きだ。だから今までずっとあいつの事を考えてきた。

今まで散々ペナルティを追ってきた分あいつは幸せになる権利がある。ずっとそう思って来た。


だから、高校になってあいつがよく色々な女子といる所を目撃した時はすごく嬉しかった。

仲が良さそうだった女子は複数だったが、どの子でもいい、あいつの事を一番に想ってくれて、あいつを幸せにしてくれる、そんな人なら。


あいつに幸せになってもらう事が俺の望み。だから高校に入ってまず俺がしたのはあらゆる女子の情報集めだ。あいつに聞かれた時、どの子の情報でも教えられるように。

周りに白い目で見られないように雑誌でイマドキの髪型や格好も研究し、俺のせいであいつのマイナスに繋がらないよう気を配った。


              ※


あいつに好きな人が出来た。

幼馴染、クラス委員長、後輩の小悪魔系女子、図書委員、運動部女子、先輩、生徒会長...etc。

色々な女子と交流があったあいつだが本当に好きなやつが出来たらしい。


だが上手く踏み込めないようだった。情報をよく提供していたからか女慣れしていると勘違いされたらしくよく恋愛相談をされる。


俺は実際は彼女の一人も出来た事がなかった。告白を受けても全て断っていた。

これは中二のあの日、あいつを助ける事も出来ず逃げた俺の償いだから。あいつの幸せの前に俺がそんな腑抜けた事をしていていいのかと思うのだ。


              ※


この前ついに初デートがあった。付き合ってはいないのだからデートとは少し違うのかもしれないが。

俺が渡した遊園地のチケット、なかなか行動に移せないあいつをひと押し出来るならと思っての事だったが上手くやれたらしい。


もう一押しだ。


              ※


高一、高二と色々なイベントを通し仲をだいぶ深めた。

そして高三の夏、七月に入ったばかりの頃、あいつの恋愛相談を受けた。


「俺、花火大会の日に...告白する」


それを聞いた瞬間全てが満たされた気がした。

ずっと近くで見守って来たからこそ俺まで嬉しくなって、泣きそうになった。


きっと二人は上手くいく。だって彼女もこいつの事が好きだと確かな筋から情報を得ていたから。


「応援してる」


              ※


卒業式は快晴だった。

誰もいない屋上で俺は帰っていく一組のカップルを見送る。


俺の三年間はあいつのためにあった。あいつが全てだった。

あいつの恋愛を成就させる事が俺の夢で、目標で、俺の存在意義だった。大袈裟かもしれないけどそれだけ俺の心はあいつが全てだったんだ。


それが叶った今、俺は必要ない。

大学もあいつとは離れてしまったし会う機会も減ってしまう。それどころかもう会わないかもしれない。

それを考えてしまうと心の中にポッカリと穴が空いたような気がして、卒業式は泣きそうになった。


...でも。


あいつの未来図に、俺がいないとしても後悔はない。

俺の大好きな親友が幸せなら、その幸せに俺が含まれていなくても俺は十分幸せだ。


頬に涙が伝う。


もしも、もしも、あいつの描く未来に俺がいる世界があったなら。

俺はメインになれたのかな。


そんな考えはそっと心の奥底にしまった。


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