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シキナのおつかい

作者: 可児夫

二作目の短編小説です。

誤字脱字、文章と世界観の矛盾、等々あると思いますが、どうか暖かい目で見守ってくださると嬉しいです。

これは、人里離れた森にある、小高い丘の頂上の、ぽつんと建った家に住む、小さな少女の少しだけ大きな物語。


「シキナ、今日はあなたのの誕生日よ。今年で6つになったあなたに、ひとりでおつかいに行ってもらうわ。買う品物をひととおり書いたメモを後で渡すから、今のうちに行く時の格好に着替えていらっしゃい」


シキナの一族の者は下の桁の年が6を迎えたとき、一族の昔からの慣例(かんれい)に従い、その年齢ごとに儀式を行う。

今日シキナは6才の誕生日を迎え『幼少(ようしょう)()』を行うことになったのだ。

幼少の儀の内容は『おつかい』、今回は自身の誕生を祝うのに必要な物を、自分一人の力で買いに行かねばならない。


「おつかい!!うんっ、シキナがんばるよっ!!」


シキナは母親のお手伝いをすることが大好きな子だ。母親が掃除、洗濯、家禽の世話などをするときは後ろからついて回り、シキナなりに頑張ってお手伝いする。

しかし、今日の場合はいつものように母親の後ろをついて回るのではない。シキナ一人で町に向かい、買い物を済ませないとならないのだ。

母親についに一人でやる『おしごと』を与えられ、シキナは気分が高揚(こうよう)し、尻尾がぱたぱたと触れている。

シキナの一族の者は皆、獣の耳と尾が生えている。シキナも、シキナの母親もまた体毛と同じ黒色の尖った三角耳と、フサフサの(かざ)()が生えている。

一族の言い伝えによれば、遠い祖先の者に獣と夫婦の(ちぎ)りを結んだ者がいたらしい。

実は、一族には獣の特徴を持つこと以外にも、もう一つ特殊な事がある。


「今日は町に行ってもらうから、地下にある『魔法』の扉を通って行くのよ」

「本当!?うわーい!!町に行くんだぁっ!!」


一族の者は『魔法』が使える。

魔法の得意、不得意はあれど、一族の出であるなら老若男女誰しもが魔法を発現させることが出来る。

地下の魔法の扉は今は亡きシキナの祖母が創造したものであり、地下室と各地に存在する他の魔法の扉を繋げることが出来る物である。

普通の人間とは容姿、能力が異なる一族の者は皆、人が訪れないような辺鄙(へんぴ)な地に居を構え、ひっそりと暮らしている。

人里に()りるとき一族の者は皆、各地に点在するこの扉を使い町まで行くのだ。


「じゃあ、町に行く格好にすぐ着替えてくるねっ!!」


そう言ってシキナはトタトタと足音を立てながら、自分の部屋へと着替えに行った。

はやる気持ちを抑えきれなかったのか、ものの数分もしないうちに着替えを済ませ、戻って来た。


「ママ、着替え終わったよ!!」


尻尾が見え無いように(たけ)の長いスカートを履き、頭には耳を隠すためぶかぶかの帽子をかぶった。


「あら、もう着替え終わったの?じゃあこのメモに書いてあるものを買ってきてもらえるかしら」

「うん!!まかせといて!!」


母親から、おつかいで買う物のリストが書かれたメモと、小腹が減ったときに食べるおやつが入ったバスケットを受け取り、地下室に向かう。


「この時間だと……そうね、鐘の音がなったら、帰ってきてらっしゃい」

「わかったよ、なったら帰るんだね。じゃあ行ってくるね!!」

「ええ、行ってらっしゃい。気をつけてね」


魔法の扉の行き先を合わせた母親が、シキナの(ひたい)に口づけをする。シキナは満面(まんめん)の笑みを浮かべ、一度母親をぎゅっと抱き締めてから、扉を開けその先に続く世界へと駆け出した。


◇◇◇◇◇◇


扉の先は、石畳の敷かれた道を挟むように並び立つ無数の民家のうちのひとつだった。

周囲にシキナが地下室から出てくる所を見た人がいたとしても、普通に民家の扉を開けて出てきたように見えただろう。

一先(ひとま)ず、周囲には人影は無かったようなので、シキナが扉を通ってきた時点で、違和感に感じるものは誰一人居ないはずだ。


「よしっ!!ちゃんとおつかいを終わらせて、ママに褒めて貰うんだ!!」


バスケットの中からメモを取りだし、沢山の声が聞こえる方へ向かうことに、騒がしい場所ほど店は多いだろうと考えたシキナは、この町で一番の活気がある場所、大通りへと向かった。


「ふわぁ……人がいっぱいだぁ!!」


大通りは大勢の人で賑わっていた。

あまり町に出歩くことのないシキナにとって、この視界を埋め尽くさんばかりの人の波は、始めてみる珍しい光景だろう。

シキナの記憶の中で一番近い情景は、世界中にいる一族の者が一年に一度一ヶ所に集まり、三日間騒ぎ続ける祭りに似ているだろう。

しかし、それはシキナの記憶の中の一番近い情景であり、実際は一族の祭りの数倍の人数で、数十倍は賑かである。


「今日はお祭りなのかなぁ?」


客を呼び込むために、露店の店主が声を張り上げ、昼間から酒場で酒を飲む男たちの笑い声が聞こえてくる。

皆の楽しそうな雰囲気に()かれ、シキナも心が弾み、軽い足取りで大通りを散策(さんさく)

し始めた。


◇◇◇◇◇◇


「さぁ!!いらっしゃい!!いらっしゃいっ!!今日も採れたての新鮮な野菜が、入ってっきてるよ!!」


周りの店の店主の男達より、一際大きな声をあげて自分の店に客を呼び込む褐色の女。

ふと、女は帽子を被った珍しい髪色の少女が自分のことをじっと、見つめている事に気付き、優しい口調で少女に話しかけた。


「いらっしゃい、お嬢ちゃん。どうしたの?お母さんとはぐれちゃったのかな?」

「えっとね、シキナは今日は一人でおつかいに来てるの。ママはお家にいるよ」

「あら、シキナちゃんは一人でおつかいが出来る、お利口な子なんだねぇ」

「えーっ!?どうしてシキナの名前がわかったの!?」

「それはねぇ、お姉ちゃんが魔法が使えるからさ!!」

「すごいっ!!お姉ちゃんもママとおんなじで魔法が使えるんだ!!」

「アッハッハッ、面白い子だねぇこの子」


からかい甲斐(がい)のある少女を前に、女は声を上げて笑う。


「そうだシキナちゃん、そのおつかいのメモをお姉ちゃんに見せてくれないかい?」

「いいよ、これがメモだよ」


女が受け取ったメモ、買う材料は小麦粉と卵、砂糖に牛の乳、あとは数種類の果物。

この材料を使って作るものといったら、『ケーキ

』であろうと女は推測した。


「これは、ケーキを買う材料だろうね。シキナちゃんの家の人に誕生日の人でもいるのかい?」

「うん!!今日はね、シキナの6才の誕生日なんだ!!」

「ありゃ、そうなのかい。それはめでたいねぇ

。そうだ、これならこの通りだけでも材料が揃いそうだし、お姉ちゃんが一緒に付いていってあげるよ」

「えっと、シキナはママから一人で、おつかいに行くようにって言われてるの」

「そうかいそうかい、それじゃあねぇシキナちゃん、実はお姉ちゃんもね、ちょうどそこに書いてある物を買いに行こうと思っていたんだよ。だからね、いく場所が同じだから、偶然(・・)同じ目的の人が付いてきちゃったって事で、シキナちゃんは一人でおつかいに行けばいいのさ」

「……いいの?お姉ちゃんお店やさんなのに」

「いいのいいの、ちょっと待っててねシキナちゃん。父さん!!ちょっと私外出てくるからお店お願いね!!」


女は店の奥にいる父親に外に出ることを伝え、父親もそれに片手をあげて反応する。


「それじゃあシキナちゃん、行こっか」

「うんっ!!」


◇◇◇◇◇◇


シキナは女と共に大通りで買い物を楽しみ、休憩として少し歩いたところにある、高台の広場に立ち寄ることにした。

ベンチに腰かけたシキナは、バスケットから小袋で包まれたバタークッキーを取りだし、女と分け合い、談笑しながら食べていると、いつの間にかシキナの横に、シキナとそっくりな黒い毛色をした、大きな犬が陣取っていた。


「……」

「……」

「……おっきなワンちゃんだね」

「ワフッ」

「ありゃ?何時(いつ)からそこに居たんだろうねぇ。首輪がついてるし、飼い犬だとは思うけど……アンタ、どこから来たんだい?」


黒い犬は女の話など聞こえていないようで、シキナの手に持っているクッキーを凝視している。(ちな)みに、女はシキナから貰ったクッキーを既に食べ終えてしまったので、必然的に犬の視線はシキナのクッキーに注がれる。

シキナがクッキーを右に振ると、犬の頭も右に振れ、左に振ると、左に振れる。

強引に食べに来る事はないようで、この犬はきちんと仕付けされているという事が伺える。


「……シキナのクッキーだから、あげないよ」


クッキーを犬から遠ざけるが、犬に視線はクッキーに向いたままだ。


「……もう、ちょっとだけだからね?」


クッキーに注がれる犬の視線に根負けしたシキナは、クッキーを2つに砕き、少し考えたあと小さい方のクッキーを犬に差し出した。

しかし犬は小さいクッキーには目もくれず、シキナのバスケットに入っていた大きいクッキーを口の中に頬張った。

犬は、二人が気付かないうちに小袋からクッキーをくすねていたのだ。


「あ、あー!!それシキナのクッキーなのに!!」

「まぁ、こりゃずる賢い子だねぇ」


シキナが唖然としているなか、クッキーを食べ終えた犬は、シキナの手に残されたままの、小さなクッキーも食べてしまった。


「えーっ!!また食べたの!?」


クッキーを食べ終わった犬は、シキナの膝に頭を乗せ、だらりと体を倒した。どうやら犬にとってはシキナの膝は枕代わりのものらしい。


「むうっ、重いから頭どけてよ」

「ワフッ」


膨れっ面になるシキナと、シキナの膝から頭を退()ける気のないふてぶてしい態度をした犬。


「アッハッハ、こうして見るとアンタ達兄妹みたいだね」


女にはなんだかこの一人と一匹が一つの兄妹のように見えたのだ。

ものぐさな兄と、それを注意する妹。

シキナと犬の毛の色が黒色であるのもそう見えた理由の一つだろう。


「このワンちゃんと兄妹?それはないよぉ」

「ワフッ」


女の言葉を否定するシキナ。犬もそうだそうだと言わんばかりの雰囲気で、一吠えする。


「だってシキナ、ワンちゃんじゃあないし」

「……」


的の外れた回答をするシキナに、あきれたような態度を取った犬。

二人のやり取りをみてさらに女店主が面白がって笑う。

こうして二人一匹、とりとめのないやり取りをしているうちに、ゴーン、ゴーン、と二度大きな鐘の音が町中に響いた。


ーーそうね、鐘の音がなったら、帰ってきてらっしゃい


母親の言いつけを思いだし、シキナはいそいそと帰る準備をしはじめた。


「お姉ちゃん、鐘が鳴ったからシキナはもうおうちに帰らないといけないんだ」

「そうだねぇ、鐘が鳴ったってことはもうじき暗くなり始めるからね、気を付けて帰るんだよ?」

「うん!!今日は一緒にお使い手伝ってくれてありがとう。それでね?また、遊びに行ってもいい?」

「もちろんだよ、いつでもおいでね。待ってるよ!!」


シキナは女に別れを告げて、町の中へと消えていった。


「……今度来たときは、おやつのお礼をしなくちゃね」


シキナと別れた女は去った方を見つめながら、次に会ったときに何をプレゼントしようかと考えながら帰路(きろ)に就いた。


◇◇◇◇◇◇


「……ここ、何処?」


高台の広場で女と別れたシキナは、迷子になっていた。

鐘の音が聞こえて、急いで帰ろうと考えていたシキナは、高台から見下ろした大通りのある方角へ走り出して行った。

その結果、高台を下った先にある路地の迷路に嵌まってしまい、シキナの知らない未知の場所へと迷い混んでしまったのだ。こうなっては高台の広場まで戻ることも出来ないだろう。

女店主と共に大通りまで戻っていれば、今頃シキナは魔法の扉のある家までたどり着いていた筈なのだが、今となっては後の祭りである。


「うう……お空がどんどん暗くなってくる」


鐘の音が聞こえてから、そこそこの時間が経ち、見上げると既に空の色が茜色(あかねいろ)から薄紫色(うすむらさき)へと、変わりつつある。


「ぐすっ……おうちに帰りたいよぅ」


どれだけ歩いても扉へたどり着かないという思いからくる不安と、空が暗くなるにつれ、だんだん抑えられなくなる焦燥感に6才のシキナは心が折れて、ついにポロポロと涙をこぼし、泣き出してしまった。


「ウォンッ!!」


いつの間にか、シキナの横には先程の広場で別れたはずの黒い犬がいた。


「さっきのワンちゃん……」

「ワフッ」


黒い犬はシキナの涙を舐め取り、バスケットを口にくわえて、シキナの先を歩き始めた。

少し進んだあと、振り替えってシキナがそこにいるかをうかがうような態度をみるに、付いてこいと言っているようにも感じる。

結局は、犬がおつかいの品物が入ったバスケットを持っているため、シキナは付いていくしかないのだが。

シキナは少し考えたあと、あの黒い犬に付いていくことにした。

犬の跡をつけること十数分、シキナは見覚えのある大通りまで辿り着くことができた。


「ここ……しってる!!やったぁ!!ありがとうワンちゃんっ!!」

「ワフッ」


ここからの帰りかたはシキナも覚えている。

足取りも軽くなり、弾むようにステップをしながら犬と共に魔法の扉がある家まで進んで行く。


◇◇◇◇◇◇


「ただいまぁっ!!」


魔法の扉を開くと、いつもの地下室に戻っていた。

(ほの)かにシチューの香りが漂って来ている事から、今母親は台所に立ち、夕飯作っているのだろうと予想がつく。

シキナは階段を駆け上がり台所に居た母親の腰にぎゅうっと抱きつき、衣服にに顔を(うず)めた。


「あらシキナ、お帰りなさい」

「えへへー、ただいまっ!!」


後ろを振り向いた母親と目を合わせ、満面の笑みを浮かべるシキナ。


「ワンっ!!」


後ろから吠えられ吃驚(びっくり)するシキナ。

振り向くと、そこには昼間から一緒に行動してた、あの黒い犬が座っていた。


「ダフラスもありがとうね、今日一日付き合わせちゃって」


母親がダフラスと呼んだ犬の頭を撫でると、犬は気にするなとでも言っているような態度で、わふっと一声鳴き、母親の手に頭を擦り付けた。


「ママはこのワンちゃんを知ってるの?」

「ええ、知ってるわ。この子の名前はダフラス。ママが魔法で契約しているママのお友達よ」


シキナの母親の魔法は使役魔法といい、心を通わした他の生き物に、できる範囲の指示を出すことができる。

今回はダフラスに、お使いで町に行くシキナの事を見守ってもらっていたのだ。

その事を母親から聞いたシキナは、ダフラスの頭を撫でダフラスに感謝した。


「ありがとね、ダフラス。シキナの事を守っててくれて」

「ワフッ!!」


シキナに撫でられるダフラスは(くすぐ)ったそうに身をよじったあと、シキナの顔をべろんと一回舐めた。


「うひゃあっ!!くすぐったいよダフラス。……ねえママ、シキナにも魔法でこんな素敵なお友達が出来るかなぁ?」

「それはあなたの使える魔法次第ね、ママの子だしあなたもきっといい魔法に出会える筈よ。明日からはあなたに魔法の事を少しずつ教えてあげるから、楽しみにしていなさい」

「本当っ!?うわーい!!やったぁ、シキナも魔法のお勉強出来るんだ!!」

「さて、それじゃあそろそろ買ってきてくれた材料を使って、美味しいケーキを作りましょうか。そうだ、よかったらダフラスも一緒に食べて行ってね」

「ワンッ!!」

「ねえねえっ、シキナもお手伝いするっ!!」

「そう?それじゃあ一緒に作りましょ」

「うんっ!!」


母娘二人で台所に並びケーキを作り始める。


「そういえば、シキナ。お使いで町に行ったのは楽しかったかしら?」

「うんっ!!すっごい楽しかったよ!!」


今日の出来事をシキナはずっと覚えていたいと思った。

最後までお読み頂きありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても良いお話でした。 特にシキナと犬とのクッキーのやりとりが微笑ましくて、シキナが困った時に颯爽と助けに来てくれるのも、読んでてあたたかな気持ちになりました。 それに末部でのお母さんの…
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