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1:不慮の事故①

 子供の頃に見たゾンビ映画が切っ掛けだったと言えば切っ掛けであった。

 タイトルはそのまま『ゾンビ』原題は『ドーンオブザデッド』鬼才・ジョージ・A・ロメロの描く終末の世界に溢れ出たリビングデッド達と戦う人間達の姿を描いたサイバイバルホラー、と言っても、主人公達はショッピングモールに引き籠り、なんだかんだで人間同士の争いによってその隠れ家も手放さなければならなくなると言う結末の物語である。


 蒼太が興味を持ったのは『ゾンビ』の方ではなくゾンビに敗北を喫してしまう『人間』の方であった。なぜあんなに動きの遅い、知能もないような奴らを相手に世界中の軍隊が負けてしまうのか? 子供ながらにありえないだろうと思った。

 それから様々なゾンビもののレンタルビデオを借りてきては同じ疑問を抱くことになる。大抵の作品が既に世界中にはゾンビ達が溢れかえり、人類の生き残りはわずか、どこかに潜伏しながら最期の時を待つのだが、結局人間同士が争ってゾンビ達を招き入れてしまうというものであった。

 世界中の軍隊がゾンビの軍勢に敗北し、どのように人類は衰退の一途を辿ったのか、そこら辺の説明はないのである。まあ、あったにしてもパニックになったどこぞの国が、核ミサイルを撃った為に世界中の核保有国がそれに応戦、世界は滅んだ。であるとか。圧倒的な数の有利、ゾンビ共はネズミ算の如く爆発的に増え続けるので対応しきれず、また痛みや恐怖を感じないので、攻撃しても意味がないなど、なんかそんな理由であった。

 結局どれも納得のいかないものばかりで、落ち着いて冷静に対処すればたとえ現実にゾンビが現れても人類は滅んだりしないと、蒼太はそう考えていた。

 それでもゾンビ映画やホラー映画全般が嫌いなわけではなく、むしろ蒼太はそういった映画を好んで見た。

 それは思春期の頃にそういった血飛沫の舞うスプラッタものに触発される、その時期特有の厨二病的なものからくるものではなく、なぜホラー映画の登場人物達はわざわざ滅びの道を歩むような行動を犯してしまうのか? それがとても興味深くておもしろかったのだ。


「それで動物行動学なんてものを研究しているの?」

「話が飛躍しすぎたかな? 勿論他にも色々な要因はあるよ。それでも、それが僕の原点であったのかもしれないと、世界がこんなことになってから今更になって思ってね」

「つまらない話だわ。あなたにとっては青春の1ページが現実になってしまったようなものね」

「そんなことはないさ。僕にだって人並みにティーンエイジャーの頃の思い出だってある」


 訝しむような目で蒼太のことを見ると、由美子は再びラジオを点ける。どこのチャンネルに合わせても砂嵐の音声が流れるだけであった。


 毎日2時間おきに流れるあのSOS放送、ショッピングモールに数人で立て籠もりそこにあるFM放送局から流している物らしい。

 二週間前に大学構内に潜みラジオを聞いていた蒼太と由美子はこの放送に気が付き、まだ生き残った人がいることを知るとそこを目指すことにしたのであった。

 助けを求めている人達の元へ行って助けを求めるってのもおかしな話であるが、それ以外に自分達が助かる道は他にない。無論ショッピングモールに行ったからと言って助かると決まったわけではない。現に彼女達は外部へ助けを求めているのだ。かなり逼迫した状況である可能性もある。それでも、少しでも生き長らえることができるのであれば、藁にでも縋る思いであった。

 なにより二人きりで身を潜めていた蒼太と由美子にとっては、他の生き残りの人間がいることがなによりの救いになったのだ。


 運よくキーの刺さったままの車を見つけたのは本当に幸運であった。しかしその車も間もなくガス欠になろうとしている。途中、ガソリンスタンドで何度か給油はしたものの、既に空になっているところや、焼けてなくなっている所などもあり、給油のできない状態が続いてしまったことは運が悪かった。

 それでも目的地まではあとわずか、なんとかもちそうではあったが問題は煙草の方であった。

 さっき展望台で吸ったのが最後、煙草は切らしてしまっていた。


 この世界に“奴ら”が現れてから半年、様々な噂話しや或いは報道があった。

 市販の風邪薬が効果ある。とある食べ物に含まれている成分がウィルスを撃退するなど、ガセ情報がSNS上に溢れかえった。

 そんな中、効果を見せたのが煙草であった。煙草を吸っているものは奴らへと変わる確率が激減しているのである。また奴らは人間を襲う際、好んで肺の部分を食べた。

 しかし、喫煙者の肺は食べ残しが多く見られた。ネット上には、ある研究者が非喫煙者の肺と、ヘビースモーカーの肺を奴らの前に置いてみたところ、綺麗な肺はあっと言う間に平らげられたのだが、真っ黒な方は無傷のままだっという話しもある。まあ、そんな肺をどこで手に入れたのかわからないので胡散臭い話ではあるのだが、こんなご時世なので難しいことではないのかもしれないと蒼太は思った。


 そんなこともあり、今では8時間に一本、日にして三本の煙草を吸う事によって、奴らに変貌するウィルスを抑制することができ、また万が一奴らに襲われても肺を喰われ絶命することはなく、奴らとなって死後も地上を彷徨うことはないと言う結論が出ているのであった。


 朝の八時頃までにショッピングモールに着き煙草を分けて貰わなければ、どの道生き残ることはできないと蒼太はアクセルを踏み込み夜の山道を飛ばした。


「ちょっと、飛ばし過ぎじゃない?」

「そうかな? 暗いからそう感じるんじゃないかな?」

「車の事故で死ぬとか洒落にならないわよ」


 由美子が皮肉ったその時、前方に人影が二つ見える。こんな山奥にまで奴らがいるのかと思ったのだが、大きく手を振り必死の形相で何かを叫んでいるように見えた。

 通り過ぎる瞬間に胸の辺りを確認する。喰われた痕も見られず衣類も普通に着用しているようであった。


「ねえっ、あの人達人間だよっ!」

「そうだが、もしかしたら違うかもしれない」

「奴らがあんな風に手を振って大声を上げることなんてできるわけないじゃない」


 由美子の言葉に蒼太は逡巡する。彼らが奴らでなかったとして助けるべきであるか? 人数が増えることにより面倒事も増えるのではないかと思ってしまう。

 しかし答えを出す前に由美子がとんでもない行動にでる。サイドブレーキを引き上げると強引に車を止めようとするのだ。

 蒼太は慌ててブレーキを踏みこみ呆れ顔で由美子を見るのだが、凄まじい剣幕で睨み返されると渋々引き返すのであった。


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