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プロローグ 悪性新生物

「肺癌で死ぬのと、胸を食い破られて死ぬのと、どちらがいい?」


 風見由美子(かざみゆみこ)は笑うと狭い車中で煙草の煙を燻らせた。

 ガス欠寸前の車中、夏の夜空に浮かぶ天の川を見つめながら二人、最後の煙草に火を点けると最上蒼太(もがみそうた)は苦笑しながら答える。


「一日に、たった三本の喫煙で肺癌になったりはしないよ」

「それもそうね。確率で言えば奴らの餌食になるか、或いは奴らになるか、の方が高いものね」


 街外れの高台の上から見下ろす景色を見つめる由美子の目は酷く冷たく、そして諦観した目をしていた。


 眼下には明かり一つない闇が広がり由美子と蒼太の二人を飲み込む。半年前までここは夜景の綺麗なデートスポットとしても人気で、夜中でもカップルが訪れるような場所であった。

しかし今ではこの二人を他に人の気配はまるでない。この世界にたった二人だけ取り残されたかのよう。


「パラダイスロスト……」

「旧約聖書かい? きみの口からそんな言葉が出るなんてね」

「あんなものを見てしまったら宗教ってのも信じたくなるってものよ。もしも本当に神様がいるのであれば……いえ、神様なんていないのかもね。代わりに地獄だけは本当にあった……」


 窓から外へ吸殻を投げ捨てエンジンをかける。運転席には蒼太が、助手席には由美子。時刻は深夜0時28分、あと2分でいつものラジオが始まる。由美子はカーステの電源を入れるとFM放送のチャンネルを合わせた。




『ザーザー……ん……は……こん、ばんは。誰か……聞いていますか? ……警察でも……消防でも……自衛隊でもかまいません。私達は生きています。ここにいます。お願いします。助けてください』



 奴らが地上に溢れて六カ月、世界は終末を迎えようとしていた。


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