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安和の初めて・行伍の覚悟

 セクハラを繰り返し、常にエネルギー満タンの状態で俺はアンナにラリアットを食らわせた。

「どっはぁ!」

 あ、やべ、けっこうキレイに決まっちゃった。いや、それは置いとけ!

 苦しそうにむせながら俺を睨みつけるアンナ、そのそばに駆け寄って俺は言った。俺もてつd――

「なにしてんだぁ!」

 我が友のストレートは座っていても威力はバツグンだ。さすが親友、自慢になるよ。

 もはや出血多量で貧血状態の俺に、必死の形相で「遊んでるヒマはねえ!」とがっくんがっくんさせられる。ちょっと待ってぇ!

 アンナは俺を床にたたきつけて颯爽と走り去ろうとしたが、そうはさせない。アンナのズボンの裾をつかみ、バランスを崩したアンナは顔面から床に――あ、ごめん、ファーストキスだった?

「…………。なんなんだよ、お前は! お前にかまってられねーんだよ!!」

 鼻を押さえて涙目。壊れたテープみたいに「辻谷が、辻谷が……」と繰り返すアンナに、俺はあいつが走ろうとした場所と反対の方向へ指をさした。

 そっちじゃねえ、愛しの姫さんはこっちなんだよ。

「――え……?」

 アンナは目を丸くして、俺の指差す廊下の先を見た。続いて、自分の行こうとした場所を振り返る。

 わかってるだろう、アンナ。闇雲に動いたって意味ない、ここは俺の超能力をだな、ってうおぅ!?

 アンナは俺をひきずって反対方向へ歩き出す。だから違うって、違うんだって!

「信用できるかぁ! いつもこのパターンでお前の言った通りに進んでたら、人生の行き止まりしかなかったぞ!」

 ああ、そうだね……そういやあ、行き止まりには当たらないけど、熊がいたり地雷があったりとさんざんだったもの、その気持ちはわかるさ――けどね!

 今回は違う! 今の俺は超能力少年なんだぞ!

「うるせええ! お前は超能力少年じゃなくて妄想力少年だろボケがあぁ!」

 くうっ、本家本元に言われると効くぅ! なんせ親友に打ち明けてこの反応だからな! 涙が出るわ! だが、俺は諦めない!

 よく聞け、この床もこうおっしゃってるんだ、『うん、あの純白のパンティ、まさに辻谷さんだったね』って、ちょ、ちょお待て!

「俺の辻谷さんをテメエの妄想に組み込むな〜!!」

 ふ、踏むな、がふ、ちょ、顔、顔はやめて〜! つうか辻谷さんはまだてめえのじゃないだろ! 彼女のパンツはみんなのもんだ!

 とにかく、ああ、もうっ、お願いだから信じてくれよ……っ、頼む! 俺ら親友だろう!? 俺がこんなに真剣に、親友って言葉まで使ってお前を騙したことがあったかよ!!

 必死の俺。だが、意外にもアンナは俺の顔に踵落としを連打しながら即答した。

「あったんだよ! 俺が鍵拾ってさ! 小学校の頃でさ! すんごい必死になって持ち主探したさ! そしたらお前がその調子でこっちだって言うから行ったら、近所のお姉さんたちが着替えてるところだったんじゃねえかよおおおお!!」

 ……あ、あらー。そんなこともあったっけ? おぼふッ。

 なおもアンナは蹴りつけながら、「俺の色んな初めてを返せ!」とか言ってくる。ああ、あの後お姉さんたちと「うふふ」なことしたんだっけ――羨ましい限りだぞド畜生! うらあああ!

「――っ! うおっ」

 思いっきりズボンの裾は引っ張ってアンナを転がし、俺はアンナを引きずる。ふはははは、こうなりゃ実力行使じゃ! いくらアンナでも横倒しになっちまえば――イタっ、ちょっと、蹴るな、手を蹴るな! イタっ、イタタっ。

 だいぶ手こずりながらも、廊下を突き進み、俺たちは校舎の外へ出る。

 ――くそ、次はどっちだ? なにか、なにか手がかりになるもの――つうか、俺と波長の会うのはないのか!?

 必死にあたりを見回していると――いた。トカゲ。なんか頭を持ち上げた平べったい姿勢で、カエルみたいに喉をへこへこしながらこっちを見ている。周りにいたギャラリーは、俺がアンナを引きずっていると言うシチュエーションのためか誰も異様がって近寄らない。

 ……、ええい、恥を捨てろ野崎 行伍! 男だろ、親友のために人肌脱げぇぇ!

 俺は気合を一発、アンナから離れ、どっせいと地べたに寝転がる。トカゲ、てめえと同じ視線だ。俺の瞳を見ろ――

 そこ行くトカゲ様ぁあ! 辻谷を知らないか? めっさ可愛い可憐な娘なんだ! あ、ちょっと待って! 逃げンなおらぁぁぁ!!

 すててててーっ、と走り出したトカゲに拳を振り下ろすと、やつは尻尾を分離して逃げ出した。畜生、有力な情報源が――なら他のやつらがコンタクトするのを待つか?

「お、おい、行伍?」

 うるさい、黙ってろアンナ! ええい、こうなりゃヤケだぁーっ!

 俺は千切れたトカゲの尻尾を握り締め、天に高々と掲げる。おら尻尾ー! 喰われたくなきゃなんか言えーっ! 辻谷はどこだぁ!?

「あ、行伍……もう止めろって、な? 信じる、信じるからさ」

 ええい、ジャマするんじゃねえ! そんな青ざめた顔で、お前は辻谷さんに会いたいんだろ、知ってるのか? 辻谷さんは今日、学校を退学するんだぞ! 遠い場所に、病院へ入院することになってるんだ!

「――え……? な、そんなの……」

 唇を噛み締めてうつむく。なんだ、お前らしくもない。病気を治すためならシカタナイってか、ばっかやろぃ!

 俺はくねくねする尻尾を握った手でアンナのツラをぶん殴った。めちゃくちゃ久しぶりに殴った――けど、全然、力が入らなかったせいか、痛くなさそうだ。アンナは驚いたように、こっちを見つめていた。

 いいか、アンナ。なんで辻谷が逃げたと思う? 決まってるだろう、離れたくなかったからだよ、みんなと! そんな長期入院よか、あいつは俺らと、そしてお前といられる、今を選んだんだよ!

「…………!」

 アンナ――、辻谷の想いを、


『私、メリーさん! 今、あなたの手の平の中にいるの!』


 今かぁあ! なんで今なんだ、雰囲気読めェー!!

 俺の叫びにアンナだけでなく、ギャラリーどもも物凄い音をたてて引いたが、気にして――おっと、お前は逃がさないぜ、アンナちゃあん!

 とりあえずメリーさんでもいいや、お前、辻谷さんの居場所を教えてくれ! わかるか場所?


『私、メリーさん! 今、辻谷さんは――あなたの う し ろ に』


 テンキュゥウ!

 トカゲの尻尾を握りつぶし、俺はアンナを連れて走った。俺の後ろ――後ろ……? この方角って焼却炉じゃねえか。


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