変態は反省する
きゃっほぉぉぉうッ!! 聞いて驚けえええ! 二年三組五十嵐 安和の好きな子は、同じクラスのぉ、t――
廊下を疾走しながら叫んでいた俺は、その強烈な殺気により、とっさに下に転がった。超能力は使っていない。ただその殺気に驚いて転んだわけでも全然ない。
そんな俺の頭上を通過して、ホウキが窓ガラスをぶち破る。
『ぎゃあああああッ!』
『ああ、お父さぁーん』
『む、息子よ、娘よ!』
えぇぇぇ!? 割れた欠片全部子供ぉ!?
「死・ネええええええッツ!!」
ひょおおおおっ!
振りかぶったホウキをまっすぐ叩きつけて来る。あ、あぶっ、危ないだろがああ! 死ぬぞ、それは人ふたりは殺せる威力だぞ! 見ろよ、ホウキが真っ二つに!
『ぎゃああああああッ! ――ぁ』
はい死んだー! ホウキさん即死だぁ! ムカツクけど悪い子じゃなかったのにぃ!
『失礼ね、生きてるわよ! 早く修理なさいよこのぶ男っ』
……死ねぇええ! テメエは言ってはイケナイことををををを!!
「そりゃこっちのセリフだぁ、変態行伍ォ!!」
ゴ・ツーン☆ てかいってぇよ、拳骨脳天に食らったぞ! もう少し手加減しろよ!
思わず叫び、顎をさすりながら上を向く。……あまりの威力に床に叩きつけられて顎を打ったんだ。笑うな!
しかし、そんな俺の目の前に信じられない光景があった。――アンナが、涙目だ……。
あ、アン――
「クソがぁあ!」
どっぺらだべどぅ!?
思わず手を伸ばした俺をハンマーのような裏拳で顎を叩く。スンゲー悲鳴が出たゾ!?
くるくる回転して床に再び突っ伏した俺を、アンナは一瞥することもなく走り去る。な、なんで――
俺は鼻血でアンナと名前を書きながら、本日二回目の暗幕を見た。
ちょっとばかり、やりすぎたかなぁ。さすがの俺も少し反省した。――誰だ、いま鼻で笑ったの。てめえら、絶対にロクな死にかたしないからなっ、呪っちゃうゾ☆
それはともかく、あの後からあいつ、教室にも顔を出していない。保健室でサボってんのか? 辻谷さんに慰めてもらってんのか? ――やっぱりムカつくぅ!
「ねえ、野崎」
なんだよ脇役。俺は今、アンナ対策のイメトレしてるんだ、ジャマしないで――おおっ。
頭に「?」を浮かべる女子生徒。しかも数人。こいつら、アンナの追っかけみたいな――てゆーか、やべ、下着が見える。うほっ、面積狭いッ!!
「あんたさっき、外でなんか叫んでたでしょう? 五十嵐さんの好きな子はって。……あんた誰か知ってるの? なんで五十嵐さんは授業に出ないの?」
お、おいおい、近づくなよ……下着まで透けたらシャレにならないぜ? だって、俺たち中学生だもんな。ああ、神様、もうボケたじいちゃんのつまらない授業中に幸運をありがとう!
などと俺が感謝をしていると、そいつらは俺がだんまりを決め込んでいると思ったのか俺を掴んで「知ってるの、知らないの! どうなの!?」と揺さぶり始めた。
い、今の俺に触るなぁ! ……ぁ……。
見えた――こいつの、中身が、心身ともに。
そのエロい映像に頬が緩み勢いよく流れ始めた血が、鼻に詰めていたティッシュをさらに赤くさせる。だが、ここはクールに決めなくては、こんなおいしいシチュエーションは二度とこねえ!
ずっと教えなきゃしばらくはこういう光景が続くんだやっほぉぉぉい!
俺はかっこつけて鼻で笑おうとしたら、思わずフヒ♪ って笑ってしまった。
ずさささささ、と物凄い音をたてて女子たちが後ずさる。あ、ちょ、ちょっち待ってぇん!
「よ、寄るなぁ! キんモーっ!!」
「へ、変態! 変態ぃぃ!」
――最終的にはクラスの男子一同の手によって俺はゴミ袋に詰め込まれ、焼却炉に並ばされてしまった。
ちくしょう、今に見てろ……つうか危ない、助けてぇ!
「――はて? ゴミ袋が揺れてるのぉ」
あっ、せんせぇ! さっきはボケたジジイって思ってごめんなさい! だから助けてっ。
「ほっほっほ、そうかい、そうかい。元気だのう」
ほっほっほ、と笑いながら先生は再び歩き出す。――おいコラ、ジジイ! てめえ、覚えてろ! その春がきた脳みそに夏なんてやらねえ、秋も挟まずに冬をこさせてやる! 大寒波だ! 恐竜絶滅よりきっついぞー! 聞いてんのか!?
「……なに、してんだよ? 安吾」
――ハっ。
その声に思わず動きを止める。俺に声をかけてくれたのは、親友である五十嵐さんだった。