ホントかはたまた勘違い?
ひとしきり悶えた後、ヨっちゃんに肩を貸してもらいながら俺は保健室に向かった。
いやあ、さすがに俺は不死身じゃない。すぐ復活ってのはムリだし、瞬間移動ってのもムリっすわ。
ヨっちゃんありがとおお! ついでにミャーコお姉さまこんちゃー! いやっほぉう!
保険の先生、美弥 寿子先生に挨拶してベッドに突っ込む。しかしその突っ込もうとしたさきが悪かった。
「……っ……!」
めっさ凄まじい威力のラリアットを受けて、俺はどどぶッ、なんて悲鳴をあげながら仰向けで床に転がった。
こ、こ、こ、この容赦のねえ攻撃――、あ、アンナ……?
後頭部を床にしたたか打ちつけたせいか、せっかく止まった鼻血が再び流れ出る。俺の目の前には、鬼のような形相でアンナが仁王立ちしていた。な、なにしてんの?
「お前こそなにしてんだよッ。ここは怪我人病人がくるところだ、帰れ帰れッ」
ヒドっ。ヒドくない? 見ろよ、俺のこの姿。怪我人以外のなんだってんだよ!
抗議の声をあげる俺を、「聞こえませーん」とばかりにホウキで掃き始める。イタ、イタタっ、止めろ、俺はゴミか! チリなのか!?
『あたしに掃かれるもの、即ちそれ全てチリ! をほほほほほほ!』
ンだとごらああああ! てめえ、ホウキ如きが調子のってんじゃねえぞ! てめえなんざただスカートに埃と雑菌を絡めるだけの女――って汚い! やめて、触れないでぇ!
親友の非情な行為を、ミャーコ先生がまあまあと止めてくれた。せ、先生、優し……。
そんなミャーコ先生を、アンナは「先生は甘やかしすぎなんだよ、これぐらいがちょうどいいんだって」とホウキの握りの部分で、俺をやたらめったに突き刺しまくる。や、やめろお!
「五十嵐さん、どうしたの?」
俺の飛び込もうとしていたベッドからか細い声が聞こえる。あり? 誰か寝ていたのか。思わず目を瞬いていると、こほこほと小さくせきをしながら、カーテンからひょっこりと顔を出す。
――あ、確かこいつ同じクラスの……辻斬り侍?
「辻谷 萌だよ、辻しか漢字があってないだろっ」
いだだだだっ、耳を引っ張るな! なんだよぅ、辻谷さん病弱で保健室の住人って言われるぐらいなんだから、そんな名前を覚えるほど密接な付き合いしてねーって。
俺たちのやりとりをくすくす笑いながら見ていた辻谷さんは、こほんと小さなせきをひとつして、アンナに俺を許してやれと優しく諭す。
――て、天使だ……このゴミタメのような汚れた星に、今、天使が舞い降りたッ……!
好きだああああッ!
「だらっしゃーぁ!」
思わず叫んで突進した俺の足を払うアンナ。続いて前のめりになった俺の襟首を掴み上げるとそりゃもう凄まじい力で首を絞める。
……ぢょ、ご、ごれば……冗談じゃ……えふッ。
「ち、ちょっと五十嵐さん!? 止めなさい!」
「――ちっ……」
え、なんで舌打ち? ミャーコ先生が慌てて止めなきゃ、危うく逝くところだったぞ!
アンナはどっかと椅子に座る。あ、あのう? そこはミャーコ先生の机ですよ? 五十嵐大先生。
そんな俺の非難の目もお構いなしに、頬杖をついて外を見ているアンナ。ミャーコ先生は苦笑してコーヒーを淹れに行くし、辻谷さんは「仲がいいんですね」とかなんか無邪気に微笑んでるし……。
そういや、なんでアンナがここにいるんだ? さんざん、俺にはあんな態度をとってたくせに。
「五十嵐さんは、私の話し相手になってくれるんです。ヒマだろうからって、よく遊びにきてくれるんですよ」
――お、俺に対しても敬語……す、好き――、止めておこう、スンゲーぐらいにアンナが俺を睨んでいるのがわかる。
え、ちょっと待てよ。休み時間によく来る? 近づこうとした俺を排除しようとする? 好きって言おうとしたら殺しにくる?
――こ、これってまさか……?