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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第1章 拠点編
6/38

6.拠点生活1日目(下)

 天使モドキの襲来から一転、天使モドキの骸の処理が最優先で行われていた。

 こちらの死傷者は、死者0名・軽傷者5名。ここの皆さん、強いですね-。かなり爆発音とかしてた様だけど。


 尚、天使モドキの正式名称は、有環種:オオグロと呼ばれている。ぶっちゃけ天使でした。


 今回現れたのは、危険度2+のオオグロ。通常、5~10体で行動する事が多いらしい。今日みたく数百体での行動は初めてだそうで。彼等は知性を有するが、攻撃的で残虐、他の知性体を殺す事に喜びを覚える厄介者。故にアヴァール王国では、人種の敵として認知されている。


 さてさて。なぜ、骸の処理が最優先なのか。彼等のように魔素を主体とする魔物は、死後半日ほどで魔素を発する青い液状に成り果て、辺り一帯が人種の住めない土地となるからだそうだ。なので焼却処分が一般的だった。焼けば煙になって拡散しそうなんだけど大丈夫らしい。で、過去形なのは技術革命が興ったから。


 まず、冷凍して加熱。撹拌してペースト状になったら容器に移して圧縮。これで魔鉱石の出来上がり。

 冷凍・加熱・撹拌・圧縮は魔術師でも可能で、圧縮以外は魔生物にも可能だ。そして圧縮容器は魔法具として存在する。こちらは、一般的に普及している。

 それまでは、ただただ燃やすしかなかった汚物が、有用資源に変わったのだ。

 特に運が良い場合は、魔鉱結晶になる事があるのだ。拠点の皆が頑張るわけだ。


 *魔鉱石とは。魔生物の作成や契約、魔法具の生成などに用いられる。種類は、魔鉱石片<魔鉱石<魔鉱結晶片<魔鉱結晶<魔鉱大結晶とあるらしく、後になるほど価値が跳ね上がる。入手方法は主に鉱山と魔物。



 オオグロの異端児が、見つけて食べていた青銀色の単3電池に似た物こそ、魔鉱大結晶だったのだ。

 オオグロの異端児は、1体1体調べていたけど、美月は共通点を見つけていた。魔鉱大結晶を有する固体には、青銀色の羽が混ざっている。陽光でキラリと光れば簡単に発見できる。僕たちは、美月の素晴らしい観察眼で見つけた方法で、魔鉱大結晶を楽々手に入れていた。すみません、結構大変でした。取り出す時は、胸の中央。これが一番キツイ。グロかったし、キモかったし、グロかったし、キモかったし、グロかったし。ま、慣れましたけどね。

 


「ふー、どうよ。俺12個手に入れたぜ」


「僕は7つ」


「私も7つ。センと一緒。えへへ」


「僕は16個。えっへん」


 それぞれの収穫を報告する。やはり美月が一番多い。誇らしげに胸を張っている。みんなの掌の上で、小さな結晶達が青銀の輝きを放っている。


「また今回みたいな時は、これを与えればカレーパンになるのか」


「どうだろう、みんながカレーパンを連想したからだと思う」


「おっ、なら次はどんな食い物にする」


 そんな馬鹿話をやっている所に、ヨーコと王女がやってきた。

 骸を漁るばかりで運びもしない異邦人の旅人4人は、ヨーコと王女から直々に、沢山お叱りを受けました。


で、手にしている魔鉱大結晶をみたヨーコが驚きの声を上げた。


「セン、その手に持っている物をどこで手に入れた」


「え、ああ、これ。綺麗でしょう。沢山手に入ったのでどうぞ」


 斯く斯く然然と説明してみんなで手に入れた物を見せた。これには王女も驚いた。

 その後、貴重な魔鉱大結晶の簡易獲得方法の確立で、褒められました。もちろん、オオグロの異端児の件は僕たち4人の秘密。正直に食べたなんて話したらどうなる事か。考えると恐ろしい事をしてしまった。



 色々あって、片づいたのは午後3時過ぎ。他人には言えない秘密のカレーパンのお陰か、お腹は減っていない。疲れてもいない。いや、肉体的にも精神的にも、かなり疲れたはずなんだけど、気力体力充実しまくっている。

 大人の美女から、元に戻っていたヨーコが、夕食まで自由に行動していいと言い残し去っていった。

 僕たちとしては訓練をして欲しかったんだけど、大活躍した彼女にこれ以上迷惑を掛けるわけにもいかず、お礼を言って見送った。



「すっげーな、異世界。ファンタジー万歳。変身万歳。違うか、あれこそ本当の姿なんだろうな。強くて綺麗だったな彼女。はぁ・・・生命の危機率半端ねえ。あと、食事」


 目をキラキラさせて語るノブの目が、後半死んだ。

 めずらしく美月の突っ込みが炸裂しなかった。どうやら美月もヨーコが気に入ったらしく、うんうん頷いている。たぶん、絶対ノブと美月のヨーコへの関心は違うだろうけど、指摘するのは止めておこう。



 遠くで建設作業の喧騒が聞こえる。本当に此処の人は元気だ。休憩しないのかー、すごいなー。

 これからどうしようかと考えていると、「厨房に行こうぜ、別の物を作ってくれ」とノブが頼むので取りあえず、みんなで厨房へ移動した。



 1階にある大厨房に入ると、静かだった。中には2人だけしか見当たらない。

 1人は長身痩躯の女性。褐色の長い髪を後ろで束ねた、柔和な顔立ちのお姉さんだ。もう1人は、背が低い小太りの男性。身長は僕よりちょっと高い。贅肉ではなく筋肉の塊みたいに見える。赤茶けた短髪にそばかすの目立つ童顔が、にっこりと微笑む。


「おや、君たちは王女様のお客人だね。分かった、お腹が空いたんだろ」


 男性の名は、ピック。女性の名は、リーフ。ここでは10名ほどが働いているらしい。他の者は、今日は昼食分がそのまま残っているので、夕食にスープを温め直すだけなので特に準備も必要ない為、休憩している。


 それで、2人が何をしていたかというと、お互いが手に入れた魔鉱石を自慢し合っていたとの事。

 このアヴァール王国では、魔鉱石は貨幣としても使われていると言うのだから納得だ。

 因みに、僕たちの手に入れた魔鉱大結晶の量だと、一生働かずに暮らせるらしい。豪遊しなければ。



 広い厨房にはフライパンや大きな窯、様々な大きさの鍋や包丁などが沢山有る。棚にも食器類が綺麗に整理され並べられていた。火の児がいる場所は、焼く・蒸す・煮るなどが行える。天井のダクトには風の児が。大きな扉の先は氷室で氷の児がいるらしい。僕は、試作料理のための食材を見せてもらえないかと聞いてみると、ピックが快諾してくれた。


 まずは、肉から。それは、四角形でとても硬い殻に覆われていた。大・中・小・極小と有り、黒と赤の計8種類。小と極小は不人気で廃棄されているらしい。今回置いてあったのは、昨夜僕たちが興味を示していたので、見学に来たらいつでも見せる事が出来る様にとの王女の気配りだったようだ。


 蔕があったであろう部分を強く押すと、箱が開くように四方に割れ中身が出てきた。黒大は赤身。黒中は脂の入った赤身。赤大は白身。赤中は脂の乗った白身。小は脂。極小は卵が5つ。

 うーん、牛・豚・鳥・魚と混じりに混じってる。たぶん赤身は牛以外にマグロっぽいのもあるから色々。白身も鳥や豚や魚肉がもうカオス。

 卵は鶏卵にしか見えない。魚卵は無いのか。


 次に、イモの確認。ジャガイモとサツマイモ。色は乳白色・黄色・赤紫色・紫色・赤地に黒線がある。

以外に種類が少ない。淘汰されたのかな。外見も中身も同じ色だった。


 調味料を聞いてみた。塩のみ。お酒や酢も無いそうで。

 何か忘れてるような。部屋の灯りが違う。光虫。花蜜。蜜があるって言ってた。

 リーフが花の蜜を持ってきてくれた。さらっさらの液体だ。

 花蜜は、花と水を大きな鍋に入れ撹拌。花を取り去り完成。甘くなく花によっては色が付く。


 料理を試作したい旨を伝えると、2人は一瞬きょとんとしたが、許可してくれた。

 ノブに僕のバックパックから角砂糖を4個だけ取ってきて貰った。

 僕は小を10個と極小を3個ほど、手に入らないか頼んでみた。2人は一瞬驚いた顔をしたが、ピックが笑顔で取りに行ってくれた。

 農園は厨房の近くにあるらしい。


 ピックは以外と早く戻ってきた。その間に用意した食材は、黒中の脂の入った赤身肉1つ。ジャガイモ5個。サツマイモ2個。

 ジャガイモは3つを茹でて潰す。2つを摺り下ろし、鍋に沈殿したデンプンを乾かす。サツマイモは1つを、薄くスライスして水気を切る。もう1つはざく切り。肉はミンチに。

 極小から取り出した脂を、鍋へ投入。温まったところで、スライスしたサツマイモを揚げる。油を切って乾燥。それを砕く。ミンチとクラッシュサツマイモを混ぜたハンバーク種2つと、ミンチとマッシュポテトと合わせたコロッケ種を3つ。種に片栗粉をまぶす。コロッケ種は溶き卵に浸し、クラッシュしたサツマイモのチップを付けて。

 ハンバーグは、両面を焦げ目が付くくらい焼いたあと蒸し焼きに。コロッケは鍋で2度上げ。油切りなんて無いので、肉を焼く網を代用。

 衣のサツマイモチップが焦げまくって真っ黒です。糖分が多いから焦げるのが早い。ま、予想道理ですけど。失敗はしてませんよ。真っ黒焦げのコロッケが出来上がりました。

 ざく切りのサツマイモを素揚げし、角砂糖と油を撹拌しながら和える。ついでに、ゆで卵3個と目玉焼き(サニーサイド)3つ。ゆで卵は厳密には蒸したんだけど、ゆで卵でいいよね。

 うーん、彩りが。食材探しの重要性を感じる。ハンバーグは3等分、他は半分に切り分ける。


 それでは実食。圧倒的ジューシーさが肉を主張する。でもやっぱり、ソースが欲しい。ピックは噛み応えがない事が不満の様子、リーフは大絶賛。


 続いてコロッケを。ハンバーグよりも美味しいよ、うん。ジャガイモの甘味と脂の旨味がかなりいける。焦げてるけど。衣になる良い物を探さなきゃ。しかし、ピックとリーフ、2人にとっては衝撃作であった様子。


 そして、ゆで卵と目玉焼き。ゆで卵の半熟具合が良かった。目玉焼きは完全に火を通していた。ピックとリーフが恐る恐るプルプルの白身を匙で掬い口に入れると、3秒ほど動かなくなった。最初にピックが咆哮しリーフが追従した。2人とも半熟派だった。ピックとリーフにはこれも感動作だった様子。


 最後に大学芋。普通の出来でした。僕以外は満足してくれたので良かったです。特にピックとリーフに至ってはもっと食べたい、もっと作って欲しいと懇願される始末。砂糖は貴重なんです。本当は油物がちょっと重いです。



 今日のカレーパン美味しかったなあ。現実逃避したくなっていた所に――――突然扉を開けて黒い影が――――王女が現れた。どうやら甘い香りに誘われやってきたご様子。


「やっぱり、貴方達だったわね。また甘い物を食べていたの。私も食べたいわ」


「昨日とはまた違った香りがするわ。ねぇ、どこにあるの」


 みんなの視線が王女と目が合うのを避けて一斉に下を向いた。賢い王女はそれだけで悟ったようだ。

 満面の笑みがかげったかと思うと、くずおれる王女。


「「王女様」」ピックとリーフが駆け寄る。


「ショック受けすぎだろ。引くわー」


「信じらんない。ノブ君、今後おやつ抜きだよ」


「麗美こそ訳わかんない事言うんじゃねえ」


「ノブが悪い。1週間断食すれば気持ちも分かる」


「悪かったよ。でも1週間は止めてくれ」


 これまで飴の様な甘味を知らなかった王女にとって、甘味の魔力は相当な物のようだ。しかも、食べられると思ってきてみれば、目当ての食べ物がない。かなりショックだったようだ。


 ノブ・麗美・美月のみならず、ピックやリーフまでも僕へと視線を向けてくる。

 さすがにこのままは気の毒だし、残った材料を見て卵焼きを2種類作る事にした。


「王女様には特別な物をご用意させて頂きます。少々お待ち下さい」


 王女が勢いよく飛びついてきた。のは勘違いで、僕が王女に引き寄せられた。

 あぁ、この人って魔法が使えるんでした。特別特別と、連呼しながら僕を力一杯抱きしめてくる王女。

 小さくて可愛らしい見た目とは裏腹に、物凄い怪力で抱きしめられ呼吸ができない。

 王女の両肩を押して離れようとするが、離してくれない。


「落ち着い・・・離し・・」


 口をぱくぱくさせる僕に気付く事のない王女。

 美月やノブが危機を察知し、王女を引きはがそうとするも効果無し。

 そういえば、三ツ星に吹き飛ばされて無傷だった。忘れてた、この人も十分怪物だった。


「サトミ様」凛とした声が厨房に響く。


 正気を取り戻した王女がヨーコに説教をされシュンとなっていた。有り難う、ヨーコさん。

 さて、これから作るのは甘い卵焼きとしょっぱい卵焼き。

 甘い方は沢山空気を入れてフワフワに。砂糖が入ってるので焦げないように注意する。

 しょっぱい方はスライスしたジャガイモを軽く炒めて混ぜて焼き上げた。

 当然、卵の追加をピックに頼みました。


 料理は完成したけど、厨房で王女に提供しても良いのだろうか。気の回しすぎでした。


「出来たのね、早く早く」


 めざとい王女だ。まったく見た目通り子供の様にはしゃいでいる。

 飲み物はリーフが準備してくれていた。あれ?僕たち飲み物なんて出なかったよ?ちょっとショックだった。



 王女とヨーコの前に2皿づつ並べ、「2種の卵焼き。どうぞお召し上がり下さい」と一礼して下がる。

 キラキラと瞳を輝かせる王女が、どうやって食べたら美味しいのと問いかけてきた。

 どうやら昨日の事を覚えていたらしい。ヨーコが口に入れる寸前で動きを止める。

 左の皿はポテト入りの塩味卵焼き。右はフワフワ甘い卵焼き。お好みとしか言いようがないんだけど。


「特にこれと言って。そうですね、左の後に右を食べるとより一層甘さが強調されます。後は交互でも片方づつでもお好みでどうぞ」


 今回は、素直に左右と一口づつ食す王女とヨーコ。上品である。2つとも気に入ってくれたようだ。

 と、出来たてアツアツをハフハフと頬張る王女。あー、こちらが本性だな。センの中で、王女の好感度がアップした。先程は殺されかけたけどね。

 ヨーコは王女に何事か言い掛けて、頭を振り、微笑んだ。

 あっという間に完食した王女が今更な質問をしてきた。あなた、作るの見てたでしょ。


「これは一体何で出来ているの」


「それは卵です。こちらでは廃棄されていたみたいですが、僕たちの国では割とポピュラーな食材なので、使用させて頂きました」


「こんなに美味しい物を捨てている。本当なの」


 王女の視線が2人の調理師に向けられる。

 ピックとリーフは互いに視線を交わし、すぐにピックが折れて言葉を発した。


「私達は、今日初めてコレが。んん、卵がこんなに美味しい食べ物だと知りました。そして色々な調理方法も。おそらくこの国で、この様に美味しく食べられる事を知る者は、我々以外にいないと考えます」


「そうね。私も初めて知った。ごめんね、貴方達に非は無いは。でも、他にどの様な物を食べたの」


 微笑みながら問いかける王女に、ピックの目がリーフへと注がれる。しかし、リーフは首を左右に振るばかり。ピックはさらに視線を彷徨わせ、見つけた僕に助けを求める。

 彼とは良好な関係を築いておきたい。ピックの求めに応じ僕は頷く。


「王女様、お話中、横から失礼します。卵料理はゆで卵と目玉焼きです。王女様が希望なされば、彼等ならいつでもご用意できると思います」


「そう。なら、夕食はそれも頼めるかしら」


 王女の願いに頭を垂れ、了承の意を示すピックとリーフ。


「それで、この甘い匂いの正体はどんな料理だったの。おいしかった?私も食べたいなー」


 王女の質問に、ピックとリーフがこちらをマジマジと見つめてきた。そんな目で見つめられても砂糖の量は限られてるんですよ。


 すると、ノブが助け船を。


「姫さん。甘い物は摂りすぎたら毒だ。そんなに沢山食べたら、有り難みや楽しみが無くなっちまうだろ。1日1回にしときなよ」


 ちょっ、ノブ。最後のは要らないよね。それって、1日1回とか自分の希望入れてないか。


「それもそうね。でもそれは明日からよ。今日のは今日食べるの。絶対絶対ぜ~ったいなんだから」


 ま、いっか。せっかくご所望だし。恩人だし。別に怖いから作るわけじゃ無いよ。全然怖くないし。

 再度、ノブに角砂糖を2個取ってきて貰った。

 なんだかんだで、食材を自由に使って良い事になった。そこで、リーフに同じ大きさのサツマイモを30個ほど蒸してくれるよう頼む。ピックには片栗粉を作るようお願いした。片栗粉があれば、唐揚げも作れる。塩味限定でも。

 但し、食材の消費が跳ね上がるので日常的に使用するのは無理だろう。イモの生産量を知らないけど。


 僕はサツマイモを先程よりも少し小さくザク切りにした。早く火が通るように。手早く大学芋を作る。

 出来上がった大学芋に風の児で微風を送る。火傷をされたら堪らない。

 出来たて熱々を王女とヨーコの前に配り、とっても熱いので火傷しないように注意して食すよう勧めた。


「あら、なんだかべっとりしてる。大丈夫なの」王女が問いかける。


「はいはーい、姫さん。俺が毒味するよ」ノブが手を振り寄ってくる。


「大丈夫そうね。あむ」


 ノブを無視して王女は箸で突き刺した大学芋をパクリ。ヨーコも追従する。

 厨房に大輪の花が2つ咲いた。ヨーコがあんなに喜んでいる。良かった、今日の分の恩は返せただろうか。


 僕は、はっきり言って料理は趣味なだけで上手じゃ無い。よく出来たとしても普通。

 それを此処まで喜ばれると、嬉しさ半分、後ろめたさ半分だ。単に知っているだけ。それも食材がほぼ同じ。肉に関しては、出来るまでかなーり違うけど。それでも、ピックやリーフの様な調理を担う者が質を高めてくれると信じたい。

 満足した王女はヨーコを伴い厨房を去った。



「なあセン、蒸かしイモをあんなに作ってどうするつもりなんだ」


「あー、あれはね。干し芋にしようかなと思って」


「干し芋なのに蒸すのかよ」


「まぁね」


「片栗粉は何に使うんだ」


「唐揚げとか肉団子とか色々使えるよ。問題は主食のイモを大量に消費する事だね」


「それって嗜好品で贅沢品だね。センチー、食べ物で贅沢品が広まれば、新たな商売が出来る。僕等の城を建てる資金も簡単に作れそうだ」


「美月!いつ、城なんて建てる事になったの」


「いや、ナイスアイディア美月。まずは金を貯めて装備を充実させる。今日みたいに守って貰えるなんて考えは捨てねえと」


「でもさ、何かするにしても”一人前”に成らないとだめだって言われたよね」


「あー、学校を卒業とかだったか」


 そこへ、リーフが話しかけてきた。ゆで卵と目玉焼きの指南を頼まれた。

 蒸かし芋が出来上がるまで時間があるので一緒に作る事にする。ピックは未だジャガイモと格闘中だ。


 ゆで卵から作る事にする。卵を匙で軽く叩き、鍋に敷き詰める。水を薄く張り蓋をして強火で加熱。蒸気が漏れ出てきたら弱火で待つ。ここで半熟にするか、固茹でにするか決める。鍋の大きさと、卵の量で蒸す時間も変わる事を伝える。


 ここにきて、ようやくピックが加わってきた。ゆで卵の指導を受けられなかった為、ちょっと拗ねている。

 とても大事な仕事で大変助かった事を伝えたら、すぐに機嫌を良くしてくれた。ピックは良い人だ。

 目玉焼きも、黄身を半熟にするか熱をしっかりを通すか。片面だけの場合は、蒸した方が焦げない事。または、両面を焼くか。


 片栗粉の乾燥と干し芋作り用の空き部屋がないか、ピックとリーフに聞いてみたが、残念ながら無いようだ。

 王女に相談すべく厨房を後にする。



 王女の部屋兼執務室に到着。この建物内には衛兵はいない。なんと、王女の護衛はヨーコのみだ。ノッカーはないが、一応扉をノックする。返事がない。再度ノックする。返事はない。


「おーい、姫さん。いないのかー」


 ノブが声を掛けると扉が内側に開いた。


 簡素な机と簡素な背もたれ付きの椅子に腰掛けた王女が、書類と睨めっこしている。

 王女は僕たちを見ず、用件を聞いてきた。

 そこで、新しい加工品用の空き部屋が欲しい旨を伝えると興味を示してきた。


「姫様、実は良い話がある。ウィンウィン」


 美月が王女と小声で話している。始めは訝しんでいた王女だが、だんだん表情が目まぐるしく変わる。結果――――取りあえず、貴賓室が余っているので、臨時で使用させて貰う事になった。尚、新しい小屋を急ピッチで建てるそうだ。


「そうそう、セン・ノブ・麗美・美月の4名は労働を免除します。何かやりたい事あったりする」


「毎日ヨーコと訓練したい」美月が即答。ノブも麗美もそして僕も頷いた。


「そこはヨーコの都合次第ね。班ごとに日替わりで訓練してるから混ざってもいいわよ」


「この辺りで食材を探したい。見つかるかどうか分からないけど」


「貴方達が護衛者を募って、集まれば許可します」



 僕たちは大厨房へ蒸かした芋を取りに行き、空き部屋へと移動する。美月の神業的包丁捌きで、縦長にスライスされた蒸かした芋をシーツの上に並べて乾燥させる。風の児で部屋の空気を絶えず循環させる。網とか鋼線とか欲しいな。


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