4.異世界の食事情
ご指摘有り難うございます。手直しいたしました。今後注意します。
僕たちは宛がわれた2部屋の1部屋を僕とノブで使い、もう1部屋を麗美と美月で使うことに決めた。
僕の荷物は巨大な三毛猫の三ツ星がいた場所にあるので4人で建物内を見学しながら移動する。
2階には王女の執務室・貴賓室5・貴賓食堂など。
なんと三ツ星は貴賓室で寝起きしているのだ。破壊されていた壁はもう応急処置がしてあった。
扉を開けると、ヨーコが三ツ星とじゃれていた。
「あ、ごめん。居るとは思わなくて。荷物を取りに来たんだけど、入ってもいいかな」
僕の声に反応したのか。三ツ星が青みがかった紫の瞳で見つめてくる。3つの尻尾をぶんぶん振り回して。
「・・・だめだ」
さっきまで大輪の花を咲かせていたヨーコの顔には、明らかに不満の表情が浮かんでいる。
「えっと」
気まずい。苦笑いを浮かべる僕。
「受け取れ」
そう言ってヨーコが荷物を投げてよこした。寸分違わず僕の胸に飛んできた。
(それって結構重量ありますよ、そんなボールでも投げるみたいに軽々と)
彼女の身体能力の高さが垣間見える。
飛んできた荷物を、横から美月が勢いを殺し難なくキャッチする。
(まあ美月が出来るのは驚かないけど)
「危ない。センに怪我させたら許さないぞ」
美月は右手の人差し指を、ビシッとヨーコに突き付ける。
「・・・」
ヨーコは面倒くさそうに、羽虫を追い払う様に手を動かす。
「体に教えてやる。躾の時間」
「もう少し利口かと思ったが・・・明日相手をしてやろう。病み上がりを相手にしてもつまらん」
「わかった」
2人が約定を交わす。
「ちょっと待って。何で喧嘩するんだよ2人とも落ち着いて」
「美月つよいんだから、あんまりイジメちゃだめだよ」
「セン、俺も美月に同意だ」
「麗美もノブも焚きつけないで。確かに美月は強いけど、勝てないよ」
ノブと麗美が信じられないって表情で僕を見る。美月も悲しそうな表情を浮かべる。
「今朝ね、ヨーコさんと王女様がこの部屋と廊下の壁を突き破って吹っ飛んだんだ。あ、吹き飛ばしたのはそこに居る巨大な三毛猫の様に見える三ツ星なんだけど。でも、2人とも無傷だったんだ。ありえないよね。それに僕は無事なんだから、ね。ヨーコさん、お邪魔してすみませんでした」
「勘違いするな。明日は元々、お前達の能力を見る為に軽く手合わせをする事も予定に入っている。出来ない事をやらせても仕方ないから」
「それじゃまた後で」
あはははと笑って誤魔化しながら、僕は扉を急いで閉めて美月の手を掴み移動を促した。
時折擦れ違う人々にヒソヒソと囁かれながらも、1階と2階を見て回った。かなり大きな木造建築。1階は大部屋25・大厨房・一般食堂・大浴場・洗い場・厩舎など。現在騎獣は三ツ星だけなので厩舎は空だ。
ざっと見学した後、みんなで僕とノブの部屋で会議を始めた。
この世界には魔法が実在する。そして、言葉も通じるし文字も分かる。意思疎通の面で問題は無い、理解し合えるかは価値観の相違なのでどうしようも無い。歩み寄りだろうと妥協や打算だろうと無理な物は無理だと歴史が証明している。
元の世界に戻る方法が分からないので、この世界で暮らしながら情報を集める。極力トラブルは避ける。僕たちはここではマイノリティーなんだから。
新しく発見した事、特に魔生物という便利な道具は、魔法の概念による産物で科学文明に染まった僕たちでも有用である。ただし、契約するには魔鉱石って物が必要らしい。契約期間は1ヶ月更新で魔鉱石の種類によって威力が変化するらしい。一般家庭の場合、魔鉱石片で十分足りるそうだ。職人が使う炉あたりだと、ちょっと高価な魔鉱結晶片が必要らしい。
「魔生物ってすっごくファンタジーだね。」
「アレを見たらやっぱ違う世界だって改めて実感したな。ま、魔鉱石ってのが簡単に手に入ればだけどな」
「わたしは、風の児が好き。とっても可愛かった」
「実用的で色々使える。でもこの光虫は別格だと思う」
僕たちが電気の明かりだと思っていたのは、光虫だと知らされて驚いた。光虫は水さえ与えておけば暗くなると光り始めるそうだ。国道には等間隔に燈籠があり夜道を光虫が照らしているそうだ。因みに花蜜によって光の色が変わるらしい。
「あのね、お風呂があるの」
「ん?お風呂がどうかしたの」
眉根を八の字に寄せた麗美が、突然話題を変えたので問い返す僕。
「お風呂があるの・・・うれしいけど」
「けど?」
「・・・着替えが」
「着替えがどうかしあっ!そっか、ごめん」
そこでようやく気付く。そして皆に頭を下げた。
「謝らないでよ、セン。全然責めてるわけじゃないから」
麗美が慌てて首を振る。
「着替えかー、お姫様に頼めば貸してくれそうじゃん。あと謝るなセン。お前は胸張ってりゃ良いんだよ」
「今回は仕方無い。姫様は信用するに足る人物。あと、ノブが偶に良い事言った。明日は雪が降らないと良い」
素直にノブには同意しない美月。
「へーんだ、雪が降ったらカマクラ作って美月だけ入れてやんねー」
スッと美月がノブの正面にたった時には、ノブがお腹を押さえ片膝をついていた。
「美月、あんまりノブを叩いたらだめだよ」
いつもの事だけど、注意はしておく僕。(喧嘩するほど仲が良いっていうけど、ノブの体が心配だ)
すると、突然美月が僕の両肩を掴み頬擦りしてきた。
「今日はストレスでセネルギーが足りない。補充させて」
「私も足りない、私も足りない」
麗美が頭を撫でてとアピールしてくる。
「みんないつも通りで安心した」
フッと一つ息を吐き微笑する僕。しかし違和感が。
「何だろう、この匂い」
言葉が漏れ出ていた。
とたんに麗美と美月が僕から離れた。そして袖や肩口をフンフン・クンクンしたかと思うと、泣きそうな顔になった麗美と耳まで赤く染めた美月が、部屋から飛び出していった。
「え、ちょっ、2人とも」
扉が開き閉まる音。自分達に部屋に戻ったらしい。
「とても良い香りがしたんだけど」
呟く僕の肩にノブが手を置きヤレヤレと困り顔で言った。
「お前の素直さは美点で有り欠点でも有る。まっ、変わらないお前だから良いんだけどな」
扉がノックされ王女とヨーコが入ってくる。(まだ返事もしてないよと心で叫ぶ僕)
「今から皆に紹介するから1階の食堂へ移動する、着いてきて」
「はい」
「ほーい。ところで姫さん、着替えとか貸して貰えないかな」
ノブのフランクさが頼りになる。決して図々しいとか厚かましいとかじゃない。
「用意させるわ。他に要り用な物があればいつでも構わないから言ってね。可能な物は用意するわ」
太っ腹な王女様である。否、寛大だ。美少女の王女様に太っ腹なんて機嫌を損ねかねない。まさか首を刎ねられるとかないよねと、考えてる内に麗美と美月も合流し1階の大食堂へと至る。
中は既に満席で、人々は談笑していた。そんな中へ王女と一緒に現れた僕たちは一斉に注目される。麗美が僕の袖を掴んでくっついてくる。先程の賑やかさが嘘みたいに人々は静まりかえっている。
「皆疲れているのに悪いけど、この異邦人の旅人4名を紹介するわ。セン・麗美・ノブ・美月よ。明日からしばらく働いて貰うけど、足りない部分はあるだろうから色々気に掛けてあげてね」
僕たちは、呼ばれた順にお辞儀した。
「姫様の頼みを断る馬鹿はここにゃいません」「任せて下さい、姫様ー」「何でも申しつけて下さい」
王女は物凄く人気者だった。
ザックリと紹介が終わり、僕たちは王女に続いて食堂を後にする。
移動中、僕は何と無しに聞いてみた。
「王女様、ここの方達はケモミミとかシッポとか結構コスプレ率高いですね。流行ってるんですか」
王女の足が止まる。こちらを見る顔には疑問の表情が。
「コスプレ?耳と尻尾がどうしたの」
「いやだから獣の耳や尻尾とか衣装とかで、なりきって楽しむ事をコスプレって言うんです」
「セン、そちらでは獣人は珍しいのか」
「マジか!本物か!」「「「獣人」」」ノブのテンションが急上昇。
僕は驚く事が多すぎて心が疲れているのか「そうなんだ」としか感じない。
僕たちの反応だけで王女様への答えは出ていた。
「うさぎちゃんとかいるのかな、うへへ。っと、美月は力比べしたいって思わないか」
「んー、強い相手なら試合してみたいかな」ノブが美月をけしかけている。
「純粋な獣人はほとんど見かけないわね。でも、ヨーコにも獣人の血が僅かながら流れているから貴方達がヨーコの本気を引き出せれば見られるわよ。だから明日はがんばってね」
「姫さん、それって変身するのか」
「言葉通りよ」クスッと微笑する王女。
「変身だ変身。がんばれよ美月」
「いわれなくても」
静かに闘志を漲らせている美月とノブ。ノブが怪我しないか心配だ。
貴賓食堂で、この日3回目の食事をいただきながら話をする。フレーバーな飲み物を水に変更して貰った。水が凄く美味しい。夕食は、メニューに大きな肉のローストが追加された以外は同じ。3大栄養素は申し分ないけど、食物繊維が足りなさすぎる。
聞けば、芋2種と肉が主食らしい。どちらも畑から採れるそうで『イモの木』『肉の木』に実が生るらしい。 僕たちの世界と同じジャガイモ・サツマイモにしか思えないのに、木に生るとは。肉は木でも良い気がする、いや木の方が心が楽だね。
「なあ姫さん、他に食材ねぇの?もしかして明日も明後日も、今日と同じ感じの食事だったりするのか?世話になってる俺等が言うのもアレだけどさ。塩以外の味付けが欲しいんだよな」
ノブがしれっと僕たちを巻き込んでいる。異論はないけどね。
「当然働き次第では、今日より寂しい食事になる可能性はあるわよ。あとアヴァール王国で食する物は、肉と芋以外見た事も聞いた事も食べた事も無いわ。塩以外の味?ヨーコ何か知ってる?」
「私もサトミ様と同じ意見です」
ノブの質問に王女とヨーコが答える。
「セン、重大な事実が判明した。大問題だ。3大欲求の1つ、食欲を満たすのが芋と肉だけじゃ無理がある。ソースなしスパイスなし調味料は塩1択。せめて調味料だけでもなんとかしてくれ」
「調味料は手持ちが少しはあるけど、早めに何か見つけたいね」
「ノブくん、沢山お代わりしてるのに」
「麗美、満腹になれば良いってもんじゃねーんだ。甘い物欲しくないのか」
「お芋おいしいよ」
「・・・わかった。セン、飴をくれ。持ってるだろ。麗美の分も俺にくれ」
真顔で手を差し出したノブへ、僕はコーヒー味の飴を2個渡す。麗美と美月にも同様に。
「よかったら、2人もどうぞ食べてみて下さい」
興味津々な王女とちょっと訝しむヨーコに、それぞれ飴を2個渡す。ノブは包装を破り飴を口に入れていた。柑橘系の香りの飲み物とは違った、コーヒーの香りが場に漂う。飴はマイルド風味とビター風味の2種類。王女はビター風味を口に含み、顔をしかめた。
「香しいのに焦げた苦い味と・・・・なかなか癖になりそう」
バリボリ噛み砕く音が聞こえる。
王女は早速残りのマイルド風味を口に含み破顔した。
「ん~~~おいひー」
両頬に手を当て叫ぶ王女。給仕の女性がびっくりして口に手を当てている。
またバリボリ飴を噛み砕く音が。
「えっと、王女様。飴玉は口の中で舐めていれば、長く味を楽しめますよ」
ハッとした王女が、ノブと僕を交互に見て顔を曇らせた。ノブを手本にしたのは間違いだと気付いた王女。
ヨーコが自分の分を王女に差し出すも、「ヨーコもちゃんと味わって」と断られていた。
すると、美月と麗美が飴を1個づつ王女へ差し出す。
「姫様どうぞ受け取って下さい。私達の感謝の気持ちです」
王女は素直に受け取りご満悦だった。
僕たちは夕食を終え、それぞれの部屋に戻り明日に備え眠ることにした。