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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第2章 フォルトナ編
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シャクティ(3)

今回は、あの人が再び登場。

前回は、影薄かったけど・・・やっぱり今回も。

 最初は、のんびり歩いて移動していたけれど、シャクティが歩き疲れたと言い出したので、自転車で移動する事にした。尚、シャクティは美月に抱きつく形で乗ってもらった。



 裏通りで自転車を倉庫珠そうこだまに仕舞うと、冒険者ギルドのある賑やか過ぎる通りに出る。

 シャクティは、余りの人の多さと活気に吃驚びっくりしている。

 美月が、そんな彼女の手を引いて冒険者ギルトへと入る。


 冒険者ギルド内も、外に負けじと賑やかだ。

 多くの視線が僕達へと集まるのが分かる。

 密密ひそひそと囁かれる声には、偉大なる黒光や2段と言う言葉が混じっている。

 暫くすると、不自然な静けさがなくなった。

 取り敢えず、シャクティを依頼専用受付へと連れて行く。

 窓口には、眼鏡を掛けた若い男性職員が座っていた。


 「これは、チーム”セン”の皆様。あなた方の登録に立ち会えた事が、私の誇りです。思い返せば、ついこの間の事のようで・・・本当にこの間でしたね。んんっ、失礼しました。あなた方が依頼される案件となると、そうとう難易度が高そうですね」


「僕じゃない。依頼人はこっち」


 美月が、男性職員の前へと、シャクティを押し出す。


「なるほど。少しだけ残念な気もしますが。いらっしゃいませ。まずは、貴女の身分証明のため、手の甲をこちらにお出し下さい。確認が取れましたら、次に依頼内容の確認をさせて頂きます 」


 僕達は、受付から少し離れた長椅子に座って、シャクティと男性職員の遣り取りを見ている。

 男性職員は、眼鏡を中指でクイッと動かしたあと、シャクティをまじまじと観察しながら質問をしている。

 シャクティは、そんな男性職員の態度を気にもせず、ちゃんと会話をしている。

 僕達は、彼女を冒険者ギルドまで連れてきたので、これで”クエストクリア”となる。

 そこへ、見覚えのある冒険者PTが、上階から降りてきた。


「おーい、賢者の卵達。私達の事、覚えてるー。知らない仲じゃないんだし、『偉大なる黒光』に紹介してくれないー?」


 声の主は、手を振りながらこちらへ歩み寄ってくる。

 それにしても、大声で叫ぶなんて。

 大方おおかた、賢者の卵と吹聴しているのは、このPTで間違いないだろう。


「|カ()|ル()|ビ()|ー()、五月蠅い」

()()()()()じゃなかったか? ま、声がデカイのは同意だけどよ」

「2人とも虐めちゃダメだよー。カルディナさんは、()()()()()()なんだから」


 3人の口撃に、笑顔のカルディナが・・・変化しなかった。すごい胆力だ。器がでかい人だ。


「ふふん、私達は非常識なことがステータスなんだ。普通だと、埋もれちゃうだろ。名を売れない冒険者は、色々と辛いからね。でも、賢者の卵達の所為で、私達が初段になったのに、全く目立たなかった。だから、これくらいの報復はゆるされる」


 言い切った! 確かに、僕達にとっては、地味に報復された感があるような?

 でも、彼女が語った内容だと、僕達に貢献した事にならないか? まあ、嘘言を流布されたわけじゃなし、咎めるのも変か。

 しかし、昇段していたのか。ここは、祝福の言葉を贈っておこう。


「みなさん、昇段御目出度う御座います」


「ん。君は素直だね。お姉さんが、今晩じっくり手解きしてあげよっか?」


 ああ、カルディナ、それは言っちゃダメなやつだよ。

 僕が考えた通り、時既に遅し。

 麗美が魔砲を、美月が魔力剣をカルディナへと向けていた。

 カルディナの周りにいたメンバーが、ズザザーッと離れる。

 はやい! 見捨てるの早っ! 否、冒険者としては、危機感知能力を褒めるべきなのかな?

 周囲からは、そんなカルディナへの文句が。


「こんな場所で超新星スーパー・ルーキーを怒らせんじゃねえよ」

「かーっ、初段なのに信じらんねえぜ」

「あいつらって、たしか『艶華』に加わったんだよな。チーム戦に発展するのか?」

「あたしらはチーム『セン』に賭けるよ」

「ばーか、そんなの『セン』1択しかねえだろ。賭けになるかよ」


 ほー、『艶華』に加入したのか。ああ、姉妹繋がりかな? 色んな情報が手に入るんだよね、此処って。

 そんな中、ノブが麗美と美月にチョップした。

 ノブのチョップの効果で、麗美と美月の2人が冷静になったようだ。

 しかし、ノブには悲劇が待っていた。2人のから3倍返しが・・・。理不尽である。

 カルディナは、涙目で放心していて、仲間に介抱されている。

 カルディナ、ノブに感謝してね。


「君達、いや、貴方達のお陰で、探索用の魔法を覚える事が出来ました。アドバイス有り難う御座いました」


 カルディナPTもとい、『艶華』のリョウスケと言う男性魔術師が、僕達に挨拶してきた。

 彼は、PT内に2人いる魔術師で、サポート担当だそうで、魔法・序の探索系3つを修得したらしい。

 彼等の安全度が上がった事は、良い事だと思う。


「ねえねえ、君達がさ、帰りに使ってた、すっごーく早い乗り物は、何て名前なの?」


「自転車ですよ」


()()()()ね。それって、何処で手に入れたの? 他にも余ってたりしない?」


「メル、落ち着きなさい。それに、じてんしゃと仰ったんですよ」


「ちゃんと、()()()()()って言ったもん。ユリカの耳が悪くなったんでしょ」


「そういう事なら僕が。自転車は近々売りに出す予定。現在鋭意制作中。暫し待て」


「わー、すっごいねー。アレって作れるんだ。わたしでも乗れるのかな?」


「メル、先程から失礼ですよ」


「問題ない。後で特別に試乗する?」


「え、いいの? わーい、やったやった。乗る・乗る。絶対乗るー」


 美月は、真・万能武器作成の為、自転車販売による資金調達をする為には、サービスをするようだ。以前の美月からすれば、有り得ない譲歩だ。それほど、真・万能武器は美月の心を捕らえたのだろう。


「分かりました。依頼は達成されているのですね。すぐに手続きをします。え? まだですか? はい、ええ。そうですか。・・・暫くお待ち下さい」


 そう言って、男性職員は奥へと消えた。

 (はて?なにやら、小声でシャクティが話していたのが気になる。なぜか悪い予感がする)

 3分も待たされなかったと思う。

 男性職員の案内で、奥へと案内されるシャクティ。なぜか、僕達も一緒に行く事に。

 因みに、カルディナ達は自転車に試乗する為に、僕達を待つそうだ。



 通された部屋の中には、瞳を輝かせた子供がいた。背は僕の口元くらいだ。

 子供は、シャクティに駆け寄ると、両手を握りブンブンと上下に激しく振る。余りの早業に、シャクティは面食らい、されるがままとなっている。

 子供は、ようやく満足したのか、シャクティから手を放すと、流れる様な動きで挨拶する。

 なんとこの子供は、自らをアヴァール王国冒険者ギルドの最高責任者と名乗ったのだ。

 しかも、現在99歳だと言う。見た目で騙されるよね。たぶん、苦労も多かったんじゃないかな。

 そこから、彼の長いなが~い話が始まった。ちょっとだけ話を聞いてと頼まれ了承したら、ちょっとじゃ済まなかったのだ。


「うーん、今日は実に良い日だ。まさか賢者シャクティにまみえる事が出来ようとは。重畳ちょうじょう重畳ちょうじょう


 ようやく、ギルドマスターの長話が終わった。主に、シャクティに関する話ばかりだった。

 そう、この人物、熱烈なシャクティファンだった。

 だが、急に真顔になった彼から、奇妙なプレッシャーが滲み出すように、部屋に満ちていく。

 彼は、再び口を開いた。


「さて、今回の依頼は、龍の素材を手に入れる為に、鎮守の森へ入りたいとの事ですが、間違いありませんか?」


「その通りよ。フォルトナから1番近い場所だもの」


 ギルドマスターの目が、シャクティを見据える。まるでシャクティの心の奥底までを見るかのように。


「むー。できる、ロリじい


「ちょっと美月、ロリ爺って。失礼だよ」


「いや、美月の言う通りだぜ、セン。見た目に騙されるな」


「私は、センがいれば問題なーい。でもちょっと嫌な空気だから、このロリマスお仕置きしちゃう?」


 えー、まさかの黒麗美登場!? いったいどこでスイッチが入ったの?

 どうすれば、元の麗美に戻るのかと思考がテンパる。


「なははははは。面白いな、さすがは異例の2段昇段チームだ。俺の威圧を受け手、ちょっと嫌な空気か。なははははは。賢者の卵と言うのも本当なのかな?」


「魔法だけならそうね。知識がまだまだ足りないから教えている」


「貴女様が仰るのであれば、疑う余地はない。しかし、有為の人材を『黒の閃光』が放って置きますかな? 賢者が4人も加われば、長引く戦局は」


「この子達の後見人が、『偉大なる黒光』の時点で、誰も口も手も出せない。例え実の親であってもね。事情を知らない輩は、どこにでもいるけど、そんな者は自力で排除できるわよ」


「確かにそうでしょう。有望な冒険者2チームも推薦するほどの逸材。その時は魔法を使えなかったそうです。それが、今は賢者にも手が届く。貴女様の依頼を任せるのに、彼等以上の冒険者はフォルトナには居ません。私の名において、この依頼お受けいたします」


「『セン』の諸君。くれぐれも、賢者シャクティを頼むよ」


 ギルドマスターが、鋭い眼光を僕達へ向けてくる。


「何言ってんだ?俺等はもう依頼をこなしてきたぞ。なんで別のを受けなきゃいけねんだよ」


「サトミにまた叱って貰う」


「ひっ! ()めろ、否、お止め下さい。半年も無給奉仕なのに、これ以上は勘弁して下さい」


 ギルドマスターは、椅子から立ち上がると、両膝立ちになり、胸元に両手を組むと、泣いて懇願する。正に、あっという間で感心した。この素早さにだけは。


「ノブも美月も、意地悪言っちゃだめだよ。シャクティ先生の依頼も、元々こちらが本命だと思う」


「んー。でもね、私もこのロリマスはお灸が必要だと思う。だって、センに対抗心を燃やしてるみたいだから」


 麗美の言葉に、ロリマスじゃなくてギルドマスターがぷるぷると震えだす。きっと彼は、お灸の方に反応したんだよ。


「麗美まで。それに、僕個人に対抗心を燃やしてるとか全然意味がわからないよ。みんなは依頼を受けるの反対?」


「まあ、龍と聞いちゃ仕方ないな。さっきから、実物を見たくてワクワクしてんだよ。問題なしだ」

「センチーの行く所、僕在り」

「私とミニ美は、何時でもセンのボディガードだから」

「我はセンあるじ様に仕える者なれば、何処へでも」


 ノブが笑顔で答える。うん、本当に楽しみにしてるのが分かる。

 美月も声のトーンで、ワクワクしてるのが丸わかりだ。

 麗美はミニ美の頬をつついている。

 ヴァシルとレフスキは、安定の回答だ。(ゴザルが薄くなってきたのだから、そろそろ、さまも外してくれないかな)

 そんな事を考えていたら――――ギルドマスターの顔が驚愕の色に染まった。一体何に驚いているのか?

 彼の視線の先には、麗美が、否、ミニ美を見ている?

 


「ま・ま・まさか、その肩の・・・それは真・万能武器か・ですか」


「お、ロリ爺知ってんのかよ。伊達に年食ってるわけじゃねえんだな」


「これでも、元冒険者だからな・です。武器は命を預ける物ゆえ、当然良い物を欲して文献さえも探した・ました」


「一々(いちいち)、デスマスいらねえよ。普通に話してくれ」


「分かった。冒険者の頃に万能武器について色々調べた結果、真・万能武器の技術が失われていて、アヴァール王国には作れる者がなかった。だが、1人だけ作ったと言う男がった。しかし、俺も含めて誰も扱えなかった。遂には、その男が名を売る為に嘘を吐いたんだと噂が流れた。その後、その男は生産系ギルドの重鎮になったがな。その事さえなければ、もっと早く会長職になっていただろうに」


 過去を語るギルドマスターの表情が苦渋に満ちている。もしかして、仲が良かったのだろうか?

 しかし、僕達の知ってる人物に、話の人物像がとっても重なるなー。


「もしかして、その人物って、七靴堂のホトケのことだったりして?」


「そうだ。・・・まさか・・・本物だったのか・・・奴は・・・本当に作り上げていたのか!?」


「うん。これは、ホトケがセンに上げたのを、センが私にプレゼントしてくれたの」


 いやいや、僕が貰ったわけじゃないから。麗美の勘違いだよ。


「なるほど。俺に実力が無かったと言う事か。古い文献には、持ち主を選ぶと記してあったが、真実だったか・・・」


 ギルドマスターは、自嘲を多分に含んだ声色で、呟いた。

 雰囲気が暗くなりすぎた。

 そろそろお暇して、詳しい情報を職員から聞こう。試乗の約束だってあるし。

 別れの挨拶をすると、ギルドマスターから、忠告を受けた。

 異例の2級1段飛ばしの2段に昇段した僕達は、これから沢山のPTから加入申請を受けるだろうと。

 退室の際、美月・ノブ・麗美の3人が、ギルドマスターに何やら囁いていた。


「ロリ爺2度は」

「変な技持ってんな。今後使ったら分かってんな」

「センに感謝しなさい」


 ギルドマスターは、通りすがりの職員に声を掛けられるまで、立ったまま気絶していた。


 


 冒険者ギルドのギルドマスターの部屋では、椅子に深々と座り、大事そうにチビチビと酒を舐める子供の姿があった。

 勿論、彼は現役のギルドマスターである。

 彼が手にしている酒は、秘密裏に手に入れた物ではなく、『偉大なる黒光』からの試供品である。

 この酒は、生産量が非常に少なく、現在入手できるのは、『偉大なる黒光』の町だけなのだ。

 フォルトナの冒険者ギルドでも、貴族や豪商から酒の入手依頼が殺到しているが、金を積めば易々と手に入る物ではないのだ。

 彼は、酒を初めて飲んだ時、この世の宝だと確信した。

 鼻腔を突き抜ける芳醇さ、舌の上で転がる豊かな味わい。喉を灼く感覚。その後に訪れる幸福感。

 その全てが彼を魅了し虜と為した。

 彼は、冒険者ギルドマスターという地位と人脈を駆使も、酒を手に入れる事は適わなかった。


 彼は先程の事を思い出した。

 本当ならば、賢者シャクティに会えた記念すべき日が、恐怖の日になってしまった。

 全く、俺のような愛らしい存在が他に居たとは。その所為で、賢者シャクティの視線を独り占めできなかった。くそっ、間抜けな職員め、事前に教えろってんだ。いや、俺が全員通せと言ったんだったな。

 しかし、取り巻き3匹が勘が良いなんてもんじゃない。特にでかい奴。

 俺の秘特技・人形師をことごとく潰しやがった。何食わぬ顔で。

 くそっ、賢者シャクティと夢の様な一時を楽しむはずだったのに。

 あのチビだけ気付いていなかったのか、わざと惚けていたのか。わざとだろうな。下手な演技をしやがって。

 『義風』『艶華』の有名所が、敵に回したくないと書いていた意味を体験する事ができた。

 ギルドマスターである自分が、あんなヒヨッコ共にあしらわれるなんて思いもしなかった。

 ()々(・)、()()()()()()()を倒せただけだと思っていた。部下からの報告も、()()()()だと信じて疑わなかった。

 しかし、あれらは化け物だった。そう、規格外の化け物だった。

 あれらを飼い慣らすのは自分では無理だと悟った。あれらを飼い慣らす『偉大なる黒光』は、言わずもがな。


 ああ、あれらと同じ世代でなくて、本当に良かったと心底思う。

 今世代は、あれら以上に活躍する者達は出て来ないであろう。不運な世代だ。

 やはり、今まで通り職員に任せた方がいいな。化け物に会うのはもう懲り懲りだ。

 そういえば、懐かしい名前を聞いた。

 今度、新しい酒が手には入ったら奴に謝りに行くか。若気のいたりとは言え、酷い噂を流してしまった事を。

 あの気難し屋は、酒を気に入ってくれるだろうか。ギルドマスターは、杯に僅かに残る酒を、ぐびりと飲み干した。


 彼は知らない。彼の大好きな酒を見つけたのが、彼の言う化け物である事を。

 彼は知らない。化け物が次々に新しい酒を造り出す事を。

 彼は知らない。自分が化け物を『酒の神』と敬う日が来る事を。

現在、冒険者ギルドでは、空前の未知の食材探索ブームです。

それに続いて、チーム『セン』の異例の昇段と乗り物が話題となっています。

若き騎士達は、今後活躍できるのでしょうか。

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