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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第2章 フォルトナ編
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20.お説教?

 カオルを送った僕達は、冒険者ギルドで2段への昇段手続きを済ませ、新たに6種類の属性石を手に入れた。勿論、属性石はヴァシルとレフスキに所持してもらう。

 帰りは自転車を使ったのであっという間だった。町中ではかなり注目を集めたようだけれど、美月が自転車の認知度をもっとあげると息巻いている。真・万能武器作成の為の資金集めの一つと考えているからだ。


 お城の中庭には、サトミとヨーコがいた。なぜだろう、2人の顔が怒っている様に見えるのは。


「おーい、姫さん。稽古したいからヨーコを借りても良いか?良いよな?」


「だめ。私もヨーコも、とーっても怒っているのが見て分からない?」


「そうなのか?2人とも可愛いから全然分からないぜ。一体原因はなんだ?話次第じゃ力になるぜ」


「話を聞くのは私達よ。全員、横一列に並んで目の前ここに正座しなさい」


 サトミが指定した場所は石畳の上である。守護の鎧着を身に着けている僕とノブと麗美と美月は平気だけれど、ヴァシルとレフスキはどうなんだろう。取り敢えず、話をして怒りの原因を探ってみよう。


「もしかして僕達が何かした?」


「センチー、今は座ろう」


「セン、王女様の目が本気だよ」


「我はセンあるじ様に従う」


 ここは素直に美月と麗美のアドバイスを聞き入れる事にした。

 僕達は指定された石畳の上に正座する。正座して目線を前に向けると、いつの間にか椅子があり、その椅子に足組みして腰掛け、腕組みしてこちらを見下ろすサトミがいた。その横には、サトミ同様のヨーコを確認する事が出来た。

 2人とも間違いなくご立腹である様だ。しかし、理由が分からない。


「えっと、2人とも何があったのか教えてくれないかな」


「セン。質問するのはあなたじゃないの、良いかしら?」サトミの表情は、にこやかだが目が笑っていない。


「はい」


 僕は即答すると、プレッシャーにゴクリと唾を飲む。口の中が急に乾いてきて飲み物を欲している。今日の様な日を厄日とでも呼ぶのだろうか。


「貴方達、私とヨーコに隠し事をしてるわよね。ほら、言いなさい、すぐに吐きなさい。ぜーんぶ吐露しちゃえば楽になるわよ」


「隠し事?俺には何の事だかさっぱりわからねえ」


「うー、私にも思いつかないよ。センなら分かるよね?」と麗美が僕の左袖を掴んで見つめてくる。


「僕にもさっぱり。美月はどう思う?」


「ゴメス関係?」と美月が首を傾げた。


 サトミとヨーコが頷いている。2人は一体どうやってゴメスの事を知ったのだろう?そもそも本当にゴメスの事なのだろうか?


「良く出来たわ、美月。それじゃ、もっと詳しく説明して頂戴」


「それはだめだよ。ギルドの仕事上知り得た事だから、部外者には話せないんだ」


「ああ、センが正しい。たとえ姫さんでも、教えるわけにはいかないぜ」


「えー、でも王女様ゴメスの事を知ってる感じだよ」


「我が思いますに、美月殿の答えに便乗したのでは」


「残念組は黙ってなさい。そもそも貴女の村の石碑は全部」


「申し訳ございません。ご容赦下さいませ、どうかどうか」


 石畳に額がつきそうなほど平伏して必死に謝るヴァシルとレフスキ。


「そうそう、素直が一番よ」


 そういえば、予言の石碑とやらの内容を教えられていなかった。ヴァシルとレフスキがあんなに畏まるなんて、石碑にはどんな事が書かれていたのかな。


「冒険者ギルドは、報告義務を怠った罰で職員の給与を半年減給にしたわ。勿論本部の上役は無休無給よ」


 ん?報告義務?どうして冒険者ギルドが出てくるんだろう?話がいきなり変わっちゃったよ。


「どうしてギルドがサトミに報告する義務があるの?」


「冒険者ギルドがアヴァール王国で活動する上で遵守しなければならない事の1つに、国の安全に関わる事件は直ちに報せる事になっているのよ。当然、私への報告義務もあるのよ」


「そうなのか、初耳だぜ。でもよ、何で姫さんへの報告義務が当然なのか分からねえ」


「冒険者は知らなくて当然よ。ギルドが処理するんだから」


「じゃあ、僕達は何も悪くないんじゃないの?」


「悪いわよ。もう忘れたの、私達の中にいる存在の事。色々と調べているけれど、今のところ何の手掛かりもないのよね。だから些細な事でも情報の共有は必然なの、隠し事は絶対にダメなのよ。美月がついてるんだから、それくらいは分かっていると思っていたのに残念だわ」


「私もサトミ様と同じ意見だ。皆も同じ考えだと思っていたのに、裏切られた様でとても悲しい。違うな、信頼されていないのが悔しいのだ」


 怒るサトミとは対照的にヨーコが憂いの眼差しを僕達に向けた。何だろう、このとてつもない罪悪感は。そう思ったのは僕だけじゃないらしく、ノブ・麗美・美月も同様にショックを受けている。


「えっとね、ヨーコの事は信頼してるよ。本当だよ。あっ、勿論サトミの事も信頼してるから」


「何よセン。その、今思い出したから取って付けた感ありありな発言は。全くもう失礼ね。まだまだ睡眠学習きょういくが必要ね」


「姫さん、センは正直なだけで悪気はねえよ。それに、俺等は姫さんもヨーコも信頼しているぜ。それだけじゃねえ。この城の連中や、あの拠点にいた連中も良い奴ばかりで、そんな連中と引き合わせてくれた事にとっても感謝してるんだ」


「えーえー、分かったからきちんと説明しなさい」


「仕方ない。正直に話すと、ノブに嫁が出来た」


「ふぇ」


「それは本当か!?」


 美月のとんでも発言に、サトミが間抜けな声を発し、ヨーコが驚きの声を上げ椅子から立ち上がる。2人にとってはそれほど意想外な発言であった。サトミは自分の指輪を視認してから美月を再び見た。


「何言ってんだよ、お前は。そんなのいねえだろ。それに話すのは、ゴメスの事だろうが」


「ノブ君。そんな言い方はリズちゃんが可哀相だよ。あんなに一途なは大切にしなきゃだめだよー」


「麗美も論点ずらすんじゃねえ。2人が知りたいのはゴメス達に関する事なんだからよ」


「どういうこと?3人とも嘘を吐いてるわけじゃないのに、話が噛み合っていないわ」


 何やらボソボソと呟いたサトミは、指に嵌めている指輪が正常に作動している事を再確認したようだ。


「まずは、1人ずつ話を聞きましょう。はい、美月から話して」


 サトミは、隣のヨーコをちらりと見た後に美月を指名した。ヨーコは思いがけず立ち上がっていた自分を恥じ椅子へ掛け直す。


「リズって学生がノブの嫁になった。僕やヨーコより豊かな胸の持ち主」


 なぜかヨーコは自身の胸元を両手で隠してしまった。サトミは指輪を見た後に麗美を指名した。


「リズちゃんは王立魔法学院の新入生で、ノブ君の事を運命の人って呼んでます。私は2人が幸せになってくれるといいなぁと思っています。だから、リズちゃんを応援してまーす」


 サトミはまた指輪を見てからノブを指名した。


「最近、美月も麗美も妄想が激しくなってんだ。俺には嫁なんていねえし、付き合ってもいねえ。学院で何度か昼食を一緒にしたくらいだ」


「ノブが正しいみたいね。念のために、センはどう思っているか聞かせて」


「リズは良いって印象だね。でも、ノブの意志を尊重するよ」


「そう。なら、この話はここまでよ。本題に入るわ。ノブ、説明して」


 サトミにゴメスの説明を求められたノブが、無言で僕に意見を求めてくる。僕は了承の意を込め、ノブに頷いた。


「仕方ねえな。ありゃ確か、姫さんとヨーコが拠点に戻った翌日だったから、大体10日前の事だ。その日は、3級冒険者への昇級試験だったんだ。場所はフォルトナの南にある鉱山跡地で、シャドーマンって魔物を数十体飼ってた『しんま』のゴメスってのと遭遇したんだ。ま、シャドーマンを殲滅した後だけどな。試しに話してみたら戦闘を回避する事が出来たんだ。騙したとも言うけどよ。ゴメスは空間を自由に行き来出来る奴なんだよ。しかも魔力も半端ないぜ。そして、今日奴の仲間と戦った。知り合いがギルドに依頼しててよ、当然依頼を受けたのさ。場所は南区の地下道だったんだけどよ、そこで睡華スイカって魔物を増やしてた奴がゴメスの仲間であるスクミだ。スクミには勝てたんだけどよ、ゴメスが連れ帰っちまったんだ。どうやらゴメスとは兄妹?みたいだったな。あと少なくとも親父もいるようだぜ。奴らの目的は、人が驚くのを見て楽しむっていうたちの悪い愉快犯だな。街を破壊したり人を殺すのが目的じゃないようだ。あくまで、ゴメスとスクミの言葉を信じればだけど」


 前半部分は頷いていたサトミとヨーコだけど、今日の話になると目を丸くして続きを黙って聞いていた。


「話してくれてありがとう、ノブ。でもね、こんな大事な事を黙っていたなんて、お仕置きが必要ね。そうでしょ、ヨーコ?」


「はい、異論はございません。きつい罰が必要かと」


「ちょっと、2人とも目が笑ってないから。怖いから止めて。大体、サトミ自身が言ってたじゃないか。ミスは許すって。それに、隠し事じゃなくて冒険者としてのプロ意識の結果なんだよ」


「センが言ってる意味が分からないわ。ヨーコには分かる?」


「さあ、私にも全く分かりません」


「だそうよ。お仕置きの内容は後で考えるとして、新しい情報が増えたわね。まずは、そちらから処理ね」


「そんなことをいう2人は嫌いだ。意地悪なサトミもヨーコも嫌いだー」


 僕は思わず叫んでしまっていた。そして、他人に嫌いと言ったのはいつだろうと疑問が浮かんできた。これまで、好きになれないと思う人はいたけれど、口に出して言った記憶はないかも。それに、サトミもヨーコも本当に嫌いなわけじゃない、むしろ大好きで大切な仲間だと思っている。そんな事を考えていると、すすり泣く声が聞こえてきた。

 サトミとヨーコが両手で顔を覆い、声を圧し殺して泣いている。涙が肘を伝い膝上に零れ落ちていく。


「センチー、苦しい」

「セン、胸が」

「セン様、何やらお腹の辺りがモヤモヤいたします」

「2人への言葉だとわかっているのに、思いっきり悲しいぜ」


 みんなを見ると顔色があまり良くない。美月と麗美が両手で胸を押さえている。ヴァシルとレフスキはお腹を押さえ、ノブもお腹の辺りを摩っている。

 ノブの発言の意味を考えると、僕の言葉が原因でみんなに支障が出ている事になるけれど。

 他人を魅了する力があるみたいだし、試しにさっきの発言を否定してみよう。


「嫌いっていうのは言葉のあやで、本当に嫌いって事じゃないから。寧ろ大好きだから、大切な友人だと思っているよ。だから、サトミもヨーコもそんなに泣かないで。みんなも大丈夫?」


 言い終わってからドキドキしながらみんなを観察する。効果がありますようにと心の中で念じる。暫くすると。


「心配させちまったみたいだな、俺はもう大丈夫だ」

「センチー、僕も大丈夫」

「私も良くなったよ、セン」

「我も心配をお掛けいたしました」


 どうやら、みんな復調したようだ。ホッと一安心したものの、新たな悩みが出来てしまった。試した結果によって残念な事が判明してしまったからだ。僕が嫌いと言った事が原因だという証明に・・・これからどうしよう?


「全くやってくれるわね、危うく心が壊れるところだったわ。センは今後、私に・・・私達に向けて嫌い・大嫌いという発言をする事を禁じるわ。これは決定事項よ、絶対だから、良いわねセン」


 目元が赤いサトミが一気に捲し立てた。隣のヨーコも目元が赤くなっているが頷いている。というか、みんなも頷いている。


「うん、その・・・ごめんなさい。でも、お仕置きなんてのは無しだよ」


「そこは、悪乗りし過ぎた私も悪かったわ。本題に入る前に、心の平穏の為にもセネルギーの補充よ」


「大賛成ですサトミ様。それと、私も反省している、済まなかった」


「僕も賛成」


「私も」


「俺も」


「我も」


「・・・」


 僕はボソッと反対を口にしたけれど、5分もの間されるがままとなった。



 僕以外の全員が、気力を充実させた所でゴメス達に関する話し合いが行われる事になった。

 題して、なぞの『しんま』対策。

 なぞじゃ対策も対処も出来ないじゃないか、何て事は勿論言いませんよ。また気分を害されたら堪らないから。


「貴方達のお陰で『しんま』って種族か勢力がいる事が分かったわ。接触したのは、ゴメスとスクミって名前ね。それで、やっぱりスクミにも頭が3つあるのかしら?」


 どうやらサトミは、ゴメスに頭が3つある情報を得ていたようだ。情報源は冒険者ギルドで間違いないだろう。今更隠す必要はないけれど。


「あったけど、ない」


「美月、流石にそれじゃわかんねえだろ」


「大丈夫、サトミなら理解する」


「ふふっ、評価が高くて嬉しいわ。どうして頭が減ったのか麗美、補足して」


 サトミの言葉にショックを受けたのか、美月が俯き落ち込んだ。


「え?は・はい。スクミも最初は頭が3つありました。んーと、ゴメスとスクミの共通点は、足が無い事と頭が3つある事と腕が複数本ある事と空中にフワフワ浮いてる点です。でも、今日スクミと戦って勝ったんです。約束だとスクミが仲間になるはずだったのに約束を守らなかったんです。それで、センがスクミの魔力を封じたら体から煙りが噴き出して、ドロドロに溶けた中から水着を着た女の子が現れました。かわいい人間の女の子でしたよー」


「あら。また新しい情報ね。ノブの説明は穴だらけだったみたいね」


「褒めるなよ、照れるじゃねえか。って、そんなわけあるかっ!話を短く纏めた結果だよ」


「ノブ、姿が変わった事は重要じゃ無いの?それにセンが相手の魔力を封じた事も重要よ。短く纏めても肝心の情報が抜け落ちていたら無意味なのよ。後で詳細な報告書を提出しなさい。いいわねノブ」


「そうだよなー、どうして省いてしまったのか・・・。はっ、もしかしてゴメスの魔法の所為なのか?姫さん、俺に変な魔法が掛かっていたら解いてくれ」


「変な魔法?何もないわよ。私の領域で・・・。問題ないわ」


「おい何だよ今の間は。不安になるじゃねえか」


「消したから問題ないわ。結界をちょっと強化しないといけないわね。こういった事を、未然に防ぐ為にも情報の共有は必要よ、分かるわよね」


「ノブだけ?」


「美月達に纏わり付いてたのも消去したわ。何かの残り香みたいな物だったわ」


「ちっ、ゴメスの野郎。油断出来ない奴だ」


 ぐ~~~~~~

 僕のお腹が盛大に鳴った。


「仕方ないわね。夕食を摂ったら続きよ」


 その夜は遅くまで情報の擦り合わせとなった。カオルへのお菓子の件もバレてしまって、サトミから自分の分のお菓子も”必ず”用意するようにと約束させられてしまった。

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