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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第2章 フォルトナ編
33/38

19.小さな依頼人(下)

 僕たちは相手が待ち構える大部屋へと至る最後の角を曲がった。扉が開け放たれている、おそらく周囲には睡眠ガスが漂っている事だろう。事前に浄化魔法を掛けておいて正解だった様だ。

 相手の居場所に変化は見られない、オルテも同じ場所にいる。


「それじゃ、始めよう。美月お願い」


「分かった。3・・・2・・・1」


 美月のカウントが始まる。僕もノブも麗美も3人とも顔を見て頷き合う。因みになぜかノブと手を繋いで置くようにと美月から要請されている。緊張している所為で、お互いに手に汗をかいているのが分かる。ノブも緊張している事に僕は安堵している。オルテの位置を再確認する。


「0」


 美月がれいと発した。僕とノブの防護魔法がオルテだけを守る。麗美の『陽溶洋』によって、大部屋内は大量の光と熱が発生し超高熱で満たされた。あらゆるものを灼き尽くすうみ。範囲を絞れは当然、威力も高くなる。大部屋の壁や天井や床や通路までが溶けて、こちらに熱風が吹き付けてくる。美月の張った風除けの魔法が風を遮るが、熱は防げないから熱い。すぐに麗美が『凍棺』で『陽溶洋』を中和する。

 当初の何倍も広くなった空間に、空中で蠢く影が笑い事を上げている。


「あっははははははは。面白いなー、人如きがこんな力を持っているなんて。でもさー、俺が育てた華を灼いて良いわけないだろ。代わりにお前達をペットにしようっと」


 それは、ゴメスと同様に3つの頭を持つ者。蛇頭蛙頭?頭の3つだ。体は赤銅色の鱗にびっしりと覆われていて腕が2本、足はないが尻尾が生えている。


「なあ、麗美。蛇と蛙は分かるんだが、あのもう一個は何だ?」


「蛞蝓だよ」


「お、尻尾に焼けた痕があるじゃねえか。魔法が効いてるな」


 ノブが防護魔法を継続して、僕は浮遊魔法でオルテを引き寄せる。美月と麗美がそれぞれの万能武器を構えて、相手を威嚇する。どうやらオルテは眠っているだけで危害は加えられていない様だ。ヴァシルとレフスキにオルテを引き継ぐと、こちらに怒りのオーラを叩き付けてくる相手に向き直る。


「僕はセン。君は何て名前か教えてくれないかな」


「ふん、ペットが主人に名を尋ねるか。1回で自分の仕える主の名を覚えろよ。俺の名はスクミ。そら、復唱しろ」


「スクミか。君はこれからどうするの?僕たちは目的も達したし、このまま平和的に終われたら良いと思っているんだ」


「ちっ、早速主人の命令を無視かよ。その上呼び捨てとか使えねえな。聞き分けのないペットは躾が面倒だからなあ、消すか」


「戦ってもお互いにメリットがある様に思えないけれど」


「戦い?俺が蹂躙するんだよ。で、ちょっ~とは俺の気が晴れるかもしれないだろ?お前だって普通に死ぬより俺と遊んで貰える上に死を与えられるんだ。最高だろ、あっははははははは」


「じゃあ、万が一僕たちが君に勝った場合は、僕たちの仲間になってくれるのかな?」


「人が真魔であるこのスクミに、仲間となれとほざく。消える命に変わりはないんだし、良いだろう。俺のこの腕を全部切り落とせたら、お前等の勝ちにしてやるよ」


 スクミが言い終わらない内に、新たな腕が4本増え6本になった。


「どうだっ、驚いただろう?んん?もっとさー吃驚びっくりしろよ、つまらない奴等だなー」


「驚けって言われてもよ、想定内だから驚くに値しねえんだよ」


「生意気なペットだな。まずはお前から消そうっと」


 スクミは、美月と麗美を無視してノブへと腕を振り下ろす。その腕には、いつの間にか大きな両刃の剣が握られている。しかし、ノブは難なく躱す。スクミの腕の振りでは僕にさえ当てる事は出来ないだろう。

 スクミは、2本の腕に持った両刃の剣でノブに切りつけるが悉く躱される。ブン、ブォンと風を斬る音を立てるだけの扇風機状態だ。


「ふーん、人にしてはそこそこ素早いな。なら次はどうだ」


 スクミが6本の腕で攻めかかる。別の2本の腕には長い槍。また別の2本の腕には長い鞭。6つの武器が干渉する事無くノブに襲い掛かる。

 しかし、僕も美月も麗美もこれ以上ノブへの攻撃を許しはしない。

 僕は棒で右腕の槍を弾くと、その腕に『凍霧トム』を放つ。槍を持つ右腕全体に白い氷の結晶が無数に出来て、ついには分厚い氷に覆われて動かなくなる。

 美月は、魔力剣で2本の鞭を斬りながらスクミの左肩から真っ直ぐ下に振り切り左腕3本が切り落とされた。

 麗美が魔力散弾を放つと、右腕が2本と尻尾が根元から千切れ飛んだ。

 しかし、スクミは痛みの声一つ漏らさない。斬られた腕や千切れた尻尾も血が一滴も出ない。


「ふーん、ペットが調子に乗ってるなあ。殺さずに毎日虐めて飼う事にしよっかな~。これで生きていられたらだけど。あっははははははは」


 スクミの腕や尻尾が瞬時に再生していた。一瞬で体全体の色が銀色へと変化している。手に持つ武器の先端には、炎や雷が纏わり付いていた。


「属性をつけれるのかよ、初めての相手だな」


「うん、注意しよう」


 スクミが炎の付いた剣で地面を切りつけると、3メートルほど地面に亀裂が走り、地割れに沿って火柱が吹き上がり天井を焦がす。雷を纏った槍を高々と掲げると放射状に閃光と大気を震わせ雷が降り注ぐ。地下道内の空気が再び熱気を帯びてきた。


「おいおい、受けなくて正解だったぜ。俺等も属性纏わせれば同じ事が出来ると思うか?」


「どうだろう。美月試してみて」


「頑張る」


「麗美はさっきの攻撃で良いと思う。ノブは僕と一緒に凍系魔法を使って」


「良かったね、ミニ美。パパが褒めてくれたよ」


「おう、氷付けにしてやろうぜ」


 美月が魔力剣に雷を纏わせるとスクミに向けた。すると、魔力剣の先からドォーンと閃光がスクミへと放たれた。稲妻はスクミの体に弾かれると消えさった。スクミの体は衝撃にも小揺るぎもしない。


「へえー、出来るもんだな。でもよ、魔法の方がよくね。後、意外とタフな奴だな」


「武器が体内に入ればかなり効果的なんじゃないかな」


「中からとか結構えぐいな。セン、そんな事は俺に任せろ。取り敢えず凍らせようぜ」


「セーン、私も頑張るよー」


 僕とノブは『氷箱』をスクミに放つ。無数の氷の粒がスクミを囲んで巨大な氷の中に閉じ込め動きを封じる。美月の魔力剣が氷と一緒にスクミを貫く。

 麗美の魔力散弾が凍ったスクミの腕と武器を次々に破壊した。


「お、腕が全部なくなったぞ。お前の負けだな。って、聞こえてないか」


 氷漬けとなっていたスクミが動き出す。


「おーい、スクミ。お前の負けだ、約束守る気あるか?」


「知った事か、ペットの言葉なんて分からないから。それよりこの僕に傷を負わせた事を後悔しろよ。あっははははははは。燃え尽きちゃえ」


「俺じゃなかったのか?お前が僕なんていうな」


 ノブの突っ込みにも反応せず、次第にスクミの魔力が膨れあがる。また一瞬で再生した6本の掌には、膨大な熱量を内包した巨大な火球と、周囲にパリパリッバチッと放電する巨大な雷球が浮かんでいた。


「魔力はゴメスに引けはとらねえな。人格は最低だがよ」


「センチー手を。みんな」


「セーン」


 僕たちは4人で固まり防護魔法を発動する。


「うおっ、何だこの感じ。アイツのプレッシャーが希薄になったぞ」


「センチー効果」


「え?」


「美月どういう事なの?」


「サトミが教えてくれた。センチーと接触して魔法を使うと数倍に強化される」


「まじかよ、センはブースターになるって事か」


「じゃあ、私と一緒に魔砲を撃ってみようよ。ね、セン」


「魔砲違う」


「えー、効果があるかもしれないじゃない」


「なら僕とセンチーで」


「私が最初だもん」


「ペットが随分と余裕だな。なーるほど、諦めたか」


「お前みたいな嘘つき、もはや全然怖くも何ともねえよ。ほら、さっさとやれ。そして絶望しろ」


「ペットが・・・消えろ」


 6つの球がスクミの手から放たれる事なく消滅した。

 宙空に浮いていたスクミが地面に転がっている。


「何ぃー。何が起こった」自身におきた事が理解出来ず混乱しているスクミ。


「あ、成功しちゃった」


「センがやったのか?」


「うん、僕もみんなと繋がって力が漲ってきたから試してみたんだ。サトミが良くやる事を」


「「「???」」」


「動けなくなるでしょう。魔法も使えなくなるし」


「ああ、確かにありゃ反則だ」


「サトミのは強力」


「でね、試しに魔力を封じてみたんだ。うまくいったみたいだね」


「すっごーい、やっぱりセン大好き」


「む。僕の方が大好き」


「待て。まだ卑怯者が残ってるから後にしろ」


 宙に浮く事も適わず、地面でバタバタ動くスクミ。足は最初からないので上手くバランスが取れない様だ。


「嘘だっ。ペットが真魔の僕の魔力を封じただとっ。人如きに出来るわけないんだ」


「でもよ、実際そうなってるのはお前じゃねえか。諦めろ」


「ふざけるな、僕に手を出したら仲間が」


「また僕かよ、俺じゃなかったのか?」


「ねえスクミ、君の目的って街を混乱に陥れてどうするつもりだったの?」


「ああ?そんなの慌てふためく人を見て楽しむに決まってるだろ?こんなに楽しい事はないだろ」


 スクミはいたって大真面目の様だ。何だろう、スケールの大きな悪戯だ。

 だが、標的にされた者は堪ったものじゃない。


「人を殺したり、街を破壊したりするのが目的じゃないの?」


「そんな面倒な事しても人が減って楽しみが減るだけだ」


「でもね、リリアナさんの心臓が止まっていたのはどうして?」


「仮死状態の方が操り易いからだよ」


「ゴメスとの関係は?」


「あの馬鹿がヘマしたからさ。それより元に戻せ、苦しい」


「ヘマってどういう事なの?」


「みんなで人が困るのを見て楽しむんだよ。1人ずつ持ち回りだが、あの馬鹿がヘマしたから僕に回ってきたのさ」


「もう一度、ゴメスとどういう関係なのか教えて」


「くっ、もう・・・保たない。ペットなんかの前で!こんなはずじゃ!」


 スクミの体から白煙が勢いよく噴き出す。辺り一面が煙に覆われて何も見えなくなる。風を起こし煙を晴らしてみれば、ドロドロに溶けたスクミの体。その中で、スクール水着の格好をした少女が悪態を吐きながら立ち上がろうと藻掻いていた。

 そこへ突然、空間全体覆う濃密な魔力と聞き覚えのある声。

 何もない宙空から現れるその姿は、見紛う筈も無い。ゴメスだ。


「見てたぞー、スクミ。戦いでー約束をー破った上に、正体を見られてー親父がとってもとーっても怒ってるぞー」


「いいっ!お前だな馬鹿ゴメス。親父が覗き見なんてするわけないから」


「ゴメスじゃねえか、久しぶりだな」


「んー、ノブだったね。悪いけどースクミは連れて帰るよー。真魔を名乗って戦って於いてー、君達との約束を破ったからー親父から罰が与えられるんだー」


「そいつが言ってた人は殺さないってのは本当か?」


「邪魔者以外はねー、そうだよー」


「因みによ、お前の仲間に魔法を上手に教えてくれそうな奴っているか?」


「んー?魔法?」


「だからこんなのだよ」


 ノブが火球を創り出す。


「それかー、いないよ。自然にー出来るからー。急がないと僕も怒られるー」ゴメスはスクミの腕を掴むとそのまま空間に溶けていった。



 唐突に現れスクミを連れ去ったゴメスが居なくなり、残されたのは僕たち4人と、原型がなくなった大部屋と通路が融合した巨大な空間。

 僕たちは、真っ暗な空間に誰ともなく座り込んでいた。

 『倉庫珠』から光虫の灯りを取り出すと周囲を明るく照らし出す。


「ノブは馬鹿」


「いきなり何言っての美月おまえ?魔法を教えてくれそうな相手を探すのが悪いのか?」


「スクミ達の正体。ゴメスのアレも作り物?」


「そっか、ゴメスを見たら忘れたぜ。ってか、美月が自分で聞けば良かっただろ」


「居なくなって気付いた」


「・・・。そうか、俺を批判するのはおかしいだろ?」


「もしかしたら、ゴメスの魔法だったのかもね」


「そうだよね、ノブ君の盾と同じ原理なのかも」


「俺の盾と同じ?・・・そうか認識か!」


「センチーと麗美ナイス。ノブ残念」


美月おまえもなっ!」


「ふーっ、ゴメスと戦闘にならなくて助かったぜ」


「僕もそう思う。実はもう力がなくて虚勢だったんだ」


「センチー、僕も同じ」


「私もなの。センが、あの娘の魔力を封じた時に力が一気になくなったの」


「僕がみんなの力を使ったって事かな?」


「そうかもな。センは俺等の力を強くもできるし、使う事もできるって事だろ」


「みんな、ごめんね」


「全然気にすることねえよ」


「センチー、セネルギー」


「私も」


「美月も麗美も止めろ、まずは樹珠の恵みを飲んでからだ」


 あれ?ちょっと期待したのに、止めてくれないの。僕は1分間ほどされるがままだった。

 そこへ駆けてくる足音が3人。


「・・・。何だこの有様、見逃すなど不覚」


「皆様ご無事で何より」


 ヴァシルとレフスキに元気になったオルテだった。


「なんでオルテがここにいるんだ?」


「我が運ぶ最中、転んで落としてしまいまして。血が沢山流れ出たので樹珠の恵みを与えた所、この様に元気になりまして。説得もむなしく加勢に行くと駆け出しましたので追ってきたのです」


「そうだった、おっちょこちょいって残念スキルがあるんだったな。んで、その2人から逃げるなんて、オルテは足が早いんだな」


「獣人の血が流れているからな」


「それで、暗闇でも目が利くんですね」


「まあな。しかし、まさか決着が着いておるとは。大したもんだ」


「オルテ。リリアナが心配してた」


「うん、リリアナさんはオルテさんの事、絶対好きだよ」


「心配させたのは俺の不注意だな。気付いた時には遅かった。リリアナ1人逃がすこともできなかった」麗美の発言をスルーするオルテだが、その耳はほんのり赤く色づいている。


「無駄じゃなかったさ。俺等はオルテ達のおかげもあって何とかなったんだぜ」


「冒険者ギルドに連絡しなきゃ。それとカオルにも報告しよう」


「ギルド、連絡した」


「ありがとう、美月。じゃ、先にカオルに会ってからその後でギルドに行こう」



 僕たちは地下道を戻りながらオルテに経緯を説明した。オルテは驚くやら呆れるやらした。

 出口の扉には魔法が掛けられていたが、簡単に解除出来た。

 建物内に出た僕たちの前には、リリアナとカルディナ達がいた。

 彼女達も付近の住民の避難誘導で走り回っていたのだろう。額からびっしょりと玉の汗をかき、息を弾ませているが、この後の収拾にもまた働いて貰う事となるのだろう。

 リリアナはオルテに駆け寄った。飛びついたり抱きついたりはせず、手を握ると潤んだ瞳に涙を滲ませ無事を喜んだ。

 少しだけ照れているオルテが面白く、2人の姿が微笑ましく映る。


「それではオルテさん、後のことはよろしくお願いします」


「センチー、カオルは冒険者ギルド」


「分かった、冒険者ギルドへ戻ろう」


「ちょっとー、あんた達も連絡して回るの手伝いなさいよ」


「すみません、カルディナさん。急ぐので代わりに頑張って下さい」


 僕たちは、『倉庫珠』から自転車を取り出すと冒険者ギルドを目指す。


「ちょっとー、試験官が2人ともいて止めなさいよ」


「んー?お前達はまだ試験中なんだからしっかり働け」


「そうね、あの方達は依頼を解決された。貴方達はまだ試験中でしょう?」


「ひどっ!それにあの方達って態度変わり過ぎよ!」


「実はね、あの方達が持って来た紹介状をギルドは疑ってたの。でも実力にも活動にも問題がないから段位の授与を検討していたの。そして今回の功績よ」


「3級でしょ。段位っておかしいわよ。紹介状って何よ」


「『義風』と『艶華』の連名による紹介状。魔物退治の種類と数も書かれてあるわ。文末には、”ギルドを敵に回すよりも彼等を敵に回すことの方が恐ろしい”ってね」


「前回も数十体いたシャドーマンのほとんどを倒したからな」


「・・・あのお姉ちゃんが」


「はあ~特級魔法、一度で良いから見たかった。あそこまで地形が変わるとは」


「オルテさんもですか。私もこの目でぜひ見たかったです」


「実際、あの僕っ娘の動きは目で追うのがやっとだったし、無詠唱で試験官に魔法を使ってました」


「あの小っこいのか。確かに全員同じレベルなら納得するしかない、そうだろリーダー」


「何を言ってる、センは男だぞ。1級なのに観察力が足りん」


「「「「「「「え~~~」」」」」」」


「リリアナ、お前まで」



 僕たちは冒険者ギルトにすぐに着いた。途中、南区へと駆け足で向かう冒険者と思しき幾つかの集団を見かけたけれどスルーした。事後処理にも人手は必要だから。

 冒険者ギルド内は平時の数倍混雑していた。緊急招集は解除されたが、短時間でかなりの人数が集まっていた様だ。


「皆さん、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 受付の眼鏡の男性が、僕たちを見つけて声を掛けてきた。彼に勧められるまま奥の部屋へと進む。

 通された部屋にはカオルと職員が1人いた。

 職員は僕たちに会釈し、カオルは僕たちに駆け寄ってきた。


「みんな、おかえりなさい」


「ただいま、カオル。でも、どうしてここのいるの?」


「セン達が行った後に、ここにいた方が良いって言われたの」


 ギルドが保護してくれていたのだろうか?


「それでどうだった。見つかった?」


「うん、カオルのお手柄だよ」


「ほんとー、よかった。あのね、センに渡したいものがあるの」


 カオルが両手を口元に当てている。内緒話をしたいのだろうか?

 顔を近づけると、左の頬にキスされた。男の子からのキスは想定外だった。


「ありがとう?男の子からされたのは初めてだよ」


「ばっ、セン」


「センチー」


「セン」


センあるじ様」


「どうしたの、みんな?」


 カオルが突然大声で泣き出した。なぜか、みんなが哀れみの目を向けてくる。

 どうしてなのか分からない。カオルが泣いてる理由が分からず困っていると、麗美がカオルをあやし始めた。


「カオル許してくれ。センに悪気はないんだ。ほら、センも謝れ」


「ご、ごめんカオル」


「センチー、カオルは女の子」


 僕だけがカオルを男の子と思っていたみたいだ。間違われるのって嫌な気分だよね。

 何かないかと焦る僕は、『倉庫珠』から子猫の人形を取り出していた。


「本当にごめんねカオル。お詫びに僕が作ったこの人形を貰って。ほら、動くんだ」


 泣いてるカオルが目を向ける。どうやら彼女の興味を引くことは出来た様だ。


「それはお勧めできません。治安の良いこの街でも、価値の分かる者にとってはその子を害してでも手に入れたい物でしょう」


 様子を見ていた職員がその様に忠告してきた。そして、さらに付け加えてきた。


「賢者の作った動く宝石。果たして如何なる値がつくか想像出来ませんね」


「・・・そうだ!今度甘いお菓子をプレゼントするよ。忘れない様に指契りしよう」


「甘いお菓子?」


 頭を傾げるカオルと指切りをする。


「うん」


「良かったなカオル。センの作るお菓子は美味いぜ」


「僕もオススメ」


「良かったね、びっくりするわよ」


 何とかカオルに笑顔が戻ってホッと一安心。


「皆様にお伝えすることがあります。本日より皆様は二段となりました。冒険者として、チーム名を名乗ることが出来ます。『倉庫珠』と『属性石』がありますので、受付でお受け取り下さい」


「3級から二段かよ。えらく端折ったな。まっ、チーム名ならあるぜ」


「チーム名はセンチー」


「えー、センだよ」


「俺も麗美と同じだ。センだ」


「むー、仕方ない」


「我は大いに賛成ですが、名乗りにくいです」


「僕の名前じゃない、恥ずかしいから却下だよ」


「いーや、だめだ。チーム名はセンだ」


「うん、センだよ」


「センチー、多数決」


「ボクも素敵な名前だと思う」


「ほらな、カオルもこう言ってるし」


 このモヤモヤはどう解消すればいいのだろう。僕は溜息を漏らす事しか出来なかった。

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