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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第2章 フォルトナ編
30/38

16.小屋作り

 今日僕たちは、実戦演習場で魔法を使った小屋コテージ作りの優劣を競う事になった。

 作るのは僕とノブと麗美と美月だ。判定は、サトミとヨーコとサヤカの3人にシャクティが臨時で参加してきた。

 今日も勿論、実戦演習場の入り口付近では新入生の選考が行われているので、僕たちは奥の方へ来ている。


「自習って言ったのに、こんな所で遊ぶなんて」


「シャクティ先生、遊ぶなんて誤解です。僕たちは魔法の技量を磨く為に小屋を作るんです」


「魔法の技量を磨くのに、どうして3人も部外者がいるの」


「そりゃ、俺等の造った物を判定する奴が必要になるだろ?んで、暇してた3人に来て貰ったのさ」


「シャクティ、私達は王立魔法学院を自由に利用できるのよ。あなたに文句を言われる筋合いはないわよ」


「サヤカ、私はこの子達の担当なの。資格は十分にあるわよ。そうよね、セン」


「シャクティ先生の言う事も間違ってはいないのかな?」


「ほ~ら、先生って言ってくれるのよ。先生って」


 1人楽しげに笑うシャクティにサトミが魔法を行使する。


「あら、先生なんだから生徒の前で膝を着いちゃみっともないわよ」


「あなたねえ、子供みたいな真似止めなさいよ」


「そのまま返すわ。それで、ごめんなさいは?」


「サトミ様」


「もうヨーコったら、冗談よ。シャクティもこれ以上邪魔はしないでしょうし」


「サトミンったら、先生って呼んで欲しいの?」


「そんなわけないでしょ」


「ふ~ん、ほんと~に?」


「本当よ」


「セン、お姉さんも先生って呼んで頂戴。ね、お願い。1度だけで良いからお願い」


「サヤカ先生?」


 サヤカの中でセンの言葉がリピートされている。端から見れば、にやけた顔のサヤカが喜悦の声を漏らす様はかなり気味が悪い。


「サーヤは放置決定。それじゃ4人とも見せて頂戴。時間は20分よ、始め」


「そもそも何の為に小屋を建てるの」


「冒険者活動において野宿しない為だそうよ。それと、建てるんじゃなくて造るのよ。私みたいに公正な第3者が評価して競い合う事で、魔法の練習に一層熱が入るのよ。作り上げるだけの魔力もそうだけど、魔力のコントロールも養えて理に適ってるわ」


「判定基準はどうなってるのよ」


「制作時間・見栄え・快適さ・強度ね」


「見栄えは個人の趣味趣向が大きく影響するんじゃない?」


「評価なんてそんなものよ。所詮自分以外の誰かが決めた基準なんて気に入るか気に入らないかなのよ。4つの項目は各5点満点で評価。採点者は私にヨーコと貴女で、最高得点は各15点の合計60点になるわね」


「ちょっと、あの子達が造ってるの大き過ぎない?4人で使うんでしょ?」


「冒険者活動は6人でしてるみたいよ。それにある程度余裕があった方が良いって思ってるんでしょ」


「あの大きさよ、20分で造り上げるなんて・・・。あれは何なの?」


 シャクティが目にしたのは、小屋の外周を掃除するクリスタルの人形だった。


「魔法で造り出す人形だそうよ。与えられた命令をできる範囲で実行するわ」


「創り出したですって。あの大きさで魔生物なの?」


「違うわ、本当に人形なのよ。与えられた動きしか出来ないの。そして固いのよ・・・残念なくらい固いの」


「どうして貴女が落ち込むのよ」


 シャクティに無言で意見を求められたヨーコは目を閉じると頭を振った。

 小屋は現在内装が行われている様で、外から様子を伺う事は出来ない。


「ねえちょっと、また新しい魔法を創ったって事なの?」


「発想の違いね。既存魔法の組み合わせなのよ。センは考えていないけど、美月は確信して創ったのよ。あれは戦争の道具としてね」


「戦争の道具。・・・量産できるの?」


「可能よ。品質は制作者の技術に大きく依存いそんするわよ」


「貴女も造れるの?」


「とっても簡単よ。中級中まで修めれば誰でも造れるわよ。でも、品質には雲泥の差が生じる。術者の知識が影響するから、戦闘技術もあるあの子達が兵器として造れば脅威よ」


「現在王国にいる魔法騎士でも初級上~中級下が最高よね。彼等には造れないって事になるのね」


「そうなるわ」


 4者4様の小屋が完成しつつある。


「出来た!」


「私も完成しました」


「僕も完成」


 3人からやや遅れてノブが声を上げる。


「俺のも出来たぜ。会心の出来だ」


 4人とも20分以内に小屋作りを完了させて見せた。


「出来た順に評価していくわ。サーヤは・・・ダメね。ヨーコ・シャクティ始めるわよ」


「はっ」


「わかったわよ」


「4つの中でセンの小屋が一番小さいわね。外壁は石積みの模様で色分けも出来てるのね、窓もあるわね」


「入り口の高さは問題ありません。魔法を覚えて2週間ほどとは思えない上達と気配りですね」


 ヨーコの言葉を聞いたシャクティは自分の耳が信じられなかった。だから、当然聞き返さずには居られなかった。


「魔法を覚えて2週間?それって本当なの?」


「フォルトナに来てから始めたのよね。そうねー、16・17日くらいかしら?」


「何よ、その出鱈目な早さ。明らかにおかしいわ。はっ、そういえば昨日上級魔法が終わるって言ってたわ。あの子達、本当に覚えてしまったというの」


「確認は貴女の仕事でしょ。でも口にしたのなら、そうでしょうね」


「・・・」


 シャクティはショックで膝からくずおれた。そして子供の頃の記憶がよみがえる。


 (そういえば、私は魔法を使える事が当たり前で、他の人がどうして魔法を使えないのか不思議に思っていた頃があった。両親は当然魔法を使えず周りの人も使えない。自分が異常な生き物なのかと思った頃もあった。聡明な領主に見出され知識を増やし、王立魔法学院ここに来てサトミやサヤカと出会い、いつの間にか限界かべを感じる様になっていた。出来る様に努力が必要になった自分が、出来る存在を羨ましく思う様になってしまった。そう、かつての自分が今現在の彼等であり、自分は両親や周囲の人と同じになってしまっただけ)


「シャクティ、きちんと評価しごとしなさい。あの子達だってこうやって頑張ってるのよ」


「頑張ってるですって?すぐに覚えてしまう様な子達が?」


「あの子達の魔力保有量は確かに桁違いよ。でもね、貴女にも以前言ったと思うけど、魔法はイメージが大切なのよイメージが。無詠唱出来るんだからそれくらいは分かるでしょ。発想を変えれば、既存の魔法でも組み合わせ次第で新しい魔法を創れるって事が理解出来たでしょ。賢者である貴女が、あの子達の創意工夫がんばりを才能って言葉で貶めるの(実際の所、変なのが憑いてるからフェアじゃないのよね。絶対教えないけど)」


「・・・そうね。図書館で本を読んでいる時の集中力、遊んではいなかったわ。もしかして、冒険者の体験をする事で違う考え方が身に付くのかしら?」


「知らないわよ。研究棟に引き籠もってる貴女にとっては、外の世界で実体験する事は本で得た知識とは比べ物にならないでしょうよ」


「もしかして、卵料理を考えたのって」


「正解、あの子達よ。貴女が、あの子達と関わりを持っていなければ、知る事も考える事も出来なかった事よ。そう思わない」


「私も冒険者の副業でも・・・」


「そんな事よりも、まずはきちんと評価して。まだ1つ目よ」


「そんな事って私にとっては・・・。確かに公私混同ね、評価するわ」


 僕の造った物は、平屋の1階地下1階のログハウス風だ。丸太風に内・外装を施しキッチンもある。寝室を8部屋。バス・トイレ付きだ。

 麗美の造った物は、2階建ての一軒家だ。総大理石造り風でお風呂が豪華だった。部屋は6室だけど1部屋が広く造られていてゆったりくつろげる空間となっている。ソファーやクローゼットなども作られていて見事だ。

 美月は巨大なテントだ。とはいえ、中に2階建てのログハウスがありロフトもついている。

 ノブは真っ黒なくろがねのドームだ。見た目ほど中は広くないが、変形し移動まで出来る。人形に使う玉4つを動力源にしているそうだ。空は飛べないが、水中なら行けるはずと自信満々に語るノブ。



       制作時間・見栄え・快適さ・強度  合計


 サトミ    5    4   4   3  16

 コメント  地下室が良かった

 ヨーコ    5    4   4   3  16

 コメント  猫の人形が可愛かった

 シャクティ  5    3   4   3  15

 コメント  4つの中で華がなかった

 センの評価  15   11  12  9  47 


 サトミ    4    5   4   3  16

 コメント  内装が素晴らしかった

 ヨーコ    4    5   5   3  17

 コメント  細かな意匠に家具の配置が良い

 シャクティ  4    4   4   3  15

 コメント  華美だった

 麗美の評価  12   14  13  9  48


 サトミ    3    4   4   4  15

 コメント  使うのに問題なし

 ヨーコ    3    3   5   4  15

 コメント  美月らしく見た目よりも使用目的優先

 シャクティ  3    4   5   4  16

 コメント  シンプルで良い

 美月の評価  9    11  14  12 46


 サトミ    2    3   5   5  15

 コメント  移動出来る点が便利ね

 ヨーコ    2    3   5   5  15

 コメント  小屋ではない

 シャクティ  2    4   5   5  16

 コメント  奇抜な発想と実現する能力がすごい

 ノブの評価  6    10  15  15 46


 3人の評価で麗美が1番となった。しかし、影の勝利者はノブだった。


「セーン、私が勝ったからご褒美頂戴」


「勝ったらご褒美って、そんなの聞いてないわよ。どういう事よ」


「そうだぜ、麗美。姫さんが困惑してるだろ。妄想は止めろとあれほど」


「ヴィトラシャ山での夜。僕が勝つ未来だった」


「ん?ああ、そんなこともあったかな。でもな、美月。お前の勝つ未来ってのも、そうとうやばいな」


「私決めてたんだ。センと一緒に自転車に乗るの。ね、いいよね?」


「まあそれくらなら」


「貴方達、あの自転車って乗り物必要なのかしら?もうこれで移動すれば良くない?」


「姫さん何言ってんだ、要るに決まってるじゃねえか。自転車って小回りが利くんだぜ。コイツの移動は遊び心なんだよ」


「よく分からないわ。まぁいいわ。序でだから魔法の上級試験をしましょう。言われたら魔法を発動すること、分かった」


「もしかして、シャクティ先生が判定してくれるんですか?」


「そうよ」


「セン、私にも先生をつける事。今決定したから呼んで」


「美月パス」


「センチー、サトミは友達だから僕無理」


「姫先生よろしくな」


「王女じゃない、あれ王女様だけど、うーん・・・サトミ先生」


「呼ばれ方ひとつで、こうもくすぐったくなるものなのね」


 ノブと麗美に先生と呼ばれた事で満足できたサトミだった。


「貴女が魔法を決めて指名しなさい」


「分かってるわよ。それより人形の造り方教えてもらってないわよ」


「知りたければ聞けば済む事でしょ。せ・ん・せ・い」


「やっぱり貴女って嫌いよ」


 僕たちはシャクティの命じる魔法を発動していった。上級下から上級上まで10種類の魔法を要求されたけれど、何とか間違わずに終わる事が出来た。


「うんうん、順調ね。賢者も文句ないようね。ほら、早く渡しなさいよ」


「持って来てないわよ。元から明日渡すつもりなんだから」


「ふ~ん。見えてるソレは何かしら?」


 ハッとした顔をしたシャクティは慌てて白衣の両ポケットに手を突っ込む。そんな彼女を見てサトミがクスクスと声を潜めて笑う。

 シャクティはブラフだと気付いたがもう遅い。仕方なくその手に掴んだ黒の腕章をポケットから取り出した。いつもの彼女ならこの様な凡ミスは決して犯しはしない。この3日間で起きた出来事が、彼女に隙を生じさせたのだ。


「上級習得に関しては問題ないわ。貴方達に渡す意味はない様な気がするけれど、黒の腕章これを渡しておくわ。どうせ特級もすぐに覚えちゃうんでしょうから。それと、私にその人形の造り方を教えてくれないかしら?」


 シャクティは、僕に黒の腕章を手渡しながら人形造りを聞いてきた。

 造り方を知ってしまえば、賢者の彼女が人形を造り上げるのは簡単だった。彼女は「これで研究が捗るわ」と言葉を残し嬉々として何処かへ行ってしまった。

 サトミとヨーコと正気に戻されたサヤカは帰って行った。

 僕たちは、図書館で特級魔法の本を読みながらイメージトレーニングを行った。学生寮でリズ達と昼食を摂った後、実戦演習場で魔法の実践ふくしゅうを行った。


 今日はのんびり歩いて帰っている。


「むー、昨日の犯人が見つからない」


「本当。注意してたけど、怪しい人物は見つけられなかったよ」


「何だよ、美月も麗美も探してたのか?俺だけじゃなかったのかよ」


「3人が探っても見つけられないなら昨日の事は偶然だったのかもね」


「それはないな」

「違う」

「絶対わざとだよ、分かるの」


「そうなんだ。・・・ヴァシルとレフスキは今日は何をしてたの?」


「我はモズ殿と、会話に稽古にと充実した時間を過ごしました」


「おぉ、ござるが抜けたな。会話効果が出てきてるな」


「ふふん、ノブ殿あまり褒めるでないでござる。はっ!」


「やっぱ、おっちょこちょいなんだな。褒めたのに残念な奴」


「ぐぬぬ、不覚」


「でも良い傾向だよ。モズさんとも話が合ってる様で安心だよ」


「話の内容知りたい」


「それは、乙女の秘密でござ・・・です」


「ほう、ガールズトークやってたのか。ってことは、モズの好きな奴の話も聞いてたりするのか?」


「我とモズ殿の秘密なれば話せませぬ」


「ヴァシルちゃんもレフスキちゃんも女の子らしくなってきたわね」


 僕たちは、他愛ない会話をしながら帰路に就いた。

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