15.自習
僕たちは巨大図書館オモイカネで上級魔法の書を読んでイメージトレーニングの最中だ。そこへシャクティがやってきた。
彼女が、魔法士の基本を教えてくれるそうだ。
「まず、魔法には初級・中級・上級・特級がある。これはもう知ってるわよね。でもさらに超級と呼ばれる魔法があるの」
「へえー、超級ってのもあるのか。でもそんな本見た事無いぜ」
「シャクティ先生、超級が書かれた本は何処にあるんですか」
「・・・先生。何この感覚、想像よりいい響きね」
「超級の本どこ?教えて」
「はい、あなたもう一度」
シャクティが僕を指名した。
「シャクティ先生、超級が書かれた本が何処にあるか教えて下さい」
「先生。先生。なかなかいいわね」
「あの、シャクティ先生。シャクティ先生」
「はっ!んんんっ。超級は個人しか使えないオリジナル魔法なのよ。だから本にも残ってないの。勿論、威力や効果範囲は上級を遙かに凌ぐ魔法よ」
「ふーん、俺等のやる事に変わりは無いって事か。今日中には上級クリアだな。早くセンの期待に応えてオリジナルを作ってやるぜ」
「僕は超級魔法の本にちょっと期待しちゃった」
「センチー、僕が作るから」
「私が一番に作るもん。楽しみにしててね、セン」
(何を言ってるの、この連中。この子供へ必死にアピールし合って。まあ、先生と呼んでくれたのはこの子だけだけど。それに、今日中に上級を修めるつもり?想定外に規格外過ぎるわよ。)
「魔法の話はここまで。本題の魔法士の話よ。先ずは魔法士の階級を説明するわね」
シャクティは、ボードを取り出すと僕達に説明しながら書きすすめていく。
「基本的に魔法を扱える者を魔法士と呼ぶわ。魔法士の階級は下から呪い師・魔法使い・魔術師・魔法師・魔導師・賢者・大魔導となっているの。大魔導とは超級を修めた者でアヴァール王国史上数名しかいないわ。この事実から超級魔法が如何に大変な物か分かると思うわ。貴方達の後見人が300年ぶりの大魔導よ。生ける伝説ね(さすがに昨日の事で大魔導だって素直に認めるしかないって思ったわ。力の差が開きすぎてるもの)」
「サトミってやっぱり魔法の使い手なんだね」
「そうみたいだな。さすがは姫さんだ」
「サトミは凄い。僕と麗美を止めた」
「うん、でも今度はミニ美で試したい」
「麗美止めとけ。俺等の恩人なんだぜ。暴力で報いてどうする」
「じゃあ、ノブ君で試し撃ちしたい」
「ばっか、性能の上がったお前の武器と俺の武器じゃ俺が消えてしまうじゃねえか」
「やってみないと分からないよ」
「分かるっつーの。麗美が暴走し始めてる様だ。セン何とか言ってくれ」
「麗美、武器を人に向けるのは良くないよ。それとシャクティ先生の話を聞こう。すみません先生。続きをお願いします」
(この子だったら幼いから今のうちに教育すれば良い子に育ちそうね。大魔導の弟子を私の子飼いに出来るかも知れない。”でもね、センに手を出すと本当に消されるかも知れないから注意してね”ってサヤカが言ってたわね。危ない危ない、好奇心も過ぎれば身を滅ぼすわ)
「話の続きね。呪い師は初級・序を使える者の称号よ。次が魔法使い。初級下~初級中が使える者に与えられる称号。魔術師は初級上~中級下を使える者の称号。魔法師は中級中~中級上を使える者の称号。ここまで来ると大したものね。そして魔導師は上級下~上級中に無詠唱が出来る者の称号。貴重な人材として国から支援して貰えたりするわ。それだけ数が少ないってことね。今いる学生は2人だけね。そして賢者よ。上級上~特級を使える者の称号。2年前まで最高の証だったわ。そう、伝説となっていた大魔導にあの娘が就くまでは。現在この国には4人しかいないわ」
「へえー、4人の内の1人って。シャクティって実は凄い人だったのか」
「シャクティ偉い娘」
「シャクティ先生から学べるのは名誉な事だね」
「サヤカさんも同じなんだよね。以外な感じだね、セン」
「ん?確かにサヤカとシャクティ先生が同じって変な感じがするかな」
「なあ、魔法士って騎士みたいに国家に縛られる事ってないのか?」
「・・・」
シャクティがノブの質問に答えない。
「シャクティ先生、どうなんですか?」
「魔法士は騎士より貴重だから基本的に制限が緩いわよ」
「何で俺には答えないんだよ」
「生徒には生徒の礼儀があるはずよ」
「えーと・・・先生?」
「よく言えたわね、忘れない様に」
シャクティがノブを諭す。
「魔法を教わる必要ないしな。本読むだけだしよ」
「ノブはツンデレ」
「美月、意味も知らないで使うなよ。欠片も要素ないから。あんたも警戒してんじゃねえよ、興味ねえから」
美月の発言になぜかシャクティが自分の体を抱きすくめていた。
「ノブ君には運命の人が出来たからね。浮気はダメだと思うよ」
「麗美、妄想と現実を混同したら痛いんだ。よーく見て見ろ、ミニ美って若干お前より細いよな」
「セン、ノブ君が酷い事言うよー」
「貴方達、魔法以外に国の法律や制度の勉強もあるのよ」
「俺等そんなの興味ねえよ。冒険者活動で一般常識は覚えるし、政治とかに関わる気はさらさら無い」
「必要ない」
「シャクティ先生、僕たちはここで魔法を覚えたら冒険者活動に専念したいんです」
「・・・好きになさい」
シャクティは大きな溜息を吐くと、額に手を当て目を閉じてしまった。
シャクティの説明を纏めるとこんな感じだ。
称号及びクラス 必須技能 腕章の色
呪い師 初級・序 黄
魔法使い 初級下~初級中 黄
魔術師 初級上~中級下 黄と緑
魔法師 中級中~中級上 緑
魔導師 上級下~上級中 無詠唱が出来る 白
賢者 上級上~特級 白と黒
大魔導 超級
現在、学院内に白い腕章の生徒が2名だけいる事が分かった。見かけたら挨拶でもしてみよう。
シャクティが去り、僕たちはイメージトレーニングを続行した。因みに白の腕章を持ってきていたシャクティだが、ノブの発言で特級間近かもと思い直したようで、明後日腕章を渡される事になっている。
鐘が鳴りお昼を告げる。学生寮へと昼食を摂りに行く事にした。
学生寮の食堂は室内とオープンテラスと好きな方で食べる事が出来る様になっている。なかなかの混み具合で賑やかと言うより騒がしい。昨日の入学式で学院長が、今年は倍以上って語っていたからキャパシティオーバーしたのかも。
食事は好きな物を自分で器に取って食べるスタイルだ。10数品が並ぶ行列にトレイを持って並ぶと、騒がしいのにヒソヒソと囁かれているのが分かる。話題はどうやら僕たちに関する事の様だ。
「有名人になったな。これで不用意に近づく奴はいないだろ」
「ノブの嫁が手を振って呼んでる」
「本当だ。ノブ君応えてあげないと。ほら、手を振り返して」
「手招きじゃねえし、違うとこ行くか」
「嫁はさておき、席を確保してもらってるみたいだし行こうよ」
オープンテラスの1画でリズを含め5人の少女達が円卓で手を振っている。僕たちは、人にぶつかったりして食べ物を落とさない様に注意しながら、人混みを抜けようやくリズ達と合流した。
当然ノブはリズの横に座る事となった。リズはノブの左腕に右腕を絡め確保している。
最初リズ達は、1人ずつ離れて座っていてその間に座る様に促されたんだけど、ノブも美月も麗美も4人で纏めて座ると主張したので、現在は美月・僕・麗美・ノブ・リズ達の順で座る事になった。
本来なら仲良く間に座る場面なのに、僕にある変な力の所為で3人には迷惑を掛けてしまった。
「食事するんだから腕を組むな。お互い食べ難いだろ」
「えー、だってすぐにどっかいっちゃいそうだし」
「食事に来て食べられないっておかしいだろ?」
「じゃあ、食べさせてあげる」
リズが左手でフォークを持ち、イモを突き刺そうとするがなかなか刺さらない。
「ほら放せ。ベタだが、自己紹介でもするか。俺はノブだ」
「初めまして、私は麗美です」
「みんなよろしく。僕はセン、歴とした男だからね」
リズ達が驚きの声を上げた。そこまで驚く事じゃないと思うんだけど。リズ以外も、勘違いしていたみたいだから話せて良かった。
全員が名前を名乗り終え、名前と面識を得た状態となった。これでマジホの使用条件はクリアだ。何かあれば連絡できる人間が増えた。
初めこそ緊張していたリズを除く彼女達も、すぐに年相応のおしゃべりになった。
みんな入学式の3日前には学生寮に入っていたそうだ。お互い部屋が近いので顔見知りとなり連む様になったそうで、5人ともフォルトナ以外の出身で出身地はバラバラだ。
彼女達も僕たちと一緒で世界樹の大きさに驚いたそうだ。ただ、王樹と比べてって発言があったので、思い出していたら、麗美が詳しく教えてくれたので思い出せた。
フォルトナについては、僕たちの方が詳しい様だ。リズはノブにフォルトナ案内に託けたデートを熱心にお願いしていた。遠巻きに好奇の視線を多数感じつつも何事も起こらなかった。
食事と情報交換の時間はあっという間に過ぎていった。
僕たちは実戦演習場の奥へと来ている。
「さーて、食後の準備運動も終わったし魔法の実践をしようぜ」
「ここを走り回るのって以外と良い訓練になるね」
「センチーも息切れしなくなった」
「本当だ。毎日みんなと稽古してるお陰かな」
「やーん、センが私のお陰だなんて恥ずかしい」
「みんなだろ、手柄を独り占めみたいに解釈するな。麗美の妄想癖が悪化してんな」
「センチー、魔法を組み合わせてみた。見てて」
「うん」
美月が土の塊で3メートルほどの人形を作った。そして岩を圧縮して玉を作った。
「美月に人形遊びの趣味があったのか」
「何となくノブに似て無くもないね」
「あの人形、ノブ君だと思うよ」
「嫌な予感しかしねえ」
美月は魔素吸収の魔法を発動しながら、作り出した玉に自分の魔力を込めている様にみえる。大量の魔力を帯びた玉が美月の掌の上でフワリと浮き上がった。そして、その玉を人形に埋め込む美月。しかし土の人形に変化は見られない。
「何だ、失敗したのか?」
ノブが美月に問いかける。
「起動」
美月が言葉を発した途端、土人形が金属の人形へと変わり、敬礼をした。
「すごいよ美月」
「ああ、ゴーレムって奴なのか?こりゃ」
「ああん、美月にオリジナル作られたー」
「違う、みんなも出来る」
美月に説明され実戦してみる事になった。
「よし、これで良いか」
「上手だね、バニーガール?」
「おう、自信作だぜ。センは子猫か」
「うん、三ツ星が可愛かったから」
「私も出来たよ」
「麗美、センがどん引きだぞ」
麗美が作ったのは等身大の僕だった。なぜか海パン一丁。
「僕に頂戴」
「だめよ、美月も作れば良いじゃない」
「作れない」
「もうー、仕方ないな」
麗美が自分の作った人形をコピーして2体目を作った。制作者はコピーが可能なのだ。
美月と麗美が手を握り合っている。
「それって壊しちゃってもいいかな」
「センチーでも却下」
「壊すならノブ君のにして」
「ふざけるな、俺のバニーはやらせねえ」
「リズにちくる」
「そうだよ、リズちゃんが可哀相」
「好きにしろ、付き合ってもいねえのに俺が不利になるか」
「はぁー・・・続きをしよう」
「小石だと壊れちまうな。ある程度の塊じゃないと無理か」
「昨日の場所でなら良い物が作れそうだね」
「どうしてだ?」
「地面自体が魔力で固く変化しちゃってるから、良い玉が作れるかもって思ったんだ」
「面白そうだな。いこうぜ、セン」
人形を置いて、昨日試合をした場所に来た。
地面はキラキラと硬質化した物質で覆われていた。
「これって、魔力が宿ってるな。マガラニカのは麗美単体。こっちは麗美と美月。これ放置してたら魔物が湧いてきたりしてな」
「そうか、マガラニカは魔素の塊が上にあるから湧いてくるのかな?でも実戦演習場は他に魔素が貯まっている場所がないから大丈夫なんじゃない?逆に魔法で消費されてるから」
「ああ、魔法使いまくってるな」
「出来た」
「宝石が出来たみたい」
「お前等大人しいと思ったら・・・玉から魔力の波動を感じるぞ」
「うん、最初の玉よりも魔力量が桁違いだね」
「俺等もさっさと作っちまおうぜ」
僕たちは土人形の場所まで戻ってきた。しかし、僕の形をした人形2体は何者かに破壊されていた。
美月の落胆ぶりは酷かった。麗美もノブも憤慨したけれど、僕は安堵の息を吐いていた。
しかし、麗美が造った物なのですぐに複製体が2体出来上がった。僕のぬか喜びは何だったのか。
そして、犯人は美月達に見つかった時、果たして無事でいられるのか。
「コイツをセットして待つんだな」
「本当だ、人形に浸透していく魔力を感じるよ」
どうやら、人形の大きさと玉の質で魔力の浸透具合に差が出る様だ。最初の美月が造った物より遙かに早く起動できそうだ。
「僕のはもう動くかな。動いて」
土で出来た子猫の人形だったものが、クリスタルの体を動かして甘えてくる。触れれば、ひんやりとしていて固いのに滑らかな動き。魔生物と違って、玉に魔力と同時に動作を組み込むので玉の魔力が切れれば動かなくなる。魔生物は魔鉱石という魔力の塊を自動で取り込み活動するし、こちらの意志に沿って可能であれば動いてくれる。
今はあまり良い使用方法がなさそうだ。
「なぜだ、こんなに動くのに固いって。見た目も動く彫像じゃねえか」
「動くクリスタルのバニーガールってちょっと怖いね」
「言うなセン。封印だ」
ノブは玉を取り出すと、土人形に戻ったバニーガールを土へと戻した。
「セネルギーの補充が出来ない」
「ごめんねセン。やっぱり紛い物は紛い物でしかなかったよー」
美月と麗美がセネルギー頂戴と言ってくっついてきた。
「所で、2人ともどうして人形を土へ戻さないの?」
「サトミに売る」
「サヤカさんにプレゼント」
「そ、そうなんだ」
帰りは飛んで帰ろう。
称号の所が、ずれて表示されます




