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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第2章 フォルトナ編
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11.王女の帰還

 僕とノブは、美月と麗美が朝のお仕事に行っている間、実戦稽古をしていた。


「セン、自転車が出来たら巨人を見に行こうぜ」


「この前話してたね。無理に行かなくても冒険者ギルドの仕事で外門を通る事になるんじゃない?」


「何だよー、興味ねえのか?巨人なんだぞ巨人」


「分かったよ。仕事のついでにね」


「まあそれでいいや」


 ぐ~~~~~~

 お腹が鳴ったので朝食の時間だ。僕たちは稽古を終了し食堂へと向かった。

 みんなで食事を摂りつつ、情報交換だ。自転車が出来上がるのは3日後なので、冒険者ギルドの依頼を受けるのはその後になる。なので、今日も昨日みたいに過ごそうかと話していたらシュウサクから思わぬ言葉が飛び出した。


「セン様・ノブ様・麗美様・美月様は本日が入学日でございますね。誠におめでとうございます」


「今日が入学式?そうなの?」


「はい。毎年9月2日が入学式となっております。学院からも腕章が送られてきておりますよ」


 誰も気付かなかった。確かに守衛のモズから入学前に腕章が送られてくるとは聞いていたが、昨日会った時もそんな話はなかった。ヴァシルとレフスキに視線を移すと2人が頭を抱えていた。思うに、2人はモズから話を聞いていて、僕たちに伝えるのを忘れていたって感じだ。


「我等が主人も必ず出席すると言付かっております。昼前には帰還為される手筈となっております。皆様とご同行なされるものと思われます」


「あー、もう1週間経つのか。以外と早かったな」


「ヨーコと稽古」


「シュウサクさん、入学式って何時からなの?」


「午後からとなっております」


「セン、お昼までどうする?魔法で小屋コテージ作りの練習でもする?」


「サトミとヨーコはもうこっちに向かってる。一緒に行くから此処で待ってて欲しいって」


 どうやら美月は、マジホでサトミと連絡を取っていた様だ。さて、麗美の提案通りに魔法の練習をするのもありだ。けれど、小屋作りは実戦演習場の方が向いている。入学式と行っても特に準備する事も無いし、午前中は実戦稽古にしておこう。



 僕たちが中庭で実戦稽古をしていると、急に影に覆われた。見上げてみれば、巨大スズメとあの箱が降下してくる。突風が巻き起こる中を、急いで影から離れ壁際へと避けた。箱を地面に下ろした巨大スズメが着地してきた。

 使用人達が一斉に中庭へ並び始める。程なくして箱の扉が開き、中からサトミ達が出てきた。使用人達が一斉に「おかえりなさいませ」と声を揃える。

 サトミは笑顔で1人1人に声を掛けながらお城の中へと入って行った。今から少し早めの昼食をとるとの事なので僕たちも中に入る事にした。


 食堂にはサトミを中心に左にヨーコ、右にサヤカ・ワーズワースがいた。僕たちは挨拶を済ますと、ヨーコの側に並んで座った。


「セン、1週間ぶりね。セネルギーを補充させて」


 サトミは魔法で僕を引き寄せる。が、昔の僕じゃ無い。浮遊魔法が掛けられた瞬間に、魔法をキャンセルした。サトミが驚きの表情を一瞬だけ見せたけれど、すぐに同じ事をしてくる。


「驚いたわ、魔法が上達してるわね。でも抵抗しちゃダメでしょ、セン」


「セネルギーとかそんなものないから」


「えー?美月が教えてくれたのよ?センをギュッってしたり、撫でたりすると気力が充実するって。そうよね美月」


 こくりと頷く美月。なぜか麗美とノブまで頷いている。もしかして、売られたのかな僕?

 そんな考えが頭の片隅に生じた隙に、サトミの魔法で引き寄せられてしまった。


「まだまだ、甘いわね。魔法を使う時は集中を切らしちゃだめよ」


 そんな事を言いながら、僕をお姫様抱っこして頬擦りしてくるサトミ。顔や耳が火照って熱い。止めての声が出せない。体の自由が利かず動けない、サトミの魔法だろう。


「サトミ様、自重して下さい」


「えいっ!」


 顔を赤くしたヨーコがサトミを諫める。ヨーコが怒ってくれるだけで幾分救われる気持ちになる。

 すると、ゴツッと横からサトミの頭に拳骨が振り下ろされた。そして――――


ったーい!」


 右手を押さえて涙目のサヤカが叫んだ。


「ふふっ。お邪魔虫には罰が当たるのよ」


「計ったわね、サトミン」


「サーヤが自爆しただけじゃない。それより早く準備して行けば?」


 絶好の機会と思ったのに逃げられなかった。どうやら今の僕では、魔法においてサトミには遠く及ばない事が痛感できた。


「一緒に行くに決まってるでしょう」


「あら、何処へ?」


「王立学院じゃない」


「そう、やっぱり1人で行ってらっしゃい。残念だけど、私達が向かうのは王立魔法学院だから」


 サトミは、サヤカに向かってニコニコ顔で左手の指を動かしている。当のサヤカは本当にショックだったのだろう、絶句していた。暫くして、ショックから立ち直ったサヤカは、サトミに捲し立てた。


「王族のあなたが出席しないってどういうことよ。却下よ却下。サトミンは私と行くの」


「私はこの子達の後見人として出席するのよ。王立学院あっちは他に沢山いるから私である必要は無いでしょ。分かったらさっさと帰って準備した方が良いわよ」


「・・・。・・・。・・・。話がついたから、私もサトミンと一緒に行くわ」


 サトミは一瞬目をつぶり「そう」とだけ答えた。そしてポンッと隣のヨーコへ投げ渡される僕。未だに体の自由が利かない。


「はい、ヨーコも補充して良いわよ」


「わた・私は別に・・・」


 サトミの無茶振りに対して俯き答えるヨーコと目が合い、僕を抱き抱えるヨーコの手に力がこもる。

 お互いの顔が赤くなっているのが分かってしまう。彼女の目が落ち着き無く動いている。そして――――僕はポーンと投げ出された。

 空中を漂う事1秒にも満たない間に、僕はサヤカにキャッチされた。


「確かに可愛いけれど、そんなにこの子がいいの?私には理解出来ないわ・・・。・・・。あら?」


 透き通る様な碧い両目で、じーっと僕の瞳を覗き込んでいたサヤカが、不意に僕の頬をペロリと舐めた。

 きゃーーーっ。声にならない叫び。


「美味しい」


「美味しくないよ」


 思わず突っ込み返していた。どうやらサトミの魔法が切れた様だ。しかし、恍惚とした表情を浮かべるサヤカを目にした僕の背筋に怖気が走る。誰か助けてー!!

 何だか天井が近くなっている。って、サヤカの背中から純白の翼が!


「何処に行こうってんだ。俺達の目の前でセンを攫おうってのか。舐めた真似しやがって・・・本当に舐めやがって!」


「センチーを舐めた。僕もしてないのに」


「私のセンに勝手に何してんの。許せない」


 ノブ・美月・麗美が僕を抱いて宙に浮かぶサヤカを囲んでいた。みんなの声に多いに安堵し少々不安を感じる僕だった。


「はーい、そこまでよ。全くヨーコが放り投げたりするから」


「申し訳ありません」


 いや、原因はサトミだよと言いたかったけれど、またまた動きを封じられてしまった。それは僕以外も同様であった様だ。

 サヤカは有無を言わさずサトミに気絶させられた。おそらく排出の魔法だろう。


「それにしても、サーヤじゃなければ殺していたかも。それ程の衝動だったわ」


「私も殺すまでは行きませんが、かなりの衝動でした」


「やっぱりヨーコも。・・・みんな30秒補充よ」


 そういうと、サトミが僕に抱きついた。美月が僕の頭を撫でてきた。麗美は僕の手を使って自分の頭を撫でている。ヨーコが僕の手を握っている。ノブは僕の足に触れている。アレ?僕以外は動けるの?それから僕は何とも長い30秒を堪え忍んだ。

 サヤカはヨーコに活を入れられ目を覚ました。そしてサトミを指差し宣言した。


「あの子は私が貰うわ。サトミンには危険すぎるもの。だから私が領地に匿って2人で一緒に暮らして、そうね子供は2・3人欲しいわね。それと」


「サーヤ、私が止めなかったらあなた死んでたわよ。言葉は状況を選んで使わないとダメよ。まさかあなたがセンの虜になるとは思わなかったけど」


 サトミは溜息を一つ吐くと、呆れた様にかぶりを振ってサヤカに言い含める様に話した。


「私が虜になるだなんて、そんな事あるわけ」


「サーヤはちょっと黙ってて。これは重大な事よ。美月・麗美・ノブ。貴方達はセンに無闇に近づく者を排除しなさい。会話はいいけれど、抱きついたりする輩は容赦しなくて良いわよ」


「うん。僕が守る」


「私も抱きつかせたりさせない」


「姫さんに言われるまでもない。俺に任せとけ」


「我も頑張りますれば」


「貴女達って学院には入れないでしょ」


 サトミの容赦ない言葉にヴァシルとレフスキが意気消沈してしまった。


「迂闊だったわ。泣き顔さえ見なければ良いと思っていたけど、接触しているだけで魅了してしまうなんて」


「泣き顔?」


「あら、貴方達知らなかった?センの泣き顔を見ると守ってあげたくなっちゃうのよ」


「それって普通だろ?何言ってんだ姫さん」


「サトミ変」


「ねー。泣いてたら普通だよ」


「え・・・私がおかしいのかしら?」


「いえ、サトミ様は正常です。多分センと長い間いる所為です」


「そうよね。私を迷わせるなんて恐ろしい子達。いえ、センの魅力ちからの所為ね。そういうわけだから、センは人前で泣くのも禁止よ」


 へえー、僕にそんな力があるのか。でも人前でそうそう泣くつもりはないし、抱きつかれるなんてそれこそ論外だよ。

 ぐ~~~~~~

 気疲れからか、お昼なのか凄くお腹が減ってしまった。


「ふふ、センのお腹が鳴ってるわね。食事にしましょう」


 使用人達が卓に料理を並べて着席していく。みんなで食事をするのがサトミのおうちでのマナーだ。

 サヤカが時折僕を見ては、はぁーと溜息を漏らしている。


 僕たちは、上級魔法を覚え始めた事とヴィトラシャ山での出来事をサトミに話して聞かせた。

 サトミ曰く、弾弾蔓はヴィトラシャ山の噴火時に溶岩や溶岩弾をくい止める益獣なのだそうだ。一度興味を持って戦ったそうだが、多対一では分が悪く引き返したそうだ。元より倒すつもりはなかったそうだけど。

 サトミは自転車に興味を持った様で七靴堂にある試作車を貰うつもりでいるみたいだ。

 拠点あちらでは勝手に街の名前がつき始めているらしい。ヴァシレフの栽培は湖以外ではうまくいっていない様だ。マガラニカ大洞窟は大人気で拠点の活性化に役立っているそうだ。

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