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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第2章 フォルトナ編
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10.自転車を作ろう(5)

 僕たちはいつもより早く目を覚ました。ドームを岩や小石に戻すと飛行魔法で一気にフォルトナまで飛んで戻った。麗美と美月は、樹珠拾いに参加する為に世界樹へと向かい途中で別れる事となった。


 僕とノブとヴァシルとレフスキにハギの5人で七靴堂の扉を潜る。今日のベルは紫だった。通路を抜けてカウンターへと向かう。


「ハギが大役を終えて、只今、無事に帰還いたしました。収穫は大大大成功。私以外なら、つい持ち逃げしたくなるほどの超超希少品(SSR)がたんまりです。正に眼福です、一番目には特別に触らせてあげましょう」


「おはようございます。早朝から押しかけてすみません」


 カウンターにヒョコピョコと小人達が一斉に現れた。小人達の目がキラキラと輝いている者とギラギラとしている者とに別れている。


「ほれほれ、早よう現物を出さんか」


「うちが一番最初だよ。何処にあるの、ねえ何処なの」


「お前等なら無事に戻ってくると思っていたぞ」


「良かったー、無事だったんだね。あら、なぜだかハギの顔色がすこぶる良く見えるのは気のせいかしら?」


「おいおい、本当に3種集めて来れたのか?」


「見せて見せて、どんな物なの?」


「えーい、騒がしい。全くはしゃぎおって、少し落ち着かんか」


 カウンター上は一気に騒がしくなってしまったが、ホトケの一喝で落ち着きを取り戻した。

 姿を現したホトケをノブが素早く両手で掴むと逃げられない様に力を込める。


「な、何じゃ一体」


「それはこっちの台詞だ。返答次第じゃ、タダじゃおかねえ」


「!?何を言っとるんじゃ?」


「ホトケよー、弾弾蔓の正体を知ってたな?」


「正体?そんなもん植物じゃろ」


「いやいや、ありゃとんでもねえ化け物だったぜ」


「それこそ初耳じゃ。ヴィトラシャ山には怪物が沢山いるとは聞いておるが、炎纏の核玉の取れる場所から上にしか出んと聞いとるぞ」


「・・・ホトケ、ヴィトラシャ山に登った事あるか?」


「何で儂があんな場所とこに行く必要があるんじゃ。そんな暇なぞ無いわ」


「・・・そうか、悪かったな。所でよ、ヴィトラシャ山に夜登るってのは常識なのか?」


「当たり前じゃ、冒険者なら知っておる事じゃろ。たしか冒険者ギルドの最初に教育されるはずじゃ。そもそもヴィトラシャ山は神聖な山なのじゃ。一般の立ち入りは禁止されとるしな」


 うわ~、そんな話初耳だよ。さすがのノブも驚いてるみたいだ、あれはちょっと怒ってるかも。


「なるほど、俺の勘違いだった。本当に済まなかった、許して欲しい」


 ノブはホトケを丁寧にカウンターに下ろすと謝罪した。


「話が見えんが許す。ハギよ、何があった」


「えーと、昼間に弾弾蔓と戦いました。とーっても巨大な化け物蔓でした。なので、美月様が先っちょを切り取ってみんなで逃げました。とっても恐ろしかったです」


「ほほぅ、弾弾蔓とはそんなに恐ろしい化け物だったのか」


「はい、ただし夜間は行動しないものと思われます」


「なるほどのう」


「今回は、弾弾蔓の正体や夜光の繭殻の正体を知る事が出来て、私にとって一生物の貴重な体験となりました。強くてお優しい美月様とお知り合いになれました。あっ、特にセンの頭の上は至福の刻が得られます」


「なんじゃとー、あの娘っこよりも至福じゃとー」


「全くけしからん、どれ儂も一度」


「何を言う取る、儂が先じゃ」


「ちょっと何があったのハギ。詳しく教えなさいよ」


「おーい、落ち着けーお前等ー」


 ノブの制止もあまり効果が無い。ホトケを含む数人の小人達が僕に群がり始める。ヴァシルとレフスキが、僕に触れようとする小人を指で弾いていく。

 このままでは埒が開かないので、僕とノブはカウンターに探索の成果である3種を置いた。


「おおおお、何とも綺麗な夜光の繭殻じゃ。夜でも無いのにこの光沢。しかも肌触りと強靱な張り。まさしく超超希少品(SSR)じゃ。しかもこれほど大量なぞ、にわかには信じられん」


「こっちの弾弾蔓も超超希少品(SSR)だぞ。大きさのみならず張りも艶も初めて見る物だぞ。生きの良い物から獲っただけはあるのー。まさに眼福じゃ」


「馬鹿を抜かすな、炎纏の核玉が目の前に6個もあるんだぞ。こんなことがあっていいのか。儂は夢でも見とるのか」


「うーむ、シュウさんがとっておきと言っていたのはお世辞ではなかったと言う事か。それに期待の超新星は名前負けどころかその名を超えておるわ」


 小人達が3種の素材を色々吟味している。徒弟達は師匠達の興奮に当てられてもはや夢心地状態だ。

 何となく目線を移すと、カウンターの奥の棚に小っちゃな自転車の模型がある事に気が付いた。僕たちの設計図にはスタンドは描いてないので、小人達が自分達で考えて付けたものだろう。


「あの棚にあるのは自転車の模型かな。もしかして試作車も出来てるんですか?」


「出来てはおるが、ダメじゃな。あんなもの不安定で乗り物にはならん」


「お、出来てるのか。いいから乗らせてくれよ、あれはな慣れコツがいるんだよ」


「忠告はしたからな、転んで怪我しても知らんぞ」


「図面通りに出来てるなら、心配無用だ」


 未だに3種の素材で盛り上がっている小人達を余所に、僕たちはホトケが用意した試作車に注目した。試しに持ち上げてみると、スッと簡単に持ち上げる事が出来てとっても軽い。後輪を浮かしてペダルを回してみると、スムーズに勢いよく回る。ブレーキも現状は問題なく利いている。リムとか細かい所の作業は大変だったんじゃないだろうか。スポークやチェーンもピカピカだ。

 僕たちは木材と金属で出来た試作車を裏通りで試乗する事にした。最初はノブが試乗することにした。距離は100メートルほどだ。

 ノブがサドルの高さを調整し試作車に跨がった。試作車は僕に適した大きさなのでノブには小さいのだ。それでも発車・旋回・停車と問題なく戻ってきた。乗り心地も悪くないようだ。


「なんと、お前はなぜけぬ?儂等は誰1人そのように進めなかったっと言うに」とホトケが呟く。


「あの模型の事か?ありゃ、サイズがダメだからだ。大方、俺等のミニチュアを作ったんだろうが、お前等自分達の足の長さを考えたのか?」


 ガーーーンと擬音が聞こえてきそうなほどのショックを口を開けたままのホトケが浮かべていた。なるほどね、そりゃ乗れないよね。


「しょしょ、しょのような訳があるまい。儂等が設計ミスなどするもの・・・」


「だよなー、わりわりい」


 明らかに動揺して顔を赤くしているホトケをノブが気遣っている。うーん、凡ミスを犯す彼等を信じても良いのだろうか、ちょっと不安になる。


 僕はノブから試作車を受け取ると、サドルを調整した。いよいよ試乗だ。

 試作車に跨がり片足をペダルに掛ける。座り心地は悪くない。ペダルに掛けた足に力を入れて踏み込み、残った足で地面を軽く蹴る。試作車は石畳の上を軽やかに進む。想像以上にペダルが軽くて風を切り進む試作車は乗り心地が良い。あっという間に折り返し地点についてしまう。旋回もスムーズに行える。ブレーキも制動が急すぎる事も無く特に問題を感じない。折りたたみもかなりコンパクトで、車輪の着脱が簡単で素晴らしい出来だ。はっきり言って、試作車これで十分に満足のいく出来である。


「乗りやすいよ、しかも軽くてブレーキや衝撃吸収面でも特に問題ないね。山道とか走ってみないと正確には分からないけれど」


「だろ、俺もこれで十分だな」


「我も試しても?」


 ヴァシルとレフスキは3度も転んだ。3回しか転ばなかったの方が正しいのかな。すぐに乗れる様になった彼女達の笑顔はとても輝いていた。対照的にホトケの顔がものすごーく顰めっ面になっていた。

 そこへ、麗美と美月がやってきた。僕たちはホトケに断ってから試作車を持ち帰らせて貰うことにした。ホトケとしても、試乗の感想は多い方が良いと言う事だったので快く了承してくれた。



 お城に帰り着いてから、まずはみんなで朝食を摂った。シュウサクに、今日の予定を伝えてから実戦稽古を行った。サトミのお城の使用人達は、皆強いので稽古相手には困らない。さすがに、ヨーコには劣るけれど強者つわもの揃いだ。


 

 僕たちは王立魔法学院にある巨大図書館オモイカネへとやってきた。途中、美月と麗美に試作車に試乗してもらいかなり好評だった。尚、ヴァシルとレフスキは中には入れないので守衛と交流中である。

 学院内を移動中、かなりの生徒を見かける様になった。おそらく開校が近いので、帰省者が寮へ戻ってきている所為だろう。

 生徒を見分ける方法は、腕章だけで学生服はない。腕章は4種類あり修めた魔法のランクを表す物だ。初級・中級・上級・特級の4種類で、特級は数十年に1人と言われるほどだからまず見かけない。一番多いのは黄色の腕章を着けた初級、次いで緑色の腕章を着けた中級だ。

 僕たちは、入学許可は受けているけれど正式な生徒では無いので腕章は無い。ただし、寮などの学院内施設を使う事は許されている。

 午前中は、巨大図書館オモイカネで上級魔法の習得作業だ。習得と言っても詠唱の暗記からイメージを膨らませて自己流に簡略化して再構築する作業だ。

 詠唱というのは、使用者に使用する魔法のイメージを固定させる為のものだ。だから、詠唱を間違って覚えていても使用者が強くイメージ出来ていれば問題なく現象が起きる。逆に詠唱に拘ってミスを気にしていたら出来る事も出来なくなってしまう。と、ノブと麗美と美月とサトミまでが教えてくれた。だから、恥ずかしい台詞を唱えなくて魔法を使える様に必死にイメージトレーニング中なのだ。

 

「はあ~、俺がこんなに本を読む日が来るなんて誰が想像出来たんだ。俺自身が思ってんだから、センもそう思うだろ。でよ、そろそろ4人で分担しないか?」


「え?違和感ないけど。それで、分担ってどういうこと?」


「得意分野とか決めねーか」


「ノブが覚えたいと思った魔法だけで良いよ。それにノブならオリジナル魔法だって作れそうだし」


「そうか?センが期待してくれるならオリジナルくらい作れねえとな。そうなると、俺の考えた魔法が既知の魔法だったら恥ずかしいし、取り敢えず全部読破するしかねえな」


「本末転倒。僕が作る」


「私がセンの為に作るよ」


 美月の突っ込みもノブには聞こえておらず、魔法を理解する事に集中している。ノブの集中力には感心させられる。

 僕の方は、今日はやけに視線が気になり余り集中出来てなかったりする。腕章も着けていない4人が、図書館で上級魔法の本を読んでいるのは、確かに変わった光景だと思う。見られて当然かもと思い直しイメージトレーニングを再開した。

 僕たちは、学生寮で昼食を摂ってから実戦演習場へと移動した。図書館でのイメトレをここで実際に魔法として使用する事で身に着ける為だ。


「おーおー、いるいる。かなり人が増えてるな」


「奥の方に移動するしかなさそうだね」


「真面目に魔法の練習をしている者と僕達を観察している者がいる」


「腕章着けてないから目立っちゃうのは仕方ないよ。さっさと移動しようか」


 僕たちは前方の林の中へと全速力で駆けた。さらに林の中を縦横に走り続ける。

 暫くすると、地面が凸凹した開けた場所に出た。実戦演習場はかなり広い場所なので、このように開けた場所が点在している。


「どうやら、着いて来れた奴はいないみたいだな」


「ノブ君が途中で霧を発生させたからじゃない?」


「他人を覗く者は罰を受けて当然」


「美月も麗美も魔法で何か仕掛けてたよね。仲間になるかもしれないし、クラスメイトになる事もあるかもだし、怪我させる様な魔法はだめだよ?」


「問題なし。手加減」


「大丈夫だろ」


「センが心配するようなことはしてないから」


 僕たちは上級魔法を発動させていく。

 魔法封じって魔法が有ったけれど、舌が痺れて喋れなくするという魔法だった。詠唱をするタイプには効果がありそうだ。

 最後に攻撃魔法と防護魔法を互いに試した。さすがに上級攻撃魔法の威力は桁違いだった。防護魔法のおかげでかすり傷一つ無かったけれど。人が集まってきたのでさっさと退散した。



 僕たちは七靴堂へとやってきた。試作車の返還と感想を教える為だ。

 中に入ると、小人達が小さな自転車に乗ってはしゃぎ回っていた。


「あ、美月様いらっしゃい。どうでしたか、試作車の方は?」


「良かった。問題無い」


 ハギは美月を見つけると両手を伸ばして万歳をする。そんなハギを美月が自分の頭の上にのせた。他の小人達、特にホトケの動揺っぷりは楽しかった。


「おっほん。どうじゃった、試作車は?」


「2人も問題ないって。山道とかも走ったけれど問題はなかったです」


「この自転車なる乗り物は楽しいのう。最高じゃわい」


「しかし、頭領の指摘でここまで素晴らしい乗り物に変わるとは思わなんだ。さすがは頭領」


 急に咳き込むホトケを僕とノブとヴァシルとレフスキはスルーした。威厳が大事な時もあるだろうし。


「俺等も自分達で試乗したが良い品が出来ると確信した。4日後にまた来てくれ。最高の品を仕上げてみせるぞ」


「ああ、期待してるぜ」


「はい、お願いします」


 僕と美月におねだりする小人をヴァシルとレフスキとハギが防衛した。ハギの立場的に良いのだろうか?と思えなくも無かったけれど、七靴堂を後にした。

 4日後が楽しみだ。

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