9.自転車を作ろう(4)
昼休憩から待つ事数時間、ようやく暗闇が支配する時間となった。僕たちは、初級魔法・上の闇魔法である『闇視』を発動して炎纏の核玉を探し歩いている。
しかし、周辺は霧に覆われていて頗る視界が悪い。巨大な岩がゴロゴロ転がっているかと思えば、小石で出来た地面に足を取られたりとかなり歩き難い。
「麗美殿、止まるでござる。その先は熱水が噴き出す場所でござる」
「わっ、ありがとう。ヴァシル達の能力って、とっても素晴らしい」
ヴァシルとレフスキは、温度の高い場所が分かるようで、今回はとても有り難い。彼女達も役に立てる事がとても嬉しそうだ。
「もしもし、ハギさんよー。夜が何だって。明らかに昼よりも危険じゃねえか」
「そう聞いたんだもん、ハギ悪くないです」
「そうだったな。ま、鑑定は出来るんだしな。それで、炎纏の核玉って具体的にどんな見た目なんだ」
「炎纏の核玉ですか。あ、丁度あんな大きさの石であんな風に周りが燃えている様な・・・って、アレですよ。見つけましたよ、美月様」
「うん、ハギ偉い」
ハギは美月から頭を撫でて貰っている。
ノブとハギのやり取りから、呆気なく発見する事が出来た炎纏の核玉。それはピンポン球くらいの乳白色の玉で、その周りを赤と橙の揺らめきが包み込んでいる。燃えているのでは無く、本当に炎を纏っているかの様だ。
「セン様、アレは熱くは無いようでござる。いやはや面白き物でござる」
「よっし、これで全部揃ったな」
ノブが炎纏の核玉を拾い上げる。全く熱く無いみたいで安心した。
取り敢えず、物は確保できたけれど危険で無くなった訳では無いので警戒は怠らないようにしよう。相変わらず霧が濃いので視界が悪い状況である。
ふと足下に目をやると、うっすらと灯りが漏れている。小石を払い除けてみれば、炎纏の核玉が埋もれていた。直に触れ持っても熱くも何ともない。2個目も簡単に手に入れた。
「おお、流石は我のセン様。お見事でござる」
「やったな、セン。これで2個も手に入ったな。・・・そういえば、コレって何個必要なんだ?」
ノブが当然の疑問を口にした。3種集めるは聞いたけれど、個数は確認していなかった。
必要数の確認を怠っていた事にこの場で気付いてしまった。否、ポジティブに考えればいいのだ。この場所で手に入るのだから・・・うん、依頼者が同行しているし聞けば済む事だ。
「ハギ、コレは何個必要になるのかな?」
「そんなの分かりません、私は集めて来いとしか言われてませんから。超超希少品(SSR)を3種も手に入れるだけでも大変な偉業ですよ」
半分予想通りの答えがハギから返ってきた。後半はホトケ達の無茶振りに苦笑しか出てこない。こちらから依頼した事なので、ある意味仕方がない事ではあるのだけれど。
「1台1個として、残り4個探してみようか。ただ、周囲への警戒は怠らないようにしてね」
「そうだな、その辺に埋まってるかもな」
「うん、賛成」
「わかった」
「我も微力を尽くしますぞ」
僕たちは、再び周囲を探す事にした。燃えている訳では無いので熱感知で発見できない事にヴァシルとレフスキが悔しがっている。彼女達の能力は素晴らしいので、十分に役立ってくれている。当人がどう感じてどう考えるかは、周りがフォローする事である程度コントロールできる。だから、素直に思っている事を彼女達に伝えると奮起してしてくれた。
その後も2時間ほど探し続けた。
「ふー、掘っても周りが崩れてきて効率が悪かったが、結果はあったな」
「うん、6個達成出来たね。体も濡れちゃってるし乾かそう」
服だけで無く、髪もぐっしょり濡れていて、額や首筋に水滴が垂れてくる。因みにハギは、美月の胸ポケットに入って暖を取っている。
僕たちは『改装具』でチェンジすれば問題ないけれど、ヴァシルとレフスキはそうもいかないので、周りの石や岩を使って魔法でドームを造り上げた。その中で服を乾かす事にした。濡れたままで飛ぶのは体に無理がある。
よく考えれば、ヴァシルとレフスキが双頭の蛇の姿に戻れば何の問題も無かったんだけれど、最近ずっと人型だったので失念していた。
「俺、この土魔法で作るの楽しくなってきたぜ」
「うん、一から作るのも面白いね」
「だろ。でさ、4人で作りっこしようぜ。判定はシュウサクとかにして貰えば良いしよ。訓練にもなって丁度いいだろ」
「制限時間内に、指定された物を造る。造形速度・見栄え・使用感・強度で判定」
「それでいいぜ。でもよ、美月の言う使用感って事は家でも造るつもりなのか?」
「当然。冒険にはテントより小屋が良い」
「言い切っちゃう所が美月だね」
火の児と風の児を使って服を乾かしながら魔法を競い合う話をしていると、麗美が一人でニヤニヤしている。それにノブも気付いたようで話を麗美に振った。
「麗美、今度はどんな妄想してるんだ」
「もー、ノブ君酷いよ。妄想なんてしてないよ。私が1番になってセンから貰うご褒美を考えてたの」
「人、それを妄想という」
「それって僕にメリットないけど」
「安心しろ、セン。俺が1番になるからよ」
「センチー、僕が1番だよ。何をお願いしようかな」
「ええ?僕も1番を目指すからね」
「あぁ口惜しや、我に魔法の才無き事が」
濡れた髪もだいぶ乾いてきた。今晩は此処に留まり、朝一で下山する事にした。
簡単な食事を済ませると、弾弾蔓みたいな攻撃の通じない相手への対策を検討した。
「今回みたいに攻撃が通りにくい敵と遭遇した時の為にどういった対策が出来るかな」
「美月と麗美の力押しで何とかなってたからな。俺等も反省すべき点だな」
「打開策はある」
「本当、早く教えてよ美月。一体どんなの」
「属性。つまり魔法と属性石を使う」
「そういや、まだ冒険者ギルドから何を貰うか決めていなかったな」
「えーと、『義風』みたいな戦闘スタイルにしようって事でいいのかな?」
「そう。アレ達の戦いみたいに」
美月にとってアルトリウスは、アルから完全にアレになってしまった。
「つーと、ヴァシルとレフスキが物理攻撃で俺達が魔法で敵の弱点を探るって感じか?」
「普通に攻撃でいい。効果が弱い時は、僕とセンチーで敵の弱点を探る」
「どうして美月とセンなの。私とセンで良いじゃない」
「あーはいはい。通常攻撃が基本だな。で、攻撃が通りにくい相手に遭遇したら二人が弱点属性を探るって感じだな。二人が誰になるかは、状況に応じてって感じか」
「僕とセンチー」
「むー、私とセンなの」
「聞けよ、人の話」
「うん、それで良いんじゃない」
「我に活躍の場が。何という幸せ」
「肉盾って呼ばれる、重要で立派な任務だ。期待してるぜ」
「セン様は元より皆様の期待に添えるよう粉骨」
「長くなりそうだからいいわ。でよ、俺等は魔法だけで良いのか?」
敵との戦闘は、基本は武器攻撃に魔法。属性石の件は失念していたけれど、以外と有効に使えそうだ。
「どういうこと?」
「万能武器に属性魔法を纏わせられないかとか、騎士見習いで技の習得とかよ」
「騎士養成所に入るって事?」
「まあな。紹介状もあるしよ」
「騎士は国家に縛られるってサトミが言ってた」
「ヨーコから教えて貰った方が良くない?」
「でもよ、ヨーコは姫さんの警護で忙しいじゃねえか。それによ、騎士は騎獣獲得の授業があるんだってよ」
「ノブの目的はそっちだね。でも、自転車作るし。それに餌や世話や場所もね」
「分不相応。まずは強くなる」
「へいへい、確かに強くならねーと」
「でも、万能武器に属性魔法を纏わせるってのは練習してみよう。属性石と魔法の効果を検証するのは良さそうだし。万能武器に魔法が掛かるなら、属性石はヴァシルとレフスキに持たせた方が良いと思うし」
「うん、それで良い」
「ああ、いいぜ」
「なんとも我は果報者でござる」
万能武器に魔法の付与。うまくいけば良いけれど、と思っていたら――――属性は付けられません――――ハギが断言した。
「万能武器に魔法の属性を付与する事は出来ません。そもそも万能武器には、数種類の付与がされているのです。そこへ更に別の属性を付与する事は不可能です、武器が壊れる可能性だってあります」
「ハギちゃん、どうして断言できるの?」
「私は徒弟とはいえ立派な職人ですよ。一通りの修行は済ませています。そこらの職人に劣らぬ自信は十全にあります。というか、へっぽこは七靴堂には入れません」
ハギがえっへんと胸を張って自信満々に答えている。
「じゃあ、属性石も万能武器には使えないって事?」
「当然です。そもそも万能武器は相手に応じて形態を変化させる武器です。セン達の武器には、身体能力強化の付与が施されているので無理です。属性魔法を掛けたり属性石を嵌めるには、新しく作り直さないと無理です。流通している物は全て身体能力強化が付与されている物ばかりです。これは、魔力がある者に使用制限がある所為で、結果として魔法が使える者=身体能力強化が好まれてきた背景があるからです」
「おお、お前ってこんなに喋る奴だったのか。色々と残念な奴だと思っていたけど、実力を隠すタイプだったのか」
「残念って何ですか、残念って。コレまでの私の活躍を・・・。・・・はぁ、残念でした」
ハギのテンションが急上昇し急降下し落ち込んだ。今は美月に慰められている所だ。
万能武器は確かに新しい物をと考えていたけれど、なるほど、一から作る事も視野に入れるべきなのかも。
当面は実力をつける事と資金調達をしつつ情報収集になるのかな。情報収集に関しては、大図書館以上の効果は現状なさそうだけれど、冒険者の活動で”ゴメス”の様な新しい情報が入るのを期待するとしよう。
「結局、危険な怪物とやらには会わずに済んだな」
「良き事でござる」
「やったー、ござるが引いたー。バーババーバ」
「くっ、見習いめ」
僕たちはババ抜きをして眠くなるまで暇を潰した。




