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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第2章 フォルトナ編
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8.自転車を作ろう(3)

 何だろう。

 キラキラ輝いていてとても綺麗なのにとても恐ろしい。

 生き物が大地が海が空までが、キラキラしたものに触れた途端に消えていく。

 そうやって1つの世界を消しては、別の世界を求めてソレは渡り歩く。

 抵抗してもしなくても、多勢に無勢で挑んでも全く意味をなさない。

 結果は、等しく消し去られるのみ。

 悪意も敵意も感じないソレは笑いも怒りもしない。

 タダ純粋に恐ろしいものだと理解できる。


 

 セン、セン、起きて。セン。

 誰かが僕を呼んでいる。

 目覚めると泣きそうな顔の麗美が目の前にいた。周りにはノブも美月もヴァシルとレフスキも。


「え?どうしたの?もしかして相当寝てた?」

「いや、なんかうなされてたみたいだからよ」

「センチーすごく苦しそうだった」

センあるじ様がなかなか目覚めぬ故、麗美殿が起こされた次第」

「セン本当に大丈夫?一旦戻る?」

「大丈夫。心配かけたみたいで御免。何か夢を見てた気はするんだけど・・・内容が思い出せない」

「私もとっても心配しました」


 美月の頭にハギがいた。うーん、思い出せないものはいっか。

 僕は心配顔のみんなに再度大丈夫とアピールして朝食を摂った。



 キャンプ地を元に戻して歩く事暫し。山なのに全く寒くない。

 森を抜けた先に現れたのは、一面葛や蔦や蔓に覆われている緑や赤や茶や黄のカラフルな景色。

 はて、弾弾蔓ダムダムヅルって見つけるのは簡単じゃなかったのかな?


「最っ高だぜ。やってくれるなホトケ等あいつら。念のために聞くが、どれだか分かるかハギ」


「んーー、無理。・・・あっ、アレかも」


 ノブの問いに一旦諦めたハギだったが、一点を見つめて指さす。その先に目を向けると――――他のものより一回り大きな蔓?があった。

 僕たちは取り敢えずソレを目指して移動する事にした。

 木は見当たらないけれど、1メートル弱の高さまで繁茂した植物たちを掻き分けながら歩を進める。

 途中、ヴァシルとレフスキが肩車を申し出てきたけれど遠慮した。見た目は立派な女性である彼女達に肩車して貰うのは、とっても恥ずかしいし情けない。

 しかも、ノブ・麗美・美月まで参加してきたので却下した。

 

「しかし、これは歩きづらいものですな。皆様、絡まって躓かれぬようご注意を」


「わー、3回も転んでる人の言葉は重みがあるなー」


「ハギちゃん、そんな棒読みじゃかわいそうだよ」


「ぐぬぅ。歩きもせぬ見習いが」


「センチー、気付いてる?」


「え?どうかしたの?」


「鳥や虫が鳴いてねぇ。てか、いねえなこりゃ」


 ノブの言った事が正解だったらしく美月が成長したと珍しく褒めている。僕は先へ進む事だけで、そこまで気が回らなかった。また油断してしまっていたようだ。


「こんなに青々茂っているのに、餌に出来ない理由・・・毒草?」


「視界が悪い。一気に焼き払う?」


「火事になっても困るし、何より僕たちの都合だけで燃やすもの。飛ぼう」


センあるじ様、我は如何すれば」


「ヴァシルとレフスキは僕の手に掴まって」


「センの隣は私なの」


「センチーの隣は僕」


「ちょ待てお前等、次は俺の番だろ」


 ヘンタイ、ノブ君キモイと美月と麗美がノブを容赦なくディスる。ヴァシルとレフスキはどうして良いか分からず僕を見つめてくる。そんな迷子の子犬の様な目で見つめられても困る。


「ノブ・麗美・美月は不測の事態に備えて個別で警戒しながら飛行して。僕は2人を引っ張るから頼んだよ」


 僕は自分に飛行魔法を発動して、ヴァシルとレフスキの手を掴み2人に浮遊の魔法を発動する。

 重力を無視してフワリと浮かんだ事に驚く2人を引き連れて、空へと浮かび上がる。

 先程までいた場所を眼下に収め目指すは一回り大きな蔓のはずだった。



 地表で歩いている時は全く分からなかったけれど、上空からならはっきり分かる。

 地面が、否、蔓で覆われた濃緑地の一部が動いている。しかも、目指していた蔓よりも遙かに大きい。

 毒々しいほどの黒に近い濃い緑色の動く蔓。


「おいおい、何なんだあの大きさでかさ。なあセン。あいつ襲ってくると思うか?」


「鳥や虫がいないこの状況を考慮すれば、襲ってくる可能性もあるかも知れないね」


「だよなー。手に入れるのは難しいだったか。退治しなくても奴の一部を貰えば良さげだが・・・ありゃ、強いぞ」


「下から複数。注意」


 美月の注意喚起に従って高度を上げると、蔓がシュッと複数、僕たちが居た場所へ向かって飛び出してきた。

 蔓は地表から10メートルは延びてきた。高度を上げてなければ、巻き付かれるか叩き落とされていた事だろう。

 蔓は何も摘めぬまま落ちるのかと思えば、そのままでは終わらずに無数の棘を放ってきた。

 

「小癪な、そのようなもの当たるか」


 ヴァシルが向かってきた棘を剣で切り裂く――――中から鮮やかな赤い液体が飛び散ると、一気に気化してピンクの靄となり――――ヴァシルはガーと大鼾をかいて眠ってしまった。

 地面に落ちた棘も液体を気化させてピンクの靄を作り出している。

 僕の側まで飛んできた麗美が、ヴァシルに平手打ちショックを数回与えて起こしてくれた。

 ヴァシルの白い頬が赤くなっているが、本人は感謝してる事だし、まぁいいか。


 被害を受ける前に倒そう、先制攻撃を受けたんだから遠慮はいらないか。


「美月は蔓を何本は切り取って。ノブはみんなに盾をお願い。僕が魔法で刈り払うから、麗美は魔砲で中心を吹き飛ばして、山を貫通しないように注意して」


 (止めよ)

 え?(殺してはならぬ)

 どうしてダメなの?(少しは考えろ)


「待ってみんな。攻撃中止」


「分かった」「どうした?」「何かあったの、セン」


「頭の中に声が響いてきて、殺しちゃダメだって。理由は考えろって」


殺さやらなきゃ良いんだろ、適当に2・3本切り取って登ろうぜ」


「センチー、確保してから考える」


「・・・うん、そうだね。攻撃されたんだから、切り取るくらいは良いよね」


 

 美月が動く蔓に向かって特攻する。

 蔓も美月に気付いた様で襲い掛かる。

 美月は蔓の攻撃をひらりと避け様に魔力剣を振るう――――バリバリバリ――――蔓と魔力剣の間に轟音が轟く。 蔓はピンピンしていて、美月が渋面を作っていた。魔力の刃が刃こぼれしている。


「な・・・」


 ノブが驚きの声を上げる。僕は予想外の出来事に声も出ない。

 美月を襲う蔓へ向かって麗美が魔力散弾を放つ。蔓には傷一つ付かないが、牽制の効果はあった。


「セン、まず殺す以前に勝てるか俺等?」


「あー。逃げる事は出来そうだよ」


 蔓が飛ばす棘を避けながら、ノブと感想を交わしていると、美月が戻ってきた。


「あの蔓固い。植物の弱点突く」


「おー弱点か。それって何処なんだよ?」


「思考中」


「草は燃やせば良いでござろう」


「普通に生えてる奴が燃えるだけだろ。噴火するような所にいるんだ、熱にだって耐性くらいあるだろ」


 僕たちが話している間も、蔓は棘を飛ばしてピンクの靄を広げている。


「思いついた事を試してみよう」


 僕は動く蔓を標的に定めると火球を作り出して放つ。はたして、効果はなかった。

 事もあろうに、火球を打ち返してきた。

 回避する際、レフスキのお尻を掠めたようで熱いでござると叫んでいた。


「火は危険でござる」


「まー予想通りというか、打ち返すとか。爆発するだろ、普通」


「被害は無し」


 我の尻がと言うレフスキを無視して次を考える。


「ハギちゃんは、弱点とか知らない?」


「この山を登るのは夜の間と決まっています」


「それって弱点じゃねえだろ」


「夜間?・・・植物・・・闇・・・光合成?」


 それか!とノブが美月の言葉に閃いたらしく、魔法を展開する。

 ノブの使った魔法は、初級魔法・中の闇魔法である『黒傘』だ。

 効果は、直径20メートルをドーム状の薄い闇で覆うというものだ。強烈な日差しを遮る以外は、使い道がなそうだった。

 

 しかし、『黒傘』で覆われた蔓の動きが途端に鈍くなった。

 チャンスと見た美月が再び作り直した魔力剣で特攻する。

 ドォンドォンドォンと爆発音がして3つに斬られた蔓が転がる。

 だが、美月の魔力剣も刃こぼれしていた。この蔓、恐るべし。

 切り落とされた蔓は、暫く弱々しく動いたが、色が黒から灰色に変わった所で活動を停止した。


「わぁ、コレですコレ。コレが弾弾蔓ダムダムヅルです。間違いありません。こんなに大きいのは初めて見ます」


 ハギが早く手に入れろと急かしてくるので、回収する。

 『倉庫珠』に収めて飛び立つと、さっきまで居た場所は棘の集中砲火を浴びていた。



 僕たちは、動く蔓を飛び越え黒と灰の景色が広がる地へと降り立った。

 白い蒸気や黒い煙が上がる場所や、熱水が吹き出る間欠泉があったり、微かに甘い香りが漂っている。

 やっぱり飛行魔法は疲れる。

 ぐ~~~~~~~

 昼食を兼ねた休憩を取る事にした。

 疲れた体に”樹珠の恵み”が心地よい。やばい、どんどん癖になる味だ。


「なあ、ハギ。他に隠してるじゃない、言い忘れてる事とか無いか。特に炎纏の核玉エンマのコアに関する事で」


「はむ。ふぁいでふよ」


「ハギ、行儀悪い」


「御免なさい、美月様」


 ノブの質問に干し芋を囓りながらハギが答える。そしてそれを窘める美月に、しおらしい態度を取るハギ。

 美月とハギの関係が強固になっている。しかし、食べ物を口いっぱいに頬張るハギは、ハムスターやリスといった小動物に動きや仕草が似ていて微笑ましい。


「セン、声が聞こえたって言ってたよね。どんな声だったの?」


「うーん、聞き覚えがある様な無い様な」


「そうだ、あの蔓の化け物を殺すなだったよな。曇りでも勝てるかどうか。夜じゃなきゃ無理だな、アイツは。しかも何体もいやがるし」


 麗美の問いに答えているとノブも会話に入ってきた。


「うん、あの防御力は吃驚ビックリ。ただ、声のニュアンスだと大切だから殺しちゃダメって感じだったんだ」


「あの蔓が大切ねえ。何か役割でもあるって事か。まあ、物は手に入ったし気にするな」


「うん、そうする。所でこれからどうしよか。今から一通り探してみる?それとも暗くなってから探す?」


「見習いの言を信じるならば、夜でござろう」

 

「なあ、温泉作らないか」とノブが誘ってきたが、今回は止めておく事にした。

 敵が何処から襲ってくるか分からない上に、こちらの攻撃が通じない相手がいる事が判明したので、そうそう油断は出来ない。


 僕たちは、暗くなるまでその場で過ごす事にした。

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