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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第2章 フォルトナ編
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7.自転車を作ろう(2)

 完全に日が沈んだのか、木々の隙間から見上げる空には星々が煌めき彩るとばりに覆われている。

 いつもなら夕食の時間だけれど、今は干し肉を囓りながら森の中を探索中だ。

 3種の材料の1種である夜光の繭殻ヤコウのマユは完全に日が沈んだ夜の数時間のみ光る繭だそうだ。

 暗闇なら何時でも光るわけでなく、夜の数時間限定だそうだ。

 

「ねえハギ、光る繭はどんな色で光るのかな?」


「色々です。とっても綺麗です」


 麗美の頭に乗ったハギが僕の質問に答えてくれた。ハギも麗美から貰った干し肉を囓っていたりする。


「ハギ、もう一つ質問しても良いかな?」


「センに閉ざす言葉は持っていまふぇん」


「そう、ありがとう。繭は木の枝葉とかにあるのかな?それとも根の方かな?」


「この森で採取出来る事以外は知らないです。でも、現物を見れば分かりますよ」


 この森にいる虫は僕たちの常識にある大きさだ。今のところ特に襲ってきたりもしない。危険な種は、これまでに廃されている可能性が高いと考えるべきか。生えている下草は疎らで丈も短い。


「こういう事前情報は少ない方がいいじゃねえか。わくわくするぜ」


「今夜見つけられなかったら、明日シュウサクさんにでも聞いてみる?」


 確かにノブの言う通りで、知らない物を見つけるのはワクワクする。麗美の案は保険としておこう。

 そこで僕たちは光虫の灯りを消して、初級魔法・上の闇魔法である『闇視ヤミル』を発動した。

 この魔法は暗闇の中で真価を発揮し、強い光を受けても盲目にならず僅かな光も見逃さない優れものだ。

 ヴァシルとレフスキは暗闇でも見えるので問題ない。

 ハギは突然の暗闇に戸惑ったみたいだけれど麗美の頭に乗っているのだから問題ない。見えないと愚痴を漏らしているが我慢してもらう。


「セン達って凄い。魔法を詠唱無しで使える人を見るのは初めて」


「当然である、我のセンあるじ様とそのお仲間であるのだ。それを、事もあろうに頭の上に乗るなどと、見習いが恐れ多いのだ。ああ、なんと妬ましい」


 心の声がダダ漏れなヴァシルとレフスキに対し、これは依頼者の特権よと言って明後日の方向へ胸を反らすハギ。

 別に依頼者だから同行させているわけじゃなく、案内役兼鑑定役なんだけれども突っ込むのは止めておく。

 森のあちこちを観察しながら歩いているけれど、なかなか目的物は見つからない。

 不意にヴァシルとレフスキがハギに問いかける。


「ところで見習いよ、ここへ来るのは何度目なのだ」


「初めてよ」


「「「「「!?」」」」」


 空耳かと思ったけれど、みんなの顔を見るに聞き間違いではないようだ。


「おい、お前は案内出来るっていったよな。初めてってなんだそりゃ」


「落ちつこう。えっと、ハギはどうしてここが目的の場所だってわかるのかな?」


「だって頭領が教えてくれたの。ヴィトラシャ山には森があって下の方から順に材料が手に入るって。夜光の繭殻のある場所は特に危険はないけれど夜限定で見つけるのが難しい。弾弾蔓は見つける事は簡単だけれど手に入れるのは難しい。炎纏の核玉は危険な怪物が潜んでいて見つける事も難しいって」


「大雑把。でも見つけて手に入れる」


「ハギは材料の見分けが出来るんだから十分だよ」


 美月がノブの背中を叩いて気合いを注入している。麗美は頭の上のハギを撫でている、器用だ。

 しかし、すぐに問題発生。


「おしっこしたい。我慢の限界」とハギが叫ぶ。


 確かに休憩らしい休憩を取っていなかった。夜限定という情報に焦り、探す事を優先しすぎていた。

 急遽光虫の灯りを4箇所に設置して、小休憩を取る事にした。


「ひゃっ、助けてー助け」


 助けを求めるハギの声が急速に遠ざかっていく。闇視の魔法を使い必死に目をこらす。

 

「くそっ。どこだハギー。返事しろー」


「ハギちゃんどこー」


 美月がマジホでみんなに呼びかけてきた。どうやらハギを攫った相手を追跡しているようだ。

 僕たちは美月の声に従って追いかける。

 星明かりが僅かに差し込む夜の木々の合間を早足で駆け抜ける。



 目の前にはかなり大きな木のうろがあり、どうやら地中へと続いている。

 美月が先行しているので躊躇わず中へと進む。


「両方見つけた。ハギを確保する」

「え」



 ハギを巣と思われる場所へ運んだ生き物に気付かれないよう、美月が中級魔法・上の闇魔法である『闇隠オン』を発動する。

『闇視』の効果に加え、周囲が暗ければ暗いほど術者の存在は認識されなくなる魔法だ。たとえ、くしゃみをしたとしても気付かれる事はない。

 幸いハギを攫った生き物は、木の陰に居る為にこの魔法は打って付けだ。星明かりを避け影の濃い部分を選んで接近する。

 キュイキュイと泣き声が聞こえる、どうやら子供が居るようだ。

 ハギは気絶しているようだ。リスとコウモリを合わせたような生き物は、ハギを巣の壁際に寝かしつけている。子供の方は親の帰還をよっぽど待ちわびていたのか泣き続けている。

 親はごそごそ前足で背中を触っていたかと思えば、ドングリを数個出した。どうやらこの生き物は、背中に袋でも持っているようだ。

 親はドングリの殻を囓り割ると、中身を子供に与える。子供はハムスターに小っちゃな羽がチョコッと付いた愛らしい生き物だった。

 美月の嗜好に適うモノだったが、ハギの方がより美月の嗜好に適っているのでハギをそっと両手で包むと巣から離れた。

 異変に気付いた親が辺りをキュッキューと声を出し警戒するも、美月に気付く事もハギを見つける事も出来はしなかった。

 美月は、ハギに外傷がない事を確認すると「良かった」と呟き、やさしく頬をつついて声を掛ける。

 その時、美月は巣の足下にある植物が、仄かに光始めた事に気が付いた。

 膨らんでいたつぼみの一つが唐突に弾けて光が天へと昇っていった。

 そして、仲間達がこの場に近づいているのを感じ取っていた。 



 僕たちは湿気のある洞窟内を疾走する。時折、頭上にある木の根と思われるものにぶつかりてと声を出すノブとヴァシルとレフスキ。

 天井が大きく崩落した広場に佇む美月をようやく発見した。

 美月の手の中では、ハギが号泣していた。幸いハギは怪我もしていないようで何よりだ。

 まあ、彼女にとって今日は厄日なのかも知れないと思った。

 美月の見つめる視線の先には、ハギを攫った犯人と思しきリスのようなコウモリのような生き物の親子がいて、親と思しき方が口を開けてこちらを威嚇している。

 そしてその周りには地上に生えた蓮のような形状の植物。その中心に仄かに光る6角形のつぼみが無数にある。内、何個かが弾けたのだろう、中身は見当たらない。

 僕たちはハギに無事で良かったと声を掛けつつ、美月に尋ねた。


「美月ご苦労様。それで、夜光の繭殻が見つかったのかな?」


「センチーも見たアレ。アレが弾けると中身が飛んでいく。たぶんソレ」


「おいハギ、確か虫の抜け殻とか言ってなかったか。あの中に虫がいるんだろうな。見た目植物だぞ」


「ノブ君細かい。これは、ハギちゃんのお手柄だね」


 いやいやそれを言うなら不幸中の幸いじゃないのと、本音はさておき麗美に同意する。確かにハギのお手柄と呼べなくもない。


 ようやくハギも落ち着いたらしく、美月の頭に乗って件の生き物を睨んでいる。

 どうやらハギの中で美月への信頼が大きく上がった様だ。

 こちらがこれ以上何もしない事を悟ったらしい件の生き物は、威嚇を止めこちらを注視している。


 すると突然、六角形のつぼみが次々と爆ぜて中から光を纏ったモノが飛び出してきた。

 彩り豊かな薄い衣を脱ぎ捨てて空へと昇っていく小さな光の群れ。

 僕たちは、ただただ幻想的な光の奔流が天に昇っていくのを見ている事しか出来なかった。

 その光の中に見えたのは、魚だった。空を飛んでる時点で魚に見える何かだろうけれど。

 魚に似た群れが飛び去った後には、仄かに光る薄い膜が残っていた。

 そして役目を終えた蓮状の植物は枯れ果てていた。


「はあ~、綺麗でした。今のが夜光の繭殻の正体だったのですね。貴重な夜光の繭殻がこんなにもあるなんて信じらない。ほら、急いで回収して下さい」


「全く現金な奴だな。もっと情緒を楽しむ余裕を持てよ」


「ノブ殿の言に我も賛成いたす。見習いには過ぎた見世物でしたな」


 ハギの言う通り、風が吹けばどこまでも飛んでいきそうな夜光の繭殻を急いで回収する。

 夜光の繭殻は、とても薄くて軽いのに破れない。それに今は光を発していてとても綺麗だ。

 色々あったけれど、初日に1種は確保できたのでまずまずだろう。

 元来た洞窟を抜けた僕たちは、森の中の開けた場所でキャンプした。



 僕は『倉庫珠』から赤箱の中・小と『ヴァシレフ』の花と茎を取り出した。後、調味料の塩とコショー。

 後は簡易竃に網を乗せ火の児に火加減を頼んでバーベキューだ。

 ノブと麗美は、二人で協力して魔法を使って周囲の地面を隆起させて壁を構築していた。

 対して美月は、ハンモックを作ってくれた。


センあるじ様の手料理を頂けるとは、恐悦至極」

「いや、好きなだけ自分で焼いて食べてね」

「ふーっふーっ。はい、熱くないよ」

「美月様ありがとー。って何これおいひー」


 美月がハギと好感度を上げている中、ノブと麗美が作業が終わったらしく戻ってきた。


「2人ともお疲れ様。疲れたでしょう、はい」

「このくらいで疲れちゃいねえよ。ありがたく頂くぜ」

「ありがとセン。んっ美味しい」


 2人に労いの言葉と樹珠の恵みを注いだグラスを渡す。


「向こうの世界でも、もうすぐ学校が始まる頃だね」

「そうだな。なんかあっという間にここまできたな」

「私はセンさえいれば何処でも構わないよ」


 ハギに構っていた美月が、麗美の発言に即座に反応する。


「麗美。こっちの方が生き生きしてる」

「え?そんな事無いよ?」

「そういやそうだな。こっちの方が元気がある。アレを着てた麗美と比べるのもどうかと思えなくもないけどよ」

「アレは僕も欲しい。見た目は変更で」

「美月もノブ君もアレの話は無しなのー」


 アレは僕も驚いたな。お金持ちの考える事はぶっ飛んでた。

 いくら娘を大事にしているからって、アレは流石に行き過ぎだ。


「もう!センも思い出してたでしょ。思い出しちゃダメ。忘れて」

「アレとは何の事でござる」

「アレってなーに?私も知りたいです」

「ダメって・・・言ってるでしょ」


 目の据わった麗美がヴァシルとレフスキに向けて魔砲を構える。


「さっさと食って寝るか」

「触らぬ神にたたり無し」

「ちょ。助けて下され。麗美殿どうかご勘弁を」

「はい、麗美。あーんして」


 麗美の唇に肉巻きアスパラをちょんっと押し当てる。元に戻った麗美が自分で食べれるもんとそっぽを向いた。だけど、あーんと声を出して口を開けて餌を待つ雛鳥がいた。


「さすがセン様は頼りになります。やはり我の目に狂いはありませなんだ」


 もう突っ込む気もしない。食事を済ませた僕たちは、そのまま就寝した。

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