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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第2章 フォルトナ編
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5.2度目の昇級試験

 フォルトナに来て10日が経過した。

 サトミとヨーコは昨日から拠点へと出向いている。返ってくるのは1週間後の予定だ。

 今では拠点ではなく町と呼べる規模になっているそうだ。

 僕たちは『改装具』と新しい靴を手に入れ、巨大図書館オモイカネで魔法も中級まで覚えた。学校はまだ始まっていない。


 

 僕たちは冒険者ギルド本部の2階を活動の場としている。

 冒険者の階級も4級まで上がり、今日は3級冒険者への昇級試験だ。6級に上がる時も昇級試験があった。無事に昇級したら『倉庫珠』を1つ貰った。

 試験内容は、古い鉱山跡地に現れる魔物の討伐だ。

 奥まで行って魔物がいなかった場合は、冒険者ギルドで試験官との試合。昇級に足る技量と認められれば、無事昇級となる。

 冒険者ギルドの予想では危険度2となっている。

 害獣や害虫は基本危険度1だ。基本危険度は1体から10体未満だ。10体以上は危険度が上がり討伐時の評価や報酬が上がる仕組みになっている。

 魔物の討伐は定期的に行われているそうで、特に鉱山跡地には魔物が発生しやすいそうだ。

 目的の鉱山は南にある山の一つだ。

 試験に参加するのは、僕たちの他に2PTパーティー単独ソロ・ペアが2組。

 僕たちが6人、他2PTが6人x2,あとは1人と2人x2の合計23人だ。あと試験官が1人付いてくる。

 それぞれ軽く挨拶を交わすと、鉱山を目指して出発した。



 建物の密集する喧騒の絶えない南区を抜けると、赤や黒や黄色や乳白色といった、幹から枝葉まで一色の植物が、整然と植えられている。未だに良い眺めとは、とても感じる事が出来ない。

 そんな光景を目にしながら進むと、平坦だった石畳の道が登りになった。

 道が石段へと変わり、傾斜がきつくなる。鉱山として使われていた時は、資材の運搬にロープウェイが活躍していたそうだ。現在は自力で登るしかない。

 ちょっと前の僕なら根を上げていただろう上り階段も全く苦にならない。靴の性能が良い事もあるだろう。


 鉱山入り口へと辿り着いた僕たちは、一旦休憩を取る事になった。周りは石ころが転がっているけれど、結構開けている。ここから眺める街は異様を誇る世界樹を含めずとも壮観だ。

 休憩中話題となったのは、サトミの町についてだった。

 彼等の望みは、早く初段になって3次入植募集に入るというのが大半だった。あとは、食の革命が起こった地として巷を賑わせ始めた事で、実際に料理を習い一旗揚げるつもりの者がいるみたいだ。

 

 卵と脂の有効活用と芋から片栗粉を作る方法と使用例、肉の選別方法等と王国中にサトミの名で発せられた情報は、食の革命として国民に恩恵をもたらしている。それに伴い芋の消費量が上がったが、卵と脂が増えたので食材の価格を上げてはならないと国から通達もされている為、今のところ混乱は起こっていない。



 坑道内は今でも光虫が発する灯りで明るかった。

 4人は余裕で横並びに歩けるくらい幅広な坑道だ。

 時折、光虫の容器に水分を補給していくのも、僕たちの仕事となっている。

 鉱山はカラフルだと聞いていたけれど、廃坑は蜜を補充する者もいない為に白色だけだった。

 時折、開けた場所に出る。どうやら掘った鉱物などを1次的に集める物資集積所跡らしかった。

 線路やトロッコはない。騎獣で運ぶそうだ。『倉庫珠』を使えばいいのに効率が悪いと思ったけれど、雇用を守る為だとか。世知辛い。

 体感だけどかなり深くまで進んできたと思う。試験官が地図を持っているので迷う事は無いだろうけど。

 空気が淀んでいないのは、どこかに通気口があるんだろう、しっかり作られている。


 歩を進める僕たちの前に坑道を塞ぐ金属の門が現れた。試験官が鍵穴に鍵を差し込み扉を開く。

 僕たち全員が門を超えると、試験官が扉を閉じ鍵を掛けた。ここから先が魔物が現れる場所なのだろう。

 自然とみんなの顔が緊張で引き締まっている。

 警戒しすぎている所為か、先頭を歩くPTの進行速度が遅くなっている。

 

「なかなか遭遇しねえもんだな。ホントにいるのかよ」


「いなければそれでいいよ」


「お前なあ、ここまで来て手ぶらとか泣けてくるぜ」


「いた、300メートル先」


「多いよ・・・10・・・20・・・30・・・もっといるよ」


「どうする?他の人にも教えようか?」


「広い所に集まってるから、先頭の奴らも気付くだろう」


「ヴァシルとレフスキには伝えたよ」


「分かった、それじゃ切り替えよう」


 僕たちはマジホでのやりとりを終了すると、改装具で装備を切り替えた。

 万能武器の棒を手に進む。僕たちの後に続く冒険者がちょっとだけざわついた。

 しかし、4級冒険者だけあって彼等もすぐに落ち着いた。

 この先にある角を曲がれば、開けた場所があり、そこに敵と思われるものが30以上いる。

 先頭PTが角を曲がり、敵に気付いた様だ。しかし彼等の対応は――――大声で叫び突撃していったのだ。

 敵の情報くらいは教えてくれてもいいんじゃない?

 そして、後ろにいた冒険者達も僕たちを追い抜き勇んで駆けていった。

 脳筋というフレーズが頭に浮かんだ、否、言葉に出ていた様だ。


「言えてんな。相手はこっちより多いのに突っ込むとか、確かに脳筋だなw」


「敵の情報不明、要確認」


「みんな囲まれちゃったっぽいよ。助ける?」


 僕たちの会話を聞いていた試験官が、麗美の囲まれたという言葉に急いで角を曲がり状況を確認する。

 試験官に付いてく形で僕たちも状況を冷静に分析する。



 敵は全身が白ないし黒の人型だ。

 試験官が「シャドーマンだと、馬鹿な。しかもこの数は・・・」と二の句が継げずに絶句している。

 大図書館で読んだ『魔物大全』に載ってたっけ。

 麗美に聞いたら、すらすらと答えてくれた。

 シャドーマンは、相手のなりと身体能力をコピーする厄介な魔物。普段は弱い害虫に擬態している。基本危険度4。対処方法は囮を用意して遠距離から倒す。弱点は相手と同じ場所になるそうだ。

 この間、敵に囲まれている冒険者達は怒号から叫喚へと変わっていた。


「ノブは盾で敵から察知されない様にお願い。麗美は魔砲の極小で。美月は僕と魔法攻撃をしよう」


「いいぜ」


「私がんばる」


「うん」


 ノブが不可視の盾を発動して僕たちの前面に構える。

 麗美が魔砲で手前の敵から文字通り消し去っていく。

 僕は『氷柱・林』を放つ。水柱に包まれた敵がそのまま凍り付いて氷柱が何本も出来上がる。

 美月は『火球・散』を放つ。高速で飛来した火球に包まれ燃え尽きる敵の群れ。

 退路が開かれた冒険者達が、必死にこちらへ向かって逃げ帰ってくる。

 当然逃げる冒険者達を追って、敵がこちらへと押し寄せてくる。


「おいおい、引き連れてきすぎだろ。第1逃げる必要皆無じゃねえか、倒してるんだからよ」


「恐怖から逃げたいのは分かるけどね」


「冒険者達よ、全員逃げずに戦え。我々が援護するからその場で踏ん張れ」と試験官が大声で叱咤する。


 逃げていた冒険者達がピタッと立ち止まり、恐慌一歩手前だった彼等の表情に強い感情が見て取れた。それが、敵から逃げだした自分に対する怒りなのか、敵への怒りなのか、理不尽な命令への怒りなのかは分からないが、彼等は逃げる事を止めると振り返り敵と交戦する事を選んだ。


「なあ、試験官はどんな援護をするんだ?」


「・・・」


 試験官はノブの質問に敵を射撃する事で答えた。冒険者に襲い掛かる敵に3連弩を向け一気に3連射。

 致命傷を負わせる事は出来ていないが、確実に敵の動きが悪くなっている。


「あの状況で当てるとか、やるじゃねえか」


「・・・ふん」


「ぐあぁぁぁぁ」と絶叫して最後の1体が倒れた。人形ひとがたになったシャドーマンは声が出せる様になるようで、倒した後は不快な気分になってしまった。


 前線で必死に戦った冒険者達は、勝利の余韻に浸っていた所に試験官のお説教を受ける羽目になっていた。

 だが、彼等の興味は試験官の言葉ではなく、周囲に散らばる魔鉱石に移ってしまっていた。


 魔物の形を残しているのは、氷柱に閉じ込められた15体と地面に転がる4体のみ。後は、麗美の魔砲と美月の魔法で魔鉱石のみを残し消え去っている。


「それでは、死体の処理を行う。氷付けの物も砕いて取り出すのだ」と試験官が指示をする。


 みんな一斉に氷柱へと向かい、ガシガシ叩き始めた。



 それは、突然空間から現れた。

 3色の大きな球体。

 次いで、球体に太くて長い腕が4本。

 そして、異形が全体をさらけ出した。

 濃緑と茶と橙の3つのメタルカラーの鱗に覆われた球体の巨躯に、牛頭馬頭豚頭と3つの頭を有する者が浮遊している。目に見えないプレッシャーが襲ってくる。

 

「あれあれ、僕のペットが全部やられちゃってる。分かったぞ、お前等が犯人だな」と異形が喋った。


 突然の出来事と明らかな強敵に対する緊張でゴクリと唾を飲み込む冒険者達。


「ちょっと待てぃ。いきなり犯人扱いしてんじぇねえ。俺等は氷付けになってたお前のペットとやらを助けようとしてたんだぞ。ほら」とノブが凍り付けになった魔物を取り出す為に、砕氷作業中の冒険者を指さす。


「んー?なーんだ、お前等良い奴だったのか。疑って悪かったよ」


「いや、断定してただろ。まいいや、俺はノブってんだけど、あんた名前は」


「僕は真魔のゴメスって名前だよ」


「ゴメスか、よろしくな。でさ、どうやってここに来たんだ。それって魔法なのか?」


「んー?普通にこう入って行きたい場所へ行くだけだよ」とゴメスと名乗ったものの一部が、空間に消えて再度現れる。



「どう思う?コイツ明らかに空間移動が出来るみたいだ。だが嘘吐いてる感じはしねえ」


「なるべく情報を聞きだそう」


「どんな情報が聞きたいんだ」


「この近くに他にもペットがいるか。魔法を教えてくれそうな頭の良い知り合いがいるか。仲間はどのくらいいるか」


「最近よく喋る様になったな美月おまえ


「ノブ君って、こういう時は頼りになるよね」


「麗美は手土産としてお持ち帰りしてもらうか」


「セン、せっかく褒めたのにノブ君が酷い事言うよ」


「ノブよろしく」


 マジホなので僕たち4人以外に会話は聞こえていない。


「なあ、ゴメス。ペットはこの辺にまだいたりするのか?」


「いないよ。ようやく使えそうなのを増やしたのに」


「そうか。ところでゴメスの仲間はたくさんいるのか?お前みたいに強い奴」


「えっとねー・・・指の数より多いよ。僕ってそんなに強そうかな、えへへぇー」


 ゴメスが4本の腕にある5指を使って数え、ユニークな3つの顔で答える。


「ああ、こんな綺麗で立派な身体だ。ゴメスってとても強いんだろ」


「えへへっ、褒めすぎだよ」とゴメスが照れているのがわかる。キモイけれど。


「ゴメスはホントに魔法使えねえのか?こんなやつ」とノブが火球を出現させ氷柱を壊す。近くの冒険者達が慌てて逃げた。


「出来る出来る。ほら」とゴメスが出した火球は馬鹿デカかった。熱量が尋常じゃない。ジリジリでなくチリチリと肌が痛い。熱気で喉と鼻腔がヤバイ。そんな火球が氷柱へと飛んでいき地面を軽く溶かしていた。

 冒険者達は全員、氷柱から離れている。

 熱気で満たされた所為で、残った氷柱がちょっと溶け始めている。


「やっぱすっげーなゴメス。それってどうやって使うんだ?」


「うん?どうやって?うん?自然に出来るよ」3つの頭が傾げているのはかなり奇妙な光景だった。


「そっか、自然に出来るのか。理屈じゃねえんだな、分かった。それじゃ、俺等は帰るけどゴメスはどうするんだ?」


「うーん?僕も帰るよ。ペットもいなくなっちゃったから。じゃあね」とゴメスが空間に溶けていく。



 試験官の指示の元、僕たちは急遽フォルトナへと帰還する事になった。勿論、魔鉱石は回収し凍り付けの魔物は火球で滅した。

 冒険者ギルドに戻った僕たちは、3級冒険者となり、『倉庫珠』も1個貰えた。そして『属性石』なる物を貰える事になった。現物は後日、希望する属性を付与してからくれるそうだ。


 そして、長々と偉い人達に質問攻めにされた。

 敵の目的不明、というか敵かどうかまず不明。ペットを何に使うつもりだったのか分からず終い。

 しんまが種族なのか組織なのか不明だが強力な勢力が存在する。ゴメスはかなり強い。

 結果、今回の件は極秘扱いとなり他言無用となった。

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