3.ショッピング
冒険者の階級も10級に上がりフォルトナ見学をする事にした。10級とは言っても駆け出しと大差ないけれど。
大切な財産を手に入れたばかりの『倉庫珠』に収納し、中央区にある主要施設を見て回る。
世界樹と世界樹を囲む壁を除いて、一番目立つのは政庁だ。青と白の石造りの5階建ての大きな建物。なんと学校も政庁の一部だった。煌びやかな装飾品や透ける様な薄衣の如何にも高そうな服装をした人物や平服の人物、物々しく武装した人物や芸人なのか奇天烈な格好の人物など、多くの人が出入りしている。
「ここが、この国の中枢の一つ何だね」
「我の村とは比べるのも馬鹿らしい大きさである」とヴァシル達。
「確かに、立派な建物だな。でもお前等の村ってのも見てみたいな。そう思わないか、セン」とノブが僕の肩をポンと叩いてくる。
「機会があれば、行ってみたいね」
「おぉ、必ずや村人全員で最高のお持て成しを致しますぞ」彼女達は未だに口調が固過ぎる。
シュウサクの説明によると、ここで働いている人はかなり優秀な人材らしい。金持ちや貴族なども多いらしいがコネは一切利かないそうだ。腐敗がないと鵜呑みにすることは出来ないけど、現状あんまり関係ないか。
冒険者ギルドの場所はもう覚えた。他に魔法具ギルド・鍛冶ギルド・宝飾ギルド・縫製組合・大商会組合・自警団・娼館連合等々。
僕たちと余り関わりなさそうなものも沢山ある。あくまで現状ではだけど。
大型公共温水施設はレジャーランドだった。国民は無料で利用できる。地方から上京してきた者は無料でお風呂が利用できるので重宝されているようだ。演劇場や遊園地もある。
「ここってよ、外に看板がないな。てか、建物に名前書いてるし」人と荷物を積んだ騎獣で溢れる通りを歩きながらノブが話を振ってくる。
「邪魔にならなくていいね。初見だと見つけにくいって事はあるけどね。ギルドとかは壁の色で見分ける事が出来るけど」
「セン、地図だとこの辺から装飾品を扱う市場みたい」あってるかなとシュウサクに確認する麗美。シュウサクは大丈夫ですよと頷き返した。
先に並ぶお店の商品の様相が変わる。華美な物・落ち着いた感じの物・可愛らしい物等多数のアクセサリーが展示されている。
その中の1件に入ってみる。小綺麗な女性の店員さんが「いらっしゃい。団体さんは大歓迎、何をお探しで」と笑顔で寄ってきた。
「こちらに『改装具』は置いてありますか?」と尋ねるとすぐに「ございます。どのような用途をされます」と問い直してくる。
「普段着と冒険用にし」と言葉の途中で「冒険者ですか。それだと、なるべく多く登録できる物がお勧めです。しかし、かなりお高くなります」と真面目な顔になっている。営業スマイルが消えたと言うべきか。
「上衣と下衣の2つを基本として、頭・腕・手・指・足・脛・膝・外套・武器など多岐に渡ります。この場にある既存品だとややお安くなりますのでお買い得です。細かい箇所をご指定ならオーダーメイドとなります。意匠に拘りがあれば更にお高くなります」と棒読みで説明してくれた。
「どうする?」
「俺は、上下と武器くらいか」
「私は制服に帽子とかあるなら武器と頭も」
「全部。備えあれば問題ない」
「そうだね、足りないよりは余ってた方が余裕があって良いね。値段次第だけど」
「・・・全部」店員が頭を振り深い溜息を吐く。
「お客様、失礼ですが階級は」と店員が聞いてきた。
「俺たちゃ、今日10級になったぜ」とノブが自信を持って答えた。
「おのぼりさんか。良いかい、全部なんて意匠抜きにしても金貨1000枚は必要だ。それにこの店の最低品は金貨10枚だ。他の店だって同様だ。先ずはしっかり稼いでから来ておくれ」と店員は呆れた様子である。
ノブが『倉庫珠』から小袋を取り出し、店員に見せた。
「魔鉱石は金貨10枚だよな。この魔鉱結晶片っていくらだ?あとこっちの魔鉱結晶はいくらする?」と店員に尋ねる。
今朝、サトミから貰った物だ。僕たちがマガラニカ大洞窟で鍛錬ついでに集めた物を、4等分して貯めてくれていたのだ。
店員は目を白黒させ信じられないといった表情だ。
「店主、店主。急いで来て下さい。店主、てんしゅ~」と店員が叫ぶ。
すると、奥から眼鏡を掛けた恰幅の良い女性が現れた。カエル人間だと思った。後でシュウサクが教えてくれたけど、ドワーフと呼ばれる人種だった。
「何だね、騒がしいね。客の相手もろくに出来ないのかい」とのっそりのっそりとこちらに来ると、魔鉱結晶を目にした店主の顔が笑顔に変わる。
「これはお客様、うちの店員が何か粗相でも致したのでしょうか」と店主が店員をキッと睨む。
「違います、店主。こいつら10級冒険者だっていうんですよ。『改装具』の相場も知らないので多分10級は嘘じゃないと思います。でもこれは本物なんでしょうか?否、コイツらがこんなに持ってるなんて変でしょう」と店員は店主に言い募る。
店主は眼鏡の位置を直すと魔鉱結晶を手に取り見つめ、次いで魔鉱結晶片を手に取り見た。そして、僕たちの後ろにいるシュウサクに目を留めじーっと見る。
「あなたはどこぞの使用人ですか」とシュウサクに尋ねた。
「私は『偉大なる黒光』の元で雇って頂いております。此度は主人の命でご友人方の案内を仰せつかっております」と洗練された動きで店主に一礼した。
「「!!」」
「これはとんだ粗相を致しました。何してる、お前も謝るんだよ。大変失礼致しました」と店主が店員共々謝ってきた。
「そんなんどうでもいいからさ、これで買えるのか」とノブが問う。
「えっ?・・・はっ!『改装具』でも宝飾でも良い物を取り揃えてますよ。職人も腕の良いのがいます。ぜひうちでお買い上げ下さい」と店主が揉み手をしてきた。
「店主店主」店員が店主に魔鉱結晶片を見せる。
「はっ!こちらの魔鉱結晶片は1つ金貨200枚で、こちらの魔鉱結晶は1つ金貨1000枚での換算となります。品質も問題有りません」と店主が答える。
「そっか。じゃ、『改装具』全種付きを4人分くれ。ヴァシル達も必要か?」
「我は必要なしだ。心遣い痛み入る」
「全種4名様分ですね、畏まりました。デザインや色などこちらに見本がございますのでどうぞご覧下さい。お決まりになられましたら、仰って下さい。それと、注文となりますので3日後の受け渡しとなります。料金は前金半分、引き渡し時に残り半分となります」と店主が述べている間に、店員が見本を持って来てどうぞと差し出した。
「これに”千”の字を入れて下さい」と見本を指さした。僕の要望を店員が書き留めている。
「私はこれに”麗”の字を」麗美のは赤地の白線で描かれた薔薇柄のペンダント。
「俺はこれに”信”の字を頼む」ノブが選んだのは、地は黒で金色の線で描かれた八角形のペンダント。
「僕のはこれ。色はこれ」美月が選んだのは金地の満月の中に三日月が3つ連なったペンダント。三日月は銀色だが指定した色は青だ。
「ご注文有り難うございます。4名様分で前金を金貨2000枚です」
「意匠代はどうなってんだ」
「こちらに粗相がありましたので今回は勉強させて頂きます」
「そうか、気にしちゃねーけどな。じゃー今回は俺とセンで払うか。次回は美月と麗美でよろしく」とノブが魔鉱結晶を1つ店主に渡した。僕も魔鉱結晶を1つ取り出し店主に渡した。
「確かに承りました。それでは、3日後にコレをお持ち下さい」と店主から符を4つ渡された。
僕たちは「改造具」を予約したお店を後にした。
続いて僕たちは探したお店は靴屋さん。
僕たちの履く靴は、靴底が磨り減ったりしてかなり襤褸くなっている。
靴屋はシュウサクお勧めのお店にした。店の壁は灰褐色。珍しい事に店名が書かれていない。
扉には木から延びた7つの枝の先に7種の靴が彫られていた。扉を開けて中に入ると、7個の小さな鐘がぶら下がっているだけの狭い空間があるだけだった。
「何もないね」
「なんだこりゃ」
「ドッキリ?」
僕とノブと麗美は平凡な言葉しか出ない。
「最初の扉」と美月が言うと、「その通りです、今日はこの鐘の様です」とシュウサクが黄色い鐘を鳴らす。
すると、行き止まりだった壁が上に持ち上げられて奥へと続く通路が現れた。
シュウサクの案内に従い付いて行く。すると広い空間にでた。奥の方には鍛冶場や水場があるようだ。その手前には、沢山の種類の革や布や板金などが整理されて棚に並べられている。色々な種類の針・鋏・槌等の道具類、台座には制作途中と思われる靴がある。
「いらっしゃい。おやおや、シュウさんか。ひさしぶりだな」と声が聞こえる。
「ええ、久しぶりですね。今日は皆さんにとっておきのお客様をお連れしました」とシュウサクが謎の声に応えている。
「おお、シュウさんの紹介でしかもとっておきか。そりゃ、上客だな。みんな聞こえたな、カウンターに並べ」と完成品と思われる3点の靴が置いてあるカウンターにヒョコピョコと小さな7つの影が躍り出てきた。
「小人!?」
「可愛い」
「うおっ、すげー」
「触っても」美月が有無を言わさず近くにいた小人を素早く易しく両手で囲みぺたぺたと触る。
「あふっ。この娘、ツボを突いてきよる。うっあっきっ気持ちいい」と美月に触れられ声を上げる小人。
「むむむ。羨ましいぞ。ほれ、そこの娘。儂に触ることを許す」と別の小人が僕を指差し触れと言ってきた。
なぜか、言われるとその気がなくなる事ってよくあるよね。正に現在の僕は触る気ゼロ状態です。それに僕は男なんだからね。
皆さんまじめにとシュウサクに注意された小人達は居住まいを正す。
何処からか取り出した椅子に全員座っていた。
「俺が7人を纏める頭領のホトケってもんだ。で、誰がどんな靴を欲しいのかの」と7人の中で1番大きいが10センチメートルにも満たない赤服の小人が聞いてきた。話し方と顔のギャップがすごくて、微笑ましい。皺やシミなどない綺麗な肌に童顔。一体何歳なんだろう。
「俺等4人の靴だ。できれば修理もしてくれると助かる」
「ふむ。どれ、見せてみろ」
ノブが自分の靴を片方脱いで小人達の前に置く。
「何とも貧相な靴じゃの。しかも臭うの、浄敷もなしか。ほれ、儂等の靴を履いてみろ」と緑の服の小人が靴をカウンターに置いた。まさか、『倉庫珠』を使ってる?
ノブが目の前のカウンターに置かれた靴を履く。その顔が驚愕に変わった。
「まじかよ。最高の履き心地だぞ。履いてる気がしねえぞ」ノブの中では履き心地は最高のようだ。
「間に合わせでそこまで褒められると泣けてくるぞ。儂等の仕事を甘く見るなよ、小僧」とホトケの言葉に同意の言葉を連ねる小人達。
シュウサクに意見を求める小人。僕たちが冒険者である事を伝えている。
「事情は分かった。軽くて丈夫で戦える靴でいいな。1人2足でいいか?」とホトケが聞いてきた。
「洗ったりするのに4・5足は欲しいな」ノブが答える。
「洗う?間抜けか?儂等の靴を洗うなど」と小人達が大笑する。
シュウサクの説明では、汚れは一晩あれば綺麗になるという。もしかして『加護の鎧着』みたいな効果があるのかな。
「ほれ、順番にこっちに来て裸足になって足をよく見せろ」と黄色の服の小人が試着室で呼んでいる。
僕たちは順番に足の計測を入念に行われた。その時にシュウサクに彼等が『倉庫珠』を使っているのではと聞いてみた。どうやら、街から街へと荷物や商品を運ぶ商人が規制の対象らしく、彼等の様な特に優秀と認められ移動しない者は所持が許されているそうだ。
「全員計測が終わったな。1人2足で完成は3日後だ。代金は1人金貨200枚だ。代金もその時に払えば良い。それと今履いてる靴は脱いで、こっちのを貸してやるから履いていけ」とホトケが言った。
ノブは真っ先に履き替えた。僕たちもホトケの好意を受けることにした。
あー、ノブが喜ぶのが理解出来る。履いてる気がしないだけでなく足が軽い。翼が生えるとは、この様な感じなのかも知れない。素晴らしい靴とシュウサクに感謝だ。
靴屋を後にした僕たちは、街を散策しつつ下着など細々した物を買ってサトミのお城へと戻った。




