14.拠点との別れ
ここまでを一つの区切りとします。
いよいよ明日、僕たちはこの国の都『フォルトナ』に行ける事になった。まぁ、王女の帰省に便乗するだけなんだけれど。
時折稽古した『義風』からは1人前なんて余裕で受かると太鼓判を貰った。魔法の才能がなかったら騎士でも受かるんじゃないかと言われた。国家に縛られる騎士じゃなく冒険者を目指す事を話したら、冒険者ギルドへの地図と紹介状を書いて貰った。
ピックとリーフが最後まで1番弟子で揉めていたが、弟子なんて取ってないよ。新器具のピーラーとおろし金と金網は厨房内で活躍している。
お世話になった人々に感謝と新天地で頑張る事を告げ、早めに就寝した。
約2週間の拠点生活との別れの日が来た。かなり濃密な時間を過ごしたと断言できる。
拠点での食生活は当初と比べてるとかなり豊かなものとなった。特にコショウが大人気だ。ハッキリ言って需要に供給が全く追いつかない。現在湖以外でも育てられないか実験中だ。片栗粉を使った揚げ物や餡かけなども人気となっている。干し芋もジワジワと人気が出始めた。
かなり建物が増え、もう少ししたら新しい入植者の受け入れを始めるそうだ。現在いる冒険者は初期の入植者として好きな物件とある程度の土地を与えられるそうだ。希望した物件が被った場合は抽選となるそうだ。
尚、必ずしも入植する必要はなく、誰かに譲渡したり売る事も出来るそうだ。『義風』の話を聞く限り、ここの将来性を棄てるような者はいないと断言していた。サトミの評価がここでは高過ぎて参考にならない。僕的にも高いのだけど・・・時折暴走するのがマイナスの原因だ。
偶然から生まれたマガラニカ大洞窟は安定した魔鉱石系の採取場所として大いに役立っている。もちろん戦闘力が必要なので、冒険者の訓練場としても大いに役立っている。未だ最奥は謎だけど。
感慨に耽っていると鳥の鳴き声が聞こえた。ここにお世話になって、初めて鳥の鳴き声を聞いた。
「迎えが来たわね、行くわよ」サトミが立ち上がると貴賓食堂を出る。
「はっ。遅れず付いて来い」ヨーコもサトミの後に続く。
僕たちも遅れない様、彼女たちの後を追う。
中庭に巨大な鳥が3羽留まっていた。建物より大きい。しかも大きな木製の箱まで出現していた。
僕たちはこの大きな木製の箱で『フォルトナ』まで移動するそうだ。この3羽の巨鳥に吊られて。
「でっけー鳥だな。でも何処かで見た事あんだよなあ。何処だっけなあ」
「この鳥さん、スズメさんだよ。とっても大きいけど。模様とか嘴の形とか特徴が一致するもん」
「麗美が言うなら雀で間違いないね。巨大過ぎるけど」
大きな木製の箱の扉が開き、中から人が出てきた。金と銀の混じり合った髪をお団子状に纏めた、かなりだぼだぼのゆったりした服装をした綺麗な顔立ち女性だ。その女性はこちらを見ると猛然と走り寄ってきた。
「サトミン会いたかったよー」
サトミに飛びついていた。(3メートルは飛んだよ、かなりの滞空時間で)僕より小っちゃいサトミだけど、見た目の華奢な感じと違って物凄く強いんだよね、物理的に。だから、飛びついた女性をペチッと地面に叩き付けた。
実際は地面にぶつかる寸前で止まったようで、あやうく地面とキスする所だったと、女性は元気よく抗議している。サトミは女性をあしらいながら箱の中へと消えて行く。そんな2人のやりとりをヨーコは微笑みながら付いていく。僕たちも彼女達に続いて箱の中に入った。
扉をくぐり入った大きな木製の箱の中は、2階まで吹き抜けの天井があり目の前には2階へ続く螺旋階段とかなり広く開放的なホール。やさしい木の香りが心地よい空間を作り出していた。右手にはリビングルームがあり、こちらもかなり広い。奥にはダイニングとキッチンがあった。左手にはバストイレ付きの個室が6つ。2階にはバストイレ付きの部屋が8つとサロンがあった。窓は何処にもない。
リビングに集まった僕たちは、サトミから先程の女性を紹介された。
「紹介するわ。いとこのサヤカ、終わり」
簡潔だった。デジャヴ。そういえば僕たちの紹介もこうだった。
「ちょっとちょっと、いくら何でもぞんざい過ぎよ。ちゃんと紹介しなさい。と言うか、貴方達は誰?はっ、まさかサトミンの新しい使用人?止めた方が良いわよ、この子人使いがとっーても荒いし気難しいし癇癪起こすと手が付けられないの」
とサヤカと呼ばれる人物が捲し立てる。
「あと」とサヤカがさらに何かを言い掛けた時、サトミの拳がボディにヒット。サヤカは吹き飛んだが壁に激突する前に止まった。どうやらダメージはないようだ。
「お姉さんになんて事するの」
サトミに駆け寄り平手打ちを見舞おうとしたサヤカの動きが止まった。どうやらサトミが動きを封じているみたいだ。しかし、サヤカがゆっくりと動き出した。
「お姉さんを・・・甘く見ちゃ・・・だめよ」
顔を顰めて強がるサヤカ。確かにサトミに封じられて動けるのは凄い。みんなも感心していた。が、サヤカの抵抗はそこまでだった。サトミがサヤカに近づくとだぼだぼの服に両手を突っ込み擽り始めると無言<失笑<大笑<泣き笑いへとなり降参した。
ヨーコが毎度の事だから気にするな仲が良すぎるんだ、と言ってサヤカの詳しい説明をしてくれた。
彼女の名はサヤカ・ワーズワース。ここよりかなり遠くにあるヴァルブニッツァを治める領主の娘だそうだ。領主は王の実弟である為、サトミとサヤカはいとこなのだそうだ。なるほど、続柄とかも同じ様だ。
ようやくサトミとサヤカが落ち着いた所で、僕たちはそれぞれ自己紹介した。サヤカも自ら僕たちに自己紹介してくれた。因みに、”存在”については限られた者だけの秘密なので彼女にも内緒だ。
いつ頃出発するのか尋ねると、もう出発しているのだそうだ。いつの間に飛び立ったのか、全く揺れなかったし今だって揺れていない。
僕たちを運んでいる巨大な鳥は、スズメと呼ばれているそうだ。巨大スズメの方が良いと思うけど、基準が違うので押しつけても意味がない。で、スズメはサヤカの故郷の特産品とも言うべき大型騎獣だそうだ。飛行・移動・運搬能力が高くアヴァール王国にとってとりわけ緊急時に重要な存在となっているそうだ。使用できるのは主に裕福な貴族だそうだけど。
「サーヤ、お芋食べる」と突然サトミがサヤカに尋ねた。
「お腹も空いてないし別にいらなーい」と興味なさそうに答えるサヤカ。
「そう」サトミが干し芋を取り出し囓る。美味しいと呟く。次に火の児で炙り囓る。また美味しいと呟く。良い香りが漂う。
「サトミンさっきから何を食べてるの。それって、そんなに美味しいの」
サトミの分かり易い挑発にサヤカが食いついた。見た目通りのサトミに自称お姉さんもどっちも子供である。
「うっふっふ。サーヤにはもっと美味しい物を食べて貰うわ。セン、イモモチ作って頂戴」
「わかった、しばらく時間潰してて」キッチンに向かうと材料が一通り用意されていた。
イモモチを人数分用意してテーブルに並べる。完成した事を告げるとみんながテーブルに座る。
「これがいももち」サヤカが興味津々に見つめている。
「サーヤ、見てても無意味よ。食べれば分かることよ」サトミが悪戯っぽく笑う。
サヤカはヨーコをチラリと見て、彼女が頷いたのを確認してから口へと運ぶ。
「美味しい。何コレ」サヤカの表情が疑心から満面の笑みに変わった。
「新しい食材が見つかって新しい食べ方を知ってこれからもっともっと楽しくなるわよ」ニコニコ笑いながらサトミが言った。
昼過ぎに目的地のサトミの家(小さなお城)についた。彼女は王族の住む宮殿とは別に個人でお城を持っていたのだ。僕たちが箱から外に出ると使用人であろう数名が中庭に並んでいた。
サトミは1人1人に声を掛けてお城の中へと歩いて行く。サヤカとヨーコがサトミに続く。僕たちも後を付いてお城の中に入った。




