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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第1章 拠点編
13/38

13.拠点生活6日目

 今朝は早く目が覚めた。

 ぐ~~~~~~~

 かなりお腹が空いている。そういえば昨日は昼・夕と2食も食べずに寝ちゃったんだ。

 ベッドの周りにはノブ・麗美・美月が眠っている。心配を掛けてしまった様だ。みんなありがとうと独りごちた。しかし、お腹が減って仕方がない。眠っている3人を起こすのは悪い気がした。


 お風呂に入ってさっぱりすると余計にお腹が空いてしまった。お腹が鳴りっぱなしだ。

 朝食を作るべく部屋を出ると、廊下にヴァシルとレフスキが並んで立っていた。

 2人は僕の前に跪くと、「不肖の身なれど、御身のお側にお仕えしたく。どうかお許しを」と頭を深く垂れた。


「えと、無理。そうやって跪くのは止めて。昨日の事はお互い不幸な事故って事で忘れよっ」


 ぐ~~~~~~~~~~ 

 「僕、お腹が減っちゃってるんで、良かったら一緒に食事でもどうかな」と、僕は2人を食堂へ案内して料理が出来るまで待つ様に伝え厨房へ移動した。



 厨房ではみんな忙しなく働いていた。


「おはようございます、師匠。顔色は・・・良いみたいですね。それにしても、今日は随分と早いですね」


 ほっと一息吐いたピックが話しかけてくる。


「師匠ー。大丈夫なんですか、無理してませんか。私とても心配です」


 リーフが顔から手からぺたぺた触ってくる。


「大丈夫だから。心配掛けたみたいでごめん。お腹が空いちゃって」答える間もお腹が鳴っている。


 エステルが新しい食材が倉庫にある事を教えてくれた。そういえばアルトリウスが昨日叫んでたっけ。

 倉庫へ行って選別する。『ヴァシレフ』は根っこがあったけど取り敢えず、根っこは後回し。葉っぱコショウは乾燥と。茎の部分アスパラガスは手前に。花びらキャベツも手前に。蜜壺は最初から外してあるで見当たらない。『バニラン』はゼリー部分を瓶に保存してあった。花粉も混じっているのか若干黄色味がついていた。



 簡単な料理を作り、食堂で3人で食べた。どうやら好き嫌いはないらしい。まぁ食材も限られてるし。

 彼女たちは基本、湖の中の底にある村で暮らしているそうだ。

 水棲生物だったのかと考えていたら違った。

 かなり巨大な洞窟があってその中に村があるそうだ。出入りは湖の底にある洞窟へと繋がる横穴からだそうだ。双頭の蛇種は両性具有が基本だそうだ。人化すると男と女になるのが普通で、同性のヴァシルとレフスキはとても変わっているのだそうだ。

 基本は村の中で生活しているらしく、外へ出るのはお祝い用の酒を調達する時だそうだ。なるほど、アレのことか。ここ最近現れた巨大蜂に困っていた所に、採取調査の僕たちと偶然出会ったんだそうだ。後は知っての通りと。


「お頼み申す、セン様。何卒、我をお供に加えて下され」とヴァシルとレフスキが懇願する。


 食後くらいゆっくりしようよ。しかもお供って言われても、僕は鬼退治するわけじゃないよ。

 参ったなぁと困っていると、師匠を困らせないでくれとピックとリーフが加わってきた。どうやら朝食の準備が終わったのだろう。

 しかし、ヴァシルとレフスキも詫びただけでは先祖の名に泥を塗った自身が許せないと主張するので話が終わらない。はぁー、頑固だな。


「いた!セーン」と名を呼ばれた先に視線を移すと、こちらへ駆けてくる麗美の姿が。ノブと美月も駆けてくる。


「またお前等か。センに近づくな」


「むーーーー」


「・・・」


 3人が僕を椅子ごと後ろに下げ、ヴァシルとレフスキと食卓の間に入り込んだ。


「これは、従者の方々。昨日はとんだご無礼を。我は生涯セン様あるじに忠誠を尽くす所存。身の回りの世話から伽の相手まで何なりと。何卒、我をお共に加えて下され」ヴァシルとレフスキは3人に目礼し、お供にしてくれと懇願を繰り返す。


「3人とも僕の友達なんだ。みんなを2度と従者だなんて呼ばないで」思わず強い口調で言ってしまった。


「おう、俺たちゃ友達ダチなんだ。いい加減覚えろ」ノブがフォローしてくれた。


「僕は従者でいい。だから今日からセンチーのお世話は任せて。ぽっ」最近美月もおかしい。こんなに悪乗りするなんて。


「ダメ、みんな友達なの。・・・でも従者もいいかな」いやいや、麗美もボケは要らないから。


 しかし、涙目となったヴァシルとレフスキは諦めなかった。お供お供と連呼する。

 朝食を摂る為、冒険者達が集まりだした。このままでは目立つので場所を変える事にした。



 ここは貴賓食堂。現在、僕とヴァシルとレフスキ以外が朝食を摂っている。話題は”お供”だ。


「そんなの簡単よ。彼女たちに実力があれば良いだけの事でしょう。美月も麗美もノブも3人だけで絶対に守れるって言えるのかしら?信用できないって思っているのなら、この私、アヴァール王国第4王女、サトミ=トゥル=イスクルの名において保証するわ。少なくとも彼女たちの言動に嘘偽りはないわよ。裏切らない手駒が手に入るなんて幸運よ」


「サトミ様、表現がストレート過ぎます」


「サトミも間違った」美月が王女を糾弾する。


「うっ、ちゃんと保険はあるから問題なかったの。自力で治ったから披露できなかっただけよ。本当よ」


「サトミ様の仰っている事は本当だ。私もこの名に誓う」


「あの、僕は何も持ってないのに人を雇う余裕なんてありません」


「難しく考えなくて良いの。良い仕事をすれば褒めてあげる。失敗したら、どうして失敗したのか・次はどうすれば失敗しないで済むのかを本人に考えさせて改善策を出させるの。2度同じ失敗をしたら叱る。3度同じ失敗をしたら棄てれば良いの。ねっ、簡単でしょ」


「サトミ様、からかい過ぎです」


「確かにちょっと脇道にそれたわね。彼女たちは自分の事は自分で出来るわよ、貴方達よりよっぽどね。食事が済んだら、美月・麗美・ノブの3人で2人と戦いなさい。使用する武器は棒っ切れで十分ね。それで決める事。センの意見は無視よ」


 え~~、僕の意見は無視とか、それって色々おかしいでしょ。みんなも何とか言ってよ。


「いいぜ」


「仕方ないけど」


「了解」


 僕の立場は・・・。


「はい、じゃー次ね。眷族だかなんだか分からないけど、私の意識を乗っ取るなんて不愉快だわ。どういった存在なのか調べて出来れば私の力にキュウシュウしたいわ。これからはみんなで情報を共有する事。異論はないわね、あっても認めないわ。それじゃ、次」


「サトミ様さすがに今のは」


「セン、新しい食材の活用法と加工方法をピック達に教えてあげて。数日中に新しい道具が届くから使い方もしっかり教えてあげてね。あと、お酒は当分使用禁止とするわ。それから可能な限りヨーコと三ツ星を相手に訓練すること。後、マガラニカ大洞窟にも潜りなさい。次は」


「ヴァシルとレフスキ、貴方達の名前を付けた『ヴァシレフ』って植物はセンが命名したの。貴方達との友好を願ってね。その『ヴァシレフ』を取引したいのだけれど生産は可能なのかしら?可能だとしてどれくらい取引出来るのかしら?交換出来る物資は何が良いかしら?後、石碑の予言をもっと詳しく知りたいわ。それに武器の事も。その辺りを出来るだけ早く纏めてくれるかしら」


「次は片栗粉の増産とジャガイモの生産量、干し芋の」


「サトミ様話が完全に違っています」


「・・・話は終わりよ。ヨーコ、5人の戦いが終わったら武器を返してあげて」


「畏まりました」


 

王女を残して僕たちは庭へと向かった。僕の意見は反映されない事になっている。どうしてこうなった、て気分だ。

 3:2で睨みあう5人。ヨーコが開始の号令を掛ける。

 勝敗はすぐに決した。ノブと麗美と美月は行動できずに敗北した。睨み合った時点で負けていたのだ。

 双頭の蛇種の固有技、睨み。目から特殊な波長の光を出して相手を催眠状態にする。初見で見破るのは不可能だろう。僕もアレにやられたんだ。なお効果範囲は5メートルとかなり広い。

 勝敗が採用基準とは、なっていなかったと思うんだけど。5人にヨーコが加わり固い握手を交わしている。3人が認めたのなら・・・ってそんな問題じゃないよね。

 しかし、アウェー状態の僕に拒否権はなかった。かくしてヴァシルとレフスキは僕のお供となった。


 ヴァシルとレフスキは、王女の依頼の為に一旦村に戻る事になった。すぐに戻ってきますと息巻く2人を見送った。



 僕たちは4:2に分かれヨーコと三ツ星を相手に実戦稽古。

 三ツ星がいると僕だけ稽古にならない事が判明した。稽古開始と同時に三ツ星に押さえ込まれ終始舐められ頬擦りをされ続けた。麗美とノブが三ツ星を引き剥がそうと奮戦するも尻尾のみであしらわれる始末。美月はヨーコに掛かりっきりで援護しようとすると投げ飛ばされていた。

 全員動けなくなった所で稽古は終了。”樹珠の恵み”を飲んで反省会。

 厨房に顔を出し、ピックとリーフに『ヴァシレフ』の葉の乾燥を頼み、弁当を作った。

 準備が整ったのでマガラニカ大洞窟へと向かった。



 マガラニカ大洞窟は魔物が毎日湧く様になったそうだ。厳密には、大ホールから行ける5つの支洞だそうだ。種類はバラバラだが余り強くないので冒険者の鍛錬場とする事にしたそうだ。入場制限があり、1日3PTパーティーのみ。勿論建設作業が休みの冒険者に限られる。1度入った事のある冒険者は、1巡するまで順番待ちとなったそうだ。5つの支洞で1箇所だけ未だ最奥部分が掴めていないらしい。


 僕たちは大ホールまで小走りで駆けてきた。入り口から大ホールまで土が敷かれていた。おそらく転倒防止の為だろう。

 美月はともかく麗美もノブも僕もちょっと息が上っていたので小休憩。うーん、かなり体力が付いているのを実感する。数日でこれは、確かに異常だろうと思う。ヨーコと稽古してると実感し難いけれど。

 大ホールのある6つの穴。入り口と5つの支洞だ。5つの支洞にはロープが張られ札が4つ掛かっていた。

 僕たちは札のないロープにヨーコから渡された札を掛け、支洞の奥へと進んだ。

 支洞内を照らす光虫の灯りが黄色に変化していた。何でも通路は色を付け、開けた場所では白色にするらしい。冒険者の知恵だそうだ。だから、鉱山では灯りの色は趣味であるそうだ。

 壁や天井や地面に影が出来ている。入り口とは大違いだけど、こちらの方が洞窟内だと強く感じられた。

 地面は結構凸凹していて道も蛇行していた。これでもかなり慣らされたのだろう、天井や地面を削った跡が随所に見て取れた。

 数日しか経っていないのに冒険者のバイタリティーには驚かされる。時折ノブが天井部分に頭をぶつけそうになっていた。

 どうやら、緩やかな下りになってきた。転ばない様に注意しながら進む。

 洞窟内を照らす光虫の入れ物は水がタップリ補充されていた。

 どうやら、底に着いたのか少し開けた場所に出た。光虫の灯りが白に変わっていた。奥になるほど広い空間があるのだろう、所々闇が深いようだ。

 僕たちは小休憩する事にした。


「ふーっ、やーっと解放されたぜ」大きくのびをしながらノブが呟く。


「ノブたちにはかなり窮屈だったかもね、何回も頭ぶつけそうになってたし」


「帰りも通るのかと思うと気疲れするな。そうだ、美月の剣で切り取りゃ良いんじゃねえか」


「そうだね、僕たちも利用するだけじゃなくて、みんなが利用しやすい様に協力出来る事をやろう」


「センチーがそう言うなら。でも先ずはセネルギー補充」


「私も協力するよ。撫でて撫でて」 


「結局ここまで魔物には出会わなかったな、奥にいる可能性が高いって事か」


「いないかも知れない」


「そうだね、いない可能性もあるね」


「いなくてもかなり歩いたし結構な運動だよ」


 

 奥へ進むにつれ天井がかなり高くなり横幅も広くなってきた。しかも温かくなってきた。

 周りにはごつごつした岩があって影が其処彼処に出来ていた。

 この辺の岩を少し片付けようと提案すると麗美が魔力散弾で一掃してしまった。すこぶる力加減が上達している。

 かなり見晴らしが良くなり影による死角が減った。ただ、僕たちは光虫の灯りを持っていない為に新しく設置したりする事が出来ない。既存の設置された灯りを頼りに奥へと進んだ。

 楕円形の卵のような岩が点在するやや開けた場所へと出た。灯りは奥へと続いていたので進むことにした。

 すると美月がストップと進行停止を告げた。

 美月の見つめる先にある卵形の岩が揺れた。否、動き出したのだ。


「油断、危険」


「おいおい、コイツら全部とかなしだぜ」


「取り敢えずここは走ろう、囲まれる不利は避けないと」


「進むの?戻るの?」



 後方の卵形の岩は全て動き出していた。

 ならばまだ動きの少ない前方に活路を見出す事にした。進むと告げて駆け抜けた。

 前方の通路が若干狭くなっていた。其処で迎え討つ事に決めると、後方へ向き直り卵形の魔物を視界に収めた。

 1.5メートルはある石製のネズミみたいな魔物だ。全部で10体の魔物が、かなり鈍重な動きでドスンドスンと地面を揺らしてこちらに向かってくる。かなりの重量があるみたいだ。

 一番手前の敵が3メートル程の距離に近づいた。もうすぐ僕たちの間合いになるはずだった。真っ直ぐ上に1メートル飛び跳ねたと思ったら、そのまま空中で前後に高速回転を始めた。そして何かに弾かれた様に猛烈な勢いでこちらへ向かって突っ込んできた。

 回避、避けろと美月とノブが叫んだ。僕たちは一斉に横に飛び退いた。

 砲弾と化した魔物は洞窟の壁に小さなクレーターを作りめり込むも、モゾモゾして壁から落ちるとこちらに向き直った。定番だとお腹が弱点なんだけど、全身石で出来てる様にしか見えない。

 さて、どうやって戦おうか。


「麗美、ちゃちゃっとやっちまえ」


「だめだよー、王女様と約束してるし」


「麗美が正しい。動きは遅いから叩いてみる」


「わかった、美月の案で。叩こうか」


 魔物と遭遇しても”魔砲や魔力剣を使用せずに倒す事”が洞窟での訓練課題だ。危ない時は、ノブの盾を使って逃げても良いとなっている。

 こちらの届かない距離から砲弾となって襲い掛かる魔物に対して、近づいても無意味なので飛んで壁にめり込んでから、叩いたり突いたりする。見た目通り固い。それでも、何度も何度も叩く叩く叩きまくる。こちらの手が痺れました。背中もお腹も頭も全部固い。


「固いね。手が痺れちゃう」つい愚痴がこぼれた。


「固いなんてもんじゃねえ、固すぎだろ」ノブが相槌を打つ。


「私も手が痒くて痺れていやー」麗美もストレスが溜まってるみたいだ。


 美月が”誘導する”と呟き敵に近づいた。

 美月の背後には、まだ壁にめり込んでモゾモゾしている魔物がいた。

 美月が自分を標的とした魔物の砲弾を軽くかわすと、魔物同士がぶつかり死んだ。

 移動速度が鈍重な魔物はとても誘導しやすい。魔物同士を衝突させる事で共倒れを狙ったり、負傷させる事が出来た。また、固い外皮が傷ついた魔物は叩いて突いて倒す事が出来た。

 残る魔物は2体となった。2体の位置を確認する。ノブに声を掛けると僕の意図を察知したのか頷いた。でも。念のため言葉にする。


「残り2体を直接ぶつけよう。ノブ協力よろしく」


「おう、アイツは俺に任せろ」


 僕の掛け声で僕とノブは走り出す。お互いの前と後ろには魔物が。2体の魔物が飛び跳ね高速回転し、砲弾の様に僕とノブを目がけて飛んできた。


「ノブ」


「セン」


 お互いの名を呼び砲弾と化した魔物を避けると、バアアァァンと大きな衝突音と共に2体の魔物は共倒れとなった。

「やったな、セン」駆け寄ってきたノブに高い高いされた。僕の胸に顔を埋めている気がしたので、止めてと言っても止めなかったので膝蹴りを見舞った。ふらついたノブに美月と麗美が制裁を加えた。

 魔物達の死体は液状化して地面に吸い込まれる様に消えた。この洞窟の魔物は死んでから魔素化せず地面に吸収される様に消えてしまう。

 現在の所、原因不明。

 後に残ったのは、1円玉大の薄っぺらい石。この銀色に輝く石こそ魔鉱石だ。

 王女から、一通り見せてもらったので間違いない。必ず回収する様に言われている。全部で37個回収できた。1匹3~5個とばらつきがあったがなかなかの収穫だと思った。

 光虫の灯りに照らし出された道が更に奥へと続いていた。4人で話し合った結果、今日の探索は此処までとして拠点へと戻る事にした。


お供が出来ました。しかし、活躍はまだまだ先の予定です。

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