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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第1章 拠点編
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11.食材探し

 気持ちの良い朝だ。――――視界に縛られたノブが入るまでは。いつも早起きなノブが、身体をウネウネくねらせにやけた寝顔をさらしている。ロープを解くため近寄ると――――「そんなに強く抱きしめられたら動けないぞ、この野郎」とチュパチュパと口を開けたり閉じたりしている。瞬間、背中に怖気を感じ身震いした。

 しかし、縛ったまま放置するのも可哀相なのでロープを解き部屋を後にした。僕は記憶から消し去った。


 朝の日課(朝食作りと調理指導)を終え、朝食を摂りヨーコとの実践稽古。昨日あれだけ褒められたのにやっぱり当たらない。本当に強くなっているのか分からなくなる。

 稽古の後に飲むと美味しいあの飲み物は、”樹珠ジュジュの恵み”と言うそうだ。一旦美味しいと感じると、最初より抵抗なく飲める様になってきた。慣れって恐ろしい。


 

 中庭で『義風』と合流した僕たちは、拠点から真っ直ぐ進んだ先にある湖とその周辺を探索する事にした。

 拠点と湖の間には、2~3メートル丈の草が分厚い緑の壁となって行く手を遮っていた。

 気が付くと『義風』の面々の装備が切り替わっていた。


「ちょっと待ってろよ・・・これを首から掛けとけ」とアルトリウスが簡素な首飾りを僕たちに手渡してきた。なんでも虫除けの効果があるそうだ。

 準備が整った所で、草の中へと分け入っていった。隊列は一昨日の洞窟探索と一緒だ。草は刈らない。虫や獣に余計な刺激を与えないためだ。

 これだけ丈の高い草が密生しているとやや薄暗い。地面はしっかりしていて、枯れ草が積もったりしていないので歩きやすい。というか、枯れ草がない。青々と繁った緑が続く。時折、獣道を見かける。引き摺った様な跡が見えるものは、虫って可能性もあるけれど。

 普通なら蜘蛛の巣なんかあってもいい筈なんだけれども、全くない。聞こえる音は、草をかき分け擦れる衣擦れと僕たちの未熟な足音。エステルとエリシアは知ってたけど、アルトリウスもチャサもセガも足音を忍ばせて移動している。さすがは冒険者。

 

 1時間ほど進んだ頃、小休憩を挟む。エステルとアリシアが、干し肉と飲み物を配ってくれた。

 ここに至るまで、目にした植物は1種類だけ。幅30センチは有る長く肉厚な葉っぱが連なる植物。葉っぱはかなり固い。結構いい繊維が取れるかも知れない。葉っぱを少し切り取り、しみ出た液体を肌に付ける。しばらく待ってみたけど、赤くなったり痒くなったりはしなかった。囓ってみたけど青臭くて固くて不味い。食材には適さないだろう。飾り付けの皿として使うのは有りかも。

 その後も1時間毎に小休憩を取りながら進んだ。首飾りの効果かエステルの案内のお陰か、虫等に襲われる事もなかった。

 

 

 先頭を行くエステルの足が止まる。スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる。物凄く良い匂いがするそうだ。アルトリウスの視線にエリシアも同意の頷きを返す。匂いの元へと注意深く進んでいく。

 それは突然おこった。ふにゃー、とエステルが気の抜けた声を上げると同時に倒れ込む。続いてエリシアも。

 慌ててアルトリウスがエリシアを抱き起こし、チャサがエリシアを同様に抱き起こす。抱き起こされた2人は、「ふにゃー」とか「うにゅー」しか発しない。目はぱっちり開いているが焦点が合っていない。セガが左手に持つ本を開いて何事か唱えると、2人が正気に戻った。

 一瞬だけ。すぐに2人は「ふにゃー」「うにゅー」しか言わなくなる。

 セガの魔法は一瞬とはいえ、確かに効果があった。しかし、アルトリウスもチャサもセガさえも初めての経験らしく浮き足だっていた。

 もう一度セガが同様の魔法を使用する。結果は同じ。

 美月がぽつりと呟やいた”猫にマタタビ”と。

 なるほど、猫はマタタビ系に酔う。ライオンとかは杉系に酔うんだっけ。

 ならば今の彼女たちも匂いに酔っていると考えるべきか。僕たちには嗅ぎ取れない匂いに。試してみよう。 僕は守護の鎧衣の袖口でエステルの鼻と口を覆ってみた。効果覿面だった。

 正気に戻ったエステルが顔を真っ赤にして抗議の声を上げて暴れようとするのを、アルトリウスが押さえつけて説明してくれた。エリシアの方は麗美が戻してくれていた。守護の鎧衣を脱いで渡そうとしたら、みんなに止められた。確かに、僕が逆の立場だったら受け取れない。万が一にも自分が受け取ったばかりに相手が怪我なんかしたら最悪だ。

 でも困ったな、このままでは進めない。うーーんとみんなが頭を悩ませていると、ノブが笑い出した。


「ついに俺の出番だな。センの悩みは俺が解決してやる。エステルとエリシア。2人とも俺の盾に触れてみな」と万能武器を盾に変えたノブが自身満々に胸を張っていた。


『義風』に疑いの目を向けられた僕たちは、苦笑するしかなく”物は試し”と言う事しか出来なかった。

 半信半疑のエステルとエリシアがノブの盾に触れた。2人の口と鼻を覆っていた守護の鎧衣を引っ込めて様子を見た。問題ない様だ。グッジョブとノブを褒めた。

 特にエステルとエリシアの”匂いが分かるのにどうもない”って言葉は衝撃だった。守護の鎧衣は外でシャットアウト。でもノブの盾効果は体に不利益な事が起こる事を無効化するってことなのかな。

 ノブが鼻高々に笑っていると、美月が反撃に出た。


「注意。ノブは透明になる。着替えやお風呂を覗く・・・カモ」


 最後の部分は誰にも聞き取れなった事だろう。アルトリウスの”うらやましいぞ、こんちくしょー”という心からの叫びの所為で。 


「ノブ君て、とってもスケベなんだね。がっかりだよ」


「女の敵」


 謂われのない罪でエステルとエリシアに警戒されてしまったノブだが、特別気にした風もない。羨望と嫉妬と蔑みの視線を受け流す。流石はノブだ、器が大きい。

 

 一悶着有ったが匂いの正体を確かめる為、隊列を整え再び進む事になった。進むにつれ甘い香りが漂って来るのが僕にも感じ取れた。更に進むと草丈が徐々に短くなりーーー青く澄んだ水面と色取り取りに咲き乱れる花々、むせ返る様な甘い香りに満ちた場所に出た。

 近くにある真っ白なスズランの様な植物に近づく。花自体が結構な大きさだ。その花からは、バニラの香りがする。エステルが花を千切って食べた。途端に顔が綻んだ。


「美味しいー。何これ、美味しいよ。ほら、セン君も食べて食べて」


「ちょっとエステル、そんなに簡単に口に入れないで。毒でもあったら危ないよ」


「どれ、俺も味見してみるか」アルトリウスが花をもしゃもしゃ食べる。


「うっめー。お前等と来て・・・」


 ばたりと倒れるアルトリウス。痙攣を起こしている。セガの魔法でアルトリウスを治療する。


「・・・死んだ爺さんに会った気がする。・・・助かった」項垂れるアルトリウス。


「アル、ごめん。でもどうして。私は何ともないのに」


「たぶん、ノブの盾に触れたお陰かも知れない。今のエステルには、毒物は効かないのかもね」僕は言葉を続ける。

「だから、どれがエステル達に異常を起こした物かもわからない。何種類か持ち帰って、個別に検証してみないと」


 もし想像通りならノブの盾は、異常なくらい高性能だ。でも、攻撃力なら美月と麗美の2人も・・・。


「じゃあ、俺は食べても平気なんだな」とノブが言いながら花を食べた。美味いと連呼するノブ。エステルとエリシアも食べるのに夢中だ。

 3人を放置して、持ち帰る為の植物を採取する事にした。そんな採取作業中出会ってしまった。



 ブオォォォォン。音のした方を見れば、フサフサした金色の毛に包まれた丸くて巨大な蜂がいた。目の部分は紫色、他は黄色。遠目に見れば、黄色に金色の巨大なボールが浮いている様にしか見えないだろう。ガチガチと上顎を鳴らしお尻を向けたかと思えば、巨大な針を飛ばしてきた。それは途中で小さな無数の針に分かれて飛んできた。後ろに飛び退きながら、こちらに届きそうな針を棒でなぎ払う。


「くそっ、1番か。何匹いる」長剣を構えたアルトリウスが短く叫ぶ。


「100以上。囲まれてる」弓矢を番えたエステルが間髪入れず答える。


「ふっ、上等。我が切り捨てる」チャサが盾と剣を構えて前に出る。


「見栄張っちゃって、しょうがないわね全く」エリシアがスリングを連射する。火の玉が巨大蜂へと飛ぶ。


「仕方ないね。僕だけ逃げるわけにはいかないか」戯けたセガが本を開き長く呟いている。


 いつの間にか『義風』に囲まれ守られる形となった僕たち。


「ノブ、仲間をしっかり守れよ」


「問題なーし。そっちこそヘマするなよ」アルトリウスの発破にノブが答える。


「『爆砕重バクサイカサネ』」


 セガが声を発した途端、空中に炎の華が複数咲いた。炎に包まれた巨大蜂が10匹、空中で消し炭となる。

 巨大蜂は本能でセガを脅威と認定したのか、10匹が一斉に襲い掛かる。我が身に迫る巨大蜂を気にも留めず、セガはまた長く呟いている。

 3匹の巨大蜂がセガに針を飛ばすが、チャサはその全てを淡淡と受け止め、あるいは叩き落とす。その3匹をエステルの火矢が貫き絶命させた。直接襲い掛かる巨大蜂を、エリシアがスリングで牽制し、アルトリウスが近づく敵から順に切り伏せていった。互いが互いの役割をきちんとこなしている。良いチームだ。

「『爆砕二十重バクサイハタエ』」セガが声を発した途端、まるで連鎖するかの様に空中に炎の華が咲き乱れた。沢山の巨大蜂が消し炭となって消えた。ノブと麗美がセガの魔法に魅了されたのか食い入る様に見ていた。

 セガが3度目の魔法を使うと、物凄い騒音の羽音がかなり小さくなった。1匹でも十分五月蠅いんだけど。

 残るは、3匹。その中の1匹だけが、明らかに別格の大きさと威圧感を放っていた。女王蜂なのかも知れない。真っ赤な眼に赤と黒の縞模様。シャープな体つきに漆黒の羽。

 セガは魔法を使いすぎた所為だろうか、顔色が悪い。そんなセガを2匹が襲うがアルトリウスとチャサが切り伏せた。残るは規格外の1匹。

 じっと様子を見ていた女王蜂(仮)が攻撃に転じた。これまでの巨大蜂とは別次元の早さだ。チャサをかいくぐった女王蜂(仮)がセガに迫る。エステルの3連矢もエリシアの火の玉も全て躱した女王蜂(仮)。

「るあぁぁぁぁ」雄叫びを上げたアルトリウスが、炎を纏った長剣を振り下ろし斜めに切り上げ袈裟切り横薙ぎと連続で切りつけた。身体のあちこちに火傷を負った女王蜂(仮)が、ガチンガチンと上顎を噛み鳴らし一旦距離を取る。


「全く頑丈な虫だぜ」長剣を構え直し、アルトリウスが笑顔で愚痴る。


「その割には、随分と楽しそうだねアル。さてと、我も名誉挽回といこうか」チャサが両手に剣を握っていた。


「こっちは任せて」エステルもいつの間にかスパイクの付いた幅広の腕当てを両腕に装備していた。


「それじゃ、出し惜しみはなしね」笑顔で微笑むエリシアも両手足に鉤爪の付いた装備にかわっていた。


「みんな、後は頼んだよ」セガが座り込んで目を閉じた。


「「「「当然!!!!」」」」4人の声が重なる。


 女王蜂(仮)が針を連続で飛ばし、再びセガを目指し飛び込んでいく。

「「甘い甘い」」エステルの動きがさっきとはまるで違った。女王蜂(仮)との距離を一足でなくして全ての針を弾き散らし殴りつける。否、エリシアと2人で女王蜂(仮)を攻め立てている。

 そこへチャサが加わる。ギャリィン、ガチーン、キィーンといった音の中、女王蜂の強固な外骨格に無数の傷が刻み込まれていく。3人の猛攻で羽を全て失った女王蜂(仮)だが、4足で立ち攻防を繰り広げていた。


「これでぇー終わりだあぁぁー」


 だが、戦闘の終わりを告げるアルトリウスの声が響き渡ると女王蜂(仮)の命は絶えた。

 炎を纏った大剣で頭を切り落とされ、内部から炎で焼かれ灰となった女王蜂(仮)。その灰の中で魔鉱大結晶が青銀色の輝きを放っていた。

 

「こいつ魔物だったのか」額の汗を拭うアルトリウス。


「見た目から違ったからね。顔も力もすっごく凶悪だったし」言葉とは違ってエステルはホクホク顔だ。


「2日続けて魔物と戦闘。それも新種。いやはや、我々は幸運なのか不運なのか」にやけたチャサが空を仰ぎ見る。


チャサあんた、にやけ過ぎ。小芝居うざい」エリシアの容赦ない突っ込みが炸裂する。


「今日はもう疲れた。僕は帰って寝たい」


 セガの言う事は本心だろう、まだ顔色が良くない。そこで昼食用にあの飲み物を持って来ていた事を思い出す。1口飲んだセガが感嘆の息を漏らす。


「まさかこんな所で”樹珠の恵み”を飲めるなんて・・・有り難う。生き返ったよ」セガが感謝の意を示す。


 戦いもせず守られていた僕たちこそ感謝している。素晴らしい実戦も見せてもらった事だし。


「さっさと戻るか、最近は何が出るか分らねー」


 真面目な顔のアルトリウスの言葉に浮かれていた『義風』の面々が表情を引き締め頷く。僕たちも採取は済んだので異論はなかった。


 

 ザバァーッ、複数の音が近くで聞こえた。

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