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仲間と紡ぐ異世界譚  作者: 灰虎
第1章 拠点編
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1.邂逅

初めての投稿になります。


 薄暗い森の中を呼吸を荒くした若者が1人、大きな荷物を背負い更に3つの長い袋を引きずり進む。

 若者はかなり疲弊しているようだが、その眼だけは未だ力が宿っている。

 若者の足跡と引きずった後が一瞬だけ青白い光を放ち霧散する。高濃度の魔素マナを蓄積した落ち葉が、壊れる時に魔素を放出しているからだ。

 しかし、そんな幻想的な光景を気にも留めず若者は進んでいく。



 若者は疲労感や喉の渇きよりも、大切な者を失うかもしれない恐怖と戦っていた。

 森の出口は未だ見えない。それでも進むしか無い。

 4日前に戻れたらと、何度も脳裏に浮かんだ考えを頭を振って消し去る。

(果たしてこの森を抜けた先に希望はあるのか。少なくともこの場に留まるより良いに決まっている。そう思わなければ進めない。否、立ち止まったらもう動けなくなってしまう)



 ようやく変化が現れた。前方の地面が緩やかに下方へ傾斜している。薄暗い森の中は、同じ景色だけが続く。下りの斜面の先は薄闇に包まれている。

 その先が谷なのか断崖なのか平地なのか。

 常なら慎重に滑らない様に進むべき所だ。

 だが若者は、そんな行動が取れないほど消耗していた。



「賭に出る。みんな、失敗したら御免ね」


 若者は3つの長い袋をロープで一つに纏めると、荷物から大きなシートを取り出し片方に結びつける。シート中央にストックを2本突き差す。先程纏めたものがそれ以上手前に来ないようにする。

 いよいよ反対側のシートをひっぱり斜面を下る。



 元々踏ん張りにくい足場に加え、傾斜しているので、すぐに滑り始める。

 滑り始めた所でシートに腹這いになり、両手に握っていたストックを軽く突き刺す。

 頭から斜面を滑走していく。傾斜が緩やかな為、そこそこのスピード――――どころかとんでもないスピードだ。巨木に当たりませんようにと、祈りながら滑っていく。すると、まるで巨木が自ら避けるかの様に青白い光の帯を描きながら滑走していく。

 目紛るしく変わる現前の光景。突如、光と闇の境界が現れる。

 若者は最後の力を振り絞り、両手に握り締めたストックを思い切り地面へ突き刺す。

 必死に止まろうとしたが減速しきれなかった。

 両手は簡単にストックから離れ身体毎前方に飛んでいく。

 突然、光が溢れ世界が白く染まる。

 眩しい光に包まれたと思ったら浮遊感が。くるりと反転し、背中にもの凄い風を感じる。

(あー、落ちてるなこれ。みんな御免)


 痛いくらい眩しかった光に目がようやくなれた。再度反転する。

 どこまでも続く青い空と雪を被った山々が連なり、眼下には広大な緑の平原と煙?

(うーん、落下しているのになんでこんなに冷静なんだろう。あれか?これが諦めの境地か。大体こういう状況って、激突前に気絶するんじゃなかったけ?できれば逝く時は無痛がいいな。あっ、煙の出所付近だけ整地されてる。人がいるっぽいな。あー墓とか作ってくれたりしてくれるかな?ノブ・麗美・美月。本当に御免ね)


 と、ふいに落下が止まった。

 ???

 え?

「どうして空から降ってきたの?ねえねえ?」突然少女の声が。


「わわっ。だれ、どこ。え?」重い頭を懸命に動かし声のした方を向く。目の前に、巨大な三毛猫らしき生物に跨がった2人の少女がいた。


「うーん、もしかして気絶して夢でも見てるのか。どの辺で気を失ったのだろう。それにしても巨大な三毛猫に人が乗ってるとか、普通は走馬燈を見るんじゃないのか」


「何を言っている、そこの変な奴。サトミ様の質問に答えろ」鮮やかな朱色の髪をポニテにした赤い瞳が印象的な美少女が、右腕を突き出し人差し指をこちらに向け睨んでくる。どうやら若者の考えは、独り言として漏れ出ていたようだ。


「落ち着いて、ヨーコ。たぶん彼は、軽く混乱してるのよ。ね、あなたも落ち着いたかしら」そういって最初に聞いた声と同じ声を発する、艶のある黒髪ロングの愛らしい少女が小首を傾げて問うてくる。


(さっきまで体が重かったが意識まで飛びそうだ。この際2人が最悪夢でも何でも良い)

「この上の森に仲間が3人倒れてる。どうか助けて欲しい。ブルーシートがめじる・・・」

 若者の意識はそこまでだった。



 三毛猫に乗った2人の少女は、目の前の若者が気を失う前に発した言葉に衝撃を受けた。この上にある森はたった1つ、マガラニカ大森林以外にない。2千メートル以上の切り立った崖の上に広がる死の森。現在でも魔素の濃度が高いために、人種はおろか生物は住めないとされている場所だ。


「まさか!どうしてマガラニカに」黒ずくめの小っちゃな少女、サトミが目の前で気を失った若者を見つめながら驚きの声を上げる。


「愚かな駆け出し冒険者みたいですね。どうしますサトミ様」もちろん答えは解っているが一応訊ねる朱色の髪の美少女。


 サトミは暫し考える。

(この若者と3人の仲間とやらは冒険者なのかしら。仮に冒険者だとして、マガラニカ大森林に有用な資源は特に確認されてないしリスクしかないように思える。そもそもキジュウも使わずにどうやって登ったの。それともキジュウが逃げ出しちゃったとか。だから落ちていたのかしら。倒れている仲間とやらは魔素中毒で動けないと考えるのが妥当よね。でも、魔素が高いのは冒険者なら知ってるはずじゃ。まさか本当に駆け出しだから知らない?だめね、答えは助ければ解る事だし、まずは救助ね)


 ヨーコは思考中のサトミを見つめている。

 そんな2人をよそに、巨大な三毛猫が気を失った若者を両前足でがっしりと掴み優しく舐めている。


「一度彼を拠点に預けて急いで残りの3人を保護するわ」思考から現実に戻ったサトミが告げる。


「かしこまりました。三ツ星、まずはそれを連れて戻って」ヨーコが巨大三毛猫の三ツ星に指示を出す。しかし、三ツ星は断崖上方を見上げ両耳をしきりに動かしている。その動きを見た2人は猶予がないことを悟る。


「サトミ様」


「わかってる。急いで保護した方が良さそうね」


 2人の考えが同じである事を短く確認し合うとヨーコが三ツ星へ新たな指示を出す。


「三ツ星、残りの3人の元へ急いで」 巨大三毛猫の三ツ星が了承の合図でもあるかのように一声鳴き、一気に加速し上昇する。


「今日は驚くことばっかりね。三ツ星がヨーコ以外でこんなに懐くなんて初めてじゃない?」


「ええ。信じたくありません。悪夢です」


「そうよねー。私だって乗せて貰えるまで1週間はかかったもの。でも返ってそれがこの子達が悪い子達じゃないって事よ」


「まぁ、直接の害はなさそうですね。ただ気を許してはいけません」


「はいはい。全くそんな心配がないって事は、ヨーコが一番わかってるでしょう。うっふふっ」


「・・・?」


「どうかした?」


「その、先程から三ツ星が癒やしているのに目覚めるどころか顔色が悪くなっていってるような」


「え?ちょっと待って」サトミは生命力と気力をグラフ化して可視化できるオリジナル魔法をつかう。


 魔素中毒だと思っていた若者の生命力と気力が回復したかと思うと悪化するといったシーソーゲームを繰り返している。


「どういうこと、魔素中毒じゃない?マガラニカ大森林は高濃度の魔素のために死の森のはず。一体何が?」


 *魔素中毒は、魔法の使えない一般人が魔素を排出できずに体内へ蓄積した状態、若しくは魔法士が過剰に魔素を取り込みすぎた場合におこる症状。放置すれば最悪死に至るものの、現在は初級の『排出の魔法』ディスチャージで簡単に治せるのだ。因みに三大騎獣であるトリコ種の三ツ星は、癒やしや吸収などの特技が使える。


 サトミの発した魔素中毒を疑う言葉に、ヨーコは困惑の表情を浮かべるが瞬時に周囲への警戒を強めた。ヨーコの髪の色が金色を帯びた紅色になり、瞳が鮮やかなピンクに輝く。


「あ、そんなに警戒しなくて大丈夫よ」


「も、申し訳ありません」


 ヨーコの左手に自分の左手を重ねサトミが告げると、変化していたヨーコの容貌が元に戻る。


「いざって時はお願いね。あ、私も見つけた」



 断崖の頂上に辿り着いたサトミ達は、あっさりと目的の3人を発見した。

 マガラニカ大森林の入り口。

 よく目立つ青い敷物に取っ手の付いた金串が4本突き刺さっていた。

 3つの細長い袋が一纏めに括られた物体を金串が止めていた。

 もう少しずれれば崖下へ転落していたであろう位置に。


 ヨーコが三ツ星から飛び降り、3人を確認する。3人ともまだ生きていた。

 サトミは一人ずつ診て驚く。3人には再生と防護魔法の様なものがかかっていた。ありえない量の魔素をその身に宿し生きていられるのは、この未知の魔法の所為だと気付く。魔素中毒であることを確認したサトミは、試しに身近な1人に『排出の魔法』を施す。


 結果は失敗。弾かれた。


「え」


 否、反射された。途端に立ちくらみをおぼえふらつくサトミ。ありえないモノをみたヨーコが心配で顔を歪ませ叫ぶ。


「サトミ様ー」


 ヨーコを片手で制したサトミは、俯き小刻みに体を震わせていた。


「ホント、今日は驚かされてばかりね」いつもの愛らしいサトミの顔に喜悦が浮かぶ。


 サトミは新たな魔法を発動する。

『解呪の魔法』ディスペルの薄緑の靄が先程の者を包み込む。

 反射された。永続探知魔法の効果が施された指輪が塵となって消えた。


「っふふ。っははははははははははは。何よ上等じゃない」サトミは笑いながら思考を巡らせる。


(こんな状況じゃなければ、この魔法を解析・研究したいわ。でも助けると決めたからには助けないと格好つかないし。複数効果の付いた未知の魔法。打ち消すならアレしかないわ)


 ヨーコはこの様な状況にも関わらず、サトミがこんなに楽しそうにしているを久しぶりに見た。


「ヨーコ、三ツ星と一緒にちょっと離れてて」


「三ツ星」これから使用される魔法を理解したヨーコは、三ツ星に飛び乗ると宙空へ退避した。


『完全無効化の魔法』パーフェクト・インヴァリディティがサトミを中心に半透明のドーム状に広がる。

 サトミが魔法を発動するコンマ数秒前に、三ツ星に保護されていた若者は死んだ。と同時に3人を保護していた未知の魔法も消え去った。遙か彼方から飛来した小さな小さな光が若者の体内へと入り、そして若者は生き返った。この間1秒にも満たないまさに一瞬の出来事。この事に気付いた者は誰もいない。ただ三ツ星だけが知覚していた。



 半透明のドームが消え去ると、サトミは3人にかかっていた未知の魔法が消えているのを確認した。


「勝~利!」


 何と戦い勝ったのか知らないが、サトミは満面の笑みを浮かべ右拳を突き上げていた。

 そして、3人に『排出の魔法』を施す。3人は苦悶の表情から一転、穏やかな表情で安らかな寝息を立てていた。

 サトミは三ツ星が大事に抱えている若者を診る。先程までの症状が消え眠っている。


「ま、終わりよければ全て良し?」と僅かに小首を傾げ笑った。


「お疲れ様でした。サトミ様」


「ええ。戻るわ」


 ヨーコは正体の不確かな4人を脅威と認定していた。

(魔法の反射は、かなり高度な魔法。しかも『解呪の魔法』を反射するとなると、とんでもない高等魔法だ。 王国内に解呪の魔法を反射できる者など、片手で足りるだろう。三ツ星の直感は確かに信頼できる。だが決して油断はしない。私がサトミ様を守る)


 ヨーコが差し出した手をしっかりと握り返したサトミは、6人と1匹で遙か下にある建設中の拠点へと急いだ。

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