吸血姫
ぐうううぅう〜。
「……」
俺は空腹によって目を覚ます。
しかしここは洞窟。見渡す限りであるのは泉だけだ。
ん?そういえば肩は……
!?
「治ってる……」
傷跡は残っているものの、元の機能を取り戻していた。
それからどうしようか、と考える。考えている間にも腹は減る。
なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないのか。最近はそれだけを考えていた。
3日間に及んで俺は泉の水を飲み、膝に顔を埋め、泉の水を飲むことを繰り返していた。
そしてついに限界が訪れた。
4日目の起床と同時に極限の飢餓による限界が見え始めた。
あんなとこに肉っ!?
俺は齧り付いた。
ガリガリと随分と硬いが構わない。
「!?ッゲホッ!オエエ!!」
それは肉なんかじゃない。それは岩だった。
「クソ……。」
絶対に生きてあの王を殺してやる……!
俺はまず、泉の水をできるだけ持っていきたかった。
調べてみたら泉の水は小さな丸い鉱石のようなものから湧き出てるようだ。試しに取ってみたら水の噴出は止まった。
「うーん。どうやったら水出るんだ?」
押しても出ないし、振っても出ない。
「あ、もしかしてエナってやつか?」
俺は思いっきり念じてみた。
エナエナエナエナ!
ポタッ。
出たっ!
そうか。エナを注げば水が出るわけだな。
さて、反撃開始だ。
俺はモンスターに出会わないように細心の注意を払いながら進む。
いくらやる気があっても勝てないものは勝てない。けれど遭遇したら逃げずに戦おう。
「kisyaaaaaa!」
「うおっ!」
この前のバケモン!
さて、どうやって戦うか……。
俺の状態はむしろ最初より悪い。空腹、精神衰弱、ステータス低下など挙げれば限りがない。
それに相手は硬い。俺の裸拳の衝撃は通さないだろう。
「gruaaa!!」
チッ!考えさせろよ!
襲いかかってくるバケモノからなんとか逃れるが、捕まるのは時間の問題だ。
なら俺が捕まえてやる!
俺を見失っているヤツの後ろに飛びついた。
「galalalaa!」
暴れるバケモノ。クソ!ちょっとは静かにしろ!!
グシャッ!
バケモノの右目をくり抜いた。
体は硬くても、目は柔らかい。大体の生き物はそういうものだ。
続いて左目をぶち抜く。
「gugaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
のたうち回るバケモノから飛び降りて暴れるバケモノを警戒しながら見る。
俺は近くにあった大岩を持ち上げてバケモノにぶち当てた。
「がああああああああ!!」
「giltu……」
そしてバケモノは微かな断末魔を鳴らし息絶えた。
さて、いただきますか。
表面は硬いバケモノだったが、中からは弱かった。口に手を突っ込み、上顎と下顎を引き裂いた。
表面の硬さからは想像出来ないほど肉は柔らかく、生のそれは美味しかった。
「腹も膨れたし、進むか。」
残った肉は上着にくるんで担ぐ。
そこから半日は進んだだろうか。何故かモンスターが一切出てこない。
「ん?なんだここ?」
二つの長方形を合わせた正方形の岩の扉がそこにあった。封印か?
開けたくねぇ……。でもここを開けないと進めないし、
「オラぁ!」
思い切り蹴破ることにした。
「うぉっ!」
俺にもわかる強力なエナ。俺にもわかる明確な敗北と確実な死。
「……貴様、何者だ?ただの人がここまで来るのはそうそうあることではないが…。」
声から察するに女。清廉な声、これで見た目が美しくなければ詐欺だな。
強力なエナによって伏せていた視線を上げると、絶世の美女という表現すらポイ捨てされたゴミに等しい。そんなに存在がそこにはいた。
「俺は異世界から来た。でも能力が低かったからここに捨てられたんだ。」
「ほう?異世界召喚は大体は強力なスキルとステータスに高位のジョブが授けられるはずだが、貴様ははみ出し者ってことか。」
「まぁそういうこと。で、ここから出るにはどうすればいいんだ?」
美少女は歯を向いて笑う。
「そうか!ここから出たいか!ならば妾を屈服させて見よ!」
マジかよ!こんな規格外れのヤツに勝てるわけねーだろ!
それでもやるだけやるしかねえ!
「オラ!オルァ!」
俺の攻撃をいとも簡単に避け続けた美少女はつまらなそうに表情を歪めた。
「この程度か。つまらん。」
え?消え……
「貴様は今から妾の奴隷だ。」
ガブッ!
「痛っっっ!!」
「妾は吸血姫の真祖。そして、今から貴様も吸血鬼だ。」
なん・・・だと・・・!?
「案ずるな。見た目は牙くらいしか変わらないし、戦闘力も向上する。デメリットは妾に絶対服従くらいかの。」
美少女の奴隷にされるということに興奮は禁じ得ないが、状況が状況だ。
「ッ!?」
体が熱いッ!
「うぐぁぁぁぁぁぁあ!」
「な、なんだ!?どうした小僧!」
「体が!焼ける!うぁぁぁぁあ!」
内側から体内を焼かれるような痛み。肩を吹き飛ばされたときよりも耐え難い痛みにもがき苦しむ。
「はぁっ!はぁっ!……」
「だ、大丈夫か?」
確実にお前のせいだよねこれ。原因キミね?
「もう大丈夫だが、少し休ませてくれ。」
「うむ。あそこにベッドがある。ゆっくり休んでくれ。」
そして俺は久しぶりのベッドで眠ることにした。