生への執着
名前をジータから久夛良木慈庵に変更しました。
「……ん」
なんだここ?
目を覚ますと暗い道にポツポツと明かりが灯っている。そうだ。俺は騎士の一人に殴られて気絶したんだった。
「後戻りは……できなそうだな。」
後ろは明かりも何もなく、無作為に歩くのは危険すぎる。
『スルガよ。このダンジョンを攻略し、王国のため使命を全うせよ。』
その置き手紙と共に一振りの剣と木でできた安易な盾だけがポツンと置いてあった。
「今日来たばっかの俺に使命とか王国とかアホかよ。」
とにかく進むしかないか。
俺はビビりながら明かりを頼りに進む。
そして俺は出会ってしまった。
地球では決して遭遇することのないモンスターという存在に。
体は3mを有に超えていてゴツゴツした鱗のような肌。二足歩行でワニのような顔をしている。
「うぁぁぁぁあ!」
俺は逃げた。剣も盾も恥もすべてを投げ出して。
「kisyaaaaaa!」
動きはそう速くないものの、体長に比例して一歩が大きい。すぐに追いつかれた。
「くそっ!」
俺は落ちていた石をモンスターに向けて思い切り投げた。
野球部時代の名残りでそれなりの速度でモンスターに直撃したが、それは焼け石に水。
グシャッ
「……え。」
人間の筋力とは比較にならないその威力。
ただのパンチだったが俺の左肩は吹き飛んで、残った肉と骨に支えられながら腕がプラプラと垂れ下がってる。
「ああああああ!!くそっ!クソッタレェェェエ!!」
俺は痛みなどそっちのけで走る。もはや恥も外聞もない。あるのは生への執着だけだ。
死にたくない。もっと生きたい。
俺は細い道に駆け込み、岩陰に身を隠す。必死に息を殺す。
ドシン。ドシン。
モンスターの足音が聞こえる。そして俺の隠れている道の近くで足を止めた。
心臓の音がうるさい。モンスターに聞こえるのではないかと思うほどだ。
頼むっ!通り過ぎてくれ!
静寂が場を制し、俺は岩陰から少しだけ外を覗く。
そこにはただ暗い空間があった。
「……助かった…のか?」
ホッとしたら痛みと強い眩暈でおかしくなりそうだ。
それもそのはずだ。俺の左肩からは絶えず血が流れ出ている。
何か、何かないか。
俺はあたりを見回す。
少し離れたところに小さな穴が空いていた。特に何の変哲もない穴だが何故かそこに俺の命を救ってくれるものがある気がした。
痛みと眩暈を必死に抑え、小さな穴を這いながら進んだ。
奥地には広くはないものの空間があった。
そしてそこには、泉が湧き出ている。
「……水」
俺は泉に向かって走った。
そしてその泉に頭から突っ込んでがぶ飲みした。
「はぁ、はぁ。」
すると、急に睡魔に襲われ、意識を手放してしまった。
薄れゆく意識の中、俺は神秘的な泉をずっと見ていた。