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緊縛魔法からはじまる恋なんてない。  作者: 志野まつこ
第1章 女神の異世界スローライフデビュー
8/23

7、貴様、そんな言い訳が通用するとでも?

 私はここに来て初めて大声で泣いた。


 わーわーと、それは子供みたいに。

 これまで堪えていたものすべてを吐き出すように。

 

 それから肩を抱かれる。

 一瞬押し返そうとしたけど、正直今は人と触れ合うその温かさがありがたかった。

 衝動をこらえきれず、縋るところを求めて魔王の服をつかめば、両腕で強く抱きしめられた。


 迷惑なくらい泣いたと思う。

 その間、魔王はずっと強く抱きしめてくれた。


 魔王は5年前、一人でこれを耐えたのか。

 そう思うと、さらに胸が痛くなって余計に涙が溢れた。


 でもって、本当に迷惑だろうけど、全てを発散しつくした私はそのままその腕の居心地の良さに寝てしまったらしく━━


 目が覚めたら緊縛魔法━━とは間違っても思えない手足の拘束。

 なんて残念な。

 コミュ力に欠けた残念すぎる雰囲気イケメンを、目覚めとともに罵倒した。


 このクソ蛆虫うじむし野郎。

 そんな言葉、二次元限定の産物かと思っていたけど、案外すんなり出て我ながら驚いた。


「冗談だって」とか、こんな悪質なの冗談で済むか、バカヤロウ。


「床に寝かせるわけにもいかないから、ベッドに寝かせものの、起きた時勘違いして大暴れしそうだったから」


「そんな言い訳通用すると思うのか!!」


 わたしは思いつく限りの言葉で罵り、最終的に「髪なんて切ってしまえ」とか訳の分からないところに行き着いていた。


◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆

<魔王の困惑>


 大泣きして寝落ちした人間を、床から抱き上げてベッドに寝かせるのは骨が折れそうだと思ったけどやってみたら案外すんなり出来た。


 人の寝顔なんて、何年振りだろう。


 黙ってたら割と好みの顔なのに、口を開くとキツくて仕方ない。

 まぁ、あたりがキツい原因は俺にあるのは分かってる。


 あー、こいつ起きたら暴れそうだよなー。

 また台所のナイフを持ち出しかねない。


 考えた末、ナイフを隠した。

 目が覚めそうになる頃、とっさに両手足も拘束させてもらった。


 また拳を痛めるレベルに怪我させるのも気が引けるし、何より。

 人を傷つけた後の後悔はけっこうキツいもんがある。


 誤解がない事を確認したらすぐに外そう。

 その時はいい手段だと思ったけど━━結局、散々怒らせただけだった。


 そりゃそうだ。

 寝てる間に手足縛られてたら誰だってキレる。


 後で気付いたけど当然遅いわけで。


 初めて会った時からしばらくの間の俺の言動もおかしかった。


 言われて冷静に考えたらあり得なかった。

 あっちだったら通報モノで、友達も完全になくしてるレベルだ。

 人間としての常識とか、尊厳みたいな物を失っていたような気がした。


 5年の間で人付き合いの仕方が完全に分からなくなってると自覚し、ひどい自己嫌悪と、恐怖を感じた。


 でもって、俺はどれだけあいつに怯えてるんだろうと、女神愛用の棍棒をドアの外に立てかけながら暗澹たる気分に陥った。


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