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緊縛魔法からはじまる恋なんてない。  作者: 志野まつこ
第1章 女神の異世界スローライフデビュー
7/23

6、うわー、いやなもん見ちゃったわ。

 30はもっと大人だ、とか5年って嘘じゃないかとか、不毛な言い争いになった挙句、「証拠を見せろ」「じゃあ見せてやる」ときれいな売り言葉に買い言葉で魔王の家に行った。


 最近はいかがわしい事を言わなくなって、割と日常会話が出来るようになったから油断してた。

 うん、馬鹿だった。

 

 この間来た時は気にしなかった、衝立の向こう側。

 先にそちらへ移動した魔王に促された瞬間、そこが寝室代わりの空間だと悟る。

 マズい! 騙された!

 即撤収!

 そう動きかけて━━その一角の異質さに言葉を失った。


 ベッドのまわりの壁一面に、手書きの模様。


 ×印をまず丸で囲み、次にそれを四角が囲んでいた。

 5cm角ほどの模様が部屋の壁にタイルのように整然と並んでいる。


 異様な数だった。

 借家に何してる、退去時に修繕を迫られるぞ。

 って、私もここの床にナイフぶっ刺したけどさ。


「ここに来てから日数を数えるためにつけ始めたんだけど」


 はじめは斜め線、二年目に逆に斜め線を入れて×印になった。

 3年目には×印を丸で囲んだ。

 4年目にそれを四角で囲む作業。

 隣の壁には途中まで×印に変えられた斜め線が一面並んでいた。


 この執念めいたモザイク模様が、気持ち悪い━━

 

 ふと、魔王の妙な動きに気付く。

 いや連れ込もうとかそういう不審な感じではなく。

 そういうつもりなら普通、後からついてくるだろうし。

 不自然にこう……何かを隠してる?


 そーっと首を倒して魔王の向こうを覗きこもうとすると、それとなく体をずらして妨げてくる魔王。

 あからさまだなー


 右から覗きこもうとして~、からの左!


 フェイントをかけ、目にした数字の羅列を見て固まった。


『2006.1.27』

 

「ね、ねえ、あれ。あれって」

 私はそれを震える指でさした。

 昨日今日に書かれたものではないと、一目瞭然たる古ぼけたそれ。


 それは、なぜか10年前の日付だった。


「━━俺が来た日。あっちは倍の速度で日数が経つって事になるのかも」

 魔王は渋面だった。

 長い前髪の隙間から見えたのは、勢いで連れて来たのを後悔してる顔だった。


 ここで魔王が5年暮らすうちに、あっちでは10年経ってるって事?


 もしくは来る時にちょっとずれた可能性もあるのか?

 正解は分からない。

 分かるはずなんて無いけど、たぶん、決定的に何かが違うんだ、あっちとは。


 でもって魔王は、この間それに気付いたけど言わなかったんだ。

 きっと魔王もショックを受けて、私もショックを受けるのが分かったから。


 呆然と、へたり込んだ。


 あー、もーほんとに。

 どうしてついて来ちゃったかな。


 これまで今の状況に対応するのが精いっぱいで、この先の事なんて考える余裕がなかった。

 ここで。

 これから。

 いつまでとも知れず。

 あっちの人に置いてけぼりにされて。

 そのまま忘れられて行くのかと、そう思ったら、これまで堪えてきた物が一気に噴き出すのを感じた。

 考えないようにしてきたのに。


「はあぁぁぁー……」

 顔を覆い、大きな大きなため息をついてやり過ごそうとした。


「うぅ・う~~~~~~」

 必死でこらえる。

 ダメだ、泣くともう立ち上がれない気がする。

 この状況に完全に飲まれてしまいそうで、なけなしの理性でこれまで耐えてきた。

 堪えろ。やり過ごせ。


 ふと頭に人の手のぬくもりを感じる。

 ああ、伊達に実質30年やってきてないって事か?


 魔王よ、それは反則だ。



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