4、聖なるアイテムを手に入れた。
昨日はコミュ障魔王にずいぶんと疲れさせられた。
本当は新居の掃除とかする予定だったのに。
実は村の小さな空き家を貸してもらえる事になったのです!!
長老の家にいつまでもいるのも申し訳ないし、女神さま扱いがどうも居心地が悪かったので相談してみたらあっさりと住む所が決まり、ありがたい事この上ない。
「あんなボロ屋に女神さまを住まわせるなんて。私達があちらに引っ越します」と長老一家の皆さんに言われたけど、雨風しのげるだけで十分ですからっ。
そう言えば魔王の家、私の借家より小奇麗だったな。
なんか……かなりムカつくんですけど。
奴はどの位あそこで暮らしてるんだろう。
ふと、気になった。
午後からのひと仕事に備えて、朝から魔王の住む森に入る。
まぁ、村に一番近いところをウロチョロするに止めるけどね。
んー、もう少し太い方がいいな。
軽い方がいいけど、軽いと威力がないよなー
「これは」と思った枝、というか木の棒を木に叩きつける。
何をしてるかって?
強度チェックですわ。
「なあ、何してんの?」
手頃な木を物色していたら森の奥からいきなり黒い人に声をかけられた。
あー、なんだ。
脱出ごっこは成功したんだね。
「昨日はいきなりで悪かったって」
無視を決め込んだら謝ってきた。
棒探しはまた今度でいいかなと思いつつ仏頂面のまま、作業を続ける。
備えあれば憂いなし、ってやつだ。
次の瞬間、魔王はとんでもない事を言い出した。
「簡単に男の家に来るからいいものかと」
……何?
いやいやいや! お前クズか。
こんな状況、あの展開でよくそんな風に受け止められたな!
えぇ、えぇ、それを言われたら確かにわたしも悪いですよ。
でもな!
こんな環境だぞ!?
アウェイで見つけた唯一の味方みたいなもんだろ。
そりゃ寄ってくだろうが!
「それは男の勝手な勘違いだ。今後のためにも覚えとけ。そしてどっか行け」
「言っとくけど、無理矢理する気は無かったからな」
嘘つけよ。
そりゃ今なら何とでも言えるよね。
「あの状況でイヤって言ったらすぐ止まれた? イヤイヤ言っても、みたいに自分に都合よくとって続行するんじゃないの?」
「本気で嫌がってるかどうか位は分かるって」
「そもそもさ、ガッツリ盛り上がっちゃった状態であなたホントに止まれる?」
「……」
おいそこ、黙るな。
ああもう、なんで昼間っから酔っ払いのエロトークみたいな話をしなきゃなんないんだ。
おっと残念。
拾い上げたのは太さはいいのに中がスカスカ。
時期が悪いのかなぁ。
なかなかいいのが無い。
またにして帰るか。
棒をポイっと投げ捨てて体を起こすと腰が痛かった。
トントンと背中を叩く。
あー、年を感じる。
「木、探してんの? 薪に拾ったのがあるから見に来るか?」
不思議そうに尋ねられ、思わず半眼で見てしまった。
「昨日は悪かった。もうなんにもしないって」
ああ、そういう意味じゃなかったんだけど。
もう弱みは握ったから、こっちのもんだ。
まあ、もうひと押ししといてもいいか。
「何かしたら、村人煽って総動員で夜中あんたんちに放火するからね」
魔王は絶句した。
ふははははは。
眠れない夜を過ごすがいい。
魔王の脅迫に成功し、家の外壁に沿って積まれた薪を見せてもらった。
うーん、やっぱり薪用だからなぁ。
どれも短めだわ。
お?
「ねえ、あっちのは? あそこのでもいい?」
ふと辺りを見回せば薪置き場の奥に、程よい物が何本か立てかけてあった。
良さげなのがゴロゴロしてるっぽい。
「ああ、それは杖とか色々使えるんで集めてたやつ。どれでも持ってっていいけど」
やったね、案外太っ腹!
近くに生えていた木をガンガン叩いて片っ端から試す。
その中で、私はついに出会った。
この重量感、この太さと感触。
強度も申し分なしのその一品に。
ホントこの時は、天啓が聞こえた気がしたね。
『女神は聖なる棍棒を手に入れた』
「これ。これにするわ。これもらうね」
魔王は少し驚いたらしい。
「え、それだけ? もっと持ってっていいけど。 てか、そんなに厳選してなんに使うんだ?」
……やはり気付いてないのか魔王よ。
これが対お前用の武器だという事を。
私はゲームとか全くしないから分かんないんだけど、こういうのってアイテムとか言うんでしょ?
この村がそうなのか、この世界がそうなのか分からないけど、村には剣みたいなものが無かったんだよ。
包丁はちょっと生々しすぎるし。
女神自ら森で武器を探さなきゃいけないなんて、なんともショボいゲームだよ。
絶対売れないと思う。
いや、最近はそういうのが意外とウケるのかな。
ささくれが危ないだろうと言う魔王に、ヤスリ掛けまでしてもらってしまった。
皮で黙々と棒の表皮を馴らし、自分を叩きのめすための凶器を自ら整備する魔王。
なんだこのシュールな展開。
「……だったか?」
あまりにカオスな光景を目の当たりにして呆然としてたら、小さく何か言われて慌てて聞き返す。
「だから、手は大丈夫だったかって。冷やしてたろ」
ばつが悪そうに言った。
手、だと?
……ああ、昨日お前を2発殴った、内出血を起こしてるこの右の拳の事か。
しばらくしたら消えるでしょ。
って、自分を殴った相手の手を心配するとか、聖人か。
お前は魔王だろうが。
キャラ設定、ブレまくってるぞ。
手の怪我なんて気にする奴が人襲ってんじゃねーよ。
とは言うものの。
さすがに至れり尽くせり武器の手入れをしてもらったのでちゃんとお礼を言って帰った。
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<魔王の困惑>
森と村の境目に行けば、遠目に村の広場が一望できる。
こちらに来てしまった運のない、気の毒な女。
髪の色も、服装も村の人間と変わらないというのに、いつもすぐに見つけられた。
あの日からあいつはいつもあの棒を持ち歩いている。
何に使うのかさっぱり分からない。
農機具でもないただの棒を持って村の中を闊歩し、出会った村人すべてが頭を下げているのが見えた。
女神扱いなんだろうが━━
昔見た古いヤンキー漫画の、木刀を持ったリーダーにしか見えなかった。
出くわした時、両手で持って構えたのを見て初めて気がついた。
え、マジか。
そういう使い道?
やっぱりヤンキーじゃねぇか。
てか、なんでお前そんなにきれいに肘伸びてんだよ。
経験者か。
「なぁ、それやっぱ返してくんない?」
なるべく自然を装って言ってみたが、あえなく却下された。
「あんた一応女神キャラなんだろ。そんな物騒なもん持って歩き回っていいワケ?」
説得を試みたが━━
「包丁持って村をウロウロするよりはいいでしょ」
ああ……そりゃ確かにアウトだ。