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緊縛魔法からはじまる恋なんてない。  作者: 志野まつこ
第2章 魔王の自業自得こじらせライフ
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8、え、なんで酒盛り始まってんの?

 村に戻れば、広場では宴会が始まっていた。

 神様がいなくなったのに何故なにゆえ

 と思ったら、結婚式だった。

 

 ん? どなたの結婚式ですかね?

 いつもなら早々に連絡があってお手伝いとかするのに、今回全く知らないんですケド。

 と思ったらピーター君を筆頭に皆さんが口々に述べる口上。

 

「女神さま、セイさんおめでとうございます」


 え、マジでか。

 ピーター君の用事ってこれか。

 口々に祝福され、迎え入れられる。

 うわぁ。

 これ、決定事項だ。もはや既成事実になってる。

 どうするよ、真尾田━━慌てて隣にいるはずの男を見たら、村の中年男衆に連れて行かれすでに酒をすすめられていた。

 あれ、意外と馴染んでんじゃん。

 薫さま、さまさまだ。

 さま、多いなー。

 でもってみんなの楽しそうな顔を見て私は思う。

 

 あ、これ飲みたいだけだ。

 

 みなさん、すでにかなり出来上がってるんだもん。

 昼前からご陽気な事で。ていうか主役二人がいないのにこの完成度ってどうなのよ。

 林の中、道すがら「今夜はどうするかなー、今日から夜一人なのはさみしいけど、いきなり真尾田と二人もなぁ」とかぼんやり考えてたんだけど━━これ、同居せざるを得ない状況に追い込まれてる気がする。


 あ、しまった。

 そういえば「花婿は総力を挙げて酔い潰せ」がこの村の風習だったはず。

 慌てて真尾田を見やれば周囲からガンガンに酒をすすめられ、困惑混じりの笑顔を浮かべて応じていた。

 まあ、ぎこちない感じは払拭しきれてないけど馴染んでいるので放っておいても大丈夫そう。


 えーっと……

 では私はとりあえず挨拶行くか。

 日本人なもんで。

 女性陣からの冷やかしの交じりの祝福に応えながら、一人で村長さんの所へ向かった。

 真尾田は花婿の洗礼を受けてる真っ最中で、酔っ払いにつかまって動けそうにないから仕方ない。


「こんなお祝いの場をありがとうございます。それに私達を受け入れていただき、感謝しています」

 ちなみに村長さんは私が勝手に心の中で『長老』と言ってるお爺ちゃんの息子さんだ。長老はとっくに引退して毎日楽しく過ごされていた。


「神様と一緒にこの村を出て行かれるのではと心配しておりました。女神さまのご夫婦が村にいるなんて、こんな幸せな事はありません。貴重なろうど……っ」

 村長さん、いま確実に「貴重な労働力」って言おうとしただろ。

 女神さまとか言ってたくせに、気がつけば労働力扱いかよ。

 まあ、もともと社蓄だ。

 女神よりはよっぽどしっくりくるからいいけどさ。


 結局━━夜まで飲んだよここの人達!

 とんだ酒豪揃いじゃねぇか!

 でもってあれだけ心配していた初夜とやらだけどさ、真尾田は散々飲まされて家に戻ると同時にベッドに沈んだ。

 うん、結婚式当日って2次会、3次会になっちゃうと新郎は潰されるのって、まあ割とあるもんね。

 それに確実に村の皆さんとの距離が縮まった感はある。

 終わり良ければ総て良し、だ。


 ベッドまで自力でたどり着いてくれてありがとう。花婿を朝まで広場に放置とか、女神のする事じゃない。

 お前の心意気はしかと見届けたよ。

 長身でソフトマッチョの真尾田に広場で酔い潰れられようものなら私一人では連れ帰るのは厳しいし、みんなの手を借りるなんてもっての外だ。みんな骨折してしまう。

 そうじゃなくても「酔っぱらって転んだ」だなんだのと負傷者続出なのに。

 ここの結婚式は宴もたけなわになるとシュールだ。

 怪我しても笑い転げてる。

 めでたい席のはずなのに、ホラーでしかない。


 ショックな事と言えば、もう一つ。

 ピーター君によると私以外の社員はみんなこの「元魔王のイメージ払拭プロジェクト」を知ってたんだってさ。

 真尾田と薫さんが企画を出して、理沙ちゃんが脚色したんだってさ。

 ピーター君は村の風習のアドバイザーとして参加してたんだってさ。

 私をのけ者にしてずいぶんと楽しそうだな、おい。

 自分は社長ポジションなんだと思ってたけど、どうやら違ったらしい。

 ちなみにピーター君は賭けに勝ったそうで、いつもの気弱そうな顔でありながらほくほく顔だった。


 寝室に入って奥が私のベッド、手前に理沙ちゃんが使っていた真尾田お手製の小さなベッドがある。

 そうだよ、同室だったよ。

 我が家にはソファーなんて気の利いたものないんだよ。

 あちゃあ、とは思ったけど、まぁ━━

 今日は動けないだろう、うん。


 真尾田が作ったベッドの幅はかなり小さめだ。

 家が狭いから仕方ないとはいえ、それじゃセミシングル以下だぞと思っていたけど、倒れ込めば案の定太ももから下がはみ出ている。

「セイさん、そっち小さいよ?」

 私のベッド使った方がいいんじゃない? とは言いたくなかった。

 靴を脱がせて水を取りに行く。

 姉御肌というのは、弱った人間がいると甲斐甲斐しいまでに介抱したくなるという性質を持っているのだよ。

 酔いつぶれた人間の介抱とかさ、息をするくらい普通にやっちゃうんだよ。


 なんとか体を起こした真尾田は水を少し飲んでから、結局小さなベッドで再度うつぶせになった。

「右側下にした方がラクじゃない?」

 声を掛ければ、「うー」とかなんとか言いながらごそごそ動こうとしていたけど、結局そのまま寝てしまった。

 うん、もうそっとしておこう。


 その夜は、薫さんや理沙ちゃんがいなくなった寂しさに苛まれる事もなく、真尾田の気配に緊張する事もなく眠りにつく事が出来た。

 だって、実は私もけっこう気疲れ的な部分で限界だったんだよ。

 どうにでもなるがいいッ! とばかりに私もちょっとヤケ気味に飲んじゃったんだよ。


 世間一般で言う初夜、とやらは花嫁まで酔いつぶれるという悲惨な感じで終わった。



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