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緊縛魔法からはじまる恋なんてない。  作者: 志野まつこ
第2章 魔王の自業自得こじらせライフ
19/23

6、神さま降臨でお願いします。

 村での仕事の報酬のほとんどは現物支給でして。

 収穫物などを林道を抜けて麓の小さな町へ売りに行った時なんかは現金が入る。


 これまで非力な村人達は一度に少量しか運べず、それは採算性が悪かった。

 セイさんが作った大きな荷車と、働き盛りの日本男児2人のおかげで倍以上の農作物を出荷出来るようになった。

 町では真尾田は黒髪を隠しておとなしくしていなければならないので、ピーター君と薫さまが主に商談を担当し、薫さまは町に出るたびにこの世界の情報収集をしていた。

 何回か町の宿にわが社の男性社員3名が泊まってみる、という実習もした。

 真尾田と薫さま、それにこちらの常識を把握しているピーター君のメンバーだ。

 実を言うと腕力が強い分、それほど危険はない気がすんだよね。

 ただ慣れるため、そして念には念を入れて。


 そして━━薫さんと理沙ちゃんの旅費、たまりました。

 理沙ちゃんが「うどんが恋しい」と言ったのが転機だったね。

 うどんなら小麦粉と塩じゃん! 作ろう、作ろうと日本人4人は全員テンションマックスでうどんを打った。

 でもって村で小遣い稼ぎに「うどん屋」を始めたら当たったのよ、これが。

 引っ越し後の当座の生活費もついでに貯めちゃおう、と欲が出たから半年かったけど、準備は万端ですわ。


 真尾田は日本人村行きを拒否した。せっかくのチャンスなのに。

「やっぱ無理だったよ」と薫さんは肩をすくめて笑っていた。

 え、ホントに真面目に説得してくれたんですか?

 私だって何回も説得を試みたんだよ。でも「俺だってここが気に入ってんだよ」と憮然と言われて、男同士なら、とお願いしたんだけど。


「アヤさん、薫さまと村の皆さんにご挨拶して回りたいんでお片付けお願いしても言いですか?」

 4人そろっての最後の食事を終える頃、理沙ちゃんはそう言った。

 うんうん、そうだね。まだ17歳なのにしっかりしてるわ。

 ここに馴染んでしまったわたしやセイさんと違って、二人は『日本人村』に行くことを決めた。

 理沙ちゃんだけ行かすわけにもいかなかったから、薫さんが一緒なのは心強い。

 一回り以上年齢が違うけど、二人は仲もいいし。


 真尾田に二人が帰って来たと呼ばれて外に出てみれば、人だかり。

 神様がご出立されるんだもんね、そりゃ村人総出でのお見送りになるよね。

 あれ?

 薫さま、コックコート着てどうしたんですか。

 あ、理沙ちゃんまで制服着てるや。

 もう引っ越しするんだから、そこまで演出しなくても……

 ほけー、と見ていたら突然右手を引っ張られる。


「綾、結婚して」


 突然、真尾田が不可解なことを言い放ち━━


「女神と魔王の婚姻を認め、祝福を授けん」


 村の広場の木箱に乗った薫さんは、高らかに宣言した。


 ……はいぃぃぃ?


 理沙ちゃんは、それは眩しい笑顔で親指を突き立てて来た。

 村人はびっくり眼なのに対し、真尾田は何ら動じた様子の無い顔で「そういう事だから結婚するぞ」と言っている。


 お前ら、どうした。



「神様と女神さま、元魔王と小悪魔ちゃんでまとまるかと思ってたのになぁ」

「なぁ。俺、大損だよ」

 ……この状況を楽しんでたのはここに私達を送った無責任な神ではなく、村の皆さんだったか。

 田舎だもんね、こんな格好のネタたまんないよね。


 神様やら女神さまやら言っておいて、賭けまでしてたのかよ。

 ちくしょう、神様やら何やら言ってるけど、ホントにそう思ってるのは高齢者だけで、若モンはそう思ってない気がする。

 まあ、日本もそんな感じだもんね。

 どこも同じって事か。


「二人がうだうだやってるからこんな恥ずかしい事する羽目になったんだけど」

 薫さまはぐったりとした様子で恨みがましい目で見てきた。

 ━━分かります。私も前にやりました。

 長旅前に本当にすみません。


「神様公認ですからもう大丈夫ですよ、アヤさん」

 そう言う理沙ちゃんは少し興奮気味だ。

「奇跡ですよ、奇跡はこうして起こるんですよ。伝説の始まりを目撃してしまった!」などと盛り上がっている。


 えーっと、要約するに「小悪魔を従えた神により、罪を許された魔王は女神と結ばれた」━━ってカンジ?

 薫さま、真尾田の魔王イメージ払拭の為にこんな恥ずかしい事をさせてしまって、本当に申し訳ないです。

 でも一言相談していただきたかったです。


 それから、ついっと寄ってきた理沙ちゃんはとっておきの秘密を明かすような顔で耳打ちしてきた。


「私、セイさんに告白したんですけど振られちゃったんですよね。ここにはちょっと居づらいんで、薫さんと一緒に行くことにしたんです。薫さん、すごいんですよ。やっぱ大人って違いますね」

 コソコソっと告白した理沙ちゃんは「きゃっ」と頬を染めて自分の発言に照れる。

 ……って。


「え~っと。なにが?」

「すごく良かったです。高校生とはテクが違います」

 一歩間違えれば妖艶な、とか恍惚とした、と言ってもいいような笑み。


 ……向こうにいた頃は、こんな言い方は十羽一絡げだし、差別的だなぁ、と使いたくなかったんだけど。

 おばちゃんと言われてもいいから、1回だけ言わせてほしい。


 最近の女子高生は!


 まぁ、飛び込もうとしてた頃に比べたら全然健全な気もするし、ここは日本の法律なんて関係ないからいいんだけどね。

 理沙ちゃんは真面目で二次元にも強いから、あっちじゃ浮いちゃってつらい思いしたのかな、とか思ってたんだけど。


 おかしいな、マジで小悪魔ちゃんだったか。

 チラリを薫さまを見やれば、何とも言えない表情。


 ……あー、流されちゃいましたか。


 離婚は成立してるって言ってたし、弱った所でなし崩しだったとか、ずっと共同生活してたからとか、ありがちな話ですよ。

 いつの間に、どこで、なんて、うん、何も聞いたりしませんよ。

 野暮だし、馬に蹴られるし、何より━━


 触らぬ神に祟りなし、とはまさにこの事だわ。



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