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緊縛魔法からはじまる恋なんてない。  作者: 志野まつこ
第2章 魔王の自業自得こじらせライフ
17/23

4、ナマコと言えばまだ聞こえはいい

シリアスっぽいけど残念ながらシリアスにもドロドロにもなりません。

 真尾田と薫さまは朝20分近くかけて森から通勤してくれるので、朝食は私が担当している。

 キッチンに近い上座に私と真尾田が向かい合って座り、玄関に近い下座に薫さまと理沙ちゃんの配席。

 これは上下関係による配置ではなく、私と真尾田が以前のまま移動しなかったからで、男性同士が隣あって座ると狭すぎるので、私の隣は必然的に薫さまの席になっている。


 食事の最中、真尾田がふと立ち上がる。


「あ、ごめん。お茶?」


 二人でご飯を食べていた頃、いつも真尾田がお茶を淹れてくれていたのですっかり習慣になってしまっていた。本気で真尾田をこき使ってるみたいに見られそうで、理沙ちゃん達が来てからは私が淹れるようにしてたんだけど。

 慌てて立ち上がろうとする。


「いいよ。飲むだろ?」

「セイさん、私も欲しいですー」

「俺もいただきたいです。セイさんの淹れるお茶美味しいし」


 真尾田は「言われなくても全員淹れてやるって」と呆れ顔だった。

 そうなんだよね。

 長くここに住んでるからか、真尾田のお茶が一番美味しいように思う。シェフの薫さまに言われれば真尾田も悪い気はしないだろうな。ちょっと羨ましいぜ。


「立ってる者は親でも使えって言いますしね」


 理沙ちゃん、久々にそんなことわざ聞いたわ。

 やっぱ同郷が多いといいなぁ。

 うん、なんともほっとするわ。


 

 ある日、畑の手伝い業務から帰れば、誰もいなかった。

 気配を感じて裏に回ったところで、座り込んでいた薫さまと理沙ちゃんを見付ける。

 顔を上げた理沙ちゃんと目が合って━━━その大きなくりっとした可愛い目には涙がにじんでいた。


「ああ、ちょっとホームシックになっちゃったみたいで。晩ご飯の下ごしらえしといてもらっていい? 今日はなんちゃって筑前煮をやってみようと思うから、入れられそうな根菜を洗っといてもらいたいんだけど」


 慌てて寄ろうとしたら、優しい笑顔を浮かべた薫さまにそう言われた。

 あれ、なんか今、少しだけ追い払われた気がした……?

 こういう時って同性のわたしがついてた方がいいんじゃないの?

 でもまぁ、薫さまの方が人生経験も豊富な大人だから任せるべきか。

「あー、じゃぁ」

 お願いします、と言うのもおかしい気がしてぎこちなく家に戻った。

 

 さすが。料理のプロの舌は確かでした。

 これは誰が何と言おうと「ザ・筑前煮」です。

 入っている根菜が我がふるさと日本では見た事のないような物が混じってるけど、そんな事は関係ない。

 もうね、この素晴らしさを共有してこの出来栄えを絶賛し、盛り上がってテンション高くパーリーピーポーなノリで食べたい気分だよ。


 なんでそれをしないかって?

 私以外の空気が何かおかしいんだよ。


 いつも神様・女神・魔王・小悪魔のそうそうたるメンバー4人でご飯を食べているけど、どうしたお前ら。

 何かこじれたんか。

 まさか━━本当に神様ご待望のメシウマ展開になっちゃったんか。

 えー、4人しかいないのにめんどくさいんですけど。 



◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆


<神様の観察日記>


「アヤさぁぁん! ナマコが家に侵入しようとしてますー!」


 アヤちゃんからは『この世界で出来る和食教室・なんちゃって和食を極めようコース』の開催をお願いされている。

 夕方、アヤちゃんと夕食の準備をしていたら外から理沙ちゃんの悲痛な叫びが聞こえた。


「はー、マジでかぁ」


 盛大なため息をついて、「行ってきますわ。ちょっと見ててください」とフライパンを指してアヤちゃんは出て行く。


「あー、こりゃまたでっかいのがくっついてるねぇ」


 外から呆れたようなアヤちゃんの声が聞こえた。

 ナマコ━━それは巨大な黒っぽいナメクジの事だ。

 ナマコなら触れるけど、ナメクジになると途端に「素手ではムリ」感があるのはどうしてだろう。理沙ちゃんの為に頑張っているけれどアヤちゃんだって本当は大きな虫は苦手なのに。

 お人よしは損をする、の見本みたいな子だ。

 巨大ナメクジは俺も苦手ではあるけど、女の子に任せきりにするわけにもいかない。


「これ終わったら行くから! 待ってて」


 外に向かって叫び、ささっとキリのいいところまで終わらせて出てみれば、「箸じゃ厳しいなぁ。ヒバサミみたいなの欲しいなぁ」とぶつぶつ言いながらナメクジに対峙するアヤちゃんがいた。

 そこへ、颯爽と現れたセイさんは黙ってアヤちゃんの後ろに立つと、手を重ねるようにして蟲専用にしている箸を奪い、あっさりとナメクジをつまみ上げる。

 ナメクジなのにけっこう固めで、あまりヌメヌメしていないのは助かる。


「セイさんマジ勇者! 救世主!」


 盛り上がる理沙ちゃんに「これくらいで勇者なら、田舎は勇者のおばさんやら婆ちゃんでいっぱいだな」なんて言いながら家の裏手の林にナメクジを投げ捨てた。


「さすがプロ。仕事が早いねっ。おかえり」

 アヤちゃんは自分でナメクジ退治をせずに済んで一安心といった所だろうに、それを見せない。

 それなのにちゃんと「おかえり」を言う辺りが詰めが甘いと思う。


 前にセイさんに「あいつ(ナメクジ)、あれじゃまた帰ってくるんじゃない?」と聞けば、「別に殺さなくても」と言った。

 そんな優しいセイさんが魔王と呼ばれていたなんて、と思ったら「それに潰すとかキツイだろ」とそれは嫌そうな顔をしていた。

 あんな小茄子ナスサイズのナメクジを潰す━━確かにそれはものすごくキツイ。


「隙あらばアヤちゃんにからんでるよねぇ、セイさんは。青春だねぇ、甘酸っぱいねぇ」

 セイさんと一緒に帰ってきたらしいピーター君に言った。

 どうも顔が緩んでしまう。

 アヤちゃんに対するセイさんの献身っぷりは、もはや村で知らない者はいないと思う。


「セイさん、最近外でアヤさんの事『うちの』って言ってるんですよ。薫さまとアヤさんの仲が心配なんでしょうねぇ」


 俺、離婚したばかりなのに?

 しかも別れる気は無かったんだけど。

 ここに来て「帰る事が出来ない」という現実にかなり諦めがついたとはいえ、まだそういう気分じゃないんだけど。

 なんで帰れないかって、そりゃ日本人村なんて形成されているんなら、帰れないって事だろう。

 それにセイさんの家の壁の模様。

 正直どん引いた。

 まあおかげで「あー、これ無理っぽいわ」と素直に受け入れる事が出来たんだけど。


 俺が来たケースを参照にした時、時間的には「こちらはあちらの倍の速度で進む」説が崩れたらしい。

「計算が合わない、テキトーなのか?」とセイさんとアヤちゃんは眉間に皺を寄せて頭を突き合わせていたけど、「そういうのはツッコんだら負けなんですよ」という理沙ちゃんの一言で解決した。


 若いと考え方が柔軟でいいなぁ。 


 


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