1、蠱惑的な小悪魔ちゃんに任命します。
ブレザーの制服姿に真っ黒ストレートがお姉さん的にはたまらない可愛い女子高生。
うんうん、そうだった。最近は黒髪が流行だったりしたんだよね。
村の皆さんは「魔王の知り合いか?」的に不安を感じつつ、可愛い女子高生ちゃんに心を持って行かれてる感がハンパない。
よし、可憐な小悪魔設定で行こう。
ああ、また嘘が増えて行く━━
我が借家は真尾田を支配下に置いてすぐ、真尾田がリフォームしてくれたのでかなり快適になった。
「飛び込んだと思ったんですけど━━」
我が家の狭いダイニングスペースでお茶を出せば、理沙ちゃんと名乗った女子高生ちゃんの口から零れる不穏な単語。
海とか、プールじゃないよね。
その時って今の制服姿だったんだもんね?
うん、もうあんまり聞かない事にする。
「今思うと、みなさんに迷惑かかるし、親への損害賠償とか」
うんうん、もうこれ以上はいいよ。
言いにくい事だろうしね。
「あやうく人身事故騒動、起こすトコでした。こっちに来れて本当に良かったと思ってます」
はい、全部言ったぁぁぁー!
うぇぇぇぇん、聞きたくなかったよー
なのになんでこの子こんなに悲壮感ないんだよぉぉぉ。
「ここで生きて行く術を教えてください!」
ああそうか、何か吹っ切れたんだな、きっと。
生きる希望が何か見つかったんだな。
じゃあ、まあいっか。
そう思う事にした。
「とりあえず理沙ちゃんはうちに住めばいいからね。最近、新しいベッド増やした所だったし、ちょうど良かったよ。お腹は空いてない?」
真尾田と同居案が出ていたけど、一歩踏みきれない部分があったから本当にちょうど良かったよ。
女子高生、という新人類に身構えたけど案外常識はありそう。
言葉遣いも乱れてないし、なんだこれ。
妹━━
来た。
萌えたぎる。
うちわたしの他は男3兄弟だったからもう、もう、だよ!
そこで私は大変な事に気がつく。
勢いだけのコミュ障魔王復活━━
「セイさんっ!!」
ギラギラしてるであろう、かつての魔王を慌てて振り返った。
お前、理沙ちゃんにおかしな真似したらご飯抜きの刑だぞ!
暴力をチラつかせるより、食に対する欲求を逆手に取った方が効果があると私は結論付けたのだ。
「あ?」
えらく生気に欠けた間抜けな声が返って来た。
……え、あんた今、人の話聞いてた?
あれ?
意外とギラついてない?
というか……なんか……どした?
こんな可愛い子がいるのにずいぶんとテンション低くないか?
わたしのこの勢いはどこへ持って行けばいいんだ?
「なんでもないっす。晩ご飯の準備してきまーす」
理沙ちゃんは手伝うと言ってくれたよ!
今時なんと出来たお嬢さんなのか。
でも来て早々だし、精神的にも疲れてるでしょ。
「今日はゆっくりしてたらいいよ」
あくまでも今日は、ね。
落ち着いたら一緒に色々やろうね。
ここはガチで働かざるもの食うべからず、だからさ。
奥の小さなキッチンへ立てば、後ろから弾んだ声を掛けられる。
「チートとか、俺TUEEEEとか、ダンジョンとかどうなんですか? ステータスってどうなってます? あ、それとも乙ゲーとかですか? もしかして綾さん、婚約破棄とかありました?」
どうしよう。
今時の女子高生ワードが全く分からない……
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<魔王の困惑>
婚約破棄という単語に思わず綾を見てしまった。
「結婚詐欺とかしてないからね」
睨まれた。
半年一緒にいると何を考えているかとか、色々と分かるようになってきた。
3人で夕食を取った後、女子校生を本当は俺が使う予定だったベッドに寝かせた綾は、天井に向けた人差し指をちょいちょいと曲げ、顎をくいっと振って外に出るよう促してくる。
お前、その仕草はめちゃくちゃ男前だぞ。
「いい? 今回はちゃんと手順を踏むんだよ? 相手は女子高生なんだからね。いきなりは絶対やめろ」
外に出るなり、声を潜めて訳の分からない事を言い出した。
「なんの話だよ」
「念願の年下じゃないの。年は離れてるけど、あんたの事イケメンって言ってたし、頑張れば可能性はあるんじゃない?」
言葉を失った。
声を潜めての会話だから、いつもよりもずっと距離が近い。
この半年、信頼を得るのに精いっぱいで指一本触れてない。
「俺は、お前に」
「ああ、いいよ、いいよ。キャンセルで。ここには二人しかいないから、仕方なくそういう感じになっちゃっただけでしょ」
綾はけらけらと笑う。
これまでずっと抑えてきたけど━━限界だ。
こんな事を言われたら仕方ないじゃないか。
「あー、くそ。あとで殴っていいから」
半歩動けば密着するほどの距離。
腕を伸ばせば簡単に手が届いて、腰を抱き寄せる。
綾が息を飲むのを感じながら、唇を寄せたら━━顔面を掴まれた。
マジでか。
お前、この流れでアイアンクローとか、あり得ないだろうが。
しかも割と本気で掴んで来ている。
「上司との社内恋愛は禁止にしていいかな」
綾は呆れたように、ため息混じりに言った。その口調に冗談の色も混じっていた事に少なからず安心してしまう。
顔を掴まれたまま、両手で押されて距離を取られた。
「もともとセイさんが年下がいいって言ってたじゃん。セイさんが悪い奴じゃないとは思ってるよ? でもロクな出会いじゃなかったでしょ。恋愛の相手としてはちょっとね、悪いけど信用しきれない部分があるんだよ」
━━まいった。
これ、完全にこじらせてる。




