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緊縛魔法からはじまる恋なんてない。  作者: 志野まつこ
第1章 女神の異世界スローライフデビュー
12/23

11、そう簡単にはくっつかない

 穏やかな昼下がり、重労働に精を出す魔王こと真尾田にお弁当を届けに行く。


 今日は畑の石垣が崩れたからその修復に行ってるはずだ。

 修復と言っても重量3キロくらいまでの石を積み上げるだけだから、割はいい。


 起業してからは奴の食事も私が作るようになった。

 なんせ体が資本の仕事だからね。

 従業員の健康管理も雇用主の責任だからね、ちゃんと管理させていただきますよ。


 本当は和食が恋しい。

 でも食材の都合上、和食もどきになっちゃうけど、奴はそれは喜んで食べるので作りがいがある。

 自分一人の分ってなかなかちゃんと作らないし。


 畑のわきの木の影でお弁当を広げた。

 今日は干し肉と、なんかの根っこのきんぴら風サンドイッチという顎が鍛えられて仕方ない献立になってしまった。

 まぁ、真尾田は意外とご飯に文句を言わないから問題ない。


「ねぇ、こっちの女の子相手でも案外出来るかもよ? どうもサイズ的には変わらないらしいんだよね。ね? ピーター君」

 真尾田にそう言えば、ものすごいドン引き顔で見られた。


 そんな顔しなくても。

 いや、まぁ昼の日中ひなかにえげつない話で悪いけどさ。


 まぁ確かにそんな事をピーター君に聞いた私もどうかとは思うよ?

 でもピーター君ってば32だったし、聞いても大丈夫でしょ。


 牛がコンパクトだから、もしかして体のつくりも違ったりするんじゃ? とか考えたんだよ。

 気を遣って聞いといてあげたんだよ。

 酔った勢いの猥談が盛り上がった結果じゃないからな?


 まあ、あとは強度の問題を考慮すべきだけど……って確かに強度とか女として自分が完全に終わってる気がして少しへこむわ。

 そもそもサイズ的なものを表現するためには、手を使って表現するのが手っ取り早いわけで……あ、完全に女として終わってました。


「お前、何を今さら……てかお前しかいないって言っただろ」

 どうした、なんか動揺がハンパないぞ。

 そんなあからさまに動揺しなくても。


 あ、そうか。気付いたんだな?

 自分がものすごく頭の悪い思い込みに囚われていた事を。


「それはここの人達に対して先入観とか罪悪感があったからでしょ? 視界が狭くなってるんだよ。いい? ポイントは『軟弱だけど、丈夫』ってトコなんだよ。ほら、初めての時は血が出るけど、怪我とはちょっと違う、みたいな? いや、違うか? まぁ、そう考えたら可能性が見えてきたでしょ?」


 真尾田は、はーっとため息をついて天を仰いだ。


 ん? どうした?


「自分に責任があるとはいえ、先入観って恐えな」

 真尾田は打ちひしがれている。


「でしょでしょ?」

 分かってくれたかね。


「うん、まぁ、もう気長にやるわ」

「うんうん、その意気だよ」

 真尾田の目にみなぎる決意を見て、「さすが、5年もため込んだだけはあるな」と応援のまなざしを送っておいた。

 

 さっさとお昼を済ませた真尾田は先に仕事に戻って行った。

 あいつ、ホント働き者なんだよなぁ。

 社畜だった頃、体を壊しかけた上、鬱一歩手前まで追い詰められたそうだ。

 そのせいか、みんなに喜んでもらえて、それがダイレクトに感じられる今の仕事に並々ならぬやりがいを感じているっぽい。

 うんうん、労働って尊いってこういう事を言うんだろうね。


「女神さまって鈍感だったんですね」

 満足げに真尾田の背中を見送っていると、一緒にお昼を囲んでいたピーター君に呆れられた。

 まったくですわ。

 返す言葉もないですよ。


「ねぇ? もっと早く気がつけばよかったよねぇ」

 もっと早く気付けば日々奴とやり合う事もなかっただろうに。

 今までの苦労は一体、ってやつだよまったく。


 これまで村人からは衣食住を提供してもらっていた。

 それが急に女神が報酬に現金要求するって、受け入れられるかな?

 不安になってピーター君に相談したら「魔王を養わなきゃいけないし、お布施って事で」と村人相手に上手く立ち回ってくれた。


 ……女神の扶養家族が増えた、みたいな感じ……か?

 童顔ながらやり手の営業マンを手に入れた気分だ。

 しかも女神と魔王と神の子、とか。

 なにこれ、うちの事務所もう無敵なんじゃないか。


 そんなピーター君に「もっとちゃんとしっかり冷静に考えてください」と怒られたので、「ああ、村の女の子に手を出すのを推奨したらいい気はしないよね」と平謝りした。

 

 ピーター君は諦めた表情で「うん、もうそういう事でもいいんで。マオダさんお願いします」と言いやがった。

 丸投げかよ。

「それは勘弁してほしいんだけど」

 思わず即答した。


「あれだけ面倒見てあげて、今だってご飯作ってあげといて、今さらそれは無いと思いますけど。同棲案も出てるんですよね?」


「共同生活、だよ」

 同棲とかマジやめて。


「毎日森に帰るのは大変だろうし、わたしも男手があった方が何かと都合がいいからねぇ」


 何より、この世界は虫がでかいんですわ。

 「なんで壁にナスくっついてんだ?」と触ろうとしたら黒々とした巨大ナメクジだった時のあの衝撃。

 家の中で遭遇する20cm近くある丸々としたムカデ。

 蟲、と表現すべきであろう奴らがこれからは増えてくる季節だそうで。


 そんな中、真尾田は「田舎のじいちゃんちとかにいなかったか?」と衝撃の発言。

 え、それって元いた世界だよね?

 カブトムシとかなら平気だけど、あのサイズの生き物は未知との遭遇レベルだったんですけど。

 巨大な虫が平気だという真尾田を初めて見直してしまったよ。

 蟲退治担当係を任命したい。

 まぁ、ピーター君にお願いすればいいんだろうけど、ムカデが出るのってたいてい就寝前なんだよね。

 夜、ピーター君に出張ってもらうのも申し訳ない。

 新婚だしな。

 新婚だったんだよ、ピーター君ってば。


 それに━━森の魔王邸は精神衛生上、あまりよろしくない気がするんだよね。

 特にあのモザイク模様っぽい壁。

 あれはおかしくもなるわ。

 ただ今のわたしの借家は家が小さいのが悩みどころなんだよなぁ。

 あ、ちゃんと誓約書は交わさせますよ。

 妙な手を出そうものなら解雇の上、追放だ。


「女神さまだから博愛主義なんですかねぇ。そこまでするんなら責任取ってあげてくださいよ」

 なぜか懇願された。


 責任って!

 ひどいよピーター君!

 結果として村を脅かす魔王はいなくなったじゃないか。

 女神としての責任は果たしたじゃんか!

 ていうかピーター君。わたし、最近気付いてしまったんだけどさ。

 実はキミ、魔王も女神もハナから信じてないクチだろ。


「わたしと真尾田がいた所では『困った時はお互いさま』と言ってね、助け合いの精神が昔から深く根付いた人種なんだよ」

 だからお互い関わらずにはいられないんだよ。

 じゃないと、どう考えたってイタイあれと関わらないって。

 二人しかいないんだから、でくっつかされるのは嫌だ。


「そこまでしといてその気になるなとか、生殺しもいいトコです。魔王も真っ青のゲスっぷりですよ」

 ピーター君が何か言ってたけど、こっちはこっちでぶつぶつ文句を言っていたから聞き逃した。


 ものすごい嫌そうな顔で文句を言っていたのが気に食わなかなかったのか、どうやらまたピーター君は真尾田に何かチクったらしい。

 おかげでその夜は夕食の後、女神と魔王の家族会議的な場を持たれた。

 どうしてお前はすぐ真尾田にチクるんだ、ピーター!


 なにやら熱く説得された結果━━なんか懐柔されかけた。

 あぶなかった。


 ビジネスパートナーで飯友な魔王と、まさか「友達以上の関係」への進展を要求されようとは。

 え、イチから恋愛するんですか? あなたと? と思わず聞いた。


 あ、いや、待てよ。

 違うな。

「マイナスからのスタートになりますが。第一印象がひどすぎなので」

 そう言うとちょっと悲壮感漂う表情を浮かべつつ応じた姿に、一瞬ほだされそうになったのは秘密だけど。


 最悪な出会いから恋愛が発展するなんて、マンガかドラマの世界だけだからな。


 まあ……最初の出会いが最悪だっただけで、言うほど悪い奴じゃないとは、思ってるんだけどね。

 久々に見た獲物についがっついちゃったんだろう、と寛大に思えるようになったんだから異世界スローライフってすごい。


 二人しかいないんだから。

 そんな理由で選ばれるなんて冗談じゃない。

 それは選んでるんじゃない。

 乱暴すぎる消去法だ。

 でも、依存してしまう部分があるのは仕方ないだろう。


 そんな事を言ったら「お前はそれでも女か」と嘆かれた。

 ハッ、口説いといて何言ってんだか、ですよ。

 ロマンスでも求めてんですか、過去の自分が何したか思い出せっつーんですよ。


 でもまあ、とりあえず。

 魔王こと真尾田と、重労働請け負い業で当面は生きて行くことにしよう。


 なんだか、ものすごく先が長い気がするし。

 恋愛要素があるのと無いのとじゃ、生活の張り合いも違ってくるだろうしね。



 設定に悩まされまくった22万文字作品を終わらせた反動で、行き当たりばったり見切り発車の勢いだけで書いたツッコミ所満載の問題作……

 そんな本作をここまで読んでくださり誠にありがとうございました。


◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆


 ここで一度、完結としていましたが後日談を第2章として再開しました。

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