10、女神降臨。とか、恥ずかしすぎて死ぬしかない。
少しだけ根元が黒くなった髪の毛を見て、マズいなぁ、と思う。
真っ黒だと重い。
でもあんまり明るくするとすぐまたカラーリングに行かなきゃいけないのが面倒で、ダークブラウンに染めていた髪。
この世界には黒髪の人間はいないのだとピーター少年に教えられた。
今はまだ目立たないとはいえ、半分くらい黒くなったらバレバレだよなぁ。
このままだと私も魔王の二の舞になる可能性も否定できない。
んー。
よし。しょうがない。
3日ほど前からぼんやりと考えてたけど、結論を出した。
そうと決まればさっさと魔王とピーター少年に相談しよう。
こういう時にあのセリフが使われるんだな。
まさか私の人生において使う事になるとは。
いっちょ一肌脱ぎますか。
さすがに恥ずかしいから口には出さなかった。
あ、脱ぐと言ってもちょっといい筋肉してた魔王とイタすとか、そういう訳じゃなくってね?
「はーい、女神さまから重要なお知らせがありますー。お集まりくださーい」
夕方、ピーター少年にも協力してもらって村人の皆さんに広場にお集まりいただいた。
ここに来た時のオフホワイトのワンピースを着て、村の中央広場のベンチの上に立つ。
このベンチも妖精さんからの贈り物だそうだ。
DIYのエキスパートが手掛けたような、しっかりとしたベンチですよ。
角とかしっかり丸く加工してあって、使う人にも優しい仕上がりですね。
よくお年寄り達が座って和やかに談笑してるのを見かけますよ。
ああ、もう、まったく。
何やってんだ、あいつ。
すぅ、と息を吸う。
えーっと。
「皆さま、大変長らくお待たせいたしました! この度、魔王との戦いに決着がつきまして、私こと女神は、魔王セイゴを隷属させる事に成功いたしました!」
おぉぉぉ! という歓喜に近いどよめきが沸き起こる。
よしよし。
つかみはオッケーだ。
ちなみに魔王の本名は真尾田 清悟という実に清廉とした健康的な名前だった。
聞いた時は「お前が清らかを悟るだと!?」と激しく抗議したくらいだ。
健全過ぎて似合わない。
「魔王の悪意を私が吸収し、浄化します。この黒く染まって行く髪がその証です。この先、この村の住人が魔王に脅かされる事はないでしょう!」
高らかに、自信を持って宣言し、村は歓喜に沸いた。
う・う・う……
うわあぁぁぁぁぁぁー!!!
めっっっちゃ恥ずかしいぃぃぃぃぃ!!!
恥ずかしすぎて死ぬッ!!!!
ついに私も中二病の仲間入りだよ!!
その夜は飲めや歌えやの大盛り上がりだった。
すまない、真尾田。
これでアンタは私の下僕だ。
少しだけ良心が咎めたけど、まぁ、終わり良ければ総て良し、だ。
村人が長年の恨みで暴徒と化す、なんて危険性を想定して真尾田は今日は森の中でお留守番。
少しずつ社会復帰させる予定だ。
「まあ、ああいうタイプは姉さん女房の方が合うだろうし、尻に敷かれる位が上手く行くっておばさん達も言ってますしねー」
ピーター少年は料理に夢中な様子であからさまに適当に言った。
ん? ピーター君、君は何の話をしてるんだ?
宴会なのに相変わらず泣き出しそうな表情だ。
どうやらこれが彼の通常モードらしい。
「ねぇ、ピーター君。前からちょっと気になってたんだけど、キミわざと私の事あいつに言ったりした?」
「ああ、はい。魔王さんが来た時、僕酔いつぶれてて魔王さんが暴れたの見てないんですよ。女神さまが来られた時、『あ、お仲間なのかな。魔王さんのお友達になってくれるかもしれないな』と思って」
……酔いつぶれてた?
やっぱり? 今ちょっと酔っぱらってるよね!?
「ピーター君、今、それ何飲んでんの?」
「木苺酒ですよ。飲みますか?」
けっこう強い酒飲んでるな、おい!
完全にジュースだと思ってたよ。
この子、時々変に達観してるけど、まあ、個性かと思ってたんだけど。
「……ピーター君ってさ、いくつだっけ?」
「32です」
ちびちび飲んでいた果実酒を吹いた。
童顔ここに極めり。
ってか童顔すぎるだろうが!
ああ、お酒もったいない。
ここじゃ滅多に飲めないらしく、初日の歓迎会以来2回目のお酒なのに。
みんなすごく勧めてくれるけど、何かしたわけじゃなくて、むしろ嘘をついてるので良心が咎めてチビチビやってたんだけど。
「え、みんなそんな年なの!?」
今十代に見える村人ってみんなそんな感じなの?
あっちで盛り上がってる若者衆もみんな? あの子達が飲んでるのもお酒なの?
「いえ、僕は異常に幼いんですよ。神の子とか言われてるんですけどね。時々いるらしいです。だから僕が魔王さんの食事係やってたんですよ。僕は神のご加護が強いんで大丈夫だろうって」
え、あの。
わたしや真尾田なんて日本のごく一般人だよ?
ピーター君の方がよっぽどレアじゃんか……
「お二人はこれから重労働請け負い業始められるんですよね? 僕、失業しちゃったんで事務に雇ってもらえませんか? まだ魔王さんを怖がってる人いるし、僕がいると仲介とかも出来て便利だと思いますよ?」
ピーター少年、もといピーターさんはそう自分を売りこんできた。
「魔王様へのご飯係ってものすごい給料良かったんですけどね。誰もやりたがらないから」
真の腹黒がここにいたよ!
中学生みたいな顔してるから完全に油断してた。
そりゃ人のいい魔王こと真尾田をアゴで使うわけだわ。
ちなみに散髪屋さんをしているピーターく……さん。
いや、もうピーター君でいいよね。
翌日ピーター君のお母さんに森の真尾田邸にお越しいただき、散髪してもらったら、その後、村の若い娘さん達の目の色が変わった。
控えめで遠巻きながら黄色い声援を送られるようになった。
解せぬ。
解せぬ━━━が、これはいい兆候じゃね?
わたしは先日、酒の入った勢いを借りてピーター君と繰り広げた、猥談の内容を思い出した。




