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第5話 〜柔らかい『何か』と2つの『マグカップ』〜

 ただ今、朝の7時。

 目の前には昨日出会ったばかりの少女(めちゃくちゃ美人)が静かに寝息をたてながら眠っている。

 よく考えると結構エロいシチュエーションだけど、別にやましい事が有ったわけでもないし……。まぁ正直起きた瞬間に彼女の整った顔を見たらドキッとしてしまいましたよ、ええ。いろんな意味でね。


「ウズヒさ…じゃなかった。ウズヒ、起きて?」


「ン……ンン……」


(ダ、ダメだって……)


 ずっと寝ているわけにもいかないので、ウズヒを起こそうと声をかけたら、寝ぼけて抱き枕だと思ったのかボクに抱き着いてきた。いや、本当にいろいろマズイですって。


「ねぇ、ウズヒ。ウズヒ?」


 重要な事なので2回言いました。名前って重要ですよね? 

 ……え? 今重要なのかって? さぁ……?

 ま、まぁ意味のない討論は置いておいて、軽く肩を揺さ振りながらウズヒに声をかけると、目を開いて


「……そのままキスでもしてくれたらよかったのに」


 起きてましたよ!! しかも『キスでもしてくれたら』って仰いませんでした?


「……ウズヒ?」


「冗談だよ。綺羅君が寝てる女の子に手を出すような人だなんて思ってないもん」


 ニッコリ笑顔の彼女を見て、堪えられてよかったと本気で思う。もう少しで彼女の術中にはまるところだったよ。


「……そろそろ起きようか?」


「その前に……ね? ダメ?」


「はぁ……まぁ……」


 昨夜緊張して触れたものに朝一番から触れるとは思わなかった。でも、そのお陰で今日という日を楽しく過ごせる気がするよ。




 ・

  ・


 1階に降りてきたボク等は今朝食を食べている。トーストはボクが焼き、目玉焼きとベーコンは彼女が。……作業量が違うとか言わないで下さい。気にしてるんですから。


 そして(一応)2人で作った朝食を美味しく頂きながら話題に上がっているのは今日の予定。


「今日は買い物に行きたいんだけど連れてってくれない??」


「何を買うの?」


「ん〜ここで暮らしていくのに必要な物と、今日のお昼と夕ご飯の食材かな」


 もちろん今日一日、特に予定の無いボクがお供しないわけもなく。話し合った結果カトートーカドーへ行くことに。

 カトートーカドーはかの有名な『イトー〇ーカドー』でも、クレ〇ンしんちゃんに出てくる『サ〇ーココノカドー』でもない、日本が世界に誇るカトーグループが経営しているデパート。何が凄いかというと「何でも安い!! とにかく安い!! と銘打つだけあって本当に何でも安い!」と安さを押し過ぎて、消費者を疑心暗鬼にしてしまうくらい安いところ。

 他のデパートに比べて多くの商品は3割引が当たり前。しかも食料品から生活雑貨、ブランド物まで揃え、ここで手に入らないものは無いというくらいの品揃えを誇るという驚異のデパート。

 そして毎日行われる「一円タイムセール」と呼ばれる、その日の目玉商品が一円で売られる時間帯には

さながら戦争の様な状況にはなるけれど、店舗は潰れない。

 聞いた話によると、これはどうしてカトーグループが潰れないのと同じくらいの謎で、世界の七不思議に食い込むんじゃないかと言われている。世界の七不思議って、デパートに食い込まれるくらいのレベルなんだ……。




 ・

  ・


 そして朝食を食べ終えて洗い物も終わらせ、寝間着のジャージから私服に着替えてTVを見ていたら、いつの間にか時刻は午前9時。

 寝室は同じ部屋になってしまったけれど、着替え等は母さんの部屋に置いてあるので、どれくらい彼女の準備が済んでいるのかは分からない。でも、そろそろ終わるんじゃないかと、ふと階段の方に目をやるとちょうど彼女が1階に降りてきたところで。


「お待たせ。……どうしたの? 準備に時間かけ過ぎちゃったかな?」


「い、いや、何でもないよ。うん、大丈夫」


 本当は凄い勢いで心臓が踊っているので大丈夫な気はしない。昨日ポニーテールにしいてた髪を下ろしてることによる雰囲気の変化が理由なのかは分からないけどね。

 と、そんな事を考えてる場合じゃなくて。


「じゃあ行こうか?」


「うん!」


 ボクの家からカトートーカドーまでは歩いて10分程。だから歩いて行こうと思っていたんだけど、


「自転車で行かない??」


 というウズヒの提案によって、ボクは今、家に一台しかない自転車に乗って必死にペダルを回していると。しかも2人乗りしている事によって彼女がボクの腰に手をまわし、体が密着しているわけで……


 (う~ん……)


 いろいろとね、困った状態なんですよ。柔らかいナニかがさ、こう……。

 ゴホン、ゴホン。ボクが今すべき事は、雑念を振り払って自転車を前に進める事!! そう、決して背中に柔らかい……何も感じないから!

 そして、5分間の頑張りの後、トーカドーに到着。やっぱり大きいね。何せ8階建てで敷地の広さも半端じゃないし。


「大きいね~。私の地元のトーカドーもこんなに大きくないよ」


 彼女もボクと同じ感想を抱いたらしい。


「ウズヒの地元ってボクの家から1時間くらいなの?」


「そうだよ。こんど遊びに来てね??」


「うん。悠真さんと杏奈さんにもご挨拶に行かないとね。で、まずどこからまわる??」


 店の中には入ったものの、人が多くてどこの店に入ったらいいのかわからない。ボク自身、ここに来たのは久しぶりで、何処に何があったかなんて全然覚えてなかったので、案内図を見ながら2人で順番に必要な物を買い揃えていく。


「他に何か要るものはあるかな?」


「う~ん……あとは食器を見たいな。大丈夫かな?」


「うん、もちろん」


 そういった物も扱っているお店は何処にあるのか探すために、近くにあった案内図を眺めていると、腕に何やら……。


「ウ、ウズヒさん?」


「どうしたの?」


 何故に腕を絡めているんですか? いや、別に理由が聞きたい訳でもないけどね。こういう時って思わず聞いちゃうよね。嫌なわけじゃないけど、またしても女性特有の柔らかい……このくだりはもういっか。


「何でもないよ。行こうか?」


「うん♪」




 ・

  ・


「綺羅君、これどう思う?」


 と言って、彼女が仔犬のシルエットが描かれたマグカップを手に取る。シンプルだけど素直にかわいいカップだと思ったのでそう伝えると、ウズヒが嬉しそうに近くに居た店員さんを呼ぶ。

 ん? 気に入ったのなら、レジカウンターに持っていけばいいんじゃ……。


「このマグカップ2つ貰えますか?」


「はい、畏まりました」


 ああ、成る程。2つ欲しかったから店員さんを呼んだのね。

 ところで。


「何で2つなの?」


「お揃いのカップ♪ 勝手に私が2つ買うだけだから。ダメ?」


 う、上目遣いで頼まれちゃうと何とも……。おそろいのマグカップは……あれ? 別にボクが困る事っても無い? いや、でもちょっと恥ずかしい気が。


「お会計が2点で1500円になります」


 店員さんの声によってウズヒがバックの中から財布を出そうとする前に自分の財布からお金を取り出す。


「2000円でよろしいですか?」


「え?」


 バックの中を漁っていた彼女が驚いて顔をあげ、何かを言う前にお金を受け取った店員さんがレジを打ち始める。それと同時にウズヒもボクの方を見る。


「綺羅君?」


「いいよ」


「でも……」


「いいから」


「……」


 恥ずかしさから少し素っ気ない反応を返しちゃった事を後悔したけど、なんてフォローしていいのか分からなくて。

 割れないようにと包装された2つのカップを受け取って歩き出した。



 ・

  ・


 その後、彼女は余り口を開くことなく黙々と買い物を済ませ、昼ご飯に何を食べたいか聞いても、何でも大丈夫だよ、としか答えてくれなかった。

 急に元気がなくなってしまったみたいだったけど、理由が分からなかったたのでとりあえず、今話題になっているラーメン屋に入って昼食をとることに。食事の最中も終始彼女は無言で、ボクが話題を振っても「そう」とか「うん」しか答えてくれなかった。

 これはちょっと大変だったかな。元々自分から話し掛けるタイプではないボクは少し話し掛けただけですぐに黙ってしまったから。

 気まずい沈黙の中、ラーメンを食べ、夕食の食材を買ってトーカドーを後にした。



 ・

  ・


 ボクは自転車を押し、彼女がボクの少し後ろを付いてくる。家に帰ったら、気落ちしている(様に見える)ウズヒにどうやって朝見せてくれていた笑顔を取り戻してもらおうかと考えていると。


「ごめんね」


 暗い声で彼女が口を開いた。でも『ごめんね』って一体何の事だろう? 彼女が悪い事なんて何一つしていないと思うんだけど。


「マグカップの事。お揃い、嫌だったよね……」


「え?」


 ウズヒが気落ちしていた理由。マグカップを2つ買った事に対してボクがよく思っていないんじゃないかと、ずっと考えていたから。良かれと思ってやったんだけど、ボクが無理矢理お金を出したのもよくなかったみたい。

 ちゃんと怒ってない事もは説明したんだけれど、それでも彼女は納得していないようで。


「ウズヒ」


 名前を呼ぶとそれまで俯いていた顔が上がって。その顔には不安が浮かんでいて。そんな表情も綺麗だけど、貴女は笑っている顔の方が輝いているから。


「後ろに乗って。帰ろう?」


「……うん、ありがとう」


 笑顔に笑顔で返してくれた彼女を後ろに乗せ、しっかりとペダルを踏み込む。



「夕ご飯は綺羅君の好きな物を作るね♪ 何がいい??」


「じゃあ、お好み焼きが食べたいな」


「了解です、隊長♪」


 と言いながらボクに抱き着いてくる。

 そんなことしたら柔……以下略。












 夕ご飯は本当にお好み焼きが出てきた(もちろん美味)。

 そして食後には、2つのマグカップに入ったお茶を2人で一緒に飲んだ。


「なんでマグカップにお茶なの? 普通湯呑みだよね?」


「だってお好み焼きにコーヒーや紅茶は変でしょ?」


 確かに……。

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