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第4話 〜彼女の『想い』と『同棲初夜(?)』〜


「だからボクがやるよ」


「ううん、私がやるもん」


「でも、一緒に暮らすんだから平等にしないと」


「じゃあ尚更、居候させてもらう私が働かないといけないんじゃない?」


 ボク達は今家事の役割分担について話し合っている。というか自分の主張を言い張っている。

 何故こんな状況になっているかというと……。


  〜3時間前〜




 空港で母さんを見送った後、ボクとウズヒさん、悠真さん、杏奈さんの4人で外食をする事に。ボクは家族3人で食事を楽しんで欲しいと思ったので遠慮したんだけど、杏奈さんに


「綺羅君ともたくさんお話ししたいから一緒に来てくれないかしら??」


と言われて断れず、一緒に食事をすることになったわけですよ。

 これからウズヒさんと話すときは敬語無しで喋る事を約束してしまうイレギュラーな出来事にも見舞われたけど、とても楽しく食事をとった後は寄り道をすることもなく、悠真さんが運転する車に揺られて我が家に到着。そして到着し、ボクとウズヒさんが車から降りた途端に悠真さんが、俺達は帰るから、と一言残してすぐに走り去っていってしまった。

 大事な娘さんを親友の息子とは言え、16歳の一般男子高校生と二人きりにするにしては淡泊な気もしたけど、ウズヒさん曰く、ボクはお二人から信頼を寄せられているらしい。

 どうしてそこまでの信頼を得られているのかは分らなかったけど、素直に嬉しかったので特に気にもせず2人で(ボクは未だに少し緊張しながらだけど)ゆっくりして居たところに


「ねぇ、家事どうする?」


というウズヒさんの一言で家事の話が出てきたと。




 ・

  ・


 その後の話し合いでボクが掃除(お風呂洗い含む)と食後の洗い物を、彼女が食事の用意と洗濯を担当する事に決定。

 この役割分担になったのは当然といえば当然で、彼女の料理の腕は昼食のときによくわかったからね。洗濯に至っては……し、下着とかあるんだよ? ボクが洗濯を担当できる訳ないでしょ?


 そんなこんなでそれぞれの役割が決まったわけだけど、ウズヒさんへの負担が大きい気もしていたので


「基本的に買出しはボクがやるよ」


 って言ったんだけど何故かウズヒさんが譲ってくれなくて。その結果、冒頭に至ると。




「やっぱりボクがやるよ。ウズヒさん、まだスーパーが何処にあるのか分らないよね?」


「それはそうだけど……。でも場所なら一回行けば覚えられるし、料理を作る私が買い物に行った方が手間も減るんじゃない?」


 た、確かに正しい意見です。


「でも……」


 やっぱり自分の家に同居してもらう訳だから、家の者であるボクが多く動くべきだと思うんだよね。


「それじゃあ2人で行くのはダメなの?」


「ふ、2人!?」


「うん。2人」


 2人はマズイでしょ……。地元のスーパーだと知ってる人がいくらでもいるしだろうし、もしご近所の噂好きなおばさん達に知られたら、おそらく3日以内に町中に広がっちゃうよ。考えただけで恥ずかしさで頭が痛くなってきちゃう。だから一緒に行くのは避けたいんだけどな。

 でも涙目で、一緒は嫌? なんて聞かれたら、


「そんな事ないよ」


 と答えるしかなくなり、


「なら一緒に行こうね? 約束だよ」


 となってしまう。


 かくしてボク等は一緒に買い物に行く事になりました。不安はあったけど、彼女の嬉しそうな笑顔をみていたらそんな物はどーでもよくなってしまった。

 結論。女性の涙は最強。その後のニッコリ笑顔はささいな事なんて遥か彼方に吹き飛ばしてしまう、と。

 いざ近所の奥様方にお会いしたら何とか頑張って誤魔化してみよう。


 そんな問題が片付いてから少し経った頃、お風呂が焚けていたのに気付いたので風呂に入る事に。ボクが先に入り、その後が彼女。

 もちろん覗きになんか行っていませんよ? ボクはヘタレだし、普通に考えて犯罪だし……いや、覗こうなんて一切思ってないよ。……うん、思ってない思ってない。

 



 ・

 ・

 彼女がお風呂から上がってから少し経った後、ふと彼女がどこで寝るのかという疑問が浮かんできた。

勿論母さんの部屋か、もしくは妹の部屋だとは思うけれど。

 ……一応、一応ね、質問したところ、


「え? 綺羅君の部屋で一緒に寝ようと思ってたんだけど……」


 ……はい?


「もうベッドの隣に布団敷かせてもらったんだけど……」


 行動が早いですよ……。そして一応ボクの意見も聞いて頂きたかった。

 一緒に暮らす事はきちんと受け入れたけれど、これだけはどうにか移動してもらわなければならない。間違いを起こす気はないけど、もし万が一にも何かがあった場合に責任をとれる自信もないし、悠真さんや杏奈さんに対して申し訳も立たないしね。


 そんな話も交えて1時間ずっとウズヒさんを説得して母さんの部屋で寝てもらう事に成功。

 いや、本当によかった。なんだかんだ言ってもボク達会ってまだ1日だからね。間違いを起こすわけにはいかない。




 ・

  ・


 ただ今の時刻、午後11時。

 今日は色々あって疲れたので、もう寝ようという事で2人で寝室のある2階に上がってきた。

 お互いにおやすみ、と声をかけて部屋の中へ。寝る前に、見た人全てが癒されるようなウズヒさんの笑顔を見れたから、いい夢をみれそうだよ。



 でも、現実は上手くいかないもので。

 いい夢を見れるどころか、家全体が何処となくいつもと違う雰囲気に包まれているせいで全く眠くならない。

 まだまだ冴えている頭で、確か小学校や中学校の修学旅行でもなかなか寝付けなかったなぁ~、なんて考えていたら、


『ガチャッ』


 という音がした。何かそう……ドアを開けるときのようなそんな音。ん? ドア??


「!?!?」


後ろから誰かが抱きしめてきた。



「ウ、ウズヒさん!? 何してるの!?」


そう彼女だ。今この家にはボクと彼女しかいない。居るとしたら屋根裏に……たぶん居ないね。ボク霊感無いし。







「……ね…い」


「え??」


霊感がどうとか今の状況になんら関係ない事を考えていたら、彼女の今にも消えそうな声が聞こえてきた。


「……お願い」


「な、何が??」


「お願い……一緒に居て」


 悲痛な声。必死に絞りだしたであろう声。

 その声によって今までよりも意識が鮮明になり、冷静さを取り戻す。


「どうしたの?」


 自分を抱きしめている華奢な腕の手を握り、背後の彼女に問う。


「お願い、一緒に居て……」


「それじゃわからないよ。どうしたの? 急に」


「だって……綺羅君はまだ私の気持ちを信じてくれてないでしょ?」


 確かに信じられていないボクがここに居る。ウズヒさんとは出会ってまだ1日だけど、とても優しい女性ヒトだって事は分かる。だから彼女の行動がふざけ半分でない事も分かる。でも、やっぱりボクがウズヒさんの存在を知ったのは今朝の事で。


「……私は生まれてから17年間ずっと待ってた。ずっと君の事を想ってきた。もう心も身体も私の全部が君の物なの。もし仮に、仮にだよ? 今ここで何かが起こっても、私はそれを受け入れられるよ?」


 意外な程に簡単にほどけた彼女の腕から脱出し、振り返って目を合わせると彼女の眼差しは真剣で。澄んだ瞳の中にはボクが映っていて。


「私は君に会うことが出来た。もう君と会えた事をなかった事になんて出来ないから」


 彼女が必死に訴えかけてきても、ボクは黙っている事しか出来ない。そんな自分がだんだん嫌になってくる。


「……本当はこんな事しても迷惑だって分ってるの。でも、実際に綺羅君と話をして、触れられる距離に居たら……。だからお願い……ね?」


 そのままウズヒさんは俯いてしまったけれど、その直前に見えた目尻には光るものが浮かんでいて。

 思いのたけを全て吐き出してくれた彼女のそんな姿を見ていたら思わず……抱きしめてしまった。


「……綺羅君?」


「ありがとう、気持は本当に嬉しいよ。でも、今は……」


 それだと君を傷つける事しか出来ないと思うから。君の想いがとても輝いてる物だと思うから。だから生半可な答を出したくない。


「綺羅君……」


「時間をくれないかな? 答を出す為の時間」


 それだけが今言える事。


「……分ったよ。うん、そうだよね。私、綺羅君が想ってくれるまで待つから」


「ありがとう、ごめんね」


「気にしないで。17年間待ったんだから、あと1年や2年どうってことないよ」


 ずっと俯いていた顔を上げてそんな事を微笑みながら言われると、さらに罪悪感が増してくるんですけど。本当に申し訳ない……。

 ウズヒさんはそんなボクの感情を表情から読み取ったのか、


「……ウズヒ」


 え?


「ウズヒって呼んで欲しいな。それなら許してくれる……かな?」


 ああ、ボクの罪悪感を少しでも拭い去ってくれようと。それなら、甘えさせてもらうかな。


「ウズヒ。ごめんね?」


「もう、また謝っちゃうの? じゃあ……もう一つお願いしようかな」


 そう言ってウズヒさ……ウズヒが目を瞑って。

 ……え? 本当に? だって、それは……。

 そんな事を考えている間に彼女の顔はどんどん近付いてきて……。








 距離が無くなったときに感じた温もりは柔らかくて。優しくて。

 ……火照った顔は湯気が出てるんじゃないかという程に熱くて。


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