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第37話 〜それぞれの『立場』と『パーセンテージ』〜

 ボクが喫茶店に入ると、あっちもこちらに気づいたようで……睨まれた。サングラスでハッキリとは見えないけど、明らかに雰囲気がきつくなったもん。何かボクが悪い事でもしましたか?


 ……君にとって、ボクは邪魔者なんでしたね。


 お店の中を見渡してみると、周りに居るのは従業員の人達だけ。たぶん他のお客さんはあのオーラに耐えられなくなったんだろうと思う。


「どうもはじめま「お前が天領綺羅か」……」


 席に近寄って挨拶をしようとしたけど、氷上君が最後まで言わせてくれなかった。挨拶は基本だと思いますけど? あと、初対面の人を『お前』呼ばわりは……。ボクは特に気にしないけどさ。


「早く座ってくれ。忙しくて俺の休憩時間も長くないからな」


 じゃあ呼ばなきゃいいのでは? とは思ったけど口には出さない。経験上、出さない方がいいって知ってるからね。


「待たせちゃったみたいでごめんね? そこまで友達と一緒だったんだ」


「ふん、気の利かない奴らなんだな。ウズヒがそんな奴らと同じ高校に通ってるってのも納得いかねぇ」


 ……今のは流石にカチンとくるよね。賢と未来の事を知りもしないのに、そんな事を言われる方が納得いかないよ。


「回りくどいのは面倒だから率直に言う、ウズヒと別れろ」


「それは無理かな」


 率直に断っちゃった自分自身にビックリ! いや、もちろん言われるだろうとも思ってたし、断るつもりでもいたけど、周りからヘタレと言われ続けるボクにしては珍しい行動かと。


「……これ以上は言わない、あの女と別れろ」


「無理だよ」


 これ以上言われても首を縦には振りません。振るつもりもありません。目の前に居る超人気俳優君が、全く表情を変えないのは気になるけど。


「ふん、予想通りだな。だったら俺があの女を買う。いくらで売る? 10万か? 100万か?」


 ……ありえない。絶対に赦される発言じゃない。人はお金で買えるものじゃない! 心の中で何かが爆発するのと、頭に血が昇っていくのがよく分かる。


「そんな事を言われて『はい、そうですか』って言うと思う? 1億円出されたって無理だから」


「ドラマでもないのに臭い台詞だな。まぁさっさと渡しておいた方がお前の為だぞ?」


「ウズヒは物じゃないから。簡単に渡したり貰ったりなんて出来ないよ」


 本当は物じゃないとかは関係なくて、ボクが嫌なだけなんだとも思うけど。

 頭に血は上っているけど、意外に冷静な自分に驚く。彼を許せる気はいっこうに起きてくる気配はないけれど。


「そうか……ならしょうがないな。俺もこんな事は嫌なんだけど、そうも言ってられないみたいだ」


「……え?」


「お前があの女を譲る気がないのなら――」







 ・

  ・


「はぁ……」


 足が重い……。氷上君に言われた言葉が今だに頭の中を巡り続けてる。本当にドラマみたいな展開。

 ……なんかお腹が痛くなってきた。


「ただいま……」


 家の玄関の扉も心なしか何となく重いよ。土間に並んでる靴は3人分あるから、ウズヒも帰って来てるんだ……。


「綺羅君お帰り〜!」


「うん、ただいま」


 噂をすればなんとやら。とても家の中で出せるとは思えない猛スピードでウスヒが2階から降りてきた。


「あれ? なんか元気ないね?」


「いろいろあってね……。ごめん、ボク先に寝るよ」


「えっ、綺羅君明後日……」


 ウスヒが心配そうな顔をしてくれたけど、さっき氷上君から言われた事を話す訳にもいかないので、そのまま自分の部屋へ行こうと階段を上る。

 ウスヒが何か言っていた気もしたけれど、今は冷静に話を聞いてあげられる状態じゃないから聞き返すことも出来なかった。


「ふぅ……どうしたらいいんだろう……」


 部屋に入ってベッドへ寝転がり、あの喫茶店で氷上君から宣告された事を思い出す。


 本当にキツイよ……。







 ・

  ・


「お前があの女を譲る気がないのなら――俺はお前を潰す」


 ……はい?


「さっさと渡しておけば良かったと後悔する事になるぞ? まずお前の家族が職を失うだろうな。それによって家庭が崩壊。大切なご友人もただでは終わらない」


「君にそんな事出来るわけ……」


「出来るんだな、これが。俺の所属してるプロダクションは両親が経営しててな。業界でも大手で、金もある。一般家庭1つを潰すなんて赤子の手を捻るより簡単なんだ」


「冗談……だよね?」


「冗談を言ってる時間の余裕なんて今の俺にはない。全部本気だ」


 とても信じられない。1人の女の子を自分のものにする為、平気で他人ヒトの家庭を崩壊させようと考えるなんて……。

 血が上っていても冷静だった先程までの自分はどこかへ行き、不安が心に押し寄せてくる。


「さっきも言ったが俺は忙しい。この町に居るのも、あと1日……居ても2日だろうしな」


「…………」


「返事は明日まで待ってやる。場所と時間は今日と同じだぞ? 来なかったら返事はイエスとみなす。以上だ。じゃあな」


「ちょ……待ってよ!!」


「……フン」


 椅子から立ち上がって歩き出した氷上君に向かって声をあげ、手を伸ばしたけど、彼はボクを一瞥しただけでお店から出て行ってしまった。

 追いかける度胸がない自分が悔しい。そのまま椅子に座ったままの自分が情けない。



 明日、この時間、ウズヒとボクは一体どうしているんだろう……。







 ・

  ・


「はぁ? お前はアホか?」


「は……何で??」


 昨日の事を全部話せというからありのままを話したのにあまりの言い草ですね、未来さん。そんな『こいつ大丈夫か?』みたいな目で見ないで下さい。結構傷つきますから。


「何で?ってお前なぁ」


「……未来、綺羅は本当に自分の置かれている環境が分かってないんだ」


 ボクが置かれている環境? それなりに理解してるつもりだけど……。でも賢が真剣な表情で見つめてくるので背筋を伸ばしてきちんと見つめ返す。


「……氷上海星がお前を倒せる確率はゼロ、ウズヒを奪える可能性は−100%だ」


 いや、おっしゃってる事の意味がよく分からないんですが……。未来は賢の横で顔に手をあててるし。


「その説明でコイツが分かるわけねぇって。というか、いきなり結論から入られて分かる奴なんて居るわけないだろ」


「……そうか?」


 そりゃそうでしょ……。それでなくても賢は何を考えてるのか分からない所があるんだから尚更だよね。


「そうだよ! もう私が説明するから賢は黙っててくれ」


「……了解だ」


 呆れながら賢に言い聞かす未来と、それに真顔で答える賢。こんな状況だけど何故か笑えてく

るよね。表情に出てたのか、未来には睨まれちゃったけどさ。


「まずな、氷上海星の両親がプロダクションを経営してるって言ってもたかが一企業だろ? 霞さんだって会社の社長じゃねぇか」


「そうだけどさ、あっちは業界でも大手……みたいな事言ってたよ?」


「だから、たかが日本での大手だろ? 世界でも5本の指には入るような会社に勝てるわけがない」


「5本の指って……母さんの会社はそんなに大きく「大きいんだよ!!」」


うぅ……未来に怒られた……。


「ウチの親父も、賢の親父さんも、霞さんが経営してるグループの会社の社員なんだよ。社長の一言で何千、何万と人が動く会社のトップなんだよ。霞さんは」


「……ウソ?」


 未来の言ってる事が、あまりに現実離れしてて受け入れられないけど……賢が隣でウンウン頷いてるのを見て、なんとなく本当の事だというのは分かったよ。

 そういえば、思い当たる節が色々と……。この前のモデルの件も然り。父さんの仏壇が家に不釣り合いなほど大きいのも然り。……これは関係ない?


「なんで嘘をつく必要があるんだよ。それにな、よく考えてみろよ? もし仮に霞さんが大企業の社長じゃなかったとしても、そんな風にウズヒが奪われそうになったらどうすると思う?」


 まぁ確実に……鬼神と化すだろうね。恐らく止められるのは、今は亡き父さんか杏奈さんと悠真さんのタッグ……。

 そ、想像しただけで寒気が。


「どっちにしてもお前がウズヒを奪われる事なんてねぇよ。でも賢、なんで−100%なんだ?」


「……今未来が上げた理由でゼロ、さらにウズヒが綺羅から離れていくわけがないから−100%だ」


 よ、よく意味が分からないけど。ほら、君と添い遂げる決心をしてる女の子でも隣でポカンとしてるよ?


「ま、まぁそういう事だ。お前はウズヒが校長室から帰ってくる前にとっとと「綺羅君おまたせ〜」……」


あぁ、ウズヒさん。ここで帰ってきちゃいますか……。







 ・

  ・


 未来の計画では、校長先生がウズヒを呼び出してもらっている間に話を終え、そのままボクを氷上君との決着をつけさせに行くつもりだったらしい。結局思ってたよりウズヒが早く戻ってきたから、後半は狙い通りにいかなかったけど。


 そして気がつけば昨日と同じ喫茶店の同じテーブルに座っているという状況。昨日と違うのは、氷上君がまだ到着していないのと、他のお客さんが居る事。そして……黒づくめの3人組が居る事かな。

 近くのテーブルに、黒いスーツに黒いサングラス、黒い帽子をかぶった、以前見たような姿をした3人組……。

 あ、あとボクの制服に盗聴器が付けられてたりする点も昨日との違いです。


「よお。俺より早く来てるのはいい心がけだな」


 3人が居るテーブルを見つめていたら、いつの間にかお店へ入ってきていた氷上君の声が降ってきた。

 危ない危ない、3人の事はバレちゃいけないもんね。3人は受信機に集中しているのか、顔を寄せ合ってこっちを全然見てないし。


「ビビって来ないかとも思ったけどな。それでウズヒを渡す決心はついたか?」


「ウズヒを渡す気はないよ。今日はそれを伝えに来たんだもん」


 ボクの返事が意外だったのか、氷上君が怪訝な表情を浮かべる……のと同時に、「綺羅君、カッコイイ!!」とか「おまっ……大きい声出すなよ!!」とか聞こえてきた。幸い、氷上君には聞こえていなかったみたいなので無視します。


「お前、その返事がどういう事態を招くか分かって言ってるんだな?」


「もちろんだよ」


 未来の話を聞いて、周りの人に危害が加わる事はないって分かったから。ボク自身には何が起こってもいいから。


「フン、馬鹿だな。お前もお前を選んだあの女も」


……ウズヒが向こうで聞いてるけど、そんな事言っちゃっていいの?


「しかし、ウズヒももう少し頭のいい女だと思ってたけどな。こんなさえない男のどこがいいんだか」


あの……その辺りでやめといた方がいいと思うけど……。


「たいして特徴もない上に、状況も分からないなんて最悪だろ」


あぁ……


「こんな奴の為に時間をさいた俺もバ「バッシャーーン!!」……」


 案の定、サングラスを外して鬼の形相をしたウズヒが氷上君の背後から近寄ってきて、テーブルに置いてあった水を氷上君の顔に思いっきり掛けちゃった……。

 水も滴るいい男の完成ですか?


「最ッッッ低!! 綺羅君の事、何も知らないくせに勝手な事言わないで!! 2度と顔も見たくない!!」


 お約束というか、なんというか。ウズヒは凄い勢いでお店を出てっいっちゃうし、。氷上君は水も拭かずに呆然としてるし……未来が爆笑してるのを賢が止めようとしてるもチラッと見えたし。とりあえず、ウズヒを追い掛けなきゃ……。

 

 会計を終えて賢も未来も氷上君もお店に残したまま外へ出たけど、既にウズヒは見えるところに居なかった。


 ――誰かにお会計だけ頼んでおけばよかったなぁ。


 そんな想いを抱きながら、一つ、深呼吸をした。







 ・

  ・


 結局1時間ほどウズヒの行きそうな所をまわってはみたけど見つからず、電話をかけても繋がらなかったので帰宅する事に。

 もちろん賢と未来にも連絡はとったよ? でも何故か『自分で探せ』って相手にしてくれなかったんだもん。


「……あれ? 母さん?」


 我が家の明かりが直接確認できる距離になると、家の前で母さんが1人で立っているのが見えた。ボク歩いているのとは逆の方を向いて。


「ただいま。どうかしたの?」


「あら綺羅、お帰り。ウズヒちゃんなら、もう帰ってきてるわよ」


 予想通りというか何というか。とりあえず一安心はできたかな。家に居れば聖が目撃する確率も無いし……なんてね。


「その顔だと決着はついたみたいね」


「うん、まぁ一応」


 ウズヒと話し合う必要はあると思うけど。


「そう。じゃあ私と亜梨香は明後日のお昼まで実家に居るから、それまでよろしくね」


 ……はい? この人はまた突然何を……。


「色々考えたんだけど、これが一番ウズヒちゃんは嬉しいんじゃないかなって思ったの。誕生日プレゼントとして」


 あれ今日って……9月17日? 確かウズヒの誕生日は9月18日だった気が。


「……最悪」


 氷上君の件で完璧に忘れてた。どうしよう……今からじゃお店なんてどこも開いてないし、何を買ったらいいのかも分からないし……。


「プレゼントよりも、今は顔を見せてあげなさい。そっちの方がウズヒちゃんは喜ぶわよ」


「うん……」


「頑張りなさい。あ、亜梨香はもうあっちに着いてる頃だから家には居ないけど、近所迷惑にだけはなっちゃダメよ?」


久しぶりに心を読まれたとか、何をもっての近所迷惑なのかとか言う前に母さんは駅に向かって歩いて行ってしまった。
















 その頃、未来は瑞穂さんに先程起こった事を電話で笑いながら伝え、賢は既に家で爆睡していたらしい。

 氷上君は……不明です。

akishi「更新が大変遅れてしまい、本当に申し訳ありませんでした。akishiです」


朱実「本当に久しぶりだな〜。朱美です」


akishi「ここまで更新間隔が空いたのは初めてで、『もう更新しないんじゃないか』と思われた方もいらっしゃったと思います」


朱実「これだけ間隔が空けばなぁ〜」


akishi「だよね……。これからも間隔が空いてしまう事はあるかもしれませんが、今回のように長期にならないよう一生懸命頑張ります。そして必ず完結させます」


朱実「言ったな〜。ここで言ったからには絶対だぞ?」


akishi「うん、大丈夫だよ。それだけは信念として始めから決めてる事だから」


朱実「ふ〜ん。まぁ、こんな事を言っているんで、しょうがないと思って付き合ってやって下さい」


akishi「朱実君に先に言われてしまいましたが、今後もお付き合い頂ければ、それ以上嬉しいことはありません。

長くなりましたが、そろそろ失礼致します。また次回お会いしましょう」


朱実「よろしくです!」


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