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第35話 〜『裏設定疑惑』と3年の『月日』〜

 共感してくれる人も多いと思う。ただボタン一つを押す事だけに感じる緊張。

携帯電話の画面に表示されている《柊舞衣》という文字と電話番号。掛けなきゃいけないのだと分かっていても、得体のしれないプレッシャーが……という程の大袈裟な事ではないかもしれないけど。

 こんな状態になって既に1時間以上。流石に疲れちゃったよ……。


「はぁ〜……どうしよう。……あ」


 疲れを吐き出すように溜め息をついた瞬間、親指が通話ボタンをポチッと……。今更切ったとしても、舞衣から掛け直しの電話がくるだろうから意味がないよね……。


『もしもし? 綺羅?』


 やっぱり繋がっちゃった……。ボクが悪いんだけどさ。


「もしもし。ごめんね、急に電話しちゃったりして……。今、大丈夫?」


 正直ボクにとっても急な出来事です。だって不意に掛かっちゃったんだもん。


『大丈夫だよ。何かあった?』


「いや、その……今度1回、じかに会えないかな? 話したい事があるんだ」


 この前、君がくれた言葉に対する返事を。あの時言わなければいけなかった事を。


「うん。いいわよ」


 恐らく舞依も、僕が何の話をするつもりなのかは分かっているのだとは思う。それを分かった上で今聞かないという事は、その時まで待っていてくれると考えていいんだよね?


「うん、そうそう。じゃあ日曜日にね」


『ええ。昔みたいに約束をわすれちゃ駄目よ? じゃあね』


 通話の切れた携帯電話から聞こえてくるのは、一定間隔で鳴り続ける電子音だけ。

 昔――舞依と付き合っていた時、一緒に帰る約束を忘れてボクが先に帰っちゃった事があったっけ。


 ……懐かしい、思い出だね。






 ・

  ・


 皆さんのご想像通り、あっという間に日曜日。絶対にこれっておかしいよね。ちゃんとボクにも普段の生活があるのに、そこが全部カットされてるなんて……。今週だって色々な事が起こったんだから。朝目覚めたらウズヒの顔が目の前にあったり、『はい、あ〜ん』で食事が終わったり、隣の部屋に居るはずのウズヒから夜、『一緒に居れなくて淋しいよ……』というメールが来た等々。

 え? いつも通りじゃないかって? まぁ《普段の生活》ですからね。……この生活に慣れてしまったボクはどうしたらいいのでしょうか?

 あ、おかしい事といえばもう1つ。


「なんで君達が来てるの……」


 黒いスーツに黒いネクタイ、黒いサングラスに黒い帽子と逆に目立つ服装で身を固めた賢と未来がボクの傍に……。


「……俺は賢人じゃない」


「バ、バカ! 自分から名前を名乗ったらバレちまうだろ!!」


「いやいや。普通に分かるから」


 どう考えても『疑って下さい』っていう格好にしか見えないし。こんな格好の人を直に目にする日が来るとは思わなかったな……。


「ハァ……やっぱりバレてたんじゃねぇか。だから私は『こんな格好じゃ駄目だ』って言ったんだ」


「……尾行と言えばこれだろう」


「「…………」」


 ふ、古い。《超》が付くほど考えが古い……。その格好じゃ、『疑ってください』って言ってるようなものだよ。


「それで、尾行がバレてしまったお2人さんはこれからどうするの?」


「もちろんこのまま付いてくぜ。付いて行けば修羅場が見られるしな。『なんで私じゃ駄目なのよ!?』みたいな」


「未来、その発言は読者諸兄に底意地の悪いイメージを与えるよ?」


 親友の裏設定に《底意地が悪い》があるなんて嫌だなぁ。それにせっかくの人気が落ちちゃうよ?


「気にすんなって。私達が本当に見たいのは、修羅場じゃなくてお前の困ってる姿だから」


 いや、それはもっと悪いでしょ……。






 ・

  ・


 待ち合わせ場所はこの前訪れた喫茶店。始めはボクが駅まで迎えに行こうと思っていたのだけれど、舞依が遠慮をしたので、何処にお店があるのか分かるこの喫茶店で会うことになった。

 さっき未来から言われた時は何とも思わなかったけれど、本当に修羅場になっちゃったらどうしよう……。修羅場になったとしても舞依に応えてあげられる訳でもないし、出来れば穏やかに終わってくれないかな。何で未来は無駄に不安をあおるのかな……。当の本人は、近くの席で賢と囁き合いながらこっちを見てるし。周りから変な目で見られてるのは気にならないのかな?


「お待たせ綺羅。待った?」


 声のした方を向くと、いつの間にか舞依が傍に立っていた。舞依の姿を見た瞬間、心臓が飛び跳ねたような感じがしたよ。あぁ、本当に心臓に悪い……。


「ううん、今来たところ。何か注文する?」


 ボクの向かい側にある席へ腰掛けた舞依から未来達のテーブルは死角になっているので、たぶん気づいてはいないと思う。でも、あっちからは会話が丸聞こえの距離なんだよね……。

 舞依がアイスティーを飲むと言ったので、店員さんを呼んで注文。ちなみにボクはメロンソーダ。


「それで、話ってこの前私が言った事よね?」


「うん、まぁそう」


 随分直球で来ますね? その方が話は早いんだけどさ。


「ごめんね。突然あんな事言っちゃって」


「気にしないで? それは大丈夫だから。で、返事なんだけど……」


 1回深呼吸をして、一気に言葉を吐き出す。


「ごめん。ボク、今彼女が居るんだ。だから舞依とは付き合えない」


 お願いだから修羅場だけは……。


「あ、そうだったの? だったら、あの時言ってくれればよかったのに」


「はい?」


『ガッシャーーン!!』


 ボクが聞き返したのと同時に、店内にガラスの割れる盛大な音が響いた。たぶん割ったのはボクの困った姿が見たいって言っていたあの人じゃないかな。

 店員さんと黒づくめの2人組が割れたグラスと水を拭き取っている中、店内は元の空気に戻っていた。ついでにアイスティーとメロンソーダもボク達のテーブルに。


「ごめん、さっきの話だけど……」


「そうね。綺羅に彼女が居るなら、別に無理に付き合って欲しいとは思ってないわ。綺羅はその娘の事が好きなんでしょ?」


「うん。好きだよ」


 たぶんこれからもこの気持ちが変わる事はない。今回だってウズヒの事が嫌いになった訳じゃない。ただ、少しすれ違ってしまっただけだから。そして今は元通り。


「ならその娘を幸せにしてあげなきゃ。綺羅が人前で『好きだ』って言えるくらいだもの、本当に好きなのね。私には1度も言ってくれなかったでしょう?」


「……ごめん」


 あの時は『好き』っていう言葉が凄く恥ずかしかったから。いや、それは今でも変わってないかな。だけど舞依の言う通り、それだけウズヒが好きだって事だと思う。舞依からしたらかなりの驚きなんだろう。


「ふふっ。別に謝る事じゃないでしょ? 私が君の事を裏切ってからもう3年も経ってるんだから、彼女が居たっておかしくないじゃない。優しい綺羅だもの」


 修羅場が来なかったのは嬉しい。喧嘩なんてしたくないから。でも……


「舞依、裏切ったなんて言わないでよ。ボクはそんな風に思ってないから」


「でも、私は何も言わずに君の前から立ち去ったのよ? 付き合っていたのに」


「それでもだよ。舞依にも事情があったんだし、もう過去の事だから。舞依も裏切ったなんて言わずに次に進んでよ。ね?」


「綺羅……ありがとう」


 そう言って微笑んでくれた舞依の表情が、付き合っていた時に見せてくれていた笑顔と被って見えたのはここだけの秘密って事で。






 ・

  ・


「ったく、あんな展開ありかよ? 考えてたのと正反対じゃねぇか」


 あの後1時間ほど舞依と話をした後、駅まで彼女を送って賢達と合流。すぐに未来がボヤキ始めて今に至る、と。


「でも、ボクはあれが舞依らしいと思うよ? 中学の時と同じ舞依だったし。賢もそう思わない?」


「……俺は柊と話す機会が少なかったからよく分からんが、確かにあんな感じではあったな」


 そういえば賢は舞依の事をよく知らないかもね。舞依を含めた4人で居るって事は少なかったし、更に無口な賢人君ではねぇ。

 ちなみに賢は女性に対して超奥手です。知らない女性とはまず話さない(話せない)し、告白されている時は、親しい人が見ればパニックに陥っているのが分かる。慣れない相手に何を話していいのか分からないんだろうね。


「まぁ2人の言う通りかもな。アイツは誰よりもサッパリした性格だったから」


 いやいや、貴女ほどサバサバした人は居ませんよ。ボクは貴女が1日以上同じ事で悩んでいるのを見た記憶がありませんから。というか他の人が悩むような事でも、ボクの周りに居る人達はあっさり解決できちゃうんだよね。だから悩みが少ないんだ。新発見、新発見!


「お前、何か失礼な事を考えてないか?」


「え? そんな事ないよ」


 うん、そんな事ない。逆に褒めてると思うんだけどな。《何でも簡単にこなせる》って。


「何か引っかかるけど、とりあえずそこはいいか。しかしお前が私達以外の人間の前で、ウズヒの事を『好き』って言うとはな。マジでビビったぜ」


「そんなに意外な事かな?」


 顔を賢の方へ向けて聞いてみる。あ、ボクの右に未来、左に賢が居るから。


「……ああ。……もしかしたら初めて聞いたかもしれんな、お前のそんな言葉は」


 やっぱりそうなんだ。未来達までがそう言うってことは、自分が自覚している以上に自分の気持ちを出していなかった事になるね。

 だけど、最近は頻繁に言ってる気がするよ。ウズヒと仲直りした時から。もちろん言葉だけじゃなくて、気持ちも伴って。


「じゃあ、そろそろ私たちは帰るかな」


「え? ボクの家に寄っていかないの?」


 結局、今週ウズヒが学校に行くことはなかったから、てっきり寄っていくものだとばかり……。


「ウズヒには明日から学校で会えるんだろ?」


「うん、まあ。明日からは行くと思うよ」


「なら問題なしだ。じゃあまた明日な」


「……じゃあな」


 それだけ言い残して2人は幸せそうに帰って行った。

 何で幸せだと分かるかって? だって曲がり角を曲がる寸前に手を繋ぐのが見えたからね。所謂いわゆる恋人繋ぎってやつで。


「さて、ボクも帰ろうかな」


 果たしてウズヒのお出迎えはどうなるのか……。いきなり抱きつかれるのか、はたまた『食事にする? お風呂にする? それとも……私?』パターンか。どっちにしても寿命が1日縮まります。
















 結局ウズヒのお出迎えは熱い抱擁だった。勇気をだして耳元で『好きだよ』って言ったら、顔を真っ赤にしていたけれど。


 そして翌日の朝、舞依から1通のメールが届いた。


『これからも友達としてよろしくネ! 今度彼女さんにも会わせてくれると嬉しいな』



akishi「すみません、更新が1日遅れてしまいました」


朱実「皆さん、お久しぶりです。天領朱実です。お前、自分が言った事に責任を持てよな」


akishi「本当にすみませんでした。昨日の3時に更新したつもりでいたのですが、眠気で意識が朦朧としていた為、きちんと更新出来ていなかったようです」


朱実「そんなの確認すればすぐに分かる事だろ? 気をつけろよ」


akishi「はい……以後気をつけます。

さて話は変わりますが、舞依ちゃんのお話を」


朱実「今回のキーキャラの1人だな」


akishi「初登場の回で、彼女に対して良くないイメージを持った方もいらっしゃったかもしれませんが、彼女は元々とてもいい娘です。綺羅君に対する気持ちも嘘ではありませんしね。そして綺羅君の姿を見て素直に身を引いたと」


朱実「マジでいい娘じゃねぇか!」


akishi「なので、あまり彼女の事を嫌いにならないであげてくださいね。

あ、あと未来ちゃんの裏設定疑惑の件ですが、彼女にそのような裏設定はありません(笑)。今回の彼女の言動は、綺羅君をリラックスさせる為のものでしたから。親友だからこそ成せる業ですね」


朱実「悠真はそんな事してくれなかったぞ?」


akishi「……次回更新は18日(土)です。もしかすると、もう少し早く更新できるかもしれません。では、次回もよろしくお願いします」


朱実「おい! 俺の発言は無視かよ!?」

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