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第33話 〜2人の『酒豪』と『一万円札』〜

ウズヒに部屋を追い出されて唖然としていたボクは、悲鳴を聞いて駆け付けた悠真さんにリビングへ引っ張っていかれ、何があったのかを聞かれた。

でも急に追い出されたボクに理由が分かる訳もなく、その時点でこの会話は終了。


少し経った頃に、いつの間にかお風呂に入っていたウズヒが現れ、ちょっと遅い昼食を取り始める。


「そういえば、ウズヒ。貴女、これからどうするつもりなの?」


メイン料理であるオムライスのスプーンを持つ手を止めて、ふと思い出した様に杏奈さんがウズヒに質問を投げ掛ける。


「もちろん綺羅君と一緒に居る!!」


「ゴホッ……ゴホッ……」


ウズヒが急に隣で大声を出したから、チキンライスが喉に……。


「貴女ね……。私が言いたいのは、これから何処へ行くのかって話よ。一先ず此処に残るのか、それとも――」


「綺羅君の所へ行く!!」


ウズヒ、声が大きいよ……。お隣りさんにまで聞こえちゃうって……。


「でも貴女、体調がまだ完全じゃないでしょ? 大丈夫なの?」


「綺羅君と一緒じゃないと、もっと悪くなっちゃうもん! だから綺羅君と一緒に行く!」


「だそうよ? 綺羅君はどうするの?」


「ボクは、ウズヒのしたいようにさせてあげたいと思います。家に着くまで、しっかりボクが支えていきますから」


ウズヒは一度決めたら中々聞いてくれないし、ボクもウズヒと居られたら嬉しいしね。


「なら決定ね。悠真は異存ある?」


「決定してから聞くなよ……。まぁ異存がある訳でもないけどな」


「ありがとう! お母さん、お父さん!」


和やかな雰囲気の中、昼食の時間が過ぎていく。






 ・

  ・


昼食を食べて、みんなで少しゆっくりした後、悠真さんの車でボクの家へ。運転席に悠真さんが座り、助手席には杏奈さん。ボクは後部座席で……ウズヒの膝枕。嬉しい事は嬉しいのだけれど、親御さんの前でこれは……。


さらに家に着くと、母さんが家の前で佇んでいた。まだ午後3時をちょっと過ぎたくらいなのに、何故もう帰ってきているんですか? 副社長が休みで、社長が早引きしてる会社って一体……。


「お帰りなさい、ウズヒちゃん!」


ウズヒが車を降りた途端、母さんがウズヒに抱き着いた。10cm近い身長差の為、滑稽に見えなくもない……かな。


「霞さん……。ただいま帰りました」


「本当にごめんなさいね、ウチのどうしようもない息子が」


チラッとボクの方を見ながらそんな事を言う母親。反論出来ない所がとても心苦しいです。


「いえ、そんな事は……」


「いいのよいいのよ。さぁ家に入りましょ。杏奈と悠真君もね。あ、綺羅」


「なに?」


「これで買えるだけのお酒を買ってきて。そうねぇ〜……缶でいいわ。じゃあ、よろしくね」


ボクの手に一万円札を握らせて、母さんは家の中に入ってしまった。……これって本当に行かなきゃいけないのかな?


「綺羅、霞に何を言われた?」


どうしようかと考えていたら、玄関から悠真さんが気の毒そうな顔で登場。


「これで買えるだけのお酒を買って来いと……。やっぱり買って来ないとマズイですかね?」


一万円札を見せながら、悠真さんに聞いてみる。


「アイツが金まで渡して冗談は言わないだろうな……。はぁ、じゃあ行くか」


悠真さんがキーを取り出しながら、運転席のドアに近づいていく。


「え?」


「一万あったら何十本買えるか分からんぞ? お前、歩いてもって帰ってくる気か?」


いくつかのビニール袋に、何十本もお酒を……無理。歩けないし、絶対に袋が破れちゃうよ。


「……すみません。お願い出来ますか?」


「ああ、了解だ。早く行って早く帰って来ないとな」


『霞も怖いけど、それ以上に杏奈が怖いんだよ』。悠真さんの言葉に、思わず笑みが零れてしまった。






 ・

  ・


近くの大型酒チェーン店に入って、買い物カゴにビールのケースを積んでいく。一応買ったビール瓶は先に車へ積み込み済み。


「でも、こんなに買う必要があるんですかね? 母さんは確かに酒豪ですけど、ここまで飲みませんよ?」


また2つの六本入りケースを積みながら悠真さんに聞く。


「杏奈も霞と同じくらい飲むからな。あの2人に一万円分じゃ、絶対に足らん。また来るのも面倒だから、多少余分に買っていくぞ」


あの杏奈さんが……。いや、確か母さんが帰ってきた日に、一晩中飲み明かしたって……。悠真さんも大変だなぁ……。


「おつまみも買っていかないと駄目ですよね?」


「ああ。酔っ払った時に無いと、買いに走らされるだろうからな。大量に買い込んどこうか」


「はい……」


そんなこんなで買い物が終わったのは約1時間後。車の中にはこれでもか、という程大量のお酒。


「これが一晩で消えちゃうんですか……?」


「たぶんな……。あの2人ならやりかねん」


2人で呆れながらも車に乗り込み、酒店を出発。


「「…………」」


く、空気が気まずい。荷物による圧迫感が尋常じゃないから!


「あ、あの!」


「な、何だ?」


なんとかこの空気を脱する為に話し掛けたのはいいけど、何を話すか全く決めてなかった……。何を話そう……。


「……すみませんでした」


「ん? 急にどうした?」


「ウズヒの事で……」


やっぱりきちんと謝らなければいけないと思う。家に帰ったら母さんもウズヒも居るしね。ウズヒの前でこんな話をしたら、気に病んでしまうから。


「もうその事は気にするなって」


「でも……」


「だったら一つだけ。絶対ウズヒと結婚してくれ」


「はぁ……。ボクもそのつもりですけど……。どうしてそれを?」


許婚だし、ずっとそのつもりで一緒に居た訳だから今更って気もするけど。


「オレはお前以外の男にウズヒをやるつもりはないが、それでも孫の顔は見たいんだ! だからウズヒと結婚してくれ!」


悠真さんの言葉を聞いていると、テレビに出てくるような頑固親父のイメージが沸いて来る。一先ず相手の親御さんに認められているいう意味では、ボクは幸せ者なのだろうね。


「分かりました。頑張ります」


「何を頑張るんだ? 子作りか?」


「悠真さん、それ下ネタです……」


「男同士なんだからいいじゃねぇか」


下ネタがいいとは言えないけど、空気がいい感じになったのは良かったかな。






 ・

  ・


家に着いて必死に荷物を運び、夕食を取った後にお風呂から上がると、既に宴会は始まっていた。母さんと杏奈さんはお酒、ウズヒと亜梨香はジュースで。そんなウズヒの姿は、とても今朝と同一人物だとは思えない。もちろん元気になってくれたのは嬉しいんだけど……。


「だかりゃあっくんはヘタレだったにょよ〜。ねぇあんにゃ?」


「そうね。朱実くんもそういう所で根性を出さないと」


……何故、父さんに対する駄目だしなんだろう? もしかして、毎回こんな会話なのかな?


「おい綺羅! こっち来いって!」


「あ、はい」


ドアの影から顔だけを出していた悠真さんに呼ばれて、隣の部屋に移動。なんでもあの中に入ると当分の間は抜ける事が出来なくなるので助けてくれたらしい。母さんから絡まれ続ける事は身をもって実証済みです。


「杏奈さんも母さんみたいになるんですか?」


「『なる』っていうか、もう『なってる』んだけどな。目尻が少し下がってただろ? あれで相当酔ってるんだよ」


「へぇ〜」


杏奈さんの言動がちょっと変わっていると思ったら、そういう事だったんだ。ボクには全く違いが分からなかったから、流石長年連れ添った間柄というか、どれくらい悠真さんが苦労してきたのか計り知れないというか……。


「ウズヒがああならないといいな……」


「全くです……」


夜は、まだまだ長い……。






 ・

  ・


時刻は夜半12時過ぎ、母さんと杏奈さんは未だに飲みつづけているけれど、ウズヒと亜梨香はもう終わりらしい。亜梨香は自室。ウズヒは……


「ごめんね、綺羅君。ベッド使っちゃって……」


ボクの部屋で2人きり。いや、もちろん変な事はしてないよ? ウズヒがどうしても離れたくないって聞いてくれなくて。……惚気ノロケじゃないよ? ここ数日の事で、ウズヒの心に大きな傷が残らなければいいんだけれど……。


「ボクはウズヒよりも寝てるから問題ないよ。それにボクも一応男だからね。ウズヒはきちんと睡眠を取って、体を大切にしなきゃ」


「うん……。手は……」


「大丈夫。朝にも言ったでしょ? ボクはずっとここにいるから、ね?」


今朝ウズヒが寝ている時そうしていた様に、ボクが正座をしてウズヒがベッドへ横になり、手を繋ぐ。ウズヒが目覚めるまで、離したりはしない。


「ずっと?」


「ずっとだよ。ボクに、他に行く所なんてないんだから」


「うん……私も……」


ボクの手を掴むウズヒの力が、少し強くなった。ボクも負けないくらいに強く握り返す。


「綺羅君?」


「何? どうかしたの?」


「私ね、家に居る時、怖くてしょうがなかった。暗い暗い闇の中に独りで居るみたいで。ずっとこのままなんじゃないかって思ってた」


「…………」


……何も言えない。全部ボクの所為だから。フォロー出来る立場でもない。


「でね、綺羅君が現れた時、夢じゃないかと思うくらい嬉しかった。だけど、同じだけ『何で私の前に現れたの?』って疑問もあったの」


「…………」


あの時ウズヒが叫んだのは、心からの声だったんだ……。


「でもね、今は綺羅君の事信じてるよ。前よりも、もっとね」


「うん、信じて。もう2度と裏切る様な事はしないから」



誓った。指輪に。自分に。この小さな手に――



「綺羅君」


「何?」


「ううん。おやすみ」


「おやすみ、ウズヒ」
















翌朝ボクが起きると、既に起きていたウズヒの顔が目の前に。


その後1時間に何があったのかは、ご想像にお任せするという事で……。


更新間隔が短くなると、どうしても1話の分量が少なくなってしまいますね。いろいろと読者様からのご意見を聞いて考えてみたいと思います。


次回更新は2日(木)です。よろしくお願いします。


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