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第31話 〜母の『気遣い』と『独占欲』〜

……信じられない。いくら喧嘩した後だといっても、ウズヒがそんな……。


「おい、綺羅! しっかりしろって!」


「え……? 聖?」


「『聖?』じゃねぇよ。急に黙り込んでどうした?」


まだ頭が上手く回っていない。ウズヒがホテル街に? ありえない。あってほしくない。


「聖、本当にウズヒだったの?」


「あぁ。あの髪は間違いなく桜井さんだった。よく見えなかったけど、隣に居た男はお前だろ?」


隣に居た男……。もしかして昼間の? だとしたら本当にウズヒは……。


「綺羅?」


「ごめん。ボク、ちょっと体調が悪いから帰るね」


「お、おう。気をつけて帰れよ?」


多少強引ながらも、聖との会話を終わらせて帰路につく。

ウズヒがそんな事をするはずがない。ボク以外の誰かと体を重ねるなんて……絶対に嫌だ。


醜い心情こころ。独占欲。元々ボクとウズヒでは全然釣り合わない。容姿も、才能も、何もかも。

だけど君が傍に居てくれたから。二言目には『大好きだよ』って言ってくれる君だったから、誰に告白されても、何が起きても傍に居てくれるって思ってた。そう、何があっても……。


「はぁ……」


……早く家に帰りたい。このままだと道端で倒れてしまいそうだから。






 ・

  ・


家に着いた途端、制服を着替える間もなく眠ってしまった。昨日寝ていなかったのもあってか、かなり深く眠ってたみたい。夢を見ていた憶えもない。


「もうこんな時間……」


携帯電話を開くと、デジタル時計が8時を示している。睡眠時間は約3時間。まだまだ寝足りないのか、体が凄く重い。かと言ってこのまま寝る訳にもいかず、私服に着替えて携帯電話を少し弄って一階のダイニングへと降りる。


「あら、やっと起きてきたわね。今夕食の準備をしてる所だから、少し待ってて?」


部屋に入ると母さんは料理をテーブルへ並べている所で、亜梨香はそのテーブルに着きながら、どこかくらい顔で携帯電話を触っていた。


「ほら、亜梨香。もうご飯だから携帯は仕舞いなさい。綺羅も立ったままじゃご飯は食べられないわよ」


正直食欲はあまりないけど、このまま食べ続けないでもいられないので椅子へ腰掛ける。

しかし食べ始めたのはいいけれど、箸は進まないし、空気が重い。

ウズヒの存在は本当に大きかったんだと実感する。既にウズヒは家族の一員だったんだから、大きくないはずないのにね……。


「お兄ちゃん、ウズヒさんの事だけど……」


亜梨香の言葉に、動かそうとしていた箸が止まる。


「ウズヒさんね……」


「ご馳走さまでした。ボク、上に居るから」


箸を置いて立ち上がり、部屋へ向かう。今ウズヒの話をされても、冷静に受け止められないから。


「ちょっと、お兄ちゃん!!」


「亜梨香、放っておきなさい。若いうちには色々あるものよ」


「だけど……」


「2人の問題よ。でも、確かにこのままでいい訳もないわよねぇ」






 ・

  ・


布団に包まっていても、なかなか寝付くことが出来ない。さっきまで泥のように眠っていたのが嘘のように思えてきた。眠れそうな雰囲気が微塵もない。


「綺羅、ちょっといい?」


急な声に驚いて上半身を起こすと、ドアの近くに母さんが立っていた。


「いつの間に……」


「ドアをノックしたのに貴方が気付かなかったのよ。貴方、ウズヒちゃんが今何処に居るのか知ってるの?」


「…………」


……ウズヒは今何処に居るんだろう。さっき下に降りていく前に電話を掛けてみたけれど、電源が入っていないということで繋がらなかった。もしかしたら着信拒否になっているのかもしれない。


「その顔だと知らないみたいね」


電気はついていないけど、小窓から入ってくる月明かりで部屋の中は比較的明るい。だから母さんの姿を見つけることが出来たし、母さんもボクの表情が見えたのだろう。


「ウズヒちゃんね、杏奈達の所に居るわよ」


「…………」


杏奈さん達の所――実家に帰ったって事か……。


「まぁどうするかは貴方次第よ。あとは自分で決めなさい」


そう言い残して母さんは部屋を後にしていった。

ウズヒの居場所が分かっても……ボクにどうしろと……。






 ・

  ・


結局その晩も眠れず、二日連続で一晩中起きている事になってしまった。

でも、一晩中悩み続けて次に取る行動に決心が付いた。


「母さん……」


リビングへと降りると、母さんが仕事へ出掛けようとしている所だった。

既に7時半。亜梨香は部活の朝練の為、もう家を出ている。


「学校には私から連絡しておくわ。校長先生に言えばどうにでもなるから。貴方は自分の思った通りに行動しなさい。2人で本音をぶつけ合わないと何も解決しないわよ。それだけは覚えておきなさいね」


「……ありがとう、母さん」


「気にしないでいいのよ。ま、頑張ってきなさい。じゃあ私は行くわね」


母さんは手を振ってそう言いながら家を出ていった。今の姿をだけを見ていれば、ウズヒや未来が憧れるのも分かるんだけどなぁ……。あの酒癖がどうも……


「綺羅」


「な、なんでもないです!」


あと、この能力も……。






 ・

  ・


電車に揺られながら、過ぎていく景色を眺める。前にこの電車に乗った時はウズヒと一緒だった。確かあの日は悠真さんと杏奈さんに会いに行って、その夜は……まぁね。元の関係に戻れるかどうかは分からないけれど、とりあえず話をするしかない。

だけど、何て言えばいいんだろうなぁ……。今思い返しても、相当酷い事を言っちゃったし……。許してもらえなかったら絶対やばいよ。まず未来と亜梨香に怒られて、ああ言ってくれた母さんだけど、お酒が入ったら必ず責められるだろうし。

あ〜あ……ウズヒに嫌われるのと同じくらいキツそうだよ。


『次は桜駅〜。次は桜駅〜』


「ふぅ〜〜」


いろいろと考えている間に目的の駅へと到着。電車を降り、改札を出る。


「よし、頑張ろ!」


自分に気合いを入れ、ウズヒの居る場所を目指す。






 ・

  ・


駅から徒歩15分。ようやくウズヒの家が見えてきた……けれど、家の前に人影がある。あれは……


「悠真さん……」


ウズヒのお父さんであり、杏奈さんの夫の悠真さん。何で家の外に……。


「よう、綺羅。朱実の墓参り以来だな」


「はい……」


「どうした? 元気がないな? まぁ家に入れよ。ウズヒも居るからな」


「!?」


悠真さんと杏奈さんは、ウズヒから話を聞いているんだろうか。ウズヒが家に帰ってきた理由ワケを……。


「そんな顔するなよ。大丈夫だから、まずは家に入ろうぜ」


「ちょっ、悠真さん……」


悠真さんに無理矢理背中を押されて家の中へと入ると、杏奈さんがお茶をしていた。


「いらっしゃい、綺羅君。思ってたよりも早かったわね」


「お久しぶりです、杏奈さん。何故ボクがここに来る事を?」


「ふふっ。それはお茶でも飲みながら話しましょう?」


「いえ、ボクは……」


ウズヒと話をしなければいけない。その為にここまで来たのだから。


「ウズヒの事でも話があるのよ。だから、ね?」


「はぁ……」


ウズヒの事だと言われたら、席につかない訳にもいかない。杏奈さんは全てを知っていて、怒られるのか、それとも2度とウズヒと会うなと言われるのか……。凄く怖い。


「綺羅、コーヒーでいいか?」


「あ、はい。ありがとうございます」


悠真さんは隣の部屋へと消えて行き、ボクは杏奈さんと向かい合う場所へと腰掛ける。


「実は今朝、霞からメールが来たの。『今日綺羅がそっちに行くから、杏奈は今日お休みでいいわよ♪ よろしくね!』って」


母さん、そこまで気を遣ってくれて……。


「確か朝の6時くらいだったかしら」


……その時間、ボクはまだ部屋で悩んでいたんですが。たぶん、母さんは何があってもここへ来させる気だったんだね。流石というか何と言うか……。


「コーヒーお待たせ。杏奈は紅茶のおかわりな」


「ありがとうございます」


「ありがとう、悠真」


悠真さんが、ボクの前にコーヒーカップを置いてくれた後にポットから杏奈さんのカップに紅茶を入れ、空いていた席に腰を下ろした。


「で、どこまで話が進んだんだ?」


「ちょうど今からウズヒの話をしようと思っていた所よ。それで、綺羅君。ウズヒの事なんだけどね」


悠真さんへ向けていた視線をボクに向けた杏奈さんが、ゆっくりと話始めた。


「一昨日、突然帰ってきたの。それも目を真っ赤にして」


ボクが最後に見た時、ウズヒの目はまだ涙を湛えているだけの状態だったから、あのあと泣いてたんだ……。


「理由を聞いても答えないし、無理矢理聞き出すのも良くないと思ったから、それ以来何も聞いてなくてね。ご飯もろくに食べないし、お風呂にも入りたくないって言うの。そこは私が無理矢理入らせたんだけどね」


ウズヒがそんなに追い詰められてたなんて……。ボクの状態なんて、比べものにならないくらい酷い。


「それでも大体の理由は分かってる……というか、お前達の間に何かがあったって事は、ウズヒが来た時に分かったんだけどな。アイツがあんな状態になるなんて、お前絡みの事ぐらいだから」


「……すいません! 本当にすいません!!」


床に手をついて頭を下げる。悠真さんと杏奈さんがどれだけウズヒの事を心配していたか……。考えただけで胸が押し潰されそうになる。……いや、それすらおこがましい。本当に押し潰されそうになっていたのは、ほかならぬお二人なんだろうから。


「バ、バカ! 土下座なんかするんじゃねぇ! 誰もお前を責めてなんかねえって! ま、まずはほら、椅子に座れって」


悠真さんに腕を抱えて持ち上げられ、そのまま椅子の上に降ろされる。


「今の悠真の言い方だと、責められるてるように感じても仕方ないわよね」


「す、すまん……」


悠真さんが椅子の上で小さくなっていくのが分かる。


「綺羅君、安心してね? 私達は貴方を責めようなんて全く思ってないし、責める気もないから」


「でも、ボクは……」


「恋人同士の間で起こった事でしょう? 私達は、貴方達の問題は貴方達自身が解決するべきだと思ってるの。もちろん霞もね。それに相手は許婚の綺羅君。貴方の事は全面的に信頼してるもの」


「それでも……」


ボクは期待を裏切ってしまった。ウズヒをそんな状態にしてしまったから。


「いいのよ。貴方はウズヒとちゃんと向き合う為にここへ来てくれた。ここから一歩も外へ出られなかったあの娘の方が問題だわ」


杏奈さんが、ウズヒが居るのであろう天井を見つめながらそう言った。


「さて、私達はもう出掛けようかしらね」


「え?」


「私と悠真は買い物に行ってくるわ。そうね……2時間くらいかしら」


つまり、2時間しっかりウズヒと話し合う時間を与えてもらえた……という事かな?


「ウズヒの事、よろしくね。意外に脆い娘だから。綺羅君には迷惑を掛けちゃうわね」


「いいえ、そんなことは……」


「ふふっ。ウズヒは幸せ者ね。じゃあ行きましょうか。ね、悠真?」


「お、おう。行くか」


席を立ち、近くにあったバッグを取って部屋を出て行った杏奈さんに続いて悠真さんも部屋を出て……行こうとした所でこちらを振り向いた。


「綺羅、一つだけな」


「はい。何ですか?」


「2人で本音をぶつけ合わないと何も解決しないぞ? それだけ覚えておいてくれ」


「…………」


「どうした?」


「いえ、母さんにも同じ事を言われたので……」


全く同じ内容だった気がする。


「あぁ、これは朱実の受け売りだからな。昔アイツらが夏祭り行った時に喧嘩したんだと。その時に――」


「悠真ー! 早く行くわよー!」


「すぐ行く! 悪いな。ウズヒの部屋は階段を上がってすぐ右の部屋だから。じゃあウズヒを頼んだぞ!」


「はい。お気をつけて」


ボクの言葉を最後まで聞く前に悠真さんは部屋を出ていってしまった。やっぱり悠真さんは尻に敷かれているん

だと実感。



悠真さんに言われた通り、階段を上ってすぐ右にあった部屋の前で立ち止まる。


「ふぅ〜……はぁ〜……」


早くなる鼓動を落ち着けるように一回深呼吸をする。


「よし!」


小声で自分に気合いを入れ、目の前のドアを開ける。
















そこに居た女の子の姿は、いつも傍に居てくれた完璧美少女ではなかった……。


0時より少し遅れた更新になってしまいました。すみません。

次回更新は27日(金)です。よろしくお願いします。


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