第29話 〜『再会』と『お礼』と『喫茶店』〜
あっという間に過ぎ去った夏休み。終わってみると早いもので、様々な思い出が浮かんで……こないや。浮かんでくるのは、夏休み最終日、必死に宿題を処理した記憶だけ。
毎回毎回『今年からは早めに終わらせよう!!』って決意するのに、気がついたら夏休みの最終日。それまで遊んでいた自分を恨みながらペンを走らせていた……。
そんなキツイだけの思い出しかない夏休みも昨日で終わり。始業式も終わり授業も終わって、今は正門前。
「おい、綺羅。なにボケっとしてんだよ? それでなくても変な顔が、更に残念な状況だぞ」
「……未来、随分酷い言い様だね?」
この前もウズヒをナンパしてきた2人に言われたばっかりだし……。親しい人に言われると結構傷つくよ?
「まぁ半分冗談だから気にするな。なぁ賢?」
「……何処までが半分なのか教えてくれ」
「「…………」」
賢があまりに真面目な表情で聞いてきたので、2人して沈黙するしかない。そこは相槌を打つところでしょう?
「……どうした?」
「な、なんでもねぇよ。それよりウズヒの奴は遅いな。始業式から早速呼び出しなんかくらってよ。フるなら、さっさとフってこいっての」
「……そうだな。……それより俺の質問はどうなった?」
「「…………」」
賢! その話はもう終わってるから!! 何でさっきの沈黙を再び引き寄せちゃうの!?
「お待たせ〜……って、みんな黙り込んじゃってどうしたの?」
そんな沈黙を破ったのは、そう。我らが救世主、ウズヒさんです。
「い、いや。何でもないよ。さ、帰ろうか?」
「……俺の「そ、そうだな。さっさと帰ろうぜ」……」
賢の声に被せて抜群のタイミングで未来が応えてくれた。ナイスです、未来さん!
「?? みんなして変なの」
不思議そうな顔をしながら自分の腕をボクの腕に絡める、貴女の行為がボクには不思議に思えて仕方がないのですが。
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いつもの場所で賢&未来と別れ、そこから2人だけの下校時間。といっても数分だけどね。
先程の出来事や今日受けた授業の事を話していたら、家はすぐそこに。
2人になったら聞きたいと思ってた事もあったんだけど……まぁいいかな。
「ねぇ、綺羅君。やっぱり気になる?」
ウズヒが急に立ち止まってそう言い、腕を絡めていたボクも急停止。横を向くと人形みたいに整った顔が至近距離に。うん、少し動けばキスできるくらいに。
「気にならない……って言えば嘘になっちゃうかな」
聞きたいと思ってた事だからね。久しぶりとはいえ、自分の彼女が告白されたら気にならないわけがない。
「……相手の人はね、男子バスケ部の元キャプテンさんなんだって」
あぁ、今朝の始業式で県大会準優勝の表彰をされてた人か。なんか壇上で、こっちの方をみてると思ったらそういう事ね。
「もちろん丁寧に断ったけどね。だって私の中には綺羅君しかいないもん」
ボクの頬にキスをして、ニッコリ微笑む彼女は凄く綺麗で可愛い。
「うん、大丈夫。分かってるよ」
そう。分かっているつもりだし、そうでありたいとボクも願っている。……多少の不安はないとも言い切れないけれど。
「じゃあ私の事を分かってくれる綺羅君に質問。今私が1番楽しみにしている事はなんでしょう?」
いつから質問形式に? という疑問は無しの方向で。
「昨日した約束? 今度の日曜にデートするっていう」
あまりに大量の宿題を処理する為、ウズヒに手伝ってもらう代わりにそんな約束をしたんだよね。
「ピンポ〜ン! 楽しみにしてるからね。約束破っちゃダメだよ?」
「大丈夫、大丈夫。何よりもその約束を優先するよ」
「うん! 綺羅君大好き!!」
『ボクも好きだよ』。自然とそう応えられるのに、あと何年掛かるかな。
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その後、何も起こる事もなく、気がつけば日曜日。
クローゼットの中に並ぶ服と睨めっこを始めて30分。中々デートに着ていく服が決まらない……。
「待ち合わせまで、あと1時間か……」
待ち合わせが駅前に10時。ボクは一緒に出掛ければいいと思うんだけれど、ウズヒに言わせれば外で待ち合わせをする事に乙女の憧れがあるらしい。
ただ同じ家から出ていく為、どちらかが早めに出ていかないと残念な結果になってしまう。
だから前もってボクが先に出ていく事になったんだよね。
「まぁ、どの服を着ていっても一緒かな」
結局いつも悩んだ末に、こんな感じで決まってしまう。ウズヒに選んでもらえば楽ではあるんだけど、家では出来るだけ会わない方がいいと思うから服くらいは自分で決める。……30分は掛かり過ぎだけどさ。
手早く着替えを終え、ウズヒと会わない様に家を出る。早めに出発して時間があるので駅へと続く大通りにあるお店へ入って時間を潰すかな。本屋に入って立ち読みをしたりすると、結構時間って早く過ぎるんだよね。
店員さんの目を気にしながら本を立ち読みする中、ふと時計を見てみると10時ちょっと前。面白そうな本を見つけて読んでいたら意外と時間が経っていた。おそらくウズヒはもう到着しちゃってるかな。
本屋をあとにして駅前にある大時計に向かう。この前のプールの件もあるし、急がないとね。
案の定、待ち合わせ場所に着くとウズヒが3人の男に絡まれていた。
またボクの所為だ。ボクが先に着いていれば、こんな事にはならなかったのに……。
だけど落ち込んでばかりもいられない。今こそこの前プールで学んだ教訓を活かす時! あの3人組にガツンと言ってやらなきゃ。
「だからオレ達と遊びに行こうって」
「何度も言っている通り、彼氏と待ち合わせしているので結構です」
「そんな事言わずにさぁ〜。君みたいな可愛い娘、オレ達のストライクゾーンど真ん中なんだよな」
「おい、お前ら。なに俺の彼女をナンパしてんだ?」
……はい? いやいや、今のはボクじゃないよ? ボクと同世代くらいの男の子がウズヒ達に向かって話し掛けている。細身だけど身長が高い。180cm以上。
ちなみに、その男の子はウズヒを挟んでボクと反対側に居るから、みんなの視界にボクは入ってない。
「海星君……!」
……へ?
「なんだテメェ?」
「だから彼女の彼氏だ。ウズヒ、待たせて悪かったな。行こうか」
「え……」
表情を窺う事は出来ないけれど、戸惑いの声を発したウズヒは、そのまま手を引っ張られて何処かへと歩いて行ってしまった。
「チェッ! ホントに野郎待ちだったのかよ」
「そうみたいだな。まぁ気を取り直して次に行こうぜ」
「そうそう。あんな女なら、そこら中に居るって。つーかあの男。どこかで見たことねぇ?」
3人組がそんな事を喋りながらボクの隣を歩いていったけれど、上手く意味を理解出来る訳もない。
ボクはただ、その場に立ち尽くす事しか出来なかった。
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今まで歩いてきた道を、足が無意識の内に辿っていく。頭の中は先程の出来事でいっぱい。
あの男の子は一体誰なんだろう。見ず知らずの人が助けてくれたって可能性は0%。あっちはウズヒを知ってるみたいだったし、ウズヒも彼の名前を呼んでた気がするから。
う〜ん……誰なんだろう。まさか二股……そんな訳ないよね。ウズヒはそんな事しないって信じてるし、第一あの場面で彼を呼び出す必要性もない。でも、たまたま通り掛かっただけだったりしたら……。
「キャッ!!」
「あ! ごめんなさい!!」
歩道を俯きながら歩いていたら、反対側から歩いてきた女の子と肩が強くぶつかってしまった。
「すみません、考え事をしながら歩いていたもので……」
「いえ、私の方こそ前をよく見ていなくて……って、綺羅?」
「……え?」
それまでずっと俯いていたけど、急に名前を呼ばれたので反射的に顔を上げる。
「やっぱり綺羅!! 久しぶりね! 元気にしてた?」
「舞衣……」
柊 舞衣(ヒイラギ マイ)……ボクや賢、未来と中学時代、2年生の時に同じクラスだった。卒業前に転校してしまったけれど、いつも元気で彼女の周りには常に友達が居る。そんな女の子だった。
そして……
「あら? 元カノと久しぶりに会ったっていうのに、あんまり嬉しそうじゃないわね?」
そう。舞衣とボクは付き合っていた。世間でいう《恋人同士》だった。
「そんな事ないって。久しぶり、舞衣」
「うん! 綺羅は今何してたの?」
「今は……散歩みたいなものかな」
『彼女が知らない男と何処かへ行っちゃいました』なんて言えるはずもなく、当たり障りのない返答をする。
「ふ〜ん。じゃあ私と一緒ね。それなら、これからお茶しない?」
ボク達が立っている場所の傍にある喫茶店を見ながら、舞衣がそんな事を口にする。
「それは……」
考えてみれば、ウズヒが待ち合わせ場所に戻っている可能性もある。そんな時に他の女の子とお茶してるのはまずい。
「ごめん、ちょっと用事が……」
舞衣に悪いとは思いながら、断りの返事を口にしようとした時、ふと喫茶店の中を覗いて見ると、ウズヒが先程の男の子と2人でいるのが見えてしまった。
「用事? 忙しいの?」
「いや、なんでもないよ。じゃあお茶しようか? お店はボクに任せてくれない?」
のちにボクは、何故この場で2人の所へ行かなかったのか後悔することになる。
「ここの喫茶店じゃ駄目なの?」
「オススメのお店があるんだよね。そこにしない?」
「うん、いいよ。そうと決まれば早速行動開始! ほら、早く早く!」
舞衣がボクの手を引っ張って、ウズヒ達が居る喫茶店からどんどん離れていく。
舞衣の楽しそうな姿が、ウズヒと被って胸が苦しい。
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「あははははっ! 今でも愛川君と未来は変わらないのね!」
駅から少し離れた所にあった喫茶店に入ったボクらは、昔の話で大いに盛り上がった。ウズヒの事が頭から離れた訳ではなかったけれど、時間を忘れるくらい楽しかった。
「あの2人は中学の時と何も変わってないよ。いつまでも仲の良い2人のまま」
喫茶店を出たボクは、電車で帰るという舞衣を駅まで案内中。もうすぐそこに駅は見えてるんだけど。
「やっぱりあの2人は凄いなぁ〜。あ、ここまででいいよ。ありがとう」
「いいの? ホームまで送るよ?」
「ありがとう。でもここで大丈夫よ。……ねぇ綺羅」
「何?」
舞衣の声のトーンが急に変わり、表情もどこか真剣になる。
「私達、もう一回付き合わない?」
「……」
「中学の時、あんな酷い事をした私が言うのは非常識かもしれないわ。でも今日久しぶりに綺羅と話してみて……もう一度付き合えたらって思ったの」
「……」
『それは無理だよ』。そう言わなければいけないのに、何故か言葉が出てこない。ボクにはウズヒが居るのに。
「答えは今すぐじゃなくていいから。良かったら考えておいてね?」
「うん……」
「ありがとう。じゃあ、またお茶でもしようね? あ、これは今日付き合ってくれたお礼よ」
《お礼》。それが何なのか聞く前に、ボクの頬に柔らかいものが押し当てられる。
「ま、舞衣……」
「ふふっ。朱くなった綺羅も可愛いわ。じゃあね」
《お礼》に関して話しをする前に、舞衣は駅へと駆けて行ってしまった。ボクは本日2度目のフリーズ。誰か解凍して下さい……。
ボクはその時気づく事が出来なかった。その場面をウズヒが目撃していた事。そして、後にこの再会が大きな波乱を巻き起こす事を。
akishi「更新が遅れて申し訳ありません。akishiです」
朱実「まったくだな。何してたんだよ?」
akishi「3月に入って、すぐに入院&手術をしまして……。執筆や更新が出来る状態ではなく……」
朱実「よく生きてたな」
akishi「別に死ぬようなものじゃないし……。元々体に問題は抱えてる身だから驚きはなかったけどね」
朱実「もう治ったのか?」
akishi「ひとまず原因になったのは。他にもいろいろ故障箇所はあるけど、そっちは日常生活に大きな支障はないからね。今は大学も決まって家でゆっくりしてるし」
朱実「じゃあ都合がいいな。時間がある今なら嫌になるほど執筆出来るだろ?」
akishi「そうだね。という事で、今のうちに大量に書き溜めておこうと思います」
朱実「更新も頻繁にな」
akishi「頑張ります。次回更新は……明後日です。これは確実なので、少々お時間を下さい。
では、これからもよろしくお願いいたします」