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第27話 〜『ダブルデート』と『許婚指輪』〜

朝日が窓とカーテンの隙間から差し込み、朝の到来を告げる。

そしてそんな朝の光によってボクは目を醒まし、ある異変に気がつく。

何故かいつもより暖かい……というか7月だから少し暑い。まぁ、何となく予想はつくんだけどね。


「……ン…ゥン…」


案の定、横にウズヒさんが可愛らしいお顔で眠っていらっしゃいました。

このあどけない寝顔を見たら、どんな男でも惚れちゃうって。このまま襲いた……ゴホンゴホン! 今のは一般的な男子の意見を代弁しただけだからね?

……誤解無きよう言っておきますが、ボクは昨日1人で寝ましたよ? 両隣の部屋で母さんと亜梨香が寝てるのに、ウズヒに手を出すなんてとても出来ません。


「綺羅君…そんな所恥ずかしい……。恥ずかしいけど、綺羅君ならいいよ…。……優しくしてね?」


どんな夢!? 夢の中でボクがウズヒを襲っちゃってる!? しかも、何で受け入れちゃってるの!?


「綺羅君……いつもより積極的だね。……嬉しい」


何で嬉しいの!? 頬も朱く染まっちゃってるし!! ボクは夢の中で何をしてるのさ!? ……ふぅ。ツッコミはこれくらいでいいかな。さて、どうやって起きようか。


そんな事を考えながら部屋の中を見渡すと……


「!?」


ドアを開けたまま、その場で立ち尽くしている亜梨香と目が合った。


「あ、亜梨香。これは…『バンッ!!』……」


ボクが状況の説明をしようとしたら、亜梨香が凄い勢いでドアを閉めて出ていってしまった。はぁ……どうしよう。確実に誤解を受けたよ。


「もっとキスして…綺羅君……」


…これはした方がいいんですか? キスしたらどこかのお姫様みたいに目を醒ましてくれますか?


「実はね、赤ちゃんができたの……。2ヶ月だって……」


何しちゃってんの、ボク!?







 ・

  ・


あの後なんとかウズヒを起こし、1階に降りてきて亜梨香の誤解を解こうとしたけど、全く聞いてくれなかった。

そういえば一時期亜梨香のツンデレ疑惑が発生したけど、母さんによるとただの反抗期らしい。まぁいつかは昔の亜梨香に戻ってくれるでしょ。


「綺羅君、早く食べないと遅刻しちゃうよ?」


「そうだね。ごめんごめん」


今日は、この前瑞穂さん(ウズヒの幼稚園時代からの親友)と約束した通り、ダブルデートをするそうです。待ち合わせ時間は午前10畤。今の時間は8畤で、集合場所は家から歩いて10分の駅前。結構余裕だよね?


「あら? 貴方達、今日はデートなの?」


考え事をしている間にご飯を食べ終え、お茶を飲んでゆっくりしていると、ボクの思考を読んだらしい母さんが現れた。

読心術についてはもう何も言いません。そして最近分かったことですが、何故かウズヒも読心術を習得していてびっくりしました。


「そうなんですよ。私達とテニス部に入ってる綺羅君の友達、あと私の幼稚園からの親友の4人でダブルデートです」


「未来ちゃんと賢人君は一緒じゃないの?」


「元々ボク達4人で出掛ける予定だったからね。それに2人とも忙しいって言ってたし」


まぁ賢は一日中寝てるだけなんだろうけど。夏休み前に『……今年の夏は寝て過ごす』って高校2年生らしからぬ発言をしてたから。


「青春ねぇ。綺羅の友達はテニス部の子なの?」


「はい。今度、主将キャプテンになるみたいですよ。あ、そういえば霞さんって、青春高校テニス部では伝説の女性ヒトなんですよね?」


ボクもその話なら聞いたかな。球技大会の時だっけ? 聖が憧れてるみたいな事を言ってた気がする。


「そうなの? 部活を頑張ってたのは、あっくんが『インターハイ3連覇したら結婚してもいい』って言ってくれたからだから、引退した後のテニス部の事は良く知らないわね」


これを聖が知ったらがっかりするだろうな……。母さんも一応は一生懸命頑張ってたんだろうけど、父さんと結婚する為って……。それで優勝しちゃうのも凄いけどさ。


「好きな人の為にインターハイを3連覇するなんて凄いです! 霞さん!!」


あぁ…ここにも母さんの毒牙にかかった人が……。半分惚気話じゃないですか……。


「綺羅?」


「ナンデモアリマセンデス、ハイ」


疲れるなぁ……。ボクにも人権が欲しいよ。主に家庭内で。








 ・

  ・


只今午前9畤55分。人通りがそこそこの最寄り駅前にある噴水の前でボクはウズヒ達を待っている。ここの駅にはいくつか出口があって分かりにくいんだよね。だからウズヒは今、瑞穂さんを駅のホームまで迎えに行ってるんだよ。


「おい! 何を考えてるのかは知らないけど、人の事を呼び付けといて放置するな!!」


隣から何か聞こえるけど無視……は出来ませんよね。


「ごめんごめん、聖。ちょっと状況の説明をしててさ」


「……そこは突っ込まないでおいてやる。それよりも何で俺は今日、ここに呼ばれたんだ?」


「実は今日ウズヒと2人でデート……」


「帰る」


「待って! 冗談……ではないけど、ちゃんと説明するから!」


『ウズヒとデート』と言った瞬間に聖が回れ右をして帰ろうとしたので、とっさに腕を掴んで引き留めた。

確かに2人でデートするみたいな言い方だって分かってたけど、怖い物みたさっていうかさぁ……とりあえずごめんなさい。


「この前ウズヒと謳歌高校の学園祭に行った時、いろいろあってさ。ダブルデートをする事になったんだよ」


「その《いろいろ》を説明しろよ! 何も分からんぞ!」


「え〜。面倒臭いよ〜」


「説明くらいしろ!……もういい。デートする気も無いし、帰る……「綺羅君、お待たせ〜」…ぞ…」


聖が先程と同じように帰ろうとしたら、ウズヒが瑞穂さんと一緒に駅の改札口から出てきた。結構大きな声で呼ばれたけど、喧騒の中だったから周りの目がこっちに向かなくてよかった。


「お疲れ様、ウズヒ。瑞穂さん、久しぶり」


「そんなに久しぶりでもないけどね。今日はよろしく」


笑顔で応えてくれた瑞穂さんの服装はこの前と違い、いたって普通の服装だ。まぁ前がゴスロリ服だったからね。それと比べたら大体普通だよ。


「ちょ……お前、こっちに来い!」


ウズヒ、瑞穂さんと挨拶を交わしていたら、急に聖に腕を引っ張られた。


(お前…あの娘誰だよ?)


2人からは少し離れた所で、聖が囁くようにしてそう聞いてきた。


(誰って、さっき言ってたダブルデートのお相手)


(は!? あの話はマジだったのか?)


そんな事を言うテニス男の顔には驚きの表情。ボクってそんなに信用がないの? そんなに嘘はつかない方だと思うんだけど……


(本当だよ。彼女はウズヒの……っと。紹介は本人同士でした方がいいかな。ま、という訳で今日一日よろしくね)


(今更この状況で帰れる訳ないだろうが! 付き合えばいいんだろ、付き合えば!)


(ありがとう、聖。もうそろそろ戻ろっか?)


『あまり2人を待たせると悪いしね』。そう言い終わる前に聖はスタスタと2人の元へ歩いていってしまった。

別にいいけどさ。一言掛けて欲しかった。結構傷つくよ?



「綺羅君、遅いよぉ〜」


自分だけポツンと1人で立っている事に気がついたので、急いで戻るとウズヒさんに怒られました。だけど、語尾を伸ばしていては全く迫力がありません。


「ごめんごめん、お待たせ。今日はどこへ行くの?」


「カトートーカドーだよ。あそこなら映画館もあるし、ゲームセンターとかもあるしね。早く行こっ♪ ほらっ、二人も♪」


目にも留まらぬ早さでウズヒがボクの腕に自分の腕を絡めながら、聖と瑞穂さんに呼び掛ける。


「はぁ…。なんでアンタは人前でそうも堂々と……。東野君もこんなのを頻繁に見せられて大変ね?」


「まぁね。でも、いつもはもう一組バカップルが居るから慣れてるよ」


後ろを歩く2人からそんな会話が聞こえてくる。その『もう一組』というのは賢と未来の事でしょうか? 反論はしないけどね。

ボク達がバカップルと言われるのには慣れました。ボクも客観的に見たら絶対そう思うもん。……というか、2人はいつの間に自己紹介を?


「いっそ凍った豆腐の角に頭をぶつければいいのにな。綺羅だけ」


聖、それだと本当に死んじゃうから。ことわざを自分のいいように変えちゃ駄目だよ。







 ・

  ・


あの後も延々と後ろから言葉と言う名の暴力を、ボクは聖、ウズヒは瑞穂さんから浴びせられました。

しかし、ウズヒはそれを褒め言葉と受け取った様子。恋は人を盲目にするとはよく言ったものです。


そんな精神的ダメージを受けながらもなんとかカトートーカドーに着き、満面の笑みで『ねぇ、まずは映画を見ない? 見たい映画があるの♪』と語るウズヒに付いていった。

そして4人で見たのは世界を震撼させたホラー物……ではなく、ベッタベタの恋愛映画。



内容を大まかに説明すると、ある日主人公の女の子が高校からの帰宅途中、ナンパ男に絡まれた。

どれだけ口説いても女の子を落とせない事に痺れを切らしたナンパ男が女の子に乱暴をしようとした所へイケメンの同級生が登場。女の子はその男の子に恋をして、様々な事件が起こりながらも結局はハッピーエンドに。


正直ありきたりな展開だったかも。小説とかだったらいいけど、映像化は……っていう感じ。ボクはそこそこ楽しめたけど、瑞穂さんはうとうとしてたし、聖に至っては終始目が虚ろだった。


「…ゥウ…いいお話だったよぉ」


でも、そんな中ウズヒだけは現在進行系で号泣中。


「ほらほら、涙を拭きなさい。アンタって昔からああいうのが好きよね」


瑞穂さんがウズヒの涙をハンカチで拭きながら呆れたように呟く。そういえばこの前、同じ様な内容のテレビ番組を見ながら号泣してた気が…。


「主演の男の子、綺羅君の次に格好よかった……」


……嬉しいけど、かなり恥ずかしいです。


「はいはい。アンタが綺羅君LOVEなのは知ってるから。さっさと涙拭いてケーキを取りに行くわよ」


えーっと、まだ言ってなかったけど、今はケーキバイキングに居るんだよね。何でも此処のケーキは雑誌で特集される程の美味しさらしく、ウズヒと瑞穂さんが来てみたいと言ったので来る事になった。


「綺羅君……少しの間、私は此処を離れちゃうけど心配しないでね? 誘拐されないように気をつけるから……」


「あ…うん。気をつけてね」


さっきの映画の影響かなぁ? ラストは誘拐された女の子を男の子が助け出すシーンだったもん。絶対そんな状況を期待してるよ、ウズヒさんは。


「お前らは本当に仲がいいな?」


一人ウズヒの心境を察していると、向き合って座っている聖に声を掛けられた。


「それ、褒めてないでしょ?」


「いや、そうでもないぞ。桜井さんと一緒に居る時のお前は幸せそうだからな」


まぁ幸せといえば幸せなのかな。賢や未来と3人で居た時とはまた違う感じだしね。


「本当に良かったよ。中学の時のお前と比べたら……「聖」…何だ?」


「その話はいいよ」


「あ、ああ。悪かった。でも……「綺羅君、お待たせ♪」…」


何かを言おうとした聖の言葉を遮るように、ウズヒと瑞穂さんが沢山のケーキをお皿に載せて帰ってきた。うん、グッドタイミング。


「なになに? 面白い話?」


「いや、次は何処に行こうか?っていう話だよ」


「それだったら今瑞穂と話してたんだけどね、次はゲームセンターへ行って、その後は最近出来たアクセサリーショップに――」


楽しそうに話すウズヒに対して嘘をいた罪悪感は感じたけど、目を輝かせながら語る彼女の笑顔を崩したくないから。隣で困った様な顔で心配してくれている聖には悪いけどさ。







 ・

  ・


所変わって、最近出来た(らしい)アクセサリーショップ。結構人気があるらしく、店内は人でごった返している。

今はボクとウズヒ、聖と瑞穂さんの2組で店内を見てまわってるんだけど……凄く動きにくい。

此処へ来る前に行ったゲームセンターで、ウズヒと瑞穂さんがぬいぐるみを大量に取った結果、荷物持ち係であるボクと聖は前も十分に見えないという状態に。


「綺羅君、私も持とうか?」


「ありがとう。でもぬいぐるみを入れる袋も一つしかないし大丈夫だよ」


『だけど……』と心配そうに見つめてくるウズヒに、『荷物運びは男の仕事だから』と言って無理矢理納得してもらう。この考え方って古いですかね? いや、数メートル先で、周りを気にしながら必死に歩いている聖を見てたらそうでもない気がしてきた。うん、やっぱり荷物運びは男の仕事だよ。


「ねぇ綺羅君。何か欲しい物ある?」


「え? 急にどうしたの?」


「前から考えてたんだけどね。私達って、お揃いで身に付ける物って持ってないじゃない? だから、何かペアの物が欲しいなぁ〜って」


ケーキバイキングのお店に居た時以上に目を輝かせて語るウズヒは、確実に賢と未来の影響を受けてるよ。

今まで全然触れてなかったけど、あの2人はお揃いのピアスを付けてるんだよね。賢は右耳、未来は左耳に。ウチの学校は、先生の許可を貰えばアクセサリー類も付けていいっていう規則だから。


「ウズヒがそういうなら、何か買おうか。何がいい?」


「う〜ん……じゃあピアスは?」


腕を組んで考える仕草をした後、近くにあったガラスケースの中に入っているピアスに視線を移すボクの彼女さん。


「それだと誰かさん達と被っちゃうよ?」


「それもそうだね……。何にしようかなぁ〜」



その後も、ああでもない。こうでもない。と色々探している内に、かなりの時間が経ってしまった。聖と瑞穂さんは、外で仲良くアイスを食べてるし……。せめてボクが腕に抱えてる大量のぬいぐるみさん達を引き取って!


「なかなか決まらないね。あと見てないのは……あ! このネックレスいいなぁ〜」


辺りを見回してウズヒが見つけたのは、それぞれブルーとピンクのコーティングが施されたリング付きのネックレス。


「格好いいとは思うけど……。これを1個買ったら、諭吉さんが10人近く飛んでっちゃうよ?」


比較的リーズナブルなお店なのに、何でこの商品だけこんなに高額なの!? ねぇ店長さん!!


「お金の事なら気にしないでいいの。今朝、この前《A・L》に出たときのお給料を霞さんから貰ったからね。だから気にしなくても大丈夫♪」


「いや、嬉しいけど、流石にこんな高価な物は……」


「もう! 綺羅君はそんな事気にしなくていいの。これは《許婚指輪》なんだから」


「《許婚指輪》……?」


聞きなれない単語に首を傾げる。何となく意味は分かるけど、それって普通に売ってるの?


「うん。婚約指輪や結婚指輪があるでしょ? 私達の場合は、婚約指輪より1個手前の《許婚指輪》から始めないと♪ 語呂はちょっと悪いけどね」


『てへっ♪』っていう声が似合う笑顔のウズヒがめちゃめちゃ可愛い。確かにボク達には合ってるかもしれないけど……


「だけど、いくらなんでもこれは高いよ」


「ダ〜メ。もう決めたんだから。私から綺羅君への贈り物。あとの残り2つは綺羅君の役目だからね?」


「あ、うん。それはもちろんだけど…」


「そうと決まったらレッツゴー! 他の人より早く買わないとね♪」


勢いに押されて了承の返事をしちゃったけど、店員さんと満面の笑みで会話しているウズヒを見たら、無理に他の物にしなくて良かったと思う。いつか残りの2つのリングを渡す時に、彼女が幸せだと感じてくれるように頑張ればいいんだもんね。


「綺羅君、好きな文字を彫ってもらえるんだって!」


「じゃあ1個ずつ、2人で考えようか?」


「うん♪」
















数日後、我が家に2つのネックレスが届いた。そして《Uzuhi to Kira》と彫られた青いリング付きのネックレスと、《eternal love》と彫られたピンクのリングを使って結婚式の予行練習が行われた。


神父役は母さん。招待客役は亜梨香。


死ぬほど恥ずかしかった……


akishi「更新が遅れてすみません。akishiです。さて、今回は番外編を挟んでのダブルデートでした」


朱実「確実に番外編を入れるタイミングがおかしかったな」


akishi「まぁまぁ、そう言わないで。何とか年内に更新出来て良かったです。いつもより時間は遅れましたが……。そこはどうにかご容赦を」


朱実「読者が許しても、俺がお前を許さん」


akishi「なら、次回からアシスタントは交代ね? では、また次回お会いしましょう」


朱実「おい! 俺が悪かったから! ひ、1人で帰るなよぉ……」

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