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第26話 〜『ゴスロリ服』と『愛羅武勇』〜

《A・L》発売から一週間と少しが経ち、気温がぐっと高くなる7月に突入。

我が高校の特殊な休み設定の為、学期末のテストも終わり、他校よりも長い夏休みが始まった。



外を歩いていたら5分と経たずに汗が滴り落ちそうな陽射の(ひざ)しの中、ボクとウズヒは冷房の効いた電車に揺られてます。


「結構混んでるね、綺羅君?」


「本当にすごい量の人だなぁ。流石全国に名前が知れ渡ってる高校の学園祭」


サングラスをかけ直しながら飛んできたウズヒの問い掛けに、自分の周りを見渡しながら応える。


前回の最後にウズヒと約束した通り、今日は謳歌高校の学園祭へ行く事になりました。

それにしても、日曜日の朝8時なのに電車の中は満員状態。平日の通勤・通学ラッシュ時に比べれば少ないんだろうけど、それでも電車内の座席と吊り革の数では足りないくらいに電車が混んでいる。


因みに、ウズヒがサングラスをかけているのは『ウズヒちゃんの正体がバレて騒ぎにならないよう、これを持って行きなさい』と母さんに手渡されたから。

芸能人が使っているようなサングラスを格好良くかけている彼女は本当に凄い。やっぱり、元々の顔立ちが整っている人は何を身に纏っても似合うんだろうね。


「この景色、懐かしいなぁ〜」


窓の外を流れていく高級住宅街を見ながら、ウズヒがそう呟いた。


「あれ? ウズヒって、前は電車通学だったの?」


「うん。毎朝、幼稚園からの友達と一緒にね」


でも、ボク達が通ってる高校に転入してきたって事は……


「ごめんね、ボクの所為で」


「え? 急にどうしたの?」


ポカンとした表情(サングラスではっきりとは分からないけど)で彼女が見つめ返してくる。


「だって、転校したからその人と一緒に登校出来なくなっちゃったんでしょ?」


以前、ボクと会う為に転校してきたって聞いたからね。酷い事をしたなぁ……


「ふふっ。そんな事全然気にしなくていいんだよ? その娘にも、『これであんたの惚気話聞かなくてすむわ』って言われたからね」


「まぁそれなら……」


笑顔でそう言ってくれる彼女の優しさが嬉しい。

……ウズヒが何歳ぐらいからボクの話をしていたのか疑問だけど、そこには触れません。


「早くみんなに会いたいなぁ〜」


再び窓の外へと視線を移したウズヒの顔には微笑みが。

とりあえず、前回告白してくれた彼女の悩みが解決したみたいで良かったよ。








 ・

  ・


謳歌高校は電車を降りて徒歩十数分の場所にあった。

立派な正門の前に立つと、両サイドにいろいろな出店が立ち並んだ先に、教室があるのだろう白塗りの巨大な建物。

右手には野球用のドームより大きい体育館らしき物があり、左手にはガラス張りの、これまた体育館らしき建物が(あとでウズヒに温水プールだと教えてもらった)。



「で、もう此処に5分くらい居るよ? 入らないの?」


「うん……さっき話してた友達から、正門まで迎えに来てくれるってメールがきたんだけど…」


それだと下手に動かない方がいいよねぇ……。次々と人が自分達の横を通り過ぎて行くのが気になるけどさ。出店の賑わい具合を見てると、此処からでも楽しい事が伝わってくるもん。



そして、さらに待つ事5分。2人で他愛のない話をしていると……


「待たせて悪かったわね、ウズヒ」


背後から声を掛けられた。

声を掛けられた方――後ろを振り向くと、そこには黒のゴスロリ服を着た、身長約150cmくらいの美少女が。


瑞穂ミズホ! 久しぶり!!」


ゴスロリ少女さん――すいません、名前を知らないので――の姿を見た瞬間に、ウズヒが彼女に抱き着いた。


「はいはい、久しぶりね。まずはちょっと離れなさい。許婚君が羨ましそうな目で見てるわよ?」


え? ボク、そんな目をしてた? 身長差があって、しかも両手にスーパーの袋を持ってるゴスロリ少女さんが辛そうだな、とは思ったけど。


「大丈夫よ、瑞穂。私と綺羅君はいつもハグしてるから♪」


初対面なのに変な誤解されちゃうからやめてぇー!! 周りの人達もちらちらこっちを見てるし!!


「あんた達がラブラブなのはよく分かったから、1度離れなさい。みんなクラスであんたが来るのを待ってるんだから」


「うん、そうだね。あ、綺羅君。この娘がさっき言ってた親友の柳沼 瑞穂(ヤギヌマ ミズホ)」


「あ、はじめまして。天領 綺羅です。一応ウズヒの許婚兼彼氏です」


ゴスロリ少女さんに諭され、ハグするのをやめたウズヒが彼女の紹介をしてくれたので、それに応える。


「柳沼 瑞穂よ。瑞穂でいいから。よろしくね」


ゴスロ……瑞穂さんが軽く微笑みながら自己紹介をしてくれた。

クールな人だなぁ〜。冷たい感じではないんだけど、『いつでも冷静です』っていう印象だね。

ただ、どうしてもその服装に対しての疑問が消えないよ…。この話題に触れてもいいのかな? 触れちゃう? 触れちゃおうか。


「あの…何でその服装なんですか?」


「ああ、これね。私達のクラスに来れば分かるわよ。この荷物もね」


そういいながら両手に持ったスーパーの袋を持ち上げる瑞穂さん。


「さ、そろそろ行くわよ。話は歩きながらしましょう」


歩きだした瑞穂さんの隣へウズヒが並んで楽しそうに話を始め、ボクは2人の後ろをついていく。

もちろん、すぐに瑞穂さんの荷物持ちは代わったよ? 重そうだったし、代われるなら代わるのが当たり前だとも思うしね。


受け取ったら意外に重かった荷物を持って、人と人の間を頑張って移動……する必要はなかった。瑞穂さんが案内してくれた、生徒と教職員専用通路のお陰で。

内装は外観と同じく白塗りの壁……って当たり前だよね。真っ赤な内装だったら絶対に気が滅入る。……すみません、無駄に文字数を使っちゃいました。


まぁそんな事を話している間に《2―5》というプレートの掛けられた教室に到着。

そして大勢の人が開店(?)待ちをしている出入口に掲げられた大きな看板には……


「《純愛喫茶 愛羅武勇》…?」


と、大きく書かれていた。

《純愛喫茶》の方はまだいいとして、《愛羅武勇》ってのは……。名門女子高校なのに、どこぞの暴走族みたいな……。しかも古いし。


「ほら、あんたが1番最初に入りなさい」


瑞穂さんがそう言いながら、ウズヒの入室を促す。


「うん、ありがとう。でも、久しぶりにみんなと会うから、ちょっと緊張するね」


少し不安げに微笑みながら、ウズヒが教室に入っていく。それに続いて瑞穂さんが入っていき、最後にボクも入ろうとしたけど……開店を待っていた男性にめちゃめちゃ睨まれました。本気の殺気を感じてかなり怖い。だから、即教室に逃げたよ。


「きゃー!! ウズヒ、久しぶり!!」


「うん、久しぶり♪ みんな元気にしてた?」


「もちろんよ♪ 貴女も元気そうね!」


逃げ込んだ教室には、喫茶店をやる為に必要なテーブルや椅子が置いてあった。

そして、僅かな差で入った筈のウズヒはすでに人垣の中心に。しかも、何故かその人垣の中にはナースや婦警、レースクイーンに女王様、踊り子やお姫様など、色々な格好をしている女の子達が。……何コレ?

でも、やっぱりウズヒは何処に居ても人気者なんだなぁ。そんな感想が1番に出てきた。


「『やっぱり、ウズヒは何処に居ても人気者なんだなぁ』なんて考えてた?」


「え? 瑞穂さん?」


「顔に書いてあるわよ。悪いけどその荷物はこっちに持ってきてくれる?」


ボクが先程受け取った荷物を指差してそう言った後、瑞穂さんが教室の出入口とは違う、黒板の横にあるドア(理科室等によく有るやつ)へと消えていった。


「ここって一般教室だよね? 何でこんな所にドアが?」


この学校に来てから何個目になるか分からない疑問を口にしながら、瑞穂さんの後に続く。


彼女に遅れること数秒で入った部屋には……キッチン?

教室の半分くらいはあるであろう部屋の中央には、大きなシンクがあり、その隣には最新式のコンロ。オープンやその他の機器も、三ツ星レストランで使っている高級そうな物ばかり(実際に見た事はないけどね。なんとなく)。


「ありがとう。荷物は適当な所に置いといてくれる?」


「あ、はい。分かりました」


近くにあった机の上に、荷物を降ろして一息つく。結構重かったなぁ。


「そういえば、まだこの服装の説明をしてなかったわね」


「そうですね。教室に居た皆さんの服装も独特でしたし」


「まぁコスプレ喫茶をやるなら、あれくらいの仮装はしなきゃね。あと、敬語なんて使わないでいいのよ。同い年なんだし」


「はぁ……。じゃあ、出来るだけ使わないようにするよ」


コスプレ喫茶か……。だったら、あの服装も納得かな。……一部、危なそうなのもあったけど。


「でも、あんなにたくさんの衣装を集めるのも大変だったんじゃない?」


以前《某東へ急ぐ手》でコスプレ衣装を見たときに、結構いい値が付いてた気がする。


「それなら全然よ。去年の使い回しだからね」


「去年もコスプレ喫茶を?」


「まぁね。確かウズヒは……メイドだったかな。フリフリが付いたメイド服にカチューシャを付けて」


ウズヒのメイド服姿……。

『お帰りなさいませ、御主人様』とか、『御主人様、口許にご飯粒が……パクッ♪(←違うだろ! これは今朝の出来事!!)』とか……。


ヤバイ……鼻血出そう。何で去年来なかったんだろ……



「もうそろそろ開店時間ね。悪いけど、好きな物を注文して教室に居てくれる? もちろん料理は私達の奢りだから」


「うん、分かった。でも奢りっていうのは……」


「お金なら気にしなくていいわよ。材料費とかは全部学校持ちだから。ほら、出てった出てった」


何も応える暇を与えてもられないまま、部屋を追い出されてしまった。ウズヒは未だに人垣の中。みんな、仕事しなくていいのかな?








 ・

  ・


あの後《純愛喫茶 愛羅武勇》はすぐに開店され、お客さんがなだれ込んできた。その中で意外だったのが、女性のお客さんも多かった事。

キッチンから教室へと戻ってきた瑞穂さんにその理由を聞いたら『ウチは料理もそこそこ美味しいからね。これ、食べてみる?』と、焼きそばを手渡された。

一見何処にでもありそうな感じだけど、この焼きそばの美味しいこと美味しいこと。麺からキャベツの一つにいたるまで、全てが美味しかった。



「しかし、あの娘も変わらないわね。まぁ3ヶ月やそこらで人は変わらないか」


「ウズヒは昔から人気者だったの?」


「そうね。昔から男女問わず人気があったわ。そのぶん告白された量も尋常じゃなかったけど」


近くのテーブルに座り、友達と笑顔で話しているウズヒを見ながら、瑞穂さんが懐かしそうに呟く。

やっぱりウズヒは沢山告白されてきたんだ。それでもボクの為に断ってくれて……。それなのにボクは……


「どうしたの? 何かあった?」


「いや、何でもないよ。……それより、ウズヒってそんなにもモテてたの?」


「そうねぇ…。中学時代なんて、呼び出しは毎日だったかな。男子は大体ウズヒ狙いだったわ。女子から告白しなきゃカップルが成立しないくらいに。

流石に当時自分が好きだった人がウズヒに告白してたのを見た時は驚いたけどね」


目の前のゴスロリ服を着た美少女がそんな事を言いながら、愉快そうに笑う。


「そんな事があっても、瑞穂さんはウズヒと仲が良いんだね?」


「ふふっ。当たり前じゃない。そんな事ぐらいで幼稚園からの親友と絶交なんてしないわ。だけど、羨ましいとは思ったわね。あの娘ったら幼稚園の頃から、貴方の話をしてたのよ?」


はい。電車の中で感じた疑問が、勝手に解決されちゃいました。いや、別にだからどうって訳じゃないんだけどね。


「それはすいません……」


「別に謝る必要はないのよ? 確かに中学の時は『私にもそれくらい想える相手が欲しい!』とか思ってたけど、今は普通に彼氏が欲しいくらいだもん。

あ、そうだ! 貴方の友達でイイ人居ない?」


「はぁ…。イイ人ですか……」


唐突な質問にビックリしながらも、必死に考える。賢は未来にぞっこんだしなぁ。他には……あれ? 他に居ない? もしかして、ボク友達少ない?


「居ないかな?」


「居ないというか……。瑞穂さんて、どんな人タイプなんですか?」


「そうねぇ〜……。容姿にはこだわらないけど、取り敢えず私より背が大きい人かな。因みに私は152cmだから。あとは、スポーツが好きな人」


まぁ身長の方は……ねぇ? もう1つは《スポーツが好きな人》か。スポーツ、スポーツ……。あ、居た。喋ってると二言目には《テニス》が出てくる男。


「居た、居た。次期テニス部キャプテン候補の奴が。結構格好良いし、いい奴だよ?」


「本当に? じゃあ今度紹介してよ。ダブルデートしようよ、ダブルデート!」


……この話題になってから、瑞穂さんに対するイメージがちょっと変わった。初めはクールな印象だったけど、流石ウズヒの幼馴染……。


「あれ? 2人とも楽しそうだね?」


噂をすれば何とやら。いつの間にか友達との話を終えていたウズヒが不思議そうに近寄ってきて、そのまま余っていた椅子へと腰掛ける。


「今度デートする約束をしてたのよ。ね? 綺羅君?」


瑞穂さ〜ん。《ダブル》が抜けてますよ。《ダブル》が。ほら、ウズヒの顔から一切の表情が消えちゃったじゃん!


「ウズヒ、それは勘違い……」


「酷い、綺羅君……」


そんな泣きそうな顔をしないでぇー!! それは全て誤解だから!! お願いだから泣かないで!!



〜30分経過〜


「なぁ〜んだ、そういう事だったのね。それならそうと、早くいってくれれば良かったのに」


30分かけて、ようやく説得完了。はぁ、疲れた……。もちろん精神的に。


「じゃあウズヒはそれでいい?」


「うん! 問題無いよ♪」


「瑞穂さんも?」


「ええ、私もそれで。2人ともお願いね?」


「任せて! 大切な幼馴染みの為だもん!」


ガッツポーズをしながら胸を張るボクの彼女さんはとても頼もしく見える。


…ここまで決まっちゃったら、もう後戻りなんて出来ないんだろうなぁ……。まだ本人に確認取ってないのに。どうしよう……。


ま、どうにかなるよね。
















その後、ボクとウズヒは《純愛喫茶 愛羅武勇》で2時間ほどお世話になり(昼食も貰った)、謳歌高校の文化祭を満喫してから帰った。

因みに、ミスコンは《愛羅武勇》に居る間に終わってました。残念……

akishi「どうも、akishiです。比較的早く更新出来て良かったです」


朱実「ボチボチってとこだな」


akishi「さて、今回は少し伏線を入れてみました。もちろんダブルデートの話じゃないですよ?」


朱実「お前なぁ…。伏線入れたのをばらしたら、伏線の意味がねぇんじゃねぇの?」


akishi「やっぱり? でも、気にしない気にしない」


朱実「……もういいや」


akishi「まぁ以前にも入れてあるんですけどね。少しだけ」


朱実「マジか? 嘘だろ?」


akishi「嘘じゃありません! っと、そろそろお時間のようで。では、また次回」



P.S 伏線がいつ回収されるかは未定です

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