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第2話 〜『彼女』と『ボク』と『3度の絶叫』〜

「こんにちは」


 杏奈さんに続いて、元気な挨拶と満面の笑みを伴った『彼女』が現れた。目鼻立ちの整った小さな顔に細身で170cm弱の高身長。染めたわけでも無さそうな少し茶色い髪をポニーテールにしている。歳は同じくらいな気もするけれど、落ち着いている印象も受けるので少し上なのかもしれない。

 おそらく(というか間違いなく)目の前に現れたこの女の子は、杏奈さんと悠真さんの娘さんなんだろう。そうでなければ納得できないような容姿だし。

 結局何が言いたいのかというと、この女の子は理不尽なくらいの美少女で、誰も彼もが一瞬で魅せられてしまうだろうってこと。

 そんなボクが一々考えなくても一目、彼女本人を見てもらえば分かることを考えていると……


「綺羅、どうしたの?? …… あっ、もしかして一目惚れしちゃった?」


 母さんが『そういう事か』みたいな表情で、微笑みながら聞いてくる。そしてその笑みの中には息子をからかうようなものも含まれているような気もするわけで ……


「え? あ、うん ……」


 何と返してよいのか分からず、肯定とも否定とも取れるような返事をしてしまった。

 ボクの返事を聞いた母さんと杏奈さんが話を始めてしまったので、どうしたものかと視線を漂わせていると、ふと彼女の表情をとらえた。

 その表情は不安と喜びが混じったような……ん? 何で喜び……?


「……そうなるわね。さぁ、そろそろ家に上がりましょう? いつまでも此処に居るわけにもいかないから」


 杏奈さんとの話が終わったらしい母さんの一言で思考が中断され、そのまま5人揃ってリビングへと移動。そしてそれぞれが腰掛けたところで杏奈さんがボクの方を見たあと、娘さんの方を見ながら、


「さ、まずは挨拶からよね。太陽(ウズヒ)?」


 と一言。

 ウズヒさんって珍しい名前だなぁ~なんて考えていたボクに彼女が投下したのは、


桜井(サクライ) 太陽(ウズヒ)です。これからよろしくね」


 鈴を鳴らしたような美しい声と、さっき見たよりも更に輝く笑顔という爆弾でした。……思わず見とれてしまうくらいの。


「……綺羅?」


「て、てて、天領綺羅です! よ、よろしくお願いします!」


 声を掛けられて自分を取り戻したけれど、見事に残念な返しをしちゃったよ……。

 

「――ふふっ」


 でも、ウズヒさんは笑ってくれていた。さっきの満面の笑みはとても可愛いけれど、今みたいな表情も純粋に綺麗だと思う。


「はぁ、恥ずかしい……。ごめんね、ウズヒちゃん」


「いえ、そんな事は……」


 呆れた表情の母親と、苦笑するしかない今日出会ったばかりの美少女を見ていたら、本当に申し訳ない気持ちになってきたよ。


「こんなちょっと変な所のある息子だけど末永くお願いね?」


「こちらこそふつつか者ですが末永くよろしくお願いします」


 笑顔の母親と三つ指をついて頭を下げるウズヒさん。

 うんうん。こんな息子だけど、少しはいい所もあるしね。末永くよろし …… く? って、


「ええぇぇぇぇぇ!?」


「ちょっと綺羅。急にどうしたのよ?」


 ボクが突然大声を出したせいで驚いた4人の目が点になっている。


「今末永くって言った!? そういう物は結婚相手に言う言葉じゃないの!?」


「ええそうよ。問題無いじゃない」


 さも当然といった表情で、平然と答える母さん。


「いやいや、あるでしょ? まるでボクとウズヒさんが結婚するみたいな言い方だったよ!?」


「まさか霞……言ってなかったのか……?」


 悠真さんが驚きの声を上げるが。


「ええ、その方が面白いじゃない♪」


 その言葉に悠真さんと杏奈さんが頭を抱える。ボクにはさっぱり意味がわからず、ウズヒさんも少し戸惑ってるみたい。

 すると杏奈さんが顔を上げ、


「霞…自分の子供の将来に関する事なんだから『面白い』で片付けちゃダメでしょ?」


「大丈夫よ♪ 私はどんな事があってもたくましく生きていけるようにこの子を育てたから」


 と言ってボクの背中をバンバン叩く。結構痛いよ、母さん……。


「はぁ…過ぎた事を言っても仕方ないわ。もう私から綺羅君に伝えるわよ?」


 もう母さんに任せていては駄目だと思ったのか、杏奈さんが母さんに問い掛けた。


「ええ、お願い」


 うん、ボクもその方が良いと思います。


「綺羅君、実はね……貴方とウズヒは許婚同士なの。これは私と悠真、それに貴方のご両親と話して決めた事でね」


い、許婚!? 許嫁ってあれだよね? あの政略結婚とかで使われる(実際に使われているのかは知らなけれど)親同士で生涯の伴侶を決めちゃうっていう……


「いや、おかしくありませんか? 今21世紀ですよ?? このHigh techハイテクな時代に許婚って珍しい……というか、絶対ありませんよ! ウズヒさんだって急にそんな事を言われても困惑するだけじゃ……」


「別に私は嫌じゃないよ? この日を待っていたくらいだし……」


 そう言って彼女は顔を真っ赤にして俯いた。


「ほら。ウズヒさんだって嫌じゃないってぇぇええぇぇぇ!?」


「……貴方、今日叫びすぎよ?」


 それは貴女達のせいだと思うんですが……。というか、突然許嫁がいると知らされた人間の気持ちを考えて見てほしいんだけどな。

 まぁ、そんなボクの想いが汲み取られることはなく。


「さて、杏奈、悠真君。これで伝えるべき事は全部伝えたし、私達は出掛けましょうか。久しぶりにゆっくりお茶でもしましょ」


「え? 出掛けるの……?」


 正直、今此処にウズヒさんと二人で取り残されたら気まずい雰囲気しか作れない自信がある。情けない事だけどね。


「ええ。貴方にはウズヒちゃんと話したい事があるんじゃないの?」


「いや、まぁ……」


 許嫁のこととか話したい気持ちもあるけれど、それは此処にいる全員に関係しているとも思うわけで。


「じゃあウズヒちゃん。綺羅のこと、よろしくね。真君、杏奈行きましょ」


「うん、そうね」


「ウズヒをよろしくな、綺羅」


 3人は楽しそうに出掛けてしまい、ボク達は取り残された……。

 気まずい、とっても気まずい。彼女はまだ顔を朱らめて俯いてるし。あぁそんな仕草も絵に……じゃなくて、えっと……

 必死に話題を探して部屋の中を見回していると彼女が口を開いた。


「ごめんね」


「え? なにが?」


 彼女が謝る理由が全く思い当たらない。恥ずかしい姿を見せてしまったボクが謝るなら分かるけど。


「だって、いきなり家へおしかけた上に、あんな話をされて迷惑だったでしょう?」


「ううん、迷惑とかでは。ただ、ちょっとびっくりしちゃっただけですよ」


 アハハ……と微妙に笑いながら本音で応える。許婚と聞かされた時は確かに驚いたけど、別に迷惑だなんて思ってはいないから。


「そう……。でも急に許婚って言われて困ってるんじゃない?」


「う~ん……」


 果たしてボクは困っているんだろうか? 別に彼女が居るわけでもないから、その辺りの問題が起きるわけでもなく、今すぐ結婚しろという事もないだろうから。

 正直、許婚でもなければ、ボクが目の前に居る、超が付くほどの美少女と付き合えるなんて……じゃんくて!! 


「困ってはいませんよ。本当に、驚いているだけですから」


 心からの声が届くようにしっかりと、真剣に伝える。変な顔になってなければいいけど。


「……あのね、さっきも言った通り別に私は許婚を嫌ではないと、嬉しい事だと思ってるの」


「え?」


「私はね、小さい頃から許婚の話を知ってたし、ずっと綺羅君のお嫁さんになろうと思ってから」


「でもそれは……」


「うん。今の話を聞いたら私が周りの人に流されてるだけに見えるよね。でも違うの。確かにきっかけはお父さん達が決めた話だったけど、今のこの想いは誰が決めたものでもない、私自身の気持ちだよ」


 彼女の力強い目を見れば、一切嘘が含まれていない事は十分に伝わってくる。真っすぐ過ぎる視線に、目が離せなくなるくらいに。だけど……


「貴女が嘘をついているとは思いませんけど……。許婚ってのもまだ受け入れられてないし、貴女の事だってよく知らないんですよ? 本音を言えば、貴女の気持ちをどう受け取っていいのかも……」 


「じゃあ時が経って、君が私の事をもっと知ってくれれば受け入れてくれる可能性はあるのかな?」


「それはもちろん。人と人ですからね」


 生意気な台詞を言ってしまったけど、本音だからしょうがないよね。


「やった! 私、綺羅君に好きになってもらえるように一生懸命頑張るね! 何と言ったって、今日から一緒に暮らすんだもん」


 うんうん。喜んでくれているようで自分の発言は失敗でなかったと…………はい? 今なんとおっしゃいました? 元気な声で凄い発言しなかった??


「い、今一緒に暮らすって言った?」


「う、うん。もしかしてそれも聞いてなかった?」


「……………」


「綺羅君?」


「ええぇぇぇぇ!?」









本日3回目の絶叫は、天国にいる父さんの鼓膜を破ってしまうくらい大きく、よく通る(?)声だった。


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