第21話 〜突然の『帰国』と酔っ払いの『未亡人』〜
至って普通の6月下旬、7月になると即夏休みに入るという我が高校の特殊な休み設定の為、すでに学期末のテストは終わって授業時間は短縮へと移行済み。
午前中の授業が全て終わり、ボクはウズヒに腕を絡められて半ば引きずられる様に2人で下校中。
賢達が居ないのは先日のお詫び(悪夢の弁当事件)として未来の奢りでお昼ご飯を食べていくって先に帰っちゃったから。まぁ、それなら賢が倒れることも無いだろうし安心だね。
因みに未来は料理作りを断念。賢も将来の為に料理修業を開始した。
う〜ん……大変だね。やっぱりボクって恵まれてる? ボクの彼女さんは何でも出来るからね。ウズヒがボクを見放さずにいてくれたらバラ色人生確定だよ。
「ちょっと綺羅君! 久し振りに2人で仲良く帰ってるんだからボーっとしないでよぉ〜」
ウズヒがそう言いながら可愛くプーっと頬を膨らませる。ボクの背丈が小さい所為で彼女が上目使いでないのが残念。彼女の上目使いは物凄い可愛いんだって。……惚気じゃないからね?
「ねぇ綺羅君、大丈夫? 見つめてくれるのは嬉しいけど何か目が虚ろだよ??」
「え? あぁ大丈夫、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」
拗ね気味のウズヒにそう言い訳をするが……
「考え事? 私と話してるよりもその考え事の方が楽しいの!? ねぇ!?」
ウズヒが絡めていた腕を離し、ボクの襟元を掴んで前後に揺さ振りながらそう叫ぶ。
「ちょ…ウズヒ……」
「どうせ他の女の事でも考えてるんでしょ!? もう私に飽きたの!?」
ボクの言葉は全く届かず、さらに詰め寄ってくる。ていうか既に錯乱状態? ボーっとしてたボクも悪かったけどさ、そこまでパニックになる?
「ウズヒ! しっかりして!! 急にどうしちゃったの!?」
彼女の肩に手を置いて揺すりながら落ち着かせる為、必死に語り掛ける。
「何よ! どうせ私の事なんか……え? わ、私今何を言って…」
「ふぅ…。元に戻ってくれた?」
正気を取り戻したウズヒに安堵し、出来るだけの優しい声を出す。
「ご、ごめんなさい。急に頭の中が真っ白になっちゃって……」
今にも泣きそうな表情で謝罪の言葉を口にし、そのまま俯いてしまうウズヒ。やっぱりそんな姿でも絵になる……じゃなくて!
「考え事してたボクが悪かったしさ。気にしてないから元気だして? ね?」
「…うん」
俯いている彼女の手を引き、家に向かって歩きだす。
う〜ん…。急にウズヒが錯乱状態になっちゃった事から絶対に今日は何か有るね。まぁ避ける事は不可能なんだけどさ。
「家に帰ったら一日中慰めてね♪」
綺麗な瞳に涙を湛えながら(微妙に黒い)笑顔でそんな事を言うウズヒ。
ほら、もう何か嫌な予感たっぷりじゃない?
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そしてあっという間に我が家の玄関前。でも立ち尽くし始めて早1分。だって誰も居ない筈なのに玄関の鍵が開いてるんだもん。
「もしかして泥棒かな? 綺羅君、恐いよぉ〜」
いや、嘘でしょ? 笑いながら背中に抱き着いてきても嘘にしか聞こえないから。
「ボクが先に入って見てくるよ。だから離して?」
「うん。泥棒さんを捕まえたら、沢山ご褒美あげるからね♪」
あー……君は泥棒まで利用しちゃう? それに逆上した泥棒にボクが殺されちゃうかもよ? それは心配してくれないの?
「頑張ってね♪」
「…ハイ」
美しい彼女さんに笑顔で応援されたらボクは何も言えず、そのまま家に突入するしかない。結局ボクはヘタレでしかないのね。
で、家に入ると…取り敢えず玄関周りに荒らされた形跡は無し。
そして居間に移るとそこには……
「なんで母さんが此処に居るの!?」
ボクと亜梨香の母親に当たる女性が、普通に昼食をとっていました。
「あら、綺羅。お帰りなさい。案外帰ってくるのが早かったのね」
「うん。短縮授業だったからね…って違うでしょ!?」
はぁ…。既に母さんのペースに乗せられてるよ……。海外へ行こうと何処へ行こうと母さんは母さんなんだね。
父さん、貴方はこの女性の何処に惹かれたんですか? 容姿ですか? それとも積極的過ぎるアプローチでも受けましたか?
「綺羅君、遅いよぉ〜。犯人さんに襲われちゃったの? ……あれ? 霞さん?」
「ウズヒちゃん、おひさ♪」
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
ウズヒが物騒な事を言いながらボクの背後から現れ、母さんと向かい合うように席へ座ってそのまま2人だけで楽しそうに会話を開始。
それより『おひさ♪』って……。確かに外見は年不相応な位に若いけどさ。それでも2児の母な訳だから似合わないと思うな。それに『おひさ♪』って死語じゃないの? 違ったっけ?
「綺羅、ちょっとこっちに来なさい♪」
うわぁ…閻魔様が凄い笑顔だよ。母さんがエスパーだって事を忘れてた…。いや、本当にエスパーかどうかは知らないんだけどね。
「早く来なさい♪」
「…分かりました」
今なら死地に向かう戦士の気持ちがよく分かる気がする。でも彼等は戦って死に抗えるからいいよね。ボクには逃れる術はありませんから。
「久しぶりね、綺羅♪」
「ハ、ハイ!」
ヤバイよぉ…。冷や汗ダラダラだよぉ……。確実に死んじゃうよぉ……。
「ま、いいわ。座りなさい。今回は許してあげる」
「あ、ありがとうございます!」
許してもらえた事に驚きながらもウズヒの隣の席へと腰掛ける。ありえない程の威圧感を発している母さんの隣なんてとてもじゃないけど座れないよ。
「それで、どうして急に帰国なさったんですか?」
ボクが縮こまっているのを見てウズヒが救いの手を差し延べてくれた。ただ会話を再開しただけかもしれないけど。
「仕事関係で色々と用事があってね。それに3ヶ月も家に帰ってなかったでしょ? たまには家族の温もりも感じたかったの♪」
さっきまでの威圧感が消え、笑顔で語る母さんの言葉に胸が熱くなる。
「じゃあ私は実家に帰っていた方がいいですよね? やっぱり家族3人水入らずじゃないと……」
「あら? そんな事気にしなくていいのよ? ウズヒちゃんも私達の娘なんだから」
「ありがとうございます♪ 不肖な娘ですが、これからも宜しくお願いします」
母さんの優しい台詞とウズヒが微笑みながらペコッと頭を下げる光景に、穏やかな空気が流れるのを感じる。
だけどこの場合…
「それで、そろそろ初孫の顔は拝めそうなのかしら?」
「母さんッ!!」
ほら出たよ。天領(旧姓:朝比奈)霞必殺《空気ブレイカー》。
シリアスな場面ではいいけどさ、この状況で使っちゃ駄目だよ。
「ふふっ♪ 冗談よ。ウズヒちゃんはまだまだ将来がある身だもの。もしそんな事になったら私が綺羅を赦さないわ」
なんだかんだで、やっぱりこの人も大人なんだなぁという発言を笑顔でする母さん。
だけど1つ気になる事があるんだよね…
「あの…やっぱりボクよりウズヒの将来に期待してたりします?」
「当たり前じゃない。将来的には貴方の面倒はウズヒちゃんにみてもらうつもりなんだから」
『何言ってるの?』みたいな表情で淡々と何気に傷つく言葉を掛けられた…。
ボクにも一応、男の甲斐性というか…その他諸々から好きな女性ぐらい養っていきたいんですけどね……。落ち込むわ…。
「き、綺羅君! 大丈夫だよ! 霞さんの言う通り、何があっても私がずっと一緒に居て支え続けるから!」
何を勘違いしたのか、ウズヒがボクにとっては追い打ちとしかなりえないフォローをしてくれた。
今のは車に轢かれた後、同じ車がバックしてきてもう一回轢かれるのと同じくらいキツかった。うん、100%ご臨終だよ。
「私が居ない間にウズヒちゃんも綺羅のイジリ方を覚えたみたいね♪」
「え? え?? ど、どういう事ですか?」
またしてもウズヒが軽いパニック状態。やっぱり帰り道の件にしろ母さんの得体の知れない力の影響だろうね。我が母親ながら、かなり恐ろしい……
「…綺羅?」
「な、なんでもありませんッ!!」
母さんの微笑みに今まで生きてきた中で1番の恐怖を感じました。やっぱり怖いって。
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母さんが作った昼食を食べ、いろいろな事を話している内にいつの間にかティータイム(3時のおやつ)に突入。
話の中で分かったのは母さんが何か凄いって事。何処ぞの大統領に会っただとか、宇宙ステーションに行ったとか・・・etc。普通ならトップニュースになる位の事をしてきたみたい。ニュースにならなかったのは情報操作をしたかららしい。
他の人がそんな事言っても到底信じられないけど、この女性だから…。あながち嘘じゃない気がするんだよね。
「流石霞さんですね。仕事をバリバリこなして凄くカッコイイです」
ウズヒが尊敬の眼差しで母さんを見つめながら言う。確実に毒されてるよね。仕事が出来る女性はカッコイイとは思うけど、ウズヒに母さんみたいな生活はして欲しくないなぁ。
「ありがとう♪ そんな事を言われたのは初めてだから、少し恥ずかしいわね」
いや、おやつ用に買っておいたクッキーをパクパク食べながらそんな事言っても、全く恥らってる様には見えないんですけど……。
「そんな事より母さんはいつまで日本に居るの? 半年後くらい?」
「たぶん8月の終わり位までね。日本でする仕事はそんなに多いわけじゃないから」
「ふ〜ん。やっぱり忙しいんだ」
何だかんだ言って家族の為に一生懸命働いてくれてるんだもんね。外では立派な女社長をやってるみたいだし、家では息抜きさせてあげないと父さんに怒られるかな?
「あ、急な話で悪いけど、2人とも明日は学校休んでね?」
「「??」」
急な話の展開によってボクとウズヒの頭に『?』マークが浮かんだ。何この異常な話の飛び方? 会話の前後関係は無視ですか?
「貴方達に仕事を手伝って欲しいの。会社では他にも意見が出たんだけど、私がお願いしてね」
「霞さんの頼みだったら、私は喜んで手伝わしてもらいます♪」
「ボクも別に問題は無いけど…。学校への連絡は?」
「それだったら問題はないわ。橘先生に頼んで貴方達4人は病欠扱いにしてもらったから」
流石母さん、抜かりは無いね。あ、橘先生ってのは校長先生ね。何故か校長先生は母さんに頭が上がらないらしく、父さん程ではないけど昔は結構苦労していたらしい。そして今1番苦労しているのは他でもないボク。
「4人ですか? 私達2人じゃなくて?」
あれ? 母さん『4人』って言った? 気付かなかったな…。
「ええ。賢人君と未来ちゃんにもお願いしたの。だから4人よ」
「ボク達はいいけどさ、2人には迷惑じゃないの?」
いくら友達の親で面識が有ると言っても、急にそんな事を頼まれて即OKは出せないでしょ? それにファンクラブまで出来る3人が揃って休んだら怪しまれない? 家に押し掛けられちゃうかもよ?
そんなボクの疑問に母さんが笑顔で応える。
「それなら心配ないわ。彼等とご両親にもちゃんと説明もして、許可も頂いてるから。諸々の問題は橘先生に任しておけばどうにかなるわよ♪」
訂正:校長先生は未だにボクと同じか、それ以上に苦労していらっしゃいます。
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時間の流れとは過ぎてみると早いもので今は午後11時。良い子は寝るべき時間。ボクは悪い子でも寝た方が良いと思うんだけどね。だって早く寝ないと背が伸びないもん。
まぁ、今のボクは別の理由で寝たいんだけどさ。
「こらぁ〜キラァ〜。ボサッとしてらいで早くワインを注ぎらさいよぉ〜」
えー……只今酔っ払って滑舌が悪くなった風呂上りの母さんのお酌をしています。ウズヒは夕食前に帰ってきた亜梨香に連れられて自室へと逃げ延びた。基本的にボクにしか絡んでこないから逃げなくてもいいのにね。どんな絡まれ方をされるか知ってる筈の亜梨香には助けて欲しかったな…。
「注いでるだけじゃなくてアラタも飲みらさい! ほら!」
そう言ってワインが入ったグラスをボクの顔へと近づける。というか押し付けられた。
「い、痛いって。それにまだ未成年だから飲めないよ。母さんも息子がお巡りさんのお世話になったら嫌でしょ?」
「らによぉ〜。年食った未亡人が勧めるお酒はろめらいってゆーの?」
いや、自分の子供に未亡人とか言ってどうするの? それに普通は自分の事を未亡人って言わないでしょ。お酒とも全く関係無いし。
「キラはいいわよねぇ〜。ウズヒちゃんとイチャイチャ出来て。私だってあっくんとイチャイチャしたいのよ!!」
そう言いながらボクの鳩尾へ渾身のストレートを放ち、それがクリティカルヒット。
「うぅ……」
無意識のうちに蹲るほど良い所(?)にパンチが入った。明らかに家庭内暴力だよ…。こ、呼吸が出来ない……。
「大体結婚式で神様の前で言った《一生傍に居る》って誓いはどうしたのよ!? ラブラブ結婚生活が五年くらいしか満喫できなかったじゃない!!」
今度は背中に平手打ちが炸裂。何かと理不尽すぎる……。しかもまた呼吸が出来なくなる部分を…。
あとさ、一生って生きてる間の事だから、一応誓いは果たしてたんじゃないの? 父さんは死ぬまで母さんと一緒に居たわけだし。
「私が死ぬまで一緒に居てくれなきゃ嫌なのよ!!」
またしても理不尽発言をしながらボクの足の小指を踏む母さん。地味に1番痛い! 折れちゃうって! 1つ分かったのは、この人が酔ってもボクの思考を読めるって事。この能力要らないなぁ〜。
「あっくんと同じような事を言わないで!!」
最終的には首を締め上げ始める母さん。人事みたいに言ってるけど、締め上げられてるのはボクだからね。かなり苦しい。精神的に疲れてきたからあとでウズヒに慰めてもらおう…。決して変な意味ではなくて。そういえば、いつの間にか口調が元に戻ってるね。
そんな事を考えていても何も言ってこない母さんを見ると……
「………スー。……スー…」
寝てる!? しかも腕の力は弱まってないし! この人はどれだけ器用なの!?
ありえない器用さに驚きながらも、ここぞとばかりに母さんを部屋へと運ぶ。泥酔してたから目を覚まさなかったのは運が良かった。散々な目にあったのを合わせるとマイナスだけど。
そして自室へ直行。ウズヒの所へ行こうかとも思ったけど亜梨香も居るし止めておいた。今までの経験上、この状況で行ったら逆に疲れそうな気がするしね。
部屋に入り、即ベッドへ。明日母さんの仕事の手伝いh行くことで起こるであろう非日常的な出来事を危惧しながらも現実から逃げるように夢の世界へと旅立った。
夢の中では母さん&ウズヒにいじめられ続けた……。これだったら起きてた方がマシだったよ。
akishi「どうもakishiです」
朱実「どうも天領朱実です」
akishi「前回お詫びしたとはいえ、だいぶ間隔が空いてしまい申し訳ありませんでした」
朱実「いい加減にしないと本当に見捨てられるぞ?」
akishi「そ、それは困る…というか泣きそうだなぁ……」
朱実「だったら書け。そうすれば多少は同情して読んでもらえる」
akishi「書きたいんだけど、中々先に進まないんだよね…。大まかなストーリーは決まってるんだけど」
朱実「じゃあヤル気の問題じゃねぇか。頑張って根性だせ」
akishi「う〜ん…そうだね。頑張るよ」
朱実「それでいい」
akishi「読者の皆様、更新が遅れた上に図々しいですが感想&評価やアドバイスを下さい。感想を頂けたら単純なのでスピードが上がりますし、アドバイスも力になりますのでお願いします!」
朱実「読者頼みかよ!!」
akishi「だってそれが1番力になるんだもん…」
朱実「……ハァ。もういい。俺は帰るぞ」
akishi「うん。じゃあね」
朱実「軽ッ!!」
akishi「では次回も宜しくお願いします♪」
P.S 久しぶりにアクセス数を見たら、
ユニークアクセス…50,000
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を突破していました。本当にありがとうございます!
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説明が下手でスミマセン……




