第1話 〜世の中の『理不尽』と『彼女』との『出会い』〜
謎の声がしなくなってからボクは1階に降りてきた。ボクの家は2階建ての一軒家だ。
しかし、階段を降り居間に入っても誰もいない。
ボクの家はボクと母さん、妹の3人暮らしで、いつもこの時間帯なら誰かが居るはずなんだけど……。父さんについては後々語っていくことにしよう。
ダイニングに行くとテーブルの上には朝食であろう食パンと置き手紙が……
『愛しい息子へ
母さんは大事な人を迎えに行って来ます♪ お昼頃には帰れるような気がします。もし帰れなかったら自給自足で1週間生き延びちゃって下さい
P.S 朝食は賞味期限の過ぎたパンを置いておきました。 いつまでも美しい母さんより』
母さん、突っ込みやすいように色々と用意していってくれたみたいだけど、ボクはツッコミませんよ。ここでオーバーなリアクションを取ることで今後の展開が(中略)……だからやめておきます。
とはいうものの賞味期限がきれているといろいろ問題が発生するので一応確認してみると『3月25日』と裏面に表記されていた。
「あれ? 賞味期限、過ぎてないけど……」
カレンダーで日付を確認してみても、まだ大丈夫なはず……
「……なんか変な臭いがする」
パンが入っている袋を開いた途端にこの世のものとは思えないほどの匂いが部屋に充満した。
おかしいな、賞味期限はきれてないはずなのに。と思ってよく賞味期限の欄を見ると………
『H1X 3月25日』
ボクはその表記を見た瞬間に袋を何重にも掛けご近所の迷惑にならないであろう場所に捨てた。だってもう存在すら許されない物体だよ、あれはね。
そんな事をしていたら食欲もすっかり失せてしまったので、背を伸ばす為にと牛乳だけを飲んでおいた。……あとから知った事だけど、牛乳を飲むだけで背が伸びる事はないらしいね。
「さて、これからどうしよう」
1人呟きながら腰に手を当てて考える。今日は日曜日なので妹の亜梨香に荷物持ちとして買い物へと連れ出されたりするのだが、幸い彼女は今、祖父と祖母の家に行っていて学校の始業式の直前まで帰ってこないらしい。昼になれば母さんは帰ってくるだろうが、時刻はまだ10時過ぎ。
こんなとき遊びに誘える人が多ければな……とも思う。友達の数が少ないわけではないけれど、遊びに誘える友達となると意外と少ないことに気がつく。
やっぱりボクって友達少ないのかな、なんて考えたけど不毛な気がしたので、漫画でも読もうと自室へと戻る。
部屋に入って小学生の頃から使っている本棚を眺めていると最近ドラマ化された中高生向けの恋愛要素が強い漫画が目に付いた。それを見て、ふと今朝の夢を思い出した。
何故あんな夢を見たのかは定かじゃないけれど、昨日この漫画を読んだ影響が強いのかもしれない。設定まで漫画の内容とそっくりだったし……
「悲しいなぁ」
なにが悲しいって夢まで見ちゃう自分がとっても悲しいよね。漫画にすぐ影響を受けてしまうくらい自分に恋愛経験のないという事実も悲しいし……。
『ピンポーン♪』
意味もなく自室で落ち込んでいると、来客を知らせる呼び鈴が家中に響いた。
「はい、どちら様ですか?」
1階に設置してあるインターホンを取り失礼がない程度に応対をする。落ち込んでいるからといって居留守を使うわけにもいかないしね。
とりあえず聞き覚えのある声で玄関の鍵を開けてほしい、との事だったので素直に言われた事を実行する。我が家で最強の人の言葉には逆らえないもん。
「綺羅、ただいま」
玄関の鍵を開けたとたん、1人の女性が抱き着いてきた。
その女性の名前は天領 霞。ボクの母親でありどこからみても20代後半〜30代前半にしか見えない○○歳の女性。腰まである黒いストレートヘアーに、文字通りトップモデル顔負けの顔立ち。背丈があるわけではないが出るところは出て、締めるところはきっちり締めてある。仕事も、会社を経営してて結構上手くいっているらしい。スポーツも学生時代はテニス部に入っていてインターハイで優勝するくらいだったみたい。
ここまでくると自分の母親ながら正直気持ち悪い……。
『ミシ……ミシミシ……』
「か……母さん? 熱い抱擁がサバ折りになってるよ!?」
「だって貴方何か変なこと考えてたでしょ?」
貴女はエスパーですか!? それに顔は笑ってるけど、目は笑ってないし、額に青筋は立ってるし、何より背後に阿修羅が見えますよ!
なので……
「ハハ……そんなわけないじゃない。 美しい母さんに抱きしめられて嬉しいなって♪」
なんとしてもこの状況から抜け出したい!! その一心で必死に言い訳をする。
「あらそう? 息子に褒められてうれしいわ。でも、やっぱり私が褒められて1番嬉しいのはあっくんね」
あっくん――天領 朱実。他でもないボクの父さん。10年以上前に他界してしまったが、今でも母さんは父さんのことを愛しているらしい。自分の両親ながら美しいとは思う。いつか自分も母さん達と同じような思いを抱けるような相手に出会えるんだろうか?
そんな事を考えていると母さんが離れてくれて、その後ろに人が立っていることに気がついた。美男美女の2人組で、夫婦だろうと思われる雰囲気をかもし出している。
男性の方はスポーツマンっぽく髪型は黒の短髪、185cmはあろう高身長に爽やかな笑顔が浮かんでいる整った顔。
一方女性の方は……肩まである茶色い髪。高身長からスラリと伸びる長い手足に日本人離れしたプロポーション。世の中の女性が望んでやまないであろう美しく小さな顔。
「綺羅?」
「うん、何?」
絵にかいたような2人の登場に気を取られているボクへ母さんが声をかけてきた。
「この2人は私の小学校の時からの同級生でね。桜井 悠真君と杏奈さんよ」
「よろしくな、綺羅君」
こちらこそよろしくお願いします、と返しながら悠真さんから握手を求められたので手を差し出す。とても大きなてにマメがいっぱい出来ていた。何かスポーツでもやってるのかな、とも思ったけど悠真さんの隣に居る女性--杏奈さんから声を掛けられたので、そちらに意識を集中する。
「よろしくね、綺羅君♪」
悠真さんと同じやり取りを杏奈さんとも交わす。力強い悠真さんの手と比べ、杏奈さんの握手しただけで癒され、温かい優しい手だった。
……あれ? 母さんと同級生って事は2人とも○○歳越えてる!? 嘘……? だってどう見ても20代だよ!? これはボクを驚かそうという嘘なのかな? サプライズですか??
「私の同級生ってのは本当よ」
顔に笑みを浮かべながら、ボクの心の中で浮かんできた疑問に答える母さん。やっぱりエスパー? 父さん、ボクの人権は何処に行ったのでしょうか?
「私の前で貴方が隠し事は出来無いわ。今まで隠していたけれどね」
成る程、ボクに基本的人権の尊重は適用されないという事ですね。
「そういう事になるわね。ところで、もうそろそろ話を進めていいかしら?」
「……どうぞ」
もしかしたら思ったことを言葉にしなくていいという面では、ある意味便利な事なのかもしれない、と自分を騙すことにしました。
「実はね、今日2人はある約束の為に来てくれたの。それも貴方に……いえ、貴方達に関するね」
「貴方……達??」
『達』ということはボク以外の誰かにも関する事なのだろう。でも、思い当たる人物が居ないんだよね。家族に関する事なら、妹もこの場に呼んでいるだろうし。
「ええ。杏奈、呼んで来てくれない?」
杏奈さんはボクの反応を楽しそうに見ながら、一言『わかったわ』という言葉を残して家の外へと出ていった。
他にも誰か外に居るという事なんだろうか?
「母さん?」
「すぐにわかるわよ」
何がなの? そう言おうとした瞬間、杏奈さんと……『彼女』が入って来た。
――これがボクと『彼女』の出会いだった。
どうもakishiです。
いつまで玄関にいるんだよ!!って感じですね……自分の文章能力を呪いたくなります。
そんな作者をこれからもよろしくお願いします。
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