~Side Akemi Tenryo~ 〜『アイドル』な『彼女』と『一般人』の『俺』〜《前編》
俺の名前は天領朱実。星春高校の2年生で、顔普通、勉強普通、スポーツ普通という何処にでもいる普通の高校生。だが、そんな普通の俺が今普通では有り得ない状況に置かれている。
「あの…大丈夫?」
「は、はい!! 大丈夫です!!」
何故そんな状況に陥っているかというと……
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~1時間前~
「お〜い朱実! ちょっと待ってくれ!!」
一日の授業が終わり、帰ろうと廊下を歩いていたら中学時代からの親友である桜井悠真(何においても万能男)に声を掛けられた。
「どうした? お前はこれから部活だろ?」
因みに悠真は野球部だ。
「そうなんだが…今日一緒に帰らないか?」
「は!? お前いつからそんな趣味が……」
「違う! オレは杏奈一筋だ!! 男に興味なんて無い!!」
悠真には深沢杏奈さんという彼女がいる。その娘も同じ中学だったが、あまり話したことはない。
かなりの美人で『学園のマドンナ』と呼ばれ、もう1人『学園のアイドル』と呼ばれる美少女と共に二大美女(又は美少女)と呼ばれている。
2人とも悠真の幼馴染みらしい。
「声がデカイって。周りの目が痛いだろ?」
「す、すまん……」
「で、何の話だっけ?」
話が逸れたので、軌道を修正する。逸らしたのも俺だけどな。
「ああ、すまないが1時間位待っててくれないか? 今日はミーティングだけだからすぐ終わるんだ」
「深沢さんはいいのか?」
「今日は用事があるらしくてな。そこでたまにはお前とでも一緒に帰ろうと」
「ん〜いいよ」
たまには一緒に帰るのもいいだろう。……俺に変な趣味は無いからな?そこんとこ宜しく。
「なら、図書館で自習でもしててくれないか? 迎えに行くから」
「了解。間違えても置き去りにして帰るなよ?」
「心配すんな。じゃあまた後でな!」
「オウ!」
今思えばこれが全ての始まりだったんだな……。
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謀ったように他に誰もいない図書館で自習を始めて30分。少し休憩でも入れようかと思っていたら急に声を掛けられた。
「すいません、隣座ってもいいですか?」
声からすると女子生徒だな。
「ええ、どうぞ」
(他に席なんか幾らでも空いてるのに何で敢えて隣なんだ?指定席とか?)
そんな考えを巡らせながら彼女の方を見てみると……
「は!? あ、貴女は……」
「どうかしましたか?」
「い、いえ! 何でもないです!!」
「??」
(な、何でこんな所に『学園のアイドル』が…。しかも俺の隣に敢えて座ったし!!)
この時よく考えれば何かおかしい事はわかった筈だ。極たまにしか一緒に帰る事のない親友からの誘い、誰もいない図書館、いきなり現れた『学園のアイドル』…。おかしい所だらけじゃねぇか!
……ただこの時俺は美少女が隣に座ってる事で舞い上がっていたんだろう。
「あの…」
「は、はい!」
「天領朱実君だよね? 同じ中学だった」
「そ、そうです! 2年の時同じクラスでした」
一度も話せずに1年間過ごしたけど。……そこ! ヘタレって言うな!! 当時から二大美女(又は美少女)と呼ばれてた内の1人に自分から声なんて掛けられるか!
「そうだったね。そういえば天領君は悠真君と仲がいいって聞いたけど?」
「はい。一緒にいると自分の事が恥ずかしくなってくる位いい奴ですよ」
まさかこの人も悠真を狙ってるとか? 深沢さんがいるってのに、あいつはなんて贅沢な奴なんだ! ……確かにそうなってもおかしくないくらい格好いいけどさ。
「私も彼とは幼馴染みだから仲いいんだよ?」
幼馴染みってのはどれだけ役得なんだよ!? 少し俺に分けてくれ!!
「あ、聞いたことあります。昔から3人でよく遊んでたって」
「そうなのよ。でも中1であの2人が付き合いだしてから私の肩身が狭くて……」
「ハハッ! あの2人は本当に仲がいいですからね」
バカップルっていう表現とは、またちょっと違う感じなんだけどな。何故かあの2人には軽く引いてしまう。
「私も彼氏がいたら、いくらか楽になれるんだけど」
「失礼だとは思いますが、貴女は凄くモテるって聞きますよ?告白されて、OKを出したりしないんですか?」
「別にモテはしないんだけど…。ずっと好きな人がいるから、告白されてもOKしたことはないわ」
「へぇ〜」
どれだけ幸せな奴なんだ!! でも、ファンクラブにバレたら抹殺されるし、良い事ばかりでもないな。
「その人は中学が同じ人でね…」
ってことは俺とも同じ中学か。
「2年生の時一緒のクラスだったんだけど一度も話すことが出来なくて…」
そいつはアホか!? 当時既に超絶美少女だぞ? 声くらい掛けろや!!
「私の親友の彼氏の親友なんだけど…」
うわっ…少し複雑になった。
「時には損する事もあるけど、いつでも友達に優しくて…」
所謂お人よしさん?
「少し鈍感だけど人の話を熱心に聞いてくれる人」
へぇ〜。
「そいつは相当な幸せ者ですね」
「そう?」
「はい。貴女にそんなに想われてるなんて。それをファンクラブの奴らが知ったら殺されますよ」
「ファンクラブなんて噂だけよ。杏奈にはあるみたいだけど、私にはそんな物無いわ」
知らぬは本人ばかり…かな?
「まぁその話はいいとして、余計なお節介かもしれませんがその人に告白とかしないんですか?」
「実は……」
「実は?」
「これからしようと思ってるの」
衝撃の告白キターーッ!!
「そ、そうなんですか?」
「…うん」
「確かにそんな鈍感野郎には、はっきり言ってやらないと一生気付かなそうですね。俺が言うのも何ですが貴女なら絶対上手くいきますよ」
「ありがとう」
「いいえ、お礼を言われるような事はしてませんよ。……宜しければお相手の名前を聞いてもいいですか?知ってる奴かもしれないので」
中学が同じみたいだし。
「うん……」
「あ、無理して言うことはないですよ? 出来たらの話ですから」
「ううん。嫌なわけじゃないの……」
「…そうですか」
とても言いづらそうに見えるけど……。
「その人は…その人の名前はテンリョウ君。『テンリョウ アケミ』君」
へぇ〜。『テンリョウ』なんてあんまり聞かない名字だな。しかも『アケミ』なんて女みたいな名前だな。あ、それを言ったら俺も『アケミ』か。……ってーか俺と同姓同名!?
「そいつは俺と同姓同名ですね。よかったら俺は改名しましょうか?って何してるんですか!?」
いつの間にか俺の左手を彼女の両手が包み込んでる!
「私の知ってる『テンリョウ アケミ』君は君だけだよ?」
「??」
ちょっと待て、整理してみよう。
《彼女の好きな人の名前は『テンリョウ アケミ』》→《俺と同姓同名》→《彼女が知ってる『テンリョウ アケミ』は俺だけ》→《よって彼女の想い人=俺》
ん? 何かおかしいな。前半は…まぁいい。後半は…最後がおかしいな。特に《想い人=俺》の部分が…って
「エエェェェ!?!?!?」
思わず絶叫してしまい、その拍子で俺の意識は銀河の彼方まで飛んで行ってしまった。
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そんなこんなで始めの状況に戻る、と。幸い意識は10秒程で戻って来たので、病院の集中治療室行きはどうにか免れた。
「君の彼女に私じゃ不足?」
「そんなわけないじゃないですか!! 逆に限界突破ですよ!」
焦りすぎて既に意味不明だな。
「なら付き合ってくれる?」
「い、いやそれは……」
「ダメなの?」
ヤバイ…彼女の涙目の威力は核反応兵器の比じゃない!!
「駄目というかなんというかですね……」
「私は君の隣にいられれば何も求めないから!」
いや、隣にこんな美少女がいるのに何も求められないのも逆に……
「お願い! ずっと君の事が好きだったの!! 彼女がダメなら体だけの関係でも……」
「駄目だ!!」
彼女の発言に、自分でも気付かない内に大声を張っていた。
「……?」
「そんな事言っちゃ駄目ですよ。自分の事をもっと大事にしなきゃ」
「それくらい君の事が好きなの! よく言われる『まだ恋に恋してるだけ』なんて事は誰にも言わせないわ!!」
「ふぅ…凄い覚悟ですね?」
「ありがとう。君に褒められるのが1番嬉しいわ」
嘘をついてるようには見えないんだよな…。
「……俺は貴女の思ってるような男じゃないですよ?」
「え? それって……」
「何しても欠点だらけですし、俺なんかと一緒にいたら人に何を言われるかわかりませんよ?」
俺に完璧美少女と付き合えるような部分は無い。それは自分でよく分かってる。
「何を言われたって私達の事をひがんでるとしか思えないわ!」
「……わかりました」
「じゃあ!」
「ええ、俺でよければ」
「ありがとう♪」
彼女が満面の笑みで応える。それを見ただけで、今の返事が間違っていなかったと思える。
「お礼を言うのはこっちですよ。普通に生きていたら貴女と付き合うなんて事ありえませんから」
「そんなこと……」
「あるんですよ。まぁそれは気にしないで下さい。…今更ですが改めて自己紹介しますね。『天領朱実』です。名前が女みたいだってよく言われます」
「ふふっ。中学の時、クラス全員にしたのと同じ自己紹介なのね?」
「芸が無くてスミマセン…」
「そんな所も好きよ♪」
グハァッ!! ヤバイ…そんな事言われたの初めてだから鼻血が出そう…。ま、本当に出したりはしねぇけどな。
「そういえば私も改めて自己紹介しないとね。私は朝比奈…『朝比奈霞』よ」
学校中の誰もがしってる名前だ。
「おいおい何よろしくやってんだぁ?」
「えっ…悠真!? こ、これは違っ……」
急に声を掛けられ、心臓が跳ねた。まだ1時間は経ってないはずなのになんで此処に…
「何が違うんだ? 手まで握ってよ」
「こ、これは……」
「悠真。あんまりからかうと可哀相よ?」
「ふ、深沢さんまで何故ここに…」
悠真の彼女である深沢さんの登場によって、俺の心臓がもう一度跳ね上がった。
「直接話しをするのは始めてね。『深沢杏奈』です。よろしくね、朱実君」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
「ふふっ。上手くいったみたいね、霞?」
「ええ。2人のお陰よ♪」
「あの…どういう事ですか?」
「まだ気付かねぇのか? お前は嵌められたんだよ。オレ等にな」
「じゃあ朝比奈さんの告白は……」
「いや、それは本当だ。というかそれが今回の目的だからな」
「え?」
「その為にオレと杏奈がどれだけ苦労したか。杏奈は司書の人に頼んで席を外してもらい、オレは中に人が入らないようにずっと見張ってたんだからな」
「2人とも本当にありがとうね」
「気にしないの。親友の為じゃない♪」
「そうだぞ? 礼を言われるような事はしてない。……お、もうこんな時間だ。2人の邪魔をしたら悪いし、帰るか?」
「そうね。じゃあ2人も気をつけて帰ってね?」
「うん♪ 貴女達もね?」
「ああ、じゃあな」
と、俺達に気を使った(?)悠真達はさっさと帰ってしまった。
「じゃあ私達も帰ろっか?」
「……そうしますか」
はぁ明日から色々と大変な事が起こる気がする…。
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時は過ぎ、付き合って2日目の昼休み。午前中の授業が終わったので一息ついていると……
「あっく〜ん! 一緒にご飯食べよぉ〜?」
隣のクラスから朝比奈霞さんがやってきた(俺→12組。朝比奈さん→11組。悠真→13組。深沢さん→11組。)
「あ…朝比奈さん! ちょっと来て下さい!!」
「??」
勇気を振り絞って彼女の手を握り、必死にこの場から逃げ出す。クラスの連中が『なんでこいつは普通に朝比奈さんに話し掛けられてんだ?』みたいな目で見てきたからだ。
このように昨日予想した通り、2日目から大変な状況が続いてる。
まず朝8時前に彼女が俺の家に来た事から始まる。
俺が家族(親父&母さん)と朝食を取っているとインターホンが鳴り、母さんが出ていった。しかしあっという間に戻って来て、
「あんた…あんな可愛い娘が彼女なの?」
と顔を青白くして聞いてきた。少し可愛い位ならいじられて終わるだろうが、なんせ可愛さのレベルが半端じゃないので青白くなったんだろう。
その後家に上がった朝比奈さんを見た親父には
「お前はこの娘の弱味でも握って脅してるんだろう!? でなけりゃ俺の息子がこんな美人と付き合えるわけがない!!」
と胸ぐらを掴まれながら問い詰められた。気持ちはわかるけど、そんな卑下しなくても…。しかもそれなら母さんはどうなるんだよ!? とも思ったが、朝比奈さんの『お父様、朱実君を離してあげてくれませんか?』の中の『お父様』というフレーズによってデレデレし始めたのでそんな気は失せた。
なんとか朝食を食べ終え、自室で着替えて俺が居間に行くと、何故か両親と彼女が目茶苦茶仲良くなっていた。揚句の果てには『不肖の息子ですが何卒よろしく……』などと母さんが言い始めたのですぐに家を飛び出した。
飛び出したら飛び出したでいきなり彼女が腕を絡めてきた。始めはどうにか解こうとも思ったが、どうしようもない気がしたので諦めた。
その後も唐突に『これから《あっくん》って呼ぶね?』とか言い出したり、出会った友達に俺の事を紹介しだしたり…と大変だった。
「ハァ…ハァ……。もう此処まで来ればいいでしょう」
「此処って中庭? 中庭に用があるの?」
「ハァ…別に場所は…ハァ…何処でもいいんですけど…。それより…ハァ…何で貴女は息切れ一つ…ハァ…してないんですか……?」
「これくらいの距離は部活のランニング量に比べれば微々たるものよ」
流石インターハイ(テニス)の決勝でストレート勝ちした女性だ。レベルが違う。
「そういえばさっき『朝比奈さん』って呼んだよね?」
「は、はい」
「私が朝何て言ったか覚えてる?」
「はい。確か『霞』と呼ぶようにと」
「覚えてるじゃない。なら次からは『霞』って呼んでね? じゃないと返事しないから」
「そんな……朝比奈さん?」
「………」
もう始まってんのか!?
「あの…霞さん?」
「『さん』付け、いらない」
マジかよ……。『プイッ』ってされた…。
「………霞?」
「何?? あっくん♪」
変わり過ぎだろぉ!!
「とりあえず飯を食いませんか? 時間も勿体ないですし」
「…敬語、嫌」
今度はそっぽ向かれたぁ!! だけどそんな仕種も……。って今はそんな事より!
「わ、わかったよ。じゃあ俺は購買で何か買って来るから此処で待ってて? 今日に限って母さんが弁当を作ってなかったんで…」
「それなら大丈夫よ。私が2人分作って来たから♪」
「用意がいいんだね?」
「もちろん! 昨日の家に着いてから、あっくんのお母様に『朱実君とお付き合いさせて戴いている朝比奈霞という者ですが、明日のお昼のお弁当は私が作っていっても宜しいでしょうか?』って電話したから。」
昨日母さんが俺の方をジロジロ見てたのはそれが原因かぁ!! 何か様子がおかしいと思った!
「…まぁいいです。ベンチに座りましょうか?」
「………」
しまった! 敬語使っちまったぁ!!
「霞さん?」
「………」
『さん』付けも駄目だったぁ!
「……霞、俺は2人で肩を寄せ合いながら座りたい」
「私も♪」
だから変わり過ぎだろぉ!!
「早く座って?」
もう座ってらっしゃるぜ! 行動が早過ぎる!
「……はいはい」
まぁ座らんとな。話が進まんし。
「結構作るの頑張ったんだからね?」
『パカッ』
確かに努力がよくわかる弁当だ。彩りも鮮やかだし、何より《努力しましたよオーラ》が出てる(たぶん俺にしか見えないが)。
「何が食べたい?」
「この卵焼きなんか美味しそうだと思うけど」
「卵焼きね? はい、ア〜ン」
「え!?」
「ア〜ン」
「いや…それはちょっと恥ずかし……」
「ア〜ン」
「……ングッ…!」
無理矢理ねじ込まれた……。
「美味しい?」
「お、美味しいよ!」
味は美味しい。無理矢理でさえなければ他に言う事無しな出来栄えだ。
「よかった♪ じゃあ、はい」
「何故頭を前に出してるの?」
「え? いい子いい子して♪」
はぁぁぁ!?!? この歳で!? めっさ恥ずかしいわ!!
「早く♪ ご褒美♪」
まぁいいか。誰も見てないだろうしな。
「俺の為に頑張ってくれてありがとう」
そう言いながら頭を撫でると…
「あっくん大好き♪」
と言いながら抱き着いてきた。しかも俺の胸部に女性特有の柔らかい膨らみが……。
「ん? どうしたの?」
「い、いやどうもしないよ」
(朝比……霞って意外に胸大きいんだな…)
とか考えてたら……
「あぁ〜! 私の胸が思ったより大きいなぁ〜とか考えてたでしょ?」
「えぇ!?」
何でバレてんだ!?
「あっくんも男よのぉ〜。そんなエッチなあっくんにはこうだ!」
言うが早いか今まで以上に膨らみを俺に押し付ける。ヤバイ…理性が飛びそう……
「お、お願いだからやめて…」
「降参? 降参だったらキスして♪」
正直どっちも最高の選択だぁーーー!! 1人の男としては両方択びたい!!
「じゃ、じゃあキスで」
まだ理性が飛ばなさそうな方を選ぶ。
「了解♪」
ふぅ…少し離れてくれた。ただあくまで『少し』だ。膨らみは未だに当たってる。
…しかし俺ってば、まだ一度もキスしたことねぇんだよな……。選択ミスったか?
「私もファーストキスだから大丈夫だよ♪」
何で考えてる事がわかるんだよ!?
「私とあっくんが一心同体だから♪」
心と会話し始めないで下さい!!
「そんな事はいいから早く! ん〜〜」
「……はい」
ここまできたらもう引き返せねぇ…と自分に無理矢理言い聞かせて(言い訳して)唇を重ねた。
……ヤベェ!めちゃめちゃ柔らけぇぜ!!
「……お前等、昼間っからこんな所で何してんだ?」
顔が離れた途端に背後から声を掛けられた。つーか誰かに見られてた!?
「あ、橘先生。こんにちは」
先生!?
「よう霞。朱実もな」
この人は橘渉先生。数学の教師で教師生活2年目。生徒と年齢も近く、教え方も上手いので人気のある先生だ。
「あ、あの…」
「ん? どうした?」
「何時から見てたんですか?」
「『『霞』って呼んでね?』辺りからだ」
ほぼ全部じゃねぇか!!
「先生、覗きは犯罪ですよ?」
なんか霞の周りに漂ってる空気が変わった。何時もの『学園のアイドル:朝比奈霞』状態に近いな。
俺といる時とは違う感じ。ってことだ。
「悪かった。誰にも言ったりなんてしないし、お前達の事応援するから赦してくれよ。な?非常に出ていきづらい雰囲気だったんだよ。結局最悪のタイミングになっちまったが……」
「霞、別に赦してもいいんじゃないかな? 橘先生なら信用出来ると思うし…」
「あっくんが言うなら勿論♪ 私が君の意見に反対するわけないわ」
「ハハ…。そうですか」
「仲が良いんだな?」
「当たり前じゃないですか! 私とあっくんは生まれた時から赤い糸で結ばれていて、昨日からはお互いの存在無しでは生きていけなくなったんですから」
初耳ですが……。
「そ、それは凄いな?」
ほら、先生が引いちゃってるじゃん。
「ありがとうございます♪」
いや、絶対に褒めてないし…
「なら、そんな2人の迷惑になるから俺はもう行くな?」
「はい。なんかすいませんでした」
「謝るのは俺の方だろう?」
「いえ、此処にいた俺達も悪いですから」
「そうか。気を使わせて悪いな。あと霞は後でな。ちゃんと部活の練習には来いよ?」
そういえば先生はテニス部の顧問だったな。
「えぇ〜。私はあっくんと一緒にいたい〜」
「俺は部活を疎かにする人は嫌いだよ?」
「行きます! 行きます!! たとえ雨でも雪でも部活が休みでも行きます!!」
別に休みの日に行く必要は無いんじゃ……。
「別に休みの日はいいけどな…。じゃあ今度こそ俺は行くよ。じゃあな」
と言って先生は校舎の中に消えていった。
「邪魔者もいなくなったし、さっきの続きね♪」
先生のことを邪魔者って言うのは…。しかもさっきの続きって……。
「……何処から?」
「キ・ッ・ス♪」
マジかよ……。っつーかよく考えたら学校でキスしてるって相当なバカップルじゃね?
「ん〜〜まだぁ〜?」
既に目を瞑ってる!?俺に反論の余地は無いのか!?で、でもまあ少しくらいなら大丈夫だろう。
そんな感じで昼休みは過ぎてった。
・
・
・
所変わって図書館。一日の授業が終わり、約束通り部活に行くという霞さんを待つ為に此処で自習をしてる。
一度は1人で帰ろうとしてたんだが、『出来れば部活が終わるまで待っててほしいな?』と昼休みの終わりに彼女から言われた事を思い出し、昨日と同じように図書館へ来た。
「よう、此処にいたか」
「悠真? なんで此処にいるんだ? 部活はどうした?」
「野球部は今日も休みなんだよ」
「……本当か?」
昨日も休みだったのに?
「そう疑いの目で見るなって。今日は顧問が出張でな。珍しく二日連続で休みなんだ」
作者の《朱実一人じゃ話が書きにくい》というご都合主義が丸見えだな。まぁ文句を言う気は無いが。
「隣いいか?」
「ああ」
「悪いな。どうだ、霞とは上手くいってるか?」
「まだ付き合って2日だぜ? 上手いも何もないだろう?」
「ほぉ〜。付き合って2日目でキスするのはお前の中で上手くいってる内に入らないのか」
「は!?」
何で知ってんだ!?
「更に弁当まで作ってきてもらって、『ア〜ン』までされてよ」
「見てたのか!?」
「バカ、声がでかい!」
昨日と違って人がちらほらといるので、その人達に睨まれてる。
「す、すいません……」
とりあえず謝っておく。
「アホか?」
「悪かったな。ってそれより…」
「別に見てたわけじゃない。霞に聞いたんだ」
「霞さんに?」
「ああ。杏奈も入れて3人で話してたんだけどな。随分仲よさそうじゃないか」
「俺は霞さんに引っ張られてるだけだよ」
「まぁそうだろうな。もしあいつが少しくらい暴走しても大目にみてやれよ?中学の時から大好きだった《あっくん》と付き合えてあいつも嬉しいんだから」
「その話って本当だったんだ…」
てっきり告白文句の一部だと思ってた……。
「ああ。中学の時からお前の事を話す時は何時もニコニコ笑ってたな。さっき話してた時は昔に比べて当社比3倍になってたが」
「そんなに?」
「そんなに。しかも爽やかな笑顔じゃなく、デレデレな笑顔だった」
デレデレねぇ…。
「いったいお前の前だと当社比何倍になるんだろうな?」
「さぁ? 俺は中学の時は知らないし」
「それもそうだ。しかしお前がOK出すとは思わなかったなぁ〜」
「そう?」
「そりゃそうだろ。今まで一切女っ気がなかったのにいきなり霞に告白されたら、お前の性格上パニクって断っちまうと思ってた」
「確かにパニクりはしたけど…」
「やっぱりな。だから霞には『何度か話し掛けて仲良くなっとけ』って忠告したのに、あいつったら『そんな恥ずかしい事出来るわけないでしょ!? もし嫌われちゃったらどうするの? バカ!』だもんな」
「ハハ…苦労したんだな」
「昨日になって、やっと苦労が報われたぜ。オレと杏奈の苦労を無駄にすんなよ?」
「わかってるよ。心配すんな」
大丈夫だから。……たぶん。
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「♪〜〜♪♪〜〜〜」
「霞、かなりご機嫌だね?」
「うん♪ こうやってあっくんと腕を組みながら帰れるなんて未だに夢みたいだよぉ〜」
「そうですか…。」
あの後悠真と他愛のない話をしてたら部活の終わった霞さんと深沢さんが迎えに来てくれた(深沢さんはバスケ部)。
その時俺に抱き着いてきた彼女の笑顔を見て、悠真が別れ際に『当社比10倍』と呟いていった。
「あっくん何考えてるの? いやらしい事? あっくんはホントにエッチだなぁ〜。でもそんな君も好き♪」
「い、いや誤解……」
「ふふっ。冗談よ」
「そうですか…」
彼女の中では《俺=エロい》イメージなのか?
「ねぇ、あっくん?」
「はい」
「私の事好き? それとも誰か他の娘が好き?」
「…え? いきなりどうしたんですか?」
「なんとなく気になったの。あ、別に答えにくかったら無理に答えなくていいわよ?」
「でも答えた方がいいよね?」
「ええ、出来れば。たとえ私の望む答じゃなくてもね」
「ん〜正直言えば、まだ貴女の事が好きなのかどうかはわかりません」
「そう…」
「でも他に好きな人がいたりはしませんよ。そんな状態で貴女と付き合ったりしませんから」
「じゃあ私にもチャンスがあるのね?」
「付き合ってるのにチャンスも何も……」
「ないね」
「ええ。俺も1つ聞いていいですか?」
「うん、勿論♪」
嬉しそうな声と表情で応えてくれる。
「もし俺が『他に好きな人がいる』って言ったらどうしました?」
「なんとしてでも私の方を向かせてみせるわ」
「…貴女らしいです」
「あっくんが他の娘と一緒に歩いてるなんて絶対嫌だもん」
俺が女の子と一緒に歩いてる…。昨日の事が無かったら一生こなかったかも。
「そういえば、あっくんてどんな女の子が好きなの?」
「俺の好みですか?」
「うん♪ 髪型とか性格とか」
「髪型だったら黒い長くて綺麗な髪が好きですね。男だったら一度は憧れますよ。……え?」
彼女が組んでいた腕を解いて俺の腰に手をまわした。更に歩いていた足も止まる。
「じゃあ私はその条件に合ってるね♪」
俺の方が背は高いので彼女が見上げる形になる。上目使いってこんな威力がでかいんだ…。
「そうですね。ストライクゾーンど真ん中ですよ」
「そういう事は相手の髪をすきながら言うんだよ? ハイ、もう一度♪」
「えぇっ!?」
「もう一度♪」
「…わかりました。貴女の髪は俺のストライクゾーンですよ。」
言われた通り、もう一度同じ台詞を述べる。本心だから別に苦ではない。
「ありがと♪ 性格はどんな人がいいの?」
「俺がこんな性格だから引っ張ってくれる人がいいですね」
「だったら私が一生引っ張っていってあげるわ♪」
「…どうも」
本当に引っ張ってくれそうだな。……何処までも。
「そういえば何で敬語使ってるのかなぁ?」
ヤバッ!! 見上げてくる笑顔がめっさ怖い…。
「ご、ごめん。つい…。もう絶対しないから!」
「本当に反省してる?」
「してます! してます!!」
「じゃあお願い聞いてくれる?」
「はい! 是非聞かせて下さい!!」
「じゃあ海に連れてって?」
「海…ですか?」
「うん♪ もうすぐ夏休みじゃない? だから夏休み始まったら連れてって?ね??」
「いいよ。貴女が行きたいなら連れてきますよ」
海くらいならね。
「やった! あっくん大好き♪ 水着楽しみにしててね♪」
(やっぱり《俺=エロい》なのか? 少しずつ印象変えてかないとマズイな……)
何故かそんな事が1番最初に頭を過ぎった2日目の帰り道だった。
俺も水着買わないといけないな。
どうでもいいって?まぁ気にしないでくれ。
どうもakishiです♪
ハイ!今回の主役は綺羅君と亜梨香ちゃんの父親で、霞さんの想い人である朱実君でした。作者的には以前からとても書きたかった話だったので、書いててかなり面白かったです。個人的には極甘仕様にしたつもりなんですがどうだったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。
この番外編って、どう考えても時代は昭和じゃないと辻褄が合いませんよね。間違っても携帯電話とか出さないよう気をつけないと。
タイトルにも付けたように今回が《前編》になります。《朱実編》は2話で終わるつもりなので、次は《後編》になりますね。
次話もよろしくお願いします!!




